1000 years of change in English
古英語の英雄詩「ベオウルフ」は、約1000年前に書かれたものである。以下のように始まる。
Hwæt! We Gardena in geardagum theodcyninga thrym gefrunon hu ða æthelingas ellen fremedom.
14世紀初頭に書かれた「ガーウェイン卿と緑の騎士」からの中期英語は、以下のようなものである。
Wrothe wynde of the welkyn weastelez with the sunne, the leuez lancen from the lynde and lygten on the grounde, and al grayes the gres that grene watz ere; ... and thus yirnez the yere in yisterdayez mony.
「ベオウルフ」の古英語は、語彙も文法も完全に違う言語である。短い冒頭分だけでも、現代英語と異なるさまざまな特徴が見て取れる。
まず、属格、与格の複数名詞の形があり、複数の動詞の語尾が存在する。語順は比較的自由だが、主語-目的語-動詞の構造が多い。
一方、中期英語は、「ベオウルフ」から約350年後のものであるが、「英語」と分かる文章である。
もちろん、現代英語と異なる点は多いが、ほとんどの、複雑な屈折システムが無くなっている。そして、語順も今日のものとかなり近い。
Mechanisms of change
全ての言語が何回も変化を繰り替えしている。
この過程は、完成に向かった進化であると考えられることが多い。この考えでは、言語は使用者によって上品で正確なコミュニケーションの道具になされ、斬新的に洗練されている。
しかし、ほとんどの場合、言語の変化は退化と見なされる。言語は理想の姿から離れてゆき、文法規則は無視され、模範は弱化し、重要な差異やニュアンスが無くなる。
どちらの考えも、言語システムに良い悪いがあることを当然のこととして見なしている。原始的なものと、進化したものである。
しかし実際には、ピジン(pidgin)の例を抜かせば、原始の言語などというものは存在しないし、言語学者は、言語構造の類型の相関関係の研究をしないし、効き目のある表現の能力の研究もしない。
言語の変化は、同時に起こる、下降と上昇の動きの産物と考えるのが良いだろう。この動きは再編成や再生産、再創造を含んでいる。
しかし一方で、表現の形式は何度も慣例化され、強い印象や正確さが失われた。だが、言語使用者は常に、すばらしい表現のために、革新を続けて来た。
シェイクスピアは効果の経済性を追求し、言語の形式がだんだん風化されていった。聞き手が求める分かりやすさのニーズと均衡し、ある部分の欠如はその他のもので補われているのである。
大幅な簡略化をもたらす変化もあるし、途方も無い複雑化をもたらす変化もある。
コミュニケーションの効率に基づく観点では、このような変遷の結果は中性である。概して、言語は、その使用者の目的に達成するための手段を提供し続けるだろう。
Analogy
多くの言語の変化は類推(analogy)を含んでいる。
まるで言語が自身を整理するかのように、形式をその他のものに変更している。
例えば、動詞'like'は元来、非人称の主語をもち、人称の目的語をとっていた。しかし、より一般的動詞の使用法である、人称を主語とする用法で'like'が用いられるようになり、現在の用法となった。
古英語の複数形は一般化された。そして今、'shoen'が'shoes'となったように、外来語に置いても統一の動きがある。'formulae'のかわりに'fomulas'が用いられている。
現代英語の話し言葉でみられる類推に、'would'の用法がある。今、だんだん、条件文において、副文と主文両方に'would'をおくことが増えている。'It would be better if they would tell everybody in advance.'そして、ドイツ語、フランス語、スペイン語にも同様な変化が見られる。
もう1つ、'may'の使用の拡大もある。最近までは、'may have happend'と言えば、「たぶん、起こっただろう」という意味しかなかった。しかし、最近の'may have ...'の使用が多くなり、実現しなかった可能性を意味するようになった。
小さな機能語を用いた複雑なシステムは特に、まるで小さな差異を維持することが苦労の割に得るものが少ないように、でたらめな類推によって変わりやすい。
このような変化が話者によって繰り返されたとき、これが制度化される。英語はだんだん、'head'のあとの前置詞は'for'から'to'に置き換わるのである。例えば'The ship is now heading to Liverpool.'のように。
現在起こっている、小詞や機能語の余分な示差性の崩壊は、所有や複数形の綴りの混同として広まっている。例えば,、クリスマスカードに書かれた'Seasons Greeting's'のようなものだ。正しくは'Season's Greatings'である。
類推は言語学的共同体の中でも行われている。
権威を持った言語がその他の種類のものに、悪名高く知れ渡る程に、影響を与えている。
英語の各方言は、だんだん標準英語に収束していっている。一方、イギリス英語自体がだんだん、アメリカ英語の影響を受けている。この中には、接続詞'as'の代わる'like'の使用や、'do'の使用の拡大などがある。
類推的な変化は言語間を越え、まったく似てない言語が文法を共有することさえもある。特に、バイリンガル共同体において、1つの言語が他方の言語の影響を受けて変化する。スコットランド、ウェールズ、アイルランドの英語は基層に、その地域のケルト語の文法を受け継いでいる。ルーマニア語、アラビア語、ブルガリア語は遠い関係の言語だが、みな、屈折する、名詞に付く定冠詞を持っている。多言語が使用されているインドのKupwarの村では、関係性の無いカナラ語(Kannada)とウルドゥー語(Urdu)が同じ方向へと収束していっている。
Phonetic erosion
もっとも強力な言語変化の要因は、発音の変化である。
話し手は自然に、音節や単語の終わりを、始めよりも弱く発音する。言いにくい発音を単純化し、強勢の無い音節を縮小する。結果的に音声が弱まり無くなってしまう。
ずっと昔に綴りが整えられた言語は、発音されない音声を表示する無音の文字が出没する。英語の'si(gh)t'、フランス語の'pe(n)e(ent)'などである。
長い時間をかけて、この過程が文法を変えることもある。
もしも、屈折が変化したら、この欠如を補うためにその他の表現を見つけなければならない。例えば、語順や機能語の使用を増やすことである。アングロサクソン語と現代英語の違いは、この点にある。
現代英語では、発音の変化が、ある状況下での助動詞を少しずつ削り取っている。完了の'have'や、疑問文での進行形'are'などだ。
また、動詞+不定詞構文に置いて、'to'が先行する動詞とくっつく変化もある。'hafta'や'wanna'などである。
もしもこれらの個別的な変化が十分に普及したら、最終的に文法システムの再構築を引き起こす。
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series
PR
この記事にコメントする
言語学が大好きな一般人のブログです。
過去の記事は、軌跡として残しておきます。
カレンダー
04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
ブログ内検索
カテゴリー
最新記事
(10/02)
(09/30)
(09/29)
(09/26)
(09/25)
プロフィール
HN:
てぬ
性別:
女性
自己紹介:
大学院で言語学を学びたい大学生が、日々の勉強の成果を記録してゆく為の、個人サイトでした。
最新トラックバック
最古記事
(01/01)
(04/07)
(04/08)
(04/09)
(04/09)
P R