文法の仕組みは、規則は簡単でも、とても複雑にする事が出来る。
言語と言語は、どれだけ異なるのか。
言語を構成する、単語クラスにも違いがあり、さらに基本的な文法の効果を、語順、屈折、機能語から選択し、それらによって表現する付加的な意味も異なる。これらの違いの実例を述べていこう。
Word classes
英語話者は、全ての言語が、有名な9つぐらいの「品詞」を持っていることが当たり前だと思うだろう。しかし決してそうでは無い。英語の文法の分類は全く普遍的でない。
名詞、動詞、形容詞、副詞は多かれ少なかれ、普遍的なカテゴリーであるが、その構成員は言語ごとに異なっている。特に、形容詞と副詞は、英語のような大きいカテゴリーあるとも限らない。スワヒリ語(Swahili)の形容詞は50語で、閉鎖的なグループを成し、アマゾンのジャラワラ語(Jarawara)では14語、ニジェール・コンゴ語族(Niger-Congo)のイボ語(igbo)では8語である。
オーストラリアの言語は一般的に、英語で前置詞と呼ばれるものが無いし、カリブ(Carib)の言語は接続詞や関係代名詞がない。
これらの言語が、それらに適当な概念を論ずる事が出来ないという事ではない。形容詞で表されるような性質は、それらの言語では名詞や動詞として、問題なく記号化されている。ハウサ語(Hausa)の「硬い木」の表現は「硬さのある木」、「それは硬いです」は「それは硬さを持っている」という表現になる。
多くの言語は、英語話者にはエキゾティックに感じられるような語の分類を持っている。
英語では、抽象概念を表す前置詞を、動詞を用いても表現出来る。たとえば、'facing'を'opposit'の意味で用いる。フィンランド語(Finnish)は多くの時空の関係を、名詞の終止で表現する。
ケチュア語(Quechua)は、英語で人称代名詞を用いるところに接辞を用いる。'you hit me'が'Maqa-(hit)'に接辞がついた単語となる。
タガログ語(Tagalog)では丁寧の表現である'po'と'ho'が、希望や推測や質問の表現である法(mood)と同じように付け加える。
日本語には名詞の後に付く助詞(て、に、を、は、が、か?)があり、それによって文法的な関係性を指し示す。
樺太周辺で話されているニヴヒ(Nivkh)語では様々なものを数えるために26の基数のサブシステムがある。このようなシステムは多く、数字と数える単位である分類詞(classifier)を含むものである。
この分類詞の選択は、続く名詞の分類に依る。標準中国語(Mandarin Chinese)では2つの本を数える時は'liang-ben'、机や地図や紙は'liang-zhang'、行事や服は'liang-jian'、麦や砂や米などの粒状のものは'liang-li'、二ユースや蛇などは'liang-tiao'である。英語でも、'three blade of grass(3枚の芝の葉)'のような表現を用いる。
分類詞はとても多くなることがあり、タイ語(Thai)では60種類以上ある。
名詞の分類や性(gender)は様々な多くの言語で見られる。
アフリカの言語は20もの性の分類を持つ事が出来、多くのインド・ヨーロッパ語族では男性(masculine)、女性(feminine)、中性(neuter)と呼ばれるような、3つか2つの性を持っている。
性はそれぞれ、異なる冠詞、形容詞、動詞などの形式を必要とする。以下はフランス語の例である。'the report/letter that I have written'に対応する。
le long rapport que j'ai écrit (repportは男性名詞)
la longue lettre que j'ai écrite (lettreは女性名詞)
しばしば性は意味論上の偏向によって分類されるが、標準中国語ではまったく恣意的で予想出来ない。
インド・ヨーロッパ語でもそうで、スペイン語では「手」と「耳」が女性名詞で、「足」と「目」が男性名詞である。フランス語では「太陽」が女性名詞で「月」が男性名詞だが、ドイツ語では逆である。また、ドイツ語では「ナイフ」、「フォーク」、「スプーン」がそれぞれ中性、女性、男性である。
男性に関する事が男性名詞で、女性に関する事が女性名詞になる傾向があるが、以下のものはでたらめである。フランス語で'sentinelle(見張り番、歩哨')は普通、男性の仕事だが、女性名詞である。ドイツ語の'Mädchen(少女)'は中性名詞である。
Structual types
言語は、それら利用している文法のタイプで区別し分類する事が出来る。
伝統的なものは、言語の構造を基礎とする形態論(morphology)である。
ベトナム語や中国語のような、孤立語(isolating language)あるいは分析言語(analytic language)と呼ばれる言語は、単語はまったく形を変えない。文法関係は語順と機能語によって示される。
ロシア語やギリシャ語のような、屈折語(inflecting language)や総合言語(synthetic language)と呼ばれる言語は、文法的な地位を示すのに、単語がことなる形式をとる。
トルコ語やナバホ語のような、膠着語(agglutinating language)は、極端に言うと、一連の形態素をすべて単語に包合(incorporating)してしまう。
この分類では、英語は孤立語の端の方に位置するだろう。
英語の祖であるアングロサクソン語は、名詞、代名詞、形容詞と動詞が様々な形式をとり得る、形態論的に複雑な言語であった。現代英語では、ほとのどの屈折の役割を、語順と機能語に移している。
英語には、屈折は、所有を示す'-s'と、代名詞の主語と目的語の違い、動詞の三人称単数現在の接辞と時制の語末、それから形容詞の比較の語末が残っている。また多くの派生形態素(derivational morphology)を持っているが、'un-'、'-ize'などの接辞は文法関係よりも、新たな意味の付け加えや、単語の分類を変えるのもである。
