声調言語では、異なる声調の機能を見極めるのは、比較的簡単だ。
しかし、声調のない言葉に関して、声の高低や大小やその他の超分節的特徴(suprasegmental features)によって、何が変化するのかを説明するのはとても困難である。
超分節的特徴と呼ばれるものは、さまざまな種類があり、声の高低(pitch)、声の大小(laudness)、テンポ(tempo)、声の質(voice quality)などである。しかしそれらが単独で作用する事は決して無い。
それらの共通点としては、少なくとも1音節、または複数の語にわたる発話の特性であると、考えられている。
超分節的特徴の研究を韻律(prosody)の研究と言い、特に、強勢(stress)と抑揚(intonation)に重点が置かれる。
Stress and accent
どの言語にも、目立って発音される音節と、そうでない音節とが存在する。
英語では'tomato'という単語は真ん中の音節が最も強く発音される。これを強勢のある(stressed)音節と呼ぶ。
スペイン語では強勢の場所によって、動詞の時勢や人称が変化する。英語でも、'import'は強勢の場所によって名詞になったり、動詞になったりする。
このような文法的な役割を果たす強勢も存在する。
'import'の例は、名詞でも動詞でも、意味的に似通っているが、'subject'は名詞と動詞の意味に関係性が見出せない。'recall'も両方とも名詞であるが、強勢によって意味の異なる単語に変化する。
その他の言語では、強勢が決まった場所に置かれることがある。
フランス語では強勢は、普通、単語の最後の音節にあり、ポーランド語では通常最後から2番目の音節にある。
このような例では、強勢が意味の違いを生じているとは言えない。強勢は、発話を分節する際の目安になると考える事が出来る。フランス語では、強調されたところが語の句切れである。
人間の発話の知覚に関してまだ、未解決の重要な問題がある。
それは、英語のような特に規則のない強勢を用いる言語で、私たちはどのように一連の発話を単語に区切っているのか、という問題である。
強勢が置かれていると聞き取れるように、さまざまな要因がその音節に働く。
英語では強勢の置かれる音節は、長く、大きく、そして高く発音される。
複数の音節の連続では、さまざまなレベルの強勢が存在する。例えば4音節の'un-der-stand-ing'では、3番目の音節が一番強く発音され、1番目の音節は、2番目と3番目の音節よりも強く発音される。
それでもこのとき、目立って高く発音されるは、3番目の音節だけである。このような、示差的な声の高さを英語では、アクセント(accent)と呼び、研究の重要項目である。
さて、'understanding English'と発音する時はどうだろうか。
このなかで一番目立つ高さで発音される音節は、'Eng-lish'の最初の音節である。この時、確かに-stand-もその他に比べれば目立っているが、もうそこにアクセントがある(accented)とは言わない。
un-や-stand-など、長さや大きさなどの特徴がある音節に対して、強勢が置かれる(stressed)と言うことは出来る。
強勢とアクセントが働くその他の言語でも、この区別が用いられている。
Intonation
抑揚は、いつも定義するのが難しいものである。伝統的には、「発声のメロディー」であり、声の高さの一種として語られる。
声調のところで、声の高さが意味の区別に関わる事例を見たが、抑揚ではそこまで明確な意味の変化は生じない。
典型例として、"You're from London."と"You're from London?"の声の高さの違いである。抑揚が陳述文と疑問文の違いを生む。
その他の、良く引用される例がある。
"She won't go out with anyone."
