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伝統的音声学では、ある種の様々な発話の特色を記述することは、一般的であった。可能であれば、学者達は「標準」または「模範」の話し方を求めていた。
例えばスペインでは、何世紀もの間、カスティリア地方の言葉を、スペイン語の「もっとも純粋な」形として扱い、スペイン語を学ぶ外国人はみなこの地方の言葉を学ぶ。
イギリスでは、容認発音(RP: Received pronunciation)という標準の形式が、20世紀に使われていた。しかし、RPが何で、どうしてそれが特別扱いを受けているのか、説明できない。
最近では、英語の標準発音としてBBCアクセント(BBC accent)を用いる学者が増えている。
もっとも一般的な手続きは、その言語が話されている国の首都で、知識人が話している言葉を、標準と定めるものである。
ただ単に、研究者に言語サンプルを与えた人の言葉が標準と認識される場合もある。特に、危機に瀕し、話者数が非常に少ない言語の研究である。稀にあるケースでは、最後のひとりの言葉を録音し分析する。そのとき早く研究を進めないと、研究が終了する前に言語提供者が亡くなってしまうことがある。
一種類の言語を分析することで、研究がシンプルに明晰になるが、言語の発音には膨大な数の種類があることを決して忘れてはいけない。この章では、さまざまな多様性の一部を見る。
 
Regional variation
地方の言葉の研究は、多様性の研究の中で最も有名で、最も伝統的な研究であろう。そして多くの人が、古い素朴な特色を探し、語彙や発音の情報を引き出す為に田舎を放浪しているという、研究者の典型的なイメージを持っているだろう。
一般的に、方言(dialect)の研究とアクセント(accent)の研究は区別される。
方言の研究は、発音だけでなく語彙や文法も扱うが、アクセントの研究は純粋に発音だけである。複雑なアクセントと言う単語の使い方に関しては、4章(08/18)5章(08/31)を参照。
 
地域的な多様性は、いろん事例が挙げられる。
1つは、占領や植民地によるものである。例えば、イギリスのある地方は他の地方よりも早く、ノルウェー人とサクソン人によって征服された。それにより、他の地方の英語と異なる発音や語彙が観察される。
歴史的には、国境や障壁によって分断された地域の言語は、差異がもっとも生じやすい。海や山などによって孤立している地域の言語は、自由に行き来できる地域間よりも、発音の違いが著しい。
大西洋と言う大きな壁によって分断された、イギリス英語とアメリカ英語も同様である。193年頃、アメリカで作られた世界初のトーキー映画をイギリスで上映した時、ほとんどのイギリス人の観客がアメリカ英語を聞いたことが無かったので、字幕をつけなければいけなかった。
現在は、人々は異なるアクセントを持つ人々とコミュニケーション出来るし、ラジオやテレビでも様々な発音を聞くことが出来る。
現在のイギリス人とアメリカ人の会話はほとんど問題なく行われるし、問題があるとすれば、それは、言語やアクセントではなく、文化的な違いによるものである。
 
近年は、国際語としての英語の発音研究が発展している。
今や世界中のコミュニケーションに英語が使われているので、英語の母語話者とは違う、様々な発音を観察出来る。
世界中の「共通財産」として、英語の音声的、音韻論的特徴を保持してはいるが、それらさまざまな英語が、イギリス風に聞こえるか、アメリカ風に聞こえるかを決めるのは無意味である。
 
Social variation
多様性の社会的な要因を深く考慮し始めると、それは社会言語学の領域に入り、音声学の範疇から抜けてしまう。
しかし、社会による多様性には3つの種類があるということが出来る。
1つは、社会的階層。所属してしている社会的なクラスの違いにより、発音が異なる社会がある。全ての社会で見られる訳ではない。
有名なのは、イギリスの工業都市ブラックフォードの研究により明らかにされた「h音の脱落」であろう。語頭のh音を発音する人は社会的地位が高く、語頭のh音を無視する人は社会的地位の低い人である。
2つめは、社会的な場面。社会的な場面ではそれなりに標準的なアクセントで話すが、家族や友人の前では方言や異なる階級の言葉を話すことである。全ての人がそうしている訳ではないし、実行している多くの人もそれを認めないだろう。
3つめは、階級以外の社会的区分。例えば男性と女性、教師と軍人では異なるアクセントや発話のスタイルである。同じ言語を用いていても、多くの社会は、様々な話し言葉の中に表れる、さまざまに異なる信条を持っている。
 
