摩擦音(fricative)は空気の通る隙間をかなり小さく残し、
雑音のような、隙間風のような強い乱気流を生じさせ、発声する。
この音を出す際に、
空気の流れを口の真ん中に作る、中線的摩擦音と、
口の真ん中に閉鎖があり、両脇を空気が通る、側面的摩擦音がある。
一般的には、前者を狭義の摩擦音、後者を側面摩擦音と称する。
今回は中線的摩擦音のみ紹介する。
[ ɸ ] 無声両唇摩擦音(voiceless bilaial fricative)
[ β ] 有声両唇摩擦音(voiced bilaial fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
両唇で狭い隙間を作り、発声する。
この調音位置での側面的調音は不可能。
声帯振動が無ければ、[ ɸ ]、伴えば[ β ]である。
日本語の「ふ」の調音が無声両唇摩擦音である。
スペイン語では/ b /や/ v /の異音として有声両唇摩擦音が生じる。
[ f ] 無声唇歯摩擦音(voiceless labiodental fricative)
[ v ] 有声唇歯摩擦音(voiced labiodental fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
上歯と下唇で狭い隙間を作り、発声する。
この調音位置での側面的調音は不可能。
声帯振動が無ければ、[ f ]、伴えば[ v ]である。
多くの言語でみられる、一般的な発音である。
[ θ ] 無声歯摩擦音(voiceless dental fricative)
[ ð ] 有声歯摩擦音(voiced dental fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
上歯と舌尖で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ θ ]、伴えば[ ð ]である。
この音を音素に持つ言語は少ないが、英語の"th"で馴染み深い。
舌を歯ではさむ歯間摩擦音(interdental)も同じ記号を用いる。
[ s ] 無声歯茎摩擦音(voiceless alveolar fricative)
[ z ] 有声歯茎摩擦音(voiced alveolar fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌端と歯茎で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ s ]、伴えば[ z ]である。
日本の「さ」、「ざ」をはじめ、多くの言語に見られる発音である。
[ ʃ ] 無声後部歯茎摩擦音(voiceless postalveolar fricative)
[ ʒ ] 有声後部歯茎摩擦音(voiced postalveolar fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌端と後部歯茎で狭い隙間を作り、発声する。そり舌にはならない。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ ʃ ]、伴えば[ ʒ ]である。
英語、フランス語などで見られる。
日本語の「し」の表記に[ ʃ ]を用いることも在るが、厳密には間違いである。
[ ʂ ] 無声そり舌摩擦音(voiceless retroflex fricative)
[ ʐ ] 有声そり舌摩擦音(voiced retroflex fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌尖と後部歯茎で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ ʂ ]、伴えば[ ʐ ]である。
中国語やベトナム語に見られる。
[ ç ] 無声硬口蓋摩擦音(voiceless palatal fricative)
[ ʝ ] 有声硬口蓋摩擦音(voiced palatal fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
前舌と硬口蓋で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ ç ]、伴えば[ ʝ ]である。
[ ç ]は、日本語の「ひ」の発音であり、ドイツ語の"ch"でも有名。
[ x ] 無声軟口蓋摩擦音(voiceless velar fricative)
[ ɣ ] 有声軟口蓋摩擦音(voiced velar fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
後舌と軟口蓋で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ x ]、伴えば[ ɣ ]である。
スペイン語やロシア語で見られる。
[ χ ] 無声口蓋垂摩擦音(voiceless uvular fricative)
[ ʁ ] 有声口蓋垂摩擦音(voiced uvular fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
後舌と口蓋垂で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ χ ]、伴えば[ ʁ ]である。
[ χ ]の形は[ x ]とは少し違って、ギリシャ文字のχに近い。
オランダ語やモンゴル語で見られる。
[ ħ ] 無声咽頭摩擦音(voiceless pharyngeal fricative)
[ ʕ ] 有声咽頭摩擦音(voiced pharyngeal fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌根と咽頭壁で狭い隙間を作り、発声する。
この調音位置での側面的調音は不可能。
声帯振動が無ければ、[ ħ ]、伴えば[ ʕ ]である。
アラビア語で用いられる。
無理すると涙が出る。
[ h ] 無声声門摩擦音(voiceless glottal fricative)
[ ɦ ] 有声声門摩擦音(voiced glottal fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
声門で狭い隙間を作り、発声する。
この調音位置での側面的調音は不可能。
声帯振動が無ければ、[ h ]、伴えば[ ɦ ]である。
語頭の、日本語の「は」「へ」「ほ」や、英語、ドイツ語の"h"の発音である。
母音に挟まれると有声音化する。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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