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旧約聖書のエデンの園の話によると、アダムは人間として完全な姿でつくられた。もちろん、言語を話すの力も持っている。
アダムの最初の仕事は、全ての動物達に名前を与える事であった。
イブは、口の達者な蛇に唆されて、知恵の実を食べた。
では、それはどんな言葉だったのだろうか。
アダムとイブが話した言葉は、蛇の言葉、そして神の言葉と同じであったと考えられる。

もちろん、英語や中国語のような、今ある言語ではないだろう。
人間は5万年以上前に言語を話せる肉体をもって生まれた。
文字は約5000年前に現れているが、その数千年の間だけでもずっと、アダムの言語は変化し続けているのである。
したがって、現在存在している言語が、エデンの言語であるはずがない。

上に述べた考えは近代のものであって、近代以前、特にキリスト教の初期から、宗教改革までは、アダムの話していた「唯一の言語(lingua adamica)」はまだ存在すると考えられていた。
もっとも有力な候補がヘブライ語であった。
理由はもちろん、旧約聖書が書かれた言語である事だ。
4世紀の聖ヒエロニムスの言う事には、ノアの子孫は、バベルの塔の建設に参加せずに居たので、神に罰せられることはなかった。
(バベルの塔ーノアの大洪水後、人々が築き始めた天に達するような高塔。神は人間の自己神格化の傲慢を憎み、人々の言葉を混乱させ、その工事を中止させたという。『広辞苑』より引用)
従って、原初の言語は未だ残っている。
聖アウグスティヌスやその他の神父たちはその話を信じ、アダムとイブの言葉がヘブライ語であるという説は、その後1000年も語り継がれていった。
皮肉なのが、それを、中世の学者達が、ラテン語で真剣に議論していた事だ。

ルネサンスによる民族主義の熱がまだ冷めない16、17世紀には、この話題が盛んに取り上げられた。
アダムの言語が、意味を知らなくても理解する事が出来る、完全な言語であると考えられるようになると、さまざまな国が同様な主張をするようになった。
自分たちの言語が完璧である、と。
ドイツを始め、オランダ、フラマン、ケルト、バスク、ハンガリー、ポーランド、スウェーデンの人々が、聖書と絡め自国語の神聖性を解いた。
ヘブライ語はドイツ語から派生したという人も出てきた。

18、19世紀になると、宗教と結びついた哲学が下火になり、原初の言語への興味も薄くなっていった。
単語と物の間にな必然的な結びつきはなく、人間の共同体によって作られる言語は、神によって与えられてものではないと考えられるようになった。
ヨーロッパの学者の、様々な言語の比較によって、言語同士の関係や時間による変化が分かってきた。
インド・ヨーロッパ語が発見されたが、学者達はそれを原初の言語だとは言わなかった。
原初まで言語の過去を遡る事は、不可能ではないにしても、甚だ難しい。
こうして、唯一の言語の探求は終焉を迎えた。

参考文献
E. M. Rickerson, "6 What language did Adam and Eve speak?"
E. M. Rickerson, Barry Hitton, ed., The 5 Minute Linguist (USA; Equinox Publishing Ltd., 2006)

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