Language under attack
言語の変化は自然で普遍的な現象である。しかし人々は大変なことだと心配する。
イギリスの新聞や報道は定期的に、文法に従わないことや、読み書き能力の低下、有害なアメリカ英語の使用、有識者達の粗悪な文法的違反などへの不満を掲載する。
我々の言語遺産が脅かされているようである。恒常な警戒をしなければ、英語は衰退し腐敗するだろう。
1985年、当時の政治の重要人物であるテビットは「一度基準から外れれば、犯罪に関わるだろう」と発言をしている。
イギリスだけではない。フランスのル・モンド誌が定期的に編集者達の、フランス語に起こっていることを嘆く記事を出版している。日本語は、若者の音節の削除や文法を無視した敬語の助詞の重複、外来語の氾濫によって乱されている。ガラル・アミンは'Whatever happened to the Egiptians?'にこう書いている。
「50年程前のエジプト人たちがアラビア語に対して抱いていた尊敬と尊重を覚えている人たちは、最近のアラビア語の扱いを嘆かざるを得ない。人々はかつて、よいアラビア語を書くことが出来、アラビア語文法を良く知っていることが誇りであった。しかし、すべて過去のことである。」
多くの国でこのような嘆きが聞かれる。ともかく、人々はもう、正しく自分の言語を使うことは出来ないようだ。
What do we mean by 'incorrect'?
人が、誰かの言語を間違っていると言う時、その人は以下の5の項目を参照しているのだろう。
1、外国人学習者の間違い
2、母語話者の間違い
3、方言の使用
4、揺れのある使用方法
5、日常語や俗語の形式
言語を専門にしていない人々は、これらをすべて「まちがった文法」とし、文法書に載っているような1つの正しい言語が存在するのだと思うだろう。そして、規範から逸脱したものは間違いであり、不用心で、無関心で、浅はかで、教養がない印だと、考えるだろう。
しかし上に述べたように、言語行為のタイプによって明らかな違いが存在し、どれも、「間違い」と言える証拠はない。
大切なことは、バリエーションと間違いを区別しなければならないということだ。
Mistake
青年を過ぎたら、新しい言語を完璧に習得する人はほとんどいない。従って、非母語話者が間違いを犯すのは当然のことである。もちろん、外国語の教師もそうだ。
さまざまな国の英語学習者の典型的な間違いがある。'I not understund.', 'this book was writing by my uncle.', 'New car must keep in garage.'などだ。
これらは、言いたいことは分かるが、明らかに間違いである。それぞれの文法が矛盾しており、そして、どんなに頑張っても、どんなに動転していても、母語話者が犯しそうも無い間違いである。
母語話者も同じように間違いを犯す。舌をかんだり、言い間違いもある。複雑な構造を間違えることもある。例えば、'Teenage driver are twice as likely to have accidents than the average.'のような文を作る。続けて発話しなければならないような、実況や演説によく起こる。
間違いは故郷を離れた、まだ習得していない言語を使用している時に良く起こる。
数年前、オックスフォードのパン屋に'This is a food premise. Please do not smoke.'という看板があった。この看板を書いた人は明らかに、この場合'premises'は複数形でのみ使用されることを知らなかった。改まった表現はこのような問題が多い。
書き言葉は、話し言葉にみられないような独特な文法的性質を持っている。従って、ある意味で、話し言葉は、言語を学ぶ全ての人にとって目新しく不慣れな方言なのである。
Variation
方言は、明らかに上に述べた間違いとは、異なるものである。彼らは間違いを犯していないし、異国の地に来て慣れない言語を話している訳でもない。
誰が彼らの文法に関して何を言ってやりたいと思っていても、彼らは子供の頃に習得し、慣れ親しんだ構造のを使っているのであって、彼らの中での正しく、適切な方法で矛盾無く使用されているのである。
このような発話は、バリエーションの例である。言語的に、普通で、全く問題ない。
言語は時間の中で変化し、地域によって変化し、社会階層のなかで変化し、個人個人で異なり、個人使用も異なる。
Dialect forms
言語とは、陸軍と海軍を持つ方言のことである。(マックス・ヴァインライヒ)
方言:政府、学校、中流階級、法、そして軍事力以外の全てを持った言語の種類(トム・マッカーサー)
方言は、しばしば、言語の崩れた形だと考えられることがある。正しく文法を習わなかったり、うまくいかなくて悩んだことが無い、無学で不注意な人々が使う間違った言葉だであると。
しかし、実際は、英語の方言には長い歴史がある。遡れば、中世にブリテン島を占拠したゲルマン人とスカンディナビア人の侵略者たちの話し方に行き着く。
加えて言語学的な分析により、良く出来た方言は、たとえ標準とかけ離れていても、かなり豊かでシステマティックな文法を持っていることがわかった。
面白いことに、人々は遠くは慣れた方言に関しては、この考えを受け入れやすい。
ブリテン島の南からやって来た人の言葉は、標準文法からの逸脱だと考えるが、スコットランド地方から来た人の言葉は、独自の規則をもった別の言語のバラエティーだと考える。南方の方言も、スコットランド地方と同様に歴史的な根拠があり、彼らのルールの中に従った正しい言葉を使用しているが、隣接するの標準英語話者を困らせているのである。
方言が怠惰で不合理であるという信条は根拠が無い。方言が標準文法よりも簡単ということは出来ない。
学校の先生は'I didn't do nothing.'を間違っていると言うだろう。英語では二重否定は肯定を示すが、フランス語は二重否定を使う。実際、二重否定は言語ごとにそれぞれであり、多くの言語で使用されている。現代標準英語では用いられないが、古英語と、そしていくつかの方言では使用されているのである。
標準言語というのは、言語学的に良くない。
それはただ、政治や教育などの目的に使用されている言語のバリエーションである。'I want'が本物で、'I wants'がそれの崩壊した形だとか、そういうことは何も無い。ただ、'I want'がたまたま、歴史的に権力を持った先祖が使っていた形であっただけである。
878年に アルフレッド大王の勝利により、ロンドンに建設した政府がブリテン島全体を治めるようになり、結果的に、ノルマンフランス語の影響を受けたロンドン地方の方言が、政府、法律、商業、教育、文学の言葉として採用されたのである。もし、アルフレッド大王がバイキングに負けていたら、きっとブリテン島の首都はヨークになっており、今の英語とは全く異なる言語がイギリスで使用されていただろう。
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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