この分類は一般化するのに便利だが、言語が1つのカテゴリーにきっちり収まるとは限らない。
日本語は、ある部分では孤立語だが、ある部分では膠着語である。名詞は屈折せず、助詞に依って主語、目的語などの機能が示される。しかし動詞は屈折し、形態論上、幅広いの意味を表現する事が出来る。
また、このような分類はそんなに役に立たない。これらの3つの分類はそれぞれの関係性を示しておらず、役に立つ一般化に導くこともない。
現在の類型論(typology)では言語の、もっと特定の性質を比べ記述している。例えば、単語の分類の形式と数、句の構造、発音、節の構造、一致や語順の選択である。
Morphological complex
例えば、英語話者がロシア語で'in my garden'を書きたいと思うと、庭どころか、以下のような文法の樹海に迷い込んでしまう。
-ロシア語の名詞は6つの格をもつ。主格(nominative)、対格(accusative)、生格(genetive)、与格(dative)、前置核(propositional)、造格(instrumental)である。これらは名詞の文法的機能に対応しており、語尾に変化が見られる、屈折である。
-ロシア語の'in (v)'の後ろには、前置格が続く。その他の前置詞は、対格や生格や与格や造格が続くことがある。
-ロシア語の'garden (sad)'は男性名詞に属しているので、それらの単数の前置格は、語尾に強勢のある'-e'が付く。
-しかし、'sad'は例外的に、'v'の後では、'sade'ではなく'sadu'が使われる。
-ロシア語の'my'は9つの単数形があり、'sadu'との性と格の一致をするのは、男性で前置格形の'moyem'である。
従って、'v moyem sadu'となる。これに形容詞を付加するとまた新たな複雑な解説が必要である。
屈折語は、ロシア語のように複雑なものだけでなく、英語の機能語である'the'や'a/an'などの無害そうなものもある。しかしこれらの語も共通する言語は無く、分析や学習するには、意味や区別がとても難しいので、英語母語話者ではない人にとってはとても複雑である。
しかし、屈折語の形態論は、機能的な域を超えた、その存在が言語としてのあり方そのものであるように思える。
ロシア語のパターンは、多くのインド・ヨーロッパ語の現在と過去の様相の典型を表している。
ヨーロッパの子供達は、膨大な分類と例外のある、ラテン語の曲用(declension)と活用(conjugation)の語尾一覧表を暗記させられただろう。
現在のラテン語の子孫たちは、ほとんどの名詞語尾を失ったが、動詞の複雑さは保ったままである。例えばスペイン語の動詞は、助動詞との結合もあわせて、最高110の形態をとる。
屈折はさまざまな機能を担っている。ラテン語の動詞の活用は、人称(person)、単復(number)、時制(tense)、法(mood)、態(voice)を表す。名詞は単復と格で屈折し、それから主語(subject)、直接目的語(direct object)、間接目的語(indirect object)と受動関係を区別する。そして異なる前置詞は、後続する語に異なる格を求める。
格の屈折は言語ごとに異なっている。
北アメリカのカワイイス語(Kawaiisu)では、否定文の主語は対格である。そして多くの言語で、自動詞文の主語と他動詞文の目的語が同じ格をもつ。
また、1つの屈折の中に様々な機能が合体している。
ドイツ語の'Mein Vater hat einen grossen Hund. (My father has a big dog.)'の中の'einen'の'-en'は、後続の名詞が単数の直接目的語で男性名詞である事を示している。このような音声の変化によって、現代ドイツ語は示差的な屈折が比較的少なく、ある形態がいろんな場面に出現する。異なる文脈では、'-en'は、複数、単数の属格、単数の与格、(動詞の)一人称二人称三人称複数、不定、過去冠詞などを示す。
以上のように、形態論上の変化が、接辞によってのみ行われる訳ではない。
語の一部や全体が変わる事もある。例えば英語の'foot/feet'や'bring/brought'や'be/am/is/was'である。ウェールズ語(Welsh)では語頭の音が変わる。例えば「歯」が文脈と文法的な機能によって、'dant/ddant/nhant'と変化する。
多くのアフリカの言語と同じように、バンバラ語(Bambara)ではトーンを用いる。限定的な(definiteness)名詞は、語末のトーンが下がる。
膠着語でも同じように、形態論上の多くの機能が、数百や数千もの複雑な構造を持った形態によって表される。
多くのネイティブ・アメリカンの言語では、動詞がさまざまな分類の接辞を包括した構造を持っており、その接辞はそれぞれ異なる文法的、意味論的な要素を表現する。
ナバホ語(Navajo)では、接頭辞が以下の順番で付く。(1)間接目的語/再帰、(2)反復のマーク、(3)複数のマーク、(4)直接目的語、(5)指示詞、(6)副詞形態素、(7)法/相、(8)主語のマーク、(9)分類。ジャラワラ語(Jarawara)には3つの接頭辞と25個の接尾辞の位置がある。
このような構造は、語と句と節の境界を霞ませるものである。
また、オーストラリアのムリンパタ語(Murrinh-patha)は目的語が動詞に包括されてしまう。'He will cut his hand'が'putmartalnu(he-hand-cut-will)'となる。
シベリアで話されているケット語(Ket)は目的語、自動詞の主語、造格、方向の副詞が動詞に包括される。カナダのヌートカ語(Nootka)では、'He invites poeple to a feat'が一単語で表される。
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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