Style variation
私たちは、円滑なコミュニケーションの為に様々に発話のスタイルを変えることが出来る。速く話したり、ゆっくり話したり、鋭く話したり、大きな声で話したり出来る。
音声学の記述は、ゆっくりで慎重な発話の分析に基づく傾向がある。このおかげで、実際の自然な会話に出会ったときに、教科書に書いてある事実とは違うと分かってしまう。
教師や司祭、政治家は、さまざまなスタイルで話せることが必要である。公的なスピーチは、全ての人が出来る訳ではないので、大勢の前で話すレッスンを習う人も居る。
 
Age and variation
若者は大人達とは違った話し方をする。身体的な理由からではない。
年を取るに連れての個人の変化のために、または、毎年の発音の変化のために、どれほど年齢による変化が現れるのかは、分からない。
大きな要因は、若者は自分の親とは違う話し方をしたいと願うことだろう。特に、若者向けのラジオやテレビ放送によってこの傾向は強められている。
英語において、凄い速さで波及している変化がある。
1つは、声紋閉鎖の多用である。'getting'や'better'などの/t/音の変わりに声紋閉鎖が用いられたり、/p/や/k/などの口腔閉鎖の前に声紋閉鎖が挿入される。
もう1つは、/u/の母音が、20世紀初頭のRPに比べて、前舌寄りになり、円唇性がかなり低くなっていることである。ほとんど/i/に近い発音である。
言語の発音は常に変化している。そしていつの時代も、場所や場面によってさまざまな違いが見つけられる。
 
Choosing the speech to study
理想的には、研究対象は出来る限り「日常」であるのが望ましいが、日常の文脈の中で科学的に分析する対象を収集するのは難しい。
現実世界にはさまざまな雑音があり、音声の録音が困難であるので、多くの場合、録音スタジオや音声の研究所で録音される。
この方法には多くの問題があるが、まず、このようにして録音された音声は自然ではない。「研究用言語」と言われるような欠点がある。
多くの場合、紙に書かれたり、パソコンのスクリーンに映し出された文章リストを読み上げる。リストの最後に近づくに連れて、抑揚と速度が変化してゆく傾向がある。
そして、多くの人は、友人とは何時間もおしゃべりが出来るが、読み上げの録音となると、20分から30分で飽きてくる。
音声提供者が、しばしば、学生や大学のスタッフであることだ。大学で言語学を研究している人や、録音に自ら進んで取り組む人は、決して「一般人」ではない。
最後は、マイクが近くにあると思うと、いつもの会話よりも発音が丁寧になってしまうことである。「観察者の矛盾(observer's paradox)」という有名な問題で、観察者が居ない状態の音声を録音出来ないことである。
この問題を解決するには、音声提供者に悟られないように極秘で録音することであるが、これは、非倫理的で決して推奨出来ない。
 
出来るだけ自然な会話を録音するにはどうしたら良いだろうか。
社会言語学者ウィリアム・ラボフがしたように、音声提供者が緊張を緩め、自分の発言に集中し、マイクの存在を忘れるような、インタビュー能力を高めることが出来る。
その他の良く用いられる方法は、複数の人々で、言葉だけを用いて、ある作業を遂行してもらうという方法である。
典型的なものが、'map task'と呼ばれるもので、参加者に同じ地図が配られるが、それぞれ情報が欠けている。お互いの地図を見ずに、言語でのコミュンケーションのみによって順路を決めてゆくものである。
著者が行った実験では、数カ所のわずかな違いのある絵を一枚ずつ参加者に渡し、絵を見ずに相違点を見つけるものである。
参加者はその与えられたタスクに没頭し過ぎて、十分な音声サンプルを得ることが出来ても、彼らを止められないことがある。
 
重要なことは、スタイルの違いによる言語の多様性を無視出来ないこと。そして、科学的に研究する音声の録音データの採集方法を決める際に、慎重に計画を立てることである。
 
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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