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多くの人は、「言語」を、私たちが話していることば、
「方言」を、他の誰かが話している言語の変種、と認識している。
あるいは、「言語」は標準な、政府やアナウンサーのことばで、
「方言」は家庭的で地域によって異なり、アナウンサーが話さないことば、と。
しかし、「言語」と「方言」という単語は、客観的でなく、科学的用語でもない
もちろん、言語学の用語ではない。
言語の変種は、政治的かつイデオロギー的な理由で、非言語学的に、「方言」と名付けられる。
「方言」は、「言語」よりも良くないと考えられている。
しかし、何が方言であると言う判断は、あなたの立場と見方によって、変わる。

言語学的な見方では、方言に優劣はなく、「言語」という価値を与えられることも無い。
例えば、フランスでの「言語」と「方言」は偶然に決まったことである。
10世紀に、フランスの王として選ばれた伯爵が、たまたまパリの人だったので、現在、パリのことばがフランスの標準語となっている。
マルセイユのことばやリヨンのことばが、フランスの言語となる可能性もあった。

『マイ・フェア・レディ(My Fair Lady)』の劇中で、音声学者が言うことには、
方言は、社会的に定義されている。
この劇は、実在の音声学者ダニエル・ジョーンズをモデルとしたヒンギス教授が、
下町訛りの花売りの娘を、上流階級の恋人に相応しい女性に仕立て上げるために、話し方を指導する話である。

同様に、方言は政治的に定義されている。
有名な言語学者マックス・ヴァインライヒよると、「言語とは、陸軍と海軍を備えた方言である。(A language is a dialect with an army and a navy.)」
政府は、しばしば、何が「言語」で、何が「方言」であるかを決めるのである。

権力を持ったある人物や政府に、独断的に定義されることもある。
現在、ツォンガ語(Tsonga)の名前で知られるアフリカの言語は、12世紀に宣教師が、3つの言語を一括りに名付けたことによって、作られた言語である。
また、南アフリカ共和国は、明確な差も無い言語を二つに区切り、ズールー語(Zulu)とホサ語(Xhosa)を作った。
方言は、「方言の連続体」なるものを形成している。
隣接する方言は大した違いも無いが、両端の方言は互いに理解不可能である。

発音の違いや、ちょっとした単語の違いによる方言もあれば、互いにまったく理解出来ないような方言もある。
ケルンのドイツ語と、バイエルンのドイツ語は互いに理解出来きないし、
スイスの公用語であるドイツ語を、理解できるドイツ人は少ない。

もし、互いに理解が出来るのであれば、それはひとつの言語の方言であり、
出来ないのであれば、異なる言語である、という考えもあるだろう。
ではなぜ、ケルン語とバイエルン語に分かれていないのだろうか。
また、スウェーデン人とノルウェー人は、互いに苦もなく話をすることが出来るが、スウェーデン語とノルウェー語はなぜ、別の言語なのだろうか。

そして、A方言の話者が、B方言を理解したくないときに説明ができない。
例え、客観的な言語学的基準により、相互に理解でき同じ言語であるとされても、彼らは、別々の言語を話していると主張するだろう。

このように、「言語」と「方言」という単語は政治的、社会的に歪められている。
根本的に、全ての言語は方言であるのだ。

参考文献
G. Tucker Childs, "3 What's the difference between dialects and language?"
E. M. Rickerson, Barry Hitton, ed., The 5 Minute Linguist (USA; Equinox Publishing Ltd., 2006)

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