What is grammar for?
「文法;grammar」という単語が想起するものは、人によって異なるだろう。そのなかには間違っているものもある。
ー最近の若者が学校で正しく学ばないものであり、その為に、言葉が乱れてきている。
ー「助動詞」や「過去分詞」や「関係詞節」や「補語」などの、意味の分からない専門用語の集まりである。
ー「こう言ってはいけない」とか「こうしてはいけない」などの、正しい言葉を話したい人々が作った、禁止令である。
ーフランス語の性や、ドイツ語の語順、ロシア語の格や、日本語の敬語など、外国語を不必要に困難に成らしめ、自然な会話をさせなくする、抽象的なルールの集まりである。
ー何かしらがぎっしり書かれた、埃まみれの分厚い本のことである。
もちろん全ての人がこのような単純な考えを持っている訳ではないだろう。しかし、十分に知っていると思っていても、文法が何であるかを定義するのは難しい。
ほとんどの辞書は「語を結合して文にするための法則」としか書いていなくて、役に立たない。文法は文を作ることだけする訳ではない。この説明は不十分なだけでなく、文法の機能に関して何も表現をしていない。
「バス」の項目に、公的な輸送に使用されることに述べずに、「一階か二階建ての大きな車」と説明するようなものである。
文法を理解するためには、それが何にために存在するのかを理解しなければならない。
なぜ、「語を結合して文にするための法則」が必要なのか?
単語だけ話していては、いけないのか?
これはとても慎重に扱われるべき問題であり、研究の出発点としてとてもふさわしい。文法が何であり、何をして、なぜ必要なのかを理解するための一番良い方法は、文法が無い言語を想像してみることだ。
Language without grammar
自分が天才で、高度な情報伝達システムを発明しようと思ったと、想像してみよう。
情報を指し示す方法はさまざま存在する。
例えば音声による記号に多様性を見出したとしよう。それは、視界に依らないし、闇の中でも伝達することが出来る。
泣いたり、怒ったりの、表情や身振り手振りは、限られた文脈の中での最も有効なオプションとして使用する。
始めにすることは、世界のそれぞれの物に対して、弁別的な音声の記号(単語)を考案することである。このとき、音韻論的なシステムを創出しなければならないが、今は無視しても問題ない。
そしてあなたは、あなたの母親、その他の一族の母親、洞窟の入り口、一族の長、川辺の大きな木、川、今降っている雨、1番お気に入りの石の斧、2番目に気に入っている石の斧などに対して単語を考案する。
しかしそれらがうまく働かないことがすぐに分かる。
第1に、コミュニケーションシステムの構築のために学ぶべき単語が多すぎるからだ。
第2に、既に知り、関心を持ったものに関してしか、話すことが出来ない。例えば、その他の木、新しく発見した川、新しく作ろうと考えているもっと強い斧に関して、話すことが出来ない。
見込みのある方法としては、単語が、個別のものではなくて、グループを指し示すことにすれば良い。
「木」はあの木でもこの木でもなく、全ての木を示す。これはただ、既に存在したシステムを拡大しただけである。既に「食べ物」や「怒り」のようにも何回も起こることに関して、このような呼び名があるだろう。
そして重要な精神的飛躍として、単語は、人や物だけを指し示すのではないと気づくだろう。「大きい」や「赤い」、「美味しい」のような共有される特徴がある。そして、世界で良く起こる、「食べる」や「走る」のような出来事や変化がある。
以上の新しい情報伝達システムで3つのことができる。
1つめは、身の回りにあるものや、あなたが欲しいものなど、何かに対して相手の注意を向けることが出来る。「ビール!」「斧!」
2つめは、異なるグループの単語をくっつけることで、今話題にしていることをより細かく伝えることが出来る。グループとグループの単語を連ねることで、個別のものを指し示すことが出来るのである。これはかなり強力な仕組みである。「青、斧」「大きい、虫」
3つめは、変化と物の単語をくっつけることで出来事を指し示すことが出来る。「大きい、斧、壊れる」「雨、冷たい」
これで、言語が出来上がった。
Problems
しかし、以上の言語には、人間言語とは異なる点がある。
ひとつは語順である。「落とす、子供」と「子供、落とす」はどちらも同じ意味を示している。
