動物が言語を話すのかに関して、二つの言語学的な問題がある。
まず、動物達の間で、言語を使用しているのかどうか。
そして、動物が人間の言語を習得出来るのかどうか、である。
それ以前の問題として、何を言語とするかを決めなければならない。
人間の言語はとても特徴的である。
まずはその体系的(systematic)な、文法と呼ばれる構造である。
「追いかけるを猫意地悪いが犬」
これらの単語は確かに日本語だが、この文章は決して日本語ではない。
そして、人間の言語は、内在的(innate)である。
子供達は、教えられる必要もなく言葉を習得する能力を持っている。
これは、幼児の脳の柔軟性に関係しており、
5歳までにまったく言語と接する機会のなかった子供は、成人しても、完璧に言葉を話せるようにはならない。
3つ目の特徴は、転位(displacement)と呼ばれるものである。
私たちは、目の前に存在にないものについて述べる事が出来る。
かつ、私たちは抽象的(abstract)な物事について述べる事が出来る。
そして、見た事も聞いた事もない新しい文章を作り出す(create)事が出来る。
この5つの性質を持っているものを言語と定義するならば、
仲間内でどんなコミュニケーションをしていても、動物達は言語を使用しないと言う事になる。
蜜蜂はダンスによって、蜜の場所と質を仲間に伝える。
ダンスは頭の向きと、お尻を振る速さに分かれる。
蜜蜂のダンスにはルールがあり、目の前にないものについての善し悪しを表現出来る。
そしてこれは先天的な能力であると考えられる。
しかし、ダンスで表現出来るものはかなり制限されおり、
「速く行かないと他の蜂に取られてしまうかもしれない」と伝えることは出来ない。
鳥の歌声にも、体系だったものがある。
コマドリの歌は短いモチーフの連続で、他の鳥には分からない。
先天的な能力で、人間のように、成鳥の歌を聴いた事のない小鳥は歌えない。
求愛の歌で、抽象的な感情を表現する事が出来るが、
「納屋の裏側で恐ろしい事が起こったんだ」とは言えないし、新しい歌も作れない。
クジラやイルカも歌ったり、高周波を出す。
複雑な文法を持っている事が認められているが、創造性の証拠はない。
彼らの歌は個体によって違い、群れの中のみで識別される。
チンパンジーは、ポーズや表情、腕の動きも利用し、様々な表現行動をする。
それらを、群内での様々な情報伝達に使用している。
しかし、文法のような規則従っているとは言えない。
さて、二つ目の人間言語の習得に関しては、鳥やイルカ、霊長類に対して、さまざまな試みが行われている。
アリゾナ大学で訓練を受けたオウムのAlexは、
目の前にあるものの、材料と色、形、数を、英語で述べる事が出来る。
目の前にない餌について訪ねたり、自分のミスを謝ったりも出来る。
彼は明らかに単語の意味を理解しているが、彼の突飛な言語活動は、人間の幼児のものとはかけ離れている。
イルカには手話での人間言語が教え込まれた。
'person'、'surfboard'、'fetch'の順のジェスチャーを出すと、イルカはサーフボードを人のところまで持ってくるし、
'surfboard'、'person'、'fetch'と指示すると、人をサーフボードまで連れてゆく事が出来る。
明らかに文法を理解しているのだ。
チンパンジー、ゴリラ、ボノボにも人間の手話を教える実験がされた。
有名なWashoeというチンパンジーはトレーナーから手話を学び、
小猿のLoulisは、Wachoeから手話を学んだとされている。
ゴリラのKokoは1000以上の手話を学んだとされる。
ボノボのKanziはキーボードのボタンで言語を学び、その驚くべき言語能力で新聞や雑誌に取り上げられた。
このような人間言語を教え込む実験を行っても、基本的な疑問が未だ未解決である。
いくら動物たちに言語能力があっても、それを仲間同士で使わなかった。
野生のチンパンジーには文法があるようには思えないし、
創造性の証拠もない。
まだ、言語は、人間と動物の、もっとも重大な差であり続けている。
参考文献
Donna Jo Napoli, "14 Do animals use lamguage?"
