第2章で、音声の高低(pitch)が調節出来ることを述べたが、この章ではもっと細かく高低の操作について述べてゆく。
簡単な例は、シエラレオネのコノ族の言葉にある。
声を高く[˜kɔɔ]と言うと、それは「成熟する」という意味になり、声を低く、[_kɔɔ]と言うと「米」の意味になる。
IPAに先行する横棒は声の高さを図的に示している。
この2つの単語の違いは声の高さだけであり、それ以外は全く同じ音節を持っている。
声の高さの段階(level)によって語が区別される場合もあれば、声の高さの変動(movement)によって区別する場合もある。
このように意味を区別する声の高さ(pitch)を、声調またはトーン(tone)と言う。
トーンを用いる言語と、用いない言語がある。ヨーロッパのほとんどの言語にトーンが無い。
トーンを用いる言語を声調言語(tonal language)と言い、東南アジアや、南・西アフリカ、ネイティブアメリカンの言語に多く見られる。
実は、世界のほとんどの人はこの声調言語を話しているのである。
Lexical and grammatical use of tone
トーンは様々な方法で働く。
まずは語彙的声調(lexical tone)である。これは辞書に載るような単語の区別に用いられるトーンである。
ベトナム語には6つのトーンがあり、アルファベットの母音にその区別を記して表記する。6つのうち2つはcreakyまたはbroken toneと呼ばれる、音節の真ん中に声門閉鎖を伴う声門音である。
a(平ら)
à(低く下がる)
á(高く上がる)
ả(低く下がって上がる)
ã(高く上がる途中で声門閉鎖)
ạ(低く下がって声門閉鎖)
トーンが文法的な役割を果たす事もある。以下はコノ語の例である。
[_a _a ¯do _ma _ko] "Wash his shirt"
[_a ¯a _do ¯ma _ko] "He has washed a shirt"
Tone level and contours
音声学では、トーンの意味だけではなくその物理的性質も研究対象である。
声調言語で一番重要なのは、トーンのレベルの違いである。高い・低いの二段階による区別もあれば、4段階に分かれる言語もある。
どの言語話者も高い低いの具合は個別のものであって、重要なのは厳密な高さではなく、トーンの差である。
あるいは、トーンの高さよりも、トーンの変動の型(上がったり、下がったり、下がって上がったり、上がって下がったりする)である。
長い間、声調言語には音域的声調(register tone)と曲線的声調(contour tone)の二種類あると言われてきた。
音域的声調、あるいは段階的声調(level tone)は、高い低いなどの一様な声調であり、曲線的声調は途中で上下する型がある。
しかし、両方の声調をもつ言語もあり、この性質で言語を区別することが難しく、あまり分類には役に立っていない。
Tone and context
声調言語を話した事が無い人も、トーンのある1つの性質が無ければ、学ぶのは簡単だろう。
トーンの学習を難しくしているものは声調変化(tonal sandhi)と言われる、2000年前のインドの文法家が発見したものである。
単語が辞書的に孤立しているときと、文章の中で現れるときとでは、トーンが異なるのである。前後の単語が異なれば、トーンも変わる。
例として、中国の公用語(Mandarin Chinese)には4つの声調がある。
1、ā(高く平ら)
2、á(高く上がる)
3、ǎ(低く下がって急上昇する)
4、à(低く下がる)
3番の声調を持つ音節が続くと、先行する音節が2番の声調に変わる。1番または2番の声調をもつ音節の後に、2番の音節が続くと、後ろの音節が1番の声調に変わる。
加えてもっと複雑にしているものに、ダウンドリフト(downdrift)と呼ばれる現象がある。
これにより、個別のトーンに加えて、全体的な声の高さが、文の終わりや息継ぎに至るまで、常に下がってゆく。
つまり、文の頭に現れる低い声調と、文の最後に現れる高い声調が、だいたい同じ高さになるのである。
その他にもダウンステップ(downstep)と呼ばれる現象がある。
高いトーンをもつ音節が、その他のトーンをもつ音節の中に出現すると、一単語で現れる時よりも、低く発音されるという声調変化である。
Tones and pitch-accents
英語やその他の言語も、単語を発音する際の声の高さが重要である。
例えば'im-por-tant'というときの音節の低-高-低の声の変動がある。
これらの高低の変動を一般的にはアクセント(accent)と呼ぶ。アクセントとトーンの区別は簡単ではない。
声調言語とは別に、高低アクセント言語(pitch-accent language)という分類がある。
この言語に分類される日本語、スウェーデン語、セルビア・クロアチア語は、声調言語には分類されない言語だが、高低により単語を区別する事がある。
日本語の[¯ha _si(箸)]と[_ha ¯si(橋)]の違いなどがある。
声調言語では、全ての音節や単語に対して声の高低が弁別素性として作用しているのに対し、高低アクセント言語では、一部の単語しか作用していない。
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
『ベトナム語』---Wikipedia
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