Subject and object
節構造は、行為者や受動者などの、参与者の役割を指し示す。英語は、節の中で異なる語順をもち、主体/主語(subject)と客体/目的語(object)の文法的カテゴリーを区別する典型例である。
NP(S) VP NP(O)
参与者が2人、または2つ以上の場合、英語では直接(girect)と間接(indirect)の2つの目的語の区別を設定した。間接目的語は前置詞(I gave £500 to the hospital.)か語順(I gave the hospital £500.)の機能に依って区別する。
主語と目的語は、Iとamなど、その形態によって区別することが出来るし、主語と動詞の文法的な一致(agreement)によってもわかる。目的語と動詞の一致はない。
主語や目的語という、わかりにくい文法的カテゴリーが無い言語も存在するだろう。
普通、行為者は主語として文法的に現れるが、英語では、必ずしも主語が行為者ではない。
'I don't enjoy the opera.'は一人の参与者が他の人に何かをするような、行為者-受動者の関係ではない。
英語やいくつかの言語は、行為者-受動者の関係のために作られた、文法的構造、主語-動詞-目的語を採用した。そして、その主語-動詞-目的語で、経験者-被経験者、知覚者-被知覚者などその他の参与者の関係性も表し、紋切り型に、参与者を、1つは主語、もう一方は目的語として記号化した。
どんな関係性でも、生物、特に人間は主語として選ばれることが多く、世界の人間中心的な捉え方と一致している。このような偏向は選択基準(selection criteria)に反映されており、'enjoy'や'see'などは生物でなければ主語になれない。
この偏向は特定の談話(discourse)の意図により無効となることがあるが、詳しくは5章で。
厳密に言えば、参与者の役割はいつも文法的に特定される必要は無い。文脈や共通の知識のなかで示唆されることがある。
'Trew the TV John's father through the window.'は見慣れない語順で理解に時間がかかるが、この出来事に関して全く疑うところは無い。テレビは決して人を投げないからだ。
しかし、予測しやすい決まった語順に従い、意味の含みを明白にして重複(redundancy)を避ければ、理解するのがもっと簡単になる。
結果、英語話者は、必要性に関係なく、文章が、文法的な主語を必要とするあいまいな行為者-受動者関係を持つかのように、文章を構成することを強制される。
これは参与者が一人の場合も当てはまる。
'London Bridge is falling down.'では'London Bridge'が主語であるがその役割を特定する必要は無い。もちろん行為者ではない。
(バスクに代表されるような言語では、'Lodon bridge'が他動詞(transitive verb)の目的語と同じ格表示がなされる。)
もし参与者と呼ばれるものが無く、主語候補が無かった場合、英語では'it'を使う。
全ての言語がこのような主語-動詞(-目的語)構造に当てはめなければいけない訳ではない。ダコタ語(Dakota)やリス語(Lisu)では、主語と目的語の文法的な区別を、曖昧さを回避する必要性がある時にしか行わない。
以上のような一般化は言語の働きの特徴である。
Mood
節構造のその他の機能は、心的態度/法(mood)を表すことである。
尋ねているのか、教えているのか。この世で起こったことについて話をしているのか、起こっていないことなのか、起こりそうなことなのか、起こって欲しいことなのか。
このような内容を表現するには、他の文法的な語を付け加えるのが一番簡単だ。英語では'perhaps'や'possibly'をつければ確定的ではないことを表現出来る。フランス語では疑問の接辞'est-ce que'を最初につける。
少し複雑にすると、動詞や動詞句を入れ替えることで関連することを表現出来る。「わかり-ます」を「わかり-ません」に替えれば否定の表現となる。
もっと複雑なものは節構造そのものを変えてしまう。英語では語尾の抑揚を上げると疑問を表すことが出来るし、語順を動詞-主語にかえればよい。もっとも一般的には主語-動詞関係を複雑に組み替えてしまう(She went.→Did she go?)。
その他には、英語では'can'や'must'などの助動詞も頻繁に使われる。
Analysing phrases andclauses
'my old yellow sweater'などの句構造は単なる語の塊ではない。1つの'sweater'という単語が、他とは異なる身分にある。この句は特定の'sweater'であって、特定の'yellow'ではない。つまり、この名詞句に置ける主要部(head)が'sweater'で、残りの3つは修飾語である。
'old'と'yellow'は典型的な形容詞で'sweater'の質を示す。
'my'は、冠詞や数量詞(quantifier)などと同じ限定詞(determiner)のひとつで所有代名詞(possessive)と言う。限定詞は、形容詞とは異なり、名詞の意味をかなり大きく制限するものである。
このような名詞句の分析の方法として、形容詞が名詞を修飾し、限定詞が、形容詞と名詞全体を修飾すると言う構造がある。
NP[ my [[ old yellow ] sweater]]
節も句、と同じく、構成要素へと分解することが出来る。このような分析は形式と機能の理解にとても便利である。
'my younger brother'は形式的には名詞句だが、節の構造では主語の機能をもつ。簡単に、以下のような節の分析が出来る。
my younger brother has bought a new house in the country
NP[my younger brother ] VP[has bought ] NP[a new house ] PP[ in the country]
Clause[ Subject Verb Object Adverbial ]
Clauses inside clauses
出来事や状況の参与者が人間や物である必要は無い。状況が他の状況を引き起こすことがある。
このような筋書きは、単純なNP-VP-NP構造、もしくは主語動詞目的語関係よりもかなり複雑な構造となる。
この場合英語では、2つの節を統合し、節がそれぞれ主語、目的語、補語などの役割を果たす。また、大きな節の構成要素としての小さい節は、接続詞'that'などの印が付けられる。
[The fact that she had lost her keys] caused a problem.