この文章の最後の単語'an-y-one'を低く下がったまま発音すると、「彼女は誰とも出かけない」という意味になり、最後の音節'-one'を高く発音すると「彼女は一緒に出かける人を選ぶ。どんな誰とでも出かけるわけではない」という意味になる。
抑揚は他にも様々な情報を伝える。
例えばイギリスでは、人に尋ねるときに、最後の単語を下がって上がるように発音すると、礼儀正しさを示す。
あるいは、単語のリストを述べる際は、目録の途中は下から上がる発音が続き、最後の項目に急降下する発音が行われる。
抑揚は話者の態度や感情を示唆するものであるとも言われている。
同じ文章でも、楽しそうに、悲しそうに、憤慨しながら言う事が出来る。もちろんそれは、声の高さだけの問題ではない。声質や、速さ、表情、身振り手振りなど使っている為に、抑揚の定義はますます難しくなってゆく。
例に挙げた、英語のような言語において、抑揚をどのように定義すれば良いだろうか。文法的な役割を担っている事もあるし、感情を表現する事もある。
抑揚は、言語の談話構造(the discourse structure of speech)の基本的な成分として見るのが一番良い方法であろう。
私たちは、情報伝達の為に会話をするし、それには話し手と聞き手の相互作用が必要である。何を話しているかの指標にすることができる。
メールや文章での誤解の多さを考えれば、抑揚の、情報伝達における大切さがわかる。
満足に抑揚を表記することは難しい。
文章の下に、声の高低を表す波線を書いて抑揚を記す方法がある。これは、事例を説明するのには便利だが、どの部分が重要であるかを示してはくれない。
難しいのは、抑揚は、声調言語の声調と同じような方法で、意味が深く対照的であると言われている点である。
声調言語では、対照的な声調と対応する記号を用いて、声調を表示する事が出来る。しかし、抑揚では、実に多様な変化が見られるので、対照的な単位に区切る事さえ難しい。
抑揚を用いるイギリス英語では、重要な要素を文章中に書き込む記号を用いて、抑揚のシステムを書き表している。
Rhythm
発話と音楽には相似していることが多く、そして、音楽に常に含まれるものがリズム(rhythm)である。
音楽において、リズムは普通、連続の中で、大きさや長さや、高さなどのその他から突出した、ある種の音符を作る事によって生じる。
商業化された音楽の、一定の間隔で繰り返される拍だけがリズムではない。世界各地の伝統的な音楽や形式的な音楽は奇怪で複雑なリズムを形づくる。
発話では、音節が、音符や拍の変わりになっている事が分かる。そして多くの言語では、強調された音節がリズムを定義している。
*This is the *first *time I've *ever *eaten a *chocolate *caterpillar.
もしこの文に合わせて手を叩くとしたら、英語のネイティブスピーカーは、*の記号がついているところで手を叩くだろう。
英語は、強勢のある音節と音節の間を等間隔に保とうとすると言われているので、 *と*の間の時間は常に同じになる。このようなリズムをストレスタイム(stress-timed)と言う。
したがって、強勢の無い音節は、その一拍の中に詰め込まれてとても短く発音される。
このような話し方はある一つのスタイルであって、普通の会話では、この等時感覚の(isochronous)リズムではない。音楽と同じように、言語のリズムも単純だと思い込んではいけない。
聴いて分かるように、その他の言語ではリズムも異なる。英語話者にとって、イタリア語とスウェーデン語はかなり異なるリズムを持っている。
スペイン語とフランス語と中国語は、シラブルタイム(syllable-timed)の様に聞こえる。これは、音節ごとが等間隔に発音されて、強勢を持つ音節の持つ、リズムに関する役割は小さい。
しかし、これらの分類は主観的で、科学的にどのような要素が、私たちにそのような印象を持たせているのかを証明するのは難しい。
明らかなのは、リズムが、私たちのコミュニケーションに便利だという事である。
リズムは、発話を単語やその他の単位に分節し、話題転換の目印となり、重要なことを目立たせる事によって、一連の発話の紛らわしい絶え間ない流れに道を切り開いてくれる。
Other suprasegmental feature
超分節的特徴を詳しく分析し、発話ごとに変わる特徴を発見することが出来る。
既に述べたように、スピードやテンポは、声の大きさと同じように、全員がして、変える事が出来るものである。声の質は、優しいものから、きついものへと変える事が出来る。
これらはコミュニケーションにおいてとても大事な役割を果たしていると考えられるが、言語学や音韻論とは関連性が低く、それらは、何と対比されるべきかも分からない。
それらはしばしば、パラ言語学的特徴(paralinguistic features)と呼ばれ、私たちが他者との会話に置いて、特に感情表現を、どのように振る舞っているのかを研究する。
話者の顔を見なくても、私たちは、声だけでその人が怒っているのか喜んでいるのか、悲しんでいるのかうんざりしてるのかがわかる。この働きを知る為には、声の高さだけを調べていてはいけない。
声の性質を網羅するような、もっと細かい特徴の体制と分類の描写が必要である。
すべての調査が実行されても、特定の感情が伝わるときに何が起こっているのかを、私たちが今、詳細知っているなどということはない。
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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