もう1つは、単語と言う1つの括りしかないことである。名詞や動詞といった区別が無い。
それがどんな問題があるだろうか。
この単純で限られたこのシステムでも、かなり多くのことを伝えることが出来るが、限界がある。
1、ひとつ以上のことが起こった時に、その発話が、正確に何を指し占めているのかを特定するのが困難である。
たとえば、「大きい、熊、洞窟」では、大きな熊が洞窟に居るのか、大きな洞窟に熊が居るのかが分からない。背景知識があっても、その曖昧さが解決されないこともある。
2、個別の事象について話すことが出来るが、因果関係や空間的な関係をはっきりと説明することが出来ない。
たとえば、AがBに何かをしたという状況では、どちらが行為者(dore, agent)であり、どちらが受動者(doee, patient)であるかはっきりさせなければならない。
「食べる、子供、どんぐり」など、背景知識や常識で補えるものもあるが、「殺す、兄、熊」などは簡単に混乱を招くものである。
3、最後に、このシステムでは、要求や確信的な発言をすることが出来ない。
「熊、洞窟」では、熊が洞窟に居ると言う事実を伝えることが出来るが、熊は洞窟に居るのか?と尋ねたり、熊が洞窟に居るかもしれない、もしくは、熊は洞窟に居ないと伝えることが出来ない。
なので、以下のことが必要になる。
(i)何が何と一緒に生じているのかを表す方法。ーこの世界の特定の現象を指し示す為に必要な、一般的な概念である。
(ii)受動者やその他の関係性を指し示す方法。
(iii)発言に関して、伝達上の作用を指し示す方法。ー陳述、疑問、主張、否定などなど。
つまり、文法が必要なのである。
Sloving the problems
文法の導入にはさまざまな方法がある。
まず、単語の並び方に手を加えることで、必要な付加的な意味を指し示すことができる。
例えば、何と何が生じているのかを明らかにする方法として、「関係のある単語は常に並んで登場する」というルールを決めるとする。「熊、大きいー小さい、洞窟」のように、句と句の間にスペースを置くのである。
さらに、「質を表す単語は物を表す単語の、直後、もしくは直前に置く」と決めることで、句が無くても良く、文がすっきりする。「熊、大きい、洞窟、小さい」。
語順に関して、その他には、「行為者を、受動者よりも前に持ってくる」というルールも有効である。これで、「殺す、兄、熊」と「熊、殺す、兄」の意味を区別することが出来る。
そして、陳述と疑問文の語順を異なるように決めてしまえば良い。「兄、ころす、熊」と「殺す、兄、熊?」など。
2つ目の可能性は、機能を示すのに、別の語を用いることが出来る。
ラテン語やロシア語のように、屈折(inflection)と呼ばれる方法である。行為者としての「熊が(ursus)」「兄が(frater)」と、受動者としての「熊を(ursum)」「兄を(fratrem)」と異なるのである。
何が何とどうなっているのかという関係を、単語が示唆している。関係のある単語をわざわざ近くに置かなくても、単語そのものが、それと関係のある他の単語を指し示してくれる。
発音も同様に、単語の機能を指し示すことが出来る。「行為者をゆっくり、もしくは、高いピッチで発音する」というルールを決めれば、どれが行為者であるかを迷うことは無い。
抑揚(intonation)は、英語でも、陳述文と疑問文の区別に良く使用される。
他には、非指示的単語を別に用いることが出来る。何かの物事は指し示さずに、単語の機能を表す機能語(function word)である。
日本語のように、単語のあとに接辞(particle)をつけることによって、その単語の「主題」「行為者」「受動者」「所有者」などの機能を指し示す。
以上の3つ、語順、屈折、機能語は、基本的な選択肢である。
どれか1つを選んだら、それが文法である。単語の羅列が、人間言語となる。
さて、なぜ文法が必要なのかという問いに答えることが出来る。
文法とは本質的に、指示語彙単独では表すことが出来ないある種の必要な意味を表現するための、有限の装置一式である。
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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