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言語は、小さい頃に難なく私たちの頭の中で発展してきたものであるし、文化的な営みや人間としての重要な役割を果たしている。
なので、実際に言語を奪われる機会が無い限り、言語を知らずに育つということは、ほとんど想像できないだろう。
近代に、人間社会と隔離され狼やその他の動物に育てられた、と言われる子供たちが保護されている。
これらの話にはさまざまな裏話が噂されているが、どれも言語に関しては大して変わらない。
簡単にまとめると、こうである。
幼い間に保護された子供は話せるようになる。しかし、9歳ごろに保護された子供は少しの単語を覚えるだけか、まったく言語を習得出来ない。
 
最も有名なのが映画『野生の少年(L'Enfant Sauvage)』のモデルとなった、少年ヴィクトール(Victor)である。
アヴェロン(ヴィクトールが保護された南仏の県)の野生児とも言われ、1800年に保護された時は10歳か11歳ぐらいであった。
熱心な若い医師が、彼への会話と読み書きの教育を試みたが、結局、話す事は出来ず、いくつかの短い単語を覚えただけであった。
 
もう一人、孤立児とよばれる別のケースでもっとも有名な少女がジーニー(Genie)である。
彼女は12年以上にわたって、父親により、寝室の子供用の椅子に縛り付けられて監禁、虐待されていた。
目の見えない母親と一緒に、父親から逃げて福祉施設を訪れたときには、ジーニーは13歳と6ヶ月で、言葉を知らなかった。
 
ジーニーは約10年間にわたって言語学者による指導を受けた。
保護から数ヶ月は急速に単語を覚え、単語を組み合わせた短い文も使えるようになった。
しかし、時勢や人称、冠詞、代名詞、疑問詞などの文法的な項目をつかえるようにならず、片言の英語しか話せなかった。
彼女の英語は文脈があれば理解する事が出来るが、英語のSVOの構文には従わなかった。
けれどもテストでは、"The girl is pushing the boy."と"The boy is pushing the girl."の違いを理解出来ていた。
そのあとも文法に関してはほとんど上達しなかったが、彼女は言葉以外によるコミュニケーションに長けていた。
 
耳の聞こえない子供達は、ジーニーのような状況ではない。
彼らは言語を覚え、手話によって問題なく人付き合いが出来る。
多くの研究によって、聾の子供が手話を知るの時期が、はやければはやいほど、手話が上達する事が分かっている。
手話を知る時期は、単語の学習には影響を及ぼさないが、文法の学習には劇的に影響を及ぼす。
就学後に手話を知った聾者の研究報告によると、文法的発展の臨界期は就学初期の年齢である。
 
ニカラグラでの新しい手話の創造において、興味深い報告がある。
アメリカの政治干渉に対抗した、サンディニスタ民族解放戦線後、はじめて聾者が集まる機会が出来た。
一番最初の世代では簡単なジェスチャーのシステムを作り、意思疎通を行っていたが、のちに10歳以下の子供達が参加すると、そのシステムが短い期間で、話し言葉とまったく劣らない文法体系の整った完全な言語へと変容したのである。
 
耳の聞こえない人たちも、聾唖者のコミュニティーの中で言葉と社会生活を知り、問題なく生活する事が出来る。
しかし、言葉を知らない健常者は社会的な交流が無く、心理学的にも不適切な環境である。
言語は、人間にとって非常に重要である為に、それを欠かすと、社会的に放棄され孤立してしまう。
 
Susan Curtiss, "22 What happens if you are raised without langage?"
E. M. Rickerson, Barry Hitton, ed., The 5 Minute Linguist (USA; Equinox Publishing Ltd., 2006) 

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