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Comparting and reconstructing languages
歴史言語学の基本的な仮説は、現代では異なる言語であっても、それらは1つの共通の祖語(proto-language)に起源している、というものだ。つまり、遺伝的な関係をもっている。
現代ロマンス語(フランス語、イタリア語、スペイン語、カタルーニャ語、ポルトガル語、ルーマニア語など)の遺伝的関係に関しては、はっきりとした言語学的、非言語学的な証拠がある。これらはラテン語の直系の子孫であり、姉妹言語である。正確には、俗ラテン語(Vulgar Latin)の種類である。何世紀もの、地理的な隔離と孤立、社会的要因と政府の発展、他の言語との接触を経て、これらは進化して来た。
一般的に、遺伝的関係のある言語は、語族(language family)を成し、システマチックで繰り返し起こる形式的な一致を呈する。偶然や借用などの結果とは考えられない程、類似点と相違点が規則的なのである。言語の歴史を遡れば、このような対応はもっと規則的で確固たるものなる。現代フランス語と現代スペイン語よりも、古フランス語と古スペイン語の関係は強い。
 
最も有名で、最も研究されいる語族はインド・ヨーロッパ(IE)語族である。資料の歴史も長く、地理的に広範囲にわたる姉妹言語が散らばっている。インド・ヨーロッパ語族の言語は、インドから西ヨーロッパ大陸まで広く話されていて、今は世界中に輸出されている言語である。
それらは、ゲルマン語派、イタリック語派、バルト・スラブ語派、ケルト語派、インド・イラン語派など多くの語派(subfamily)に分けられる。そしてこれらに共通する先祖であるインド・ヨーロッパ祖語を再建が、19世紀の比較言語学の重要な業績であった。そして、このような遺伝的関係を表すために、樹形図(family tree)が多く使われる。
 
 ゲルマン祖語ーーー東ゲルマン語派ーーゴート語
          北ゲルマン語派ーーデンマーク語、アイスランド語...
          西ゲルマン語派ーーオランダ語、英語...
 
樹形図の価値の解釈は、学者ごとに異なる。樹形図は、ある種の関係性を一目で分かるようにするために便利なもので、「北ゲルマン語派」などのようなラベルは、その語派の中の言語それぞれの親近性よりも、その語派の言語の全ての言語との親近性を指し示しているように感じる、という学者もいる。樹形図はインド・ヨーロッパ祖語が姉妹言語に分岐した方法を直接的に示すモデルである、という学者もいる。このような立場では、「北ゲルマン語派」は本当にあった言語で、デンマーク語とアイスランド語とノルウェー語とスウェーデン語の共通の祖語であるという考えである。
 
Correspondences between languages
このような語族を形成するの比較再建は、関連する言語同士の一致に基づいている。このような一致は、発音や屈折など、音韻論や形態論の領域ではっきりと現れる。そして同系や同源語(cognate)と呼ばれるのものシステマティックな比較によって、分類される。同源語は、形式と意味が似通っていて共通の語源を持っている。生活に密着した語彙や、人間の経験の語彙は借用語によって置き換えられる事が少ないので、同源語は姉妹言語の基礎語彙に特に多い。
 
比較再建の簡単な例をあげよう。
フランス語の'champ'、イタリア語の'campo'、スペイン語とポルトガル語の'campo'はラテン語の'campus(野原)'に由来する。ラテン語の文書にこの単語が残っていなかったとしても、これらの姉妹言語の比較によって再建が可能である。下の表は'carus(高価な)'、'campus(野原)'、'casa(家)'の同源語の対応表である。

羅  仏  伊  西  葡
carus[k]  cher[ʃɛr]  caro[k]  caro[k] caro[k]
campus[k] champ[ʃã] campo[k] campo[k] campo[k]
casa[k]  chez[ʃe]  casa[k]  casa[k] casa[k]
 
この形式と意味の親近性が認められる4つの言語のから、祖形(proto-form)を再建してみる。
まず、これらの同源語から、体系的な発音の対応を確立する必要がある。例ではフランス語の語頭の[ʃ]がその他の3つの言語の[k]とが対応している。この場合、祖形には3つの可能性がある。まずはイタリア語とスペイン語とポルトガル語に残っている[k]の音である可能性。2つ目はフランス語の[ʃ]の音が祖形で、残りの言語で変化が生じた可能性。3つ目は、全ての言語で変化が生じ、祖形は[ʃ]でも[k]でもない可能性。これらの仮定証明するには、姉妹言語それぞれの発音の変化を知らなければならない。
祖形を決定する事に関して、一般的な方法論的な原則がある。
(i)全ての音声変化を含む再建は、音声学的にふさわしくなければならない。音声的な信頼性とは、どのように音声が形成されているかという一般的な音声学的考察と、その他の言語での音声変化の広範囲の資料によっている。例えば、[k]から[ʃ]への音声変化は、[ʃ]から[k]への変化よりも、頻繁で信頼性があり「自然である」と考えられる。フランス語の歴史上に登場する[tʃ]の段階を経ていれば、もっと自然と言える。この段階の発音は、古い時代に英語に入って来た'Charls'や'chief'などの古フランス語からの借用語にも見られる。この自然さを考慮すると、ロマンス祖語として、例に挙げた単語の語頭の子音を、*[k]と再建しよう。(アステリスクは表記の残っていない再建された祖形である事を示す。
(ii)2つ目は、信頼性は多少かけるが「多数の原理」である。どんな再建でも、祖語とその姉妹言語の間の変化は最小でなければならない。姉妹言語の広範囲に現れる形式は、祖語に近い。上の例では[k]が3言語、[ʃ]が1言語なので、*[k]が祖形である可能性が高い。一方もしも*[ʃ]が祖形であるならば、3つの言語で同じ変化が起こったと考えなければならない。
これらの根拠から、ロマンス祖語は'*caro'、'*campo'、'*casa'であると結論を出す事が出来るが、すべての比較再建が*[k]のよに簡単で単純な訳ではない。また再建されたロマンス祖語は、ラテン語ととても似ている。
ロマンス語派の再建は、多くの資料で再建を確かめる事ができ、方法と仮定を試す事が出来る。しかし一般的には、1つの姉妹言語の中に痕跡が残っている祖語しか再建出来ない。従って再建された祖形の質は、現存する証拠の質に基づいている。
 