E. M. Rickerson, Barry Hitton, ed., The 5 Minute Linguist (USA; Equinox Publishing Ltd., 2006)
まず、動物達の間で、言語を使用しているのかどうか。
そして、動物が人間の言語を習得出来るのかどうか、である。
それ以前の問題として、何を言語とするかを決めなければならない。
人間の言語はとても特徴的である。
まずはその体系的(systematic)な、文法と呼ばれる構造である。
「追いかけるを猫意地悪いが犬」
これらの単語は確かに日本語だが、この文章は決して日本語ではない。
そして、人間の言語は、内在的(innate)である。
子供達は、教えられる必要もなく言葉を習得する能力を持っている。
これは、幼児の脳の柔軟性に関係しており、
5歳までにまったく言語と接する機会のなかった子供は、成人しても、完璧に言葉を話せるようにはならない。
3つ目の特徴は、転位(displacement)と呼ばれるものである。
私たちは、目の前に存在にないものについて述べる事が出来る。
かつ、私たちは抽象的(abstract)な物事について述べる事が出来る。
そして、見た事も聞いた事もない新しい文章を作り出す(create)事が出来る。
この5つの性質を持っているものを言語と定義するならば、
仲間内でどんなコミュニケーションをしていても、動物達は言語を使用しないと言う事になる。
蜜蜂はダンスによって、蜜の場所と質を仲間に伝える。
ダンスは頭の向きと、お尻を振る速さに分かれる。
蜜蜂のダンスにはルールがあり、目の前にないものについての善し悪しを表現出来る。
そしてこれは先天的な能力であると考えられる。
しかし、ダンスで表現出来るものはかなり制限されおり、
「速く行かないと他の蜂に取られてしまうかもしれない」と伝えることは出来ない。
鳥の歌声にも、体系だったものがある。
コマドリの歌は短いモチーフの連続で、他の鳥には分からない。
先天的な能力で、人間のように、成鳥の歌を聴いた事のない小鳥は歌えない。
求愛の歌で、抽象的な感情を表現する事が出来るが、
「納屋の裏側で恐ろしい事が起こったんだ」とは言えないし、新しい歌も作れない。
クジラやイルカも歌ったり、高周波を出す。
複雑な文法を持っている事が認められているが、創造性の証拠はない。
彼らの歌は個体によって違い、群れの中のみで識別される。
チンパンジーは、ポーズや表情、腕の動きも利用し、様々な表現行動をする。
それらを、群内での様々な情報伝達に使用している。
しかし、文法のような規則従っているとは言えない。
さて、二つ目の人間言語の習得に関しては、鳥やイルカ、霊長類に対して、さまざまな試みが行われている。
アリゾナ大学で訓練を受けたオウムのAlexは、
目の前にあるものの、材料と色、形、数を、英語で述べる事が出来る。
目の前にない餌について訪ねたり、自分のミスを謝ったりも出来る。
彼は明らかに単語の意味を理解しているが、彼の突飛な言語活動は、人間の幼児のものとはかけ離れている。
イルカには手話での人間言語が教え込まれた。
'person'、'surfboard'、'fetch'の順のジェスチャーを出すと、イルカはサーフボードを人のところまで持ってくるし、
'surfboard'、'person'、'fetch'と指示すると、人をサーフボードまで連れてゆく事が出来る。
明らかに文法を理解しているのだ。
チンパンジー、ゴリラ、ボノボにも人間の手話を教える実験がされた。
有名なWashoeというチンパンジーはトレーナーから手話を学び、
小猿のLoulisは、Wachoeから手話を学んだとされている。
ゴリラのKokoは1000以上の手話を学んだとされる。
ボノボのKanziはキーボードのボタンで言語を学び、その驚くべき言語能力で新聞や雑誌に取り上げられた。
このような人間言語を教え込む実験を行っても、基本的な疑問が未だ未解決である。
いくら動物たちに言語能力があっても、それを仲間同士で使わなかった。
野生のチンパンジーには文法があるようには思えないし、
創造性の証拠もない。
まだ、言語は、人間と動物の、もっとも重大な差であり続けている。
参考文献
Donna Jo Napoli, "14 Do animals use lamguage?"
E. M. Rickerson, Barry Hitton, ed., The 5 Minute Linguist (USA; Equinox Publishing Ltd., 2006)
PR
この記事にコメントする
言語学が大好きな一般人のブログです。
過去の記事は、軌跡として残しておきます。
カレンダー
04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
ブログ内検索
カテゴリー
最新記事
(10/02)
(09/30)
(09/29)
(09/26)
(09/25)
プロフィール
HN:
てぬ
性別:
女性
自己紹介:
大学院で言語学を学びたい大学生が、日々の勉強の成果を記録してゆく為の、個人サイトでした。
最新トラックバック
最古記事
(01/01)
(04/07)
(04/08)
(04/09)
(04/09)
P R