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世界の全ての物理的な様相と、人間に関する全ての様相は変化する。言語も例外ではない。
個々の変化は、新しい語が出来たり普及したり、突然で分かりやすい。しかし、普通の言語の変化は、世代ごとの発音の小さな差など、徐々の変化で気づかない程のものである。
言語の変化は2つの同等の形式の共存を引き起こす。変種として、一方がもう一方に
例えば、2つの単語や、同じ単語の2種類の発音、は同じ共同体の言葉の中に共存しているだろうが、異なるサブグループや、異なる状況で用いられているだろう。後で詳しく述べるが、結果としてこの2種は競い合い、最終的に1つが支配的に、もう1つが衰退する。
 
小さい言語の変化は、日常の経験から明らかだろう。そして人々は言葉の使い方や発音の違いに気づいていて、時々不満を言うだろう。
しかし、古い文章を見ると、大きな言語の変化はもっと分かりやすく、そしてもっと歴史を遡れば、その変化は、明白になる。
次の文章は、9世紀後期のアルフレッド大王の時代の古英語の例である。その下は現代英語訳である。
 
(1)Ælfred kyning hateð gretan Wærferð biscep his wordum luflice ond freondlice ond ðe cyðan hate, ðæt me com swiðe oft on gemynd, hwelce wiotan iu wæron giond Angelcynn ægðer ge godcundra hada ge woruldcundra, ond hu gesæliglica tida ða wæron giond Angelcynn.
[King Alfred sends greetings to Bishop Wærferth with his loving and friendly words, and I would declare to you that it has  very often come to my mind what wise men there were formerly throughout the English people, both in sacred and in secular orders, and how there were happy times then throughout England.]
 
見る影も無く言語が変わってしまっているだろう。この文章に関する言語学的な議論はこの本では出来ないが、少しだが現代の英語に引き継がれている単語がある事がわかる。'luflice'が'lovely'に、'freondlice'が'friendly'のように様々に変化している。また、'æ'や'ð'の文字はもう現代英語では使われていない。
次は500年程後の、チョーサーの『カンタベリー物語』からの中期英語の例である。
 
(2)Ye goon to Caunterbury -- God yow speede,
   The blisful martir quite yow youre meede!
   And wel I woot, as ye goon by the weye,
   Ye shapen yow to talen and to pleye;
   For trewely, confort ne myrthe is noon
   To ride by the weye doumb as a stoon;
 
これは現代英語との差が小さい。明らかな違いは動詞の語尾の形と、単語の形である。'goon'と'talen'は複数の語尾'-(e)n'が付いているし、'ye'は'you'、'woot'は'know'である。
この文章を声で聞けば、現代英語との差はかなり大きく感じるだろう。しかし、中期英語は現代英語と関係が深いと認識する事が出来る。
最後の文章は『カンタベリー物語』の2世紀程後、16世紀下旬に書かれたシェイクスピアの『夏の夜の夢』からの引用である、
 
(3)Lysander Now she holds me not; 
   Now follow, if thou darest, to try whose right, 
   Of thine or mine, is most in Helena.
   Demetrius Follow! nay, I'll go with thee, cheek by jowl.
   Hermia You, mistress, all this coil is long of you: Nay, go not back.
   Helena I will not trust you, I,
   Nor longer stay in your curst company. 
   Your hands than mine are quicker for a fray, 
   My legs are longer though, to run away.
 
発音も含めて、この英語はかなり現代英語と似ている。しかし、言語学的には文法と語彙に差がある。まず、'-st'の2人称単数の動詞活用が存在する。そして、'you'の他にある'thou'と'thee'の単数人称代名詞がある。否定の文章'she holds me not'は現代英語の文法では'she does not hold me'であるし、'Your hands than mine are quicker for a fray'の語順は現代英語には無い。形のまったくちがう単語は無いが、意味が異なるものはある。'coil'の中期英語での意味は、電気に関するものではなく「騒乱」のことだ。
 
特定の言語を長い時代を通して観察するとき、言語の変化には分かりやすい言語の段階なく、歴史的な連続体である。なので、話者が自分より前と後の言語を理解する事は簡単であるが、年代が離れるほど、言語を理解するのが難しくなる。
これは方言の連続体と良く似た現象である。地理的に隣接する地域の方言は互いに理解出来るが、遠くは慣れた地域の言葉は通じない。時間的な言語の差異と、地理的な言語の差異の深い関係は、ブリテン島を南から北へ、あるいは西から東へ旅をすれば、気づく事も多いだろう。田舎には、古い言語が残っている。
言語の変化は、特定の言語や世代に限られたものではなく、この世の真理である。しかしこれは、人々がこの運命を喜んで受け入れるということではない。
 
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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