また、再建されたそれぞれの発音は、もっとも一般的な音声システムに従う体系に沿っていなければならない。言語は均整のとれた音声システムを成し、この傾向を無視するには強制的な根拠があるはずである。
例えば、無声閉鎖音とそれに、対応する有声閉鎖音を持っている言語は、[p, t, k]と[p, g]を持っていながら[d]を持っていない言語が多い。このような差は自然言語にみられる。その他の例では、普通の母音を持たずに鼻母音のみを持つ言語は無く、鼻子音がなく鼻母音を持つ言語はかなり数が少ない。このような類型的な考察は、最終的な段階で全ての再建でチェックされなければならない。
 
比較再建について追加しなければいけないことがある。
まず、実際の言語は均一でなく様々なバリエーションがあるのに、祖語は、理想化された均質な言語であると間違って言われて来た。また、発音の変化は規則的で、全てに例外は無いと言われて来た。
後で詳しく述べるが、多くの祖語の形式を仮説すると言う比較再建の中心的な成果は長い間支持されているが、上記ような考えは近年になって批判されることになる。
 
Law of change
言語の関係と発展を再建するにあたって、法則と言える程規則的な変化の過程が見られる。
そのような変化の一例が、インド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派の発展である。ゲルマン語は特有の、一連の子音による発音の変化を呈する。これは発見したドイツ人言語学者の名前を冠し、グリムの法則(Grimm's Law)と呼ばれる。これは閉鎖を伴う子音[p, b, t, d, k, g]が異なる子音に変化する法則である。(「>」のマークは「変化前>変化後」を表す
 
 無声破裂音[p, t, k] > 無声摩擦音[f, θ, x]
 有声破裂音[b, d, g] > 無声破裂音[p, t, k]
 有声帯気破裂音[bʰ, dʰ, gʰ] > 有声無気破裂音[b, d, g]
 
これらはゲルマン語に見られるもので、ギリシャ語やサンスクリット語などその他のインド・ヨーロッパ語族は異なる祖語をもつ。
比較再建は関係している言語に基づいて行われるが、論理的に、ひとつの言語内での証明されていない初期の段階の再建にも用いることができる。それは、内的再建(internal reconstruction)の領域である。それは現在の1つの言語の中に残っている初期段階の痕跡による研究である。
 
Internal reconstruction
全ての言語は形態素の異なるバリエーションを持っている。例えば英語の複数を表す形態素は、'cats'の/-s/、'dogs'の/-z/、'houses'の/-iz/、この3つの変種がある。内的再建は、このような共時的な変種は発音の変化によるもので、ひとつの形態から派生したものである、という仮定から始まる。
簡単な例は、ドイツ語の語末の無声閉鎖音である。ドイツ語の名詞の屈折の一種において、「忠告」を意味する'Rat[ra:t]'、「ニス」の意味の'Lack[lak]'がある。これは無声閉鎖音が保持されいるが、一方で、「自転車」の意味の'Rad[ra:t]'、「日付」の意味の'Tag[ta:k]'、は有声閉鎖音が無声閉鎖音に置き換えられる。属格単数形の屈折語尾は'-es'で、それぞれ[ra:dəs]、[ta:gəs]と有声音が保持される。
変種の無い古い形の「自転車」と「日付」は、無声閉鎖音か、有声閉鎖音か、あるいはそのどちらでもないものだと考えられる。内的再建に適応される原則は比較再建と同じなので、経済性と自然さを満たしているべきで、かつその他の形式と矛盾しないことが必要である。
ドイツ語のその他の語彙を見てみると、有声閉鎖音で終わる単語が無い事が分かる。したがって、再建された古い形態は有声音、*[ra:d]と*[ta:g]であり、その後に起こった語末の有声閉鎖音の無声化(devoicing)によって、語中の有声閉鎖音は保持されつつ、語末の有声閉鎖音が無声閉鎖音に置き換えられたと考えられる。
 
これは内的再建の簡単な例であり、とても複雑で、何重にも音声変化が関わっていて結果が曖昧なものもある。このような場合、再建する時に、変化の相対的年代(relative chronology)を確立する必要がある。どれが一番古い変化なのか、というような問題である。
しかし、音声変化の名残が全く残っていなければ、再建ではその段階が抜けた、単純な説明しか出来ない。加えて、全ての形態素の変種が、ひとつの形態に還元出来る訳ではない。
内的再建は、孤立した言語等、比較再建のための十分な資料の無い場合に有効である。そのような言語では、文書の無い言語と同様に、証拠の無い過去の言語に関して学べる唯一の方法であるといえる。しかし、理想的には、比較再建等のその他の方法と一緒に用いられる事が望ましい。
 
この章では、歴史言語学において、どのように記録の無い言語と変化の過程を繋ぎ合わせるかを見て来た。このような方法は音韻論と形態論に関して有効で、統語上の再建はかなり議論を呼んでいる。また親類関係や動植物、素材の語彙以前の再建は、インド・ヨーロッパ語族の社会の構造と経済的な組織と起源に関する知識を深めてもくれる。
次は語彙レベルの変化を追う。
 
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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