The problem was [that she had lost her keys].
節が、時間や場所、原因など、副詞的な役割を果たすこともある。この時は特定の接続詞に依って節の結びつきが表される。
[After she had lost her keys] she went to the police.
She went to the police [because she had lost her keys].
また節は、名詞句に埋め込むことが出来る。
形容詞を用いた質の表現以外で名詞を限定したいとき、場面や出来事を参照することが出来る。
the sweater [that Lucy gave me]
このような方法で名詞を修飾するものを関係詞節(relative clause)と呼び、英語では'that'の他、'whitch'や'who'などによって表される。
英語では完全な節は定動詞(finite verb)と呼ばれるものを中心に構築される。例えば、'goes'や'travelled'、'will play'など時制を含んだ動詞である。
'gone'や'to travel'、'playing'などの非定形(non-finite form)は大きな節に埋め込まれる、節のような構造の核となることが出来る。
To travel hopefully is better than to arrive.
I will never forget playing in that match.
埋め込まれた節は自らも他の節を埋め込むことが出来る。埋め込み文は永遠に続ける事が出来る。この再帰(recurson)はいくつかの書記形態において共通である。
The units of language
この章では、単語はコードであり、句がメッセージであるような言語の単位で話をしてきたが、これは簡易化されたものである。
多くの英単語は、意味を持つ小さい要素、形態素(morphome)で構成されている。例えば'walk-ed'、'un-happi- ness'がそうである。
かなり複雑な形態素の構造をもつ言語もあり、その点で単語と句の区別が曖昧になってくる。詳しくは4章で。
高レベルな構造は、文法的目的からでも個人の主観からでも、さまざまな方法で、より小さな単位に分割される。
'She went to the police because she had lost her keys.'は2つの分析方法がある。
階層的な分析により、後の節は前の節の副詞的な構成要素と見なすか。それとも、水平な分析により、2つの節が接続詞によって結びつけられていると見なすか。
さまざまな世界の言語の構造を研究してきた文法学者たちは、構造の原則や基礎単位に関してそれぞれ異なる見解をもっているし、かなり異なる文法を提唱している。
少なくとも、著者の本棚の言語学事典に依れば、認知文法(cognitive grammar)、関係文法(relational grammar)、語文法(word grammar)、テキスト文法(text grammar)、主辞駆動句構造文法(head driven phrase structure grammar)、一般句構造文法(generalized phrase structure grammar)、モンタギュー文法(Montague gramar)、変形文法(trasformational grammar)、依存関係文法(depentency grammar)、成層文法(stratificational grammar)、体系文法(systemic grammer)とあと20個程の項目がある。
このような多種の文法も、基本的には、NPのような形式的単位か、主語のような機能的単位かによって大きく二分される。
生成文法(generative grammar)に代表されるような、形式的(formal)な観点では、多少なりとも統語論(syntax)を自律したものと考える。
統語は、意味や機能を分析しても見つけることが出来なく、人間の認知能力の構造を反映したもので組織されている。あるいは、認知能力の一部を成す言語のシステムとして仮定される。
一方、機能的(functional)な観点では、言語が果たす機能の面から言語の構造を捉える。
これは、コードを用いて世界を表現したり、メッセージのやり取りを出来る為の心的システムが、人間言語に観察される構造的な特色を持っていなければならないと、考える。
もちろん、この2つの折衷的な立場も可能である。
文法は意味のやり取りの為に存在するが、一度存在してしまうと、文法は自律的になり、表現すべきことだけでなく人間の認知組織と一致するような、機能的でかつ自動的な特徴をもつのである。
正解が何であれ、このような文法学者同士の意見の不一致は、原則的に単純な統語論のメカニズムを、現実の言語の特色を表すように、かなり複雑な構造にしてしまった。
人間のコミュニケーションの特色である表現の創造性と広がりを可能にするのがこの複雑さである。
そしてそれは、世界中の言語で異なる方法で実現されているのである。
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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