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The date of historical linguistics
現在の、生きている言語の共時的な記述はさまざまなデータに基づいている。母語話者の内省や、母語話者達から引き出したデータや、コーパス等を用いた観察などである。異なる言語学の分野は、重要視するデータの種類も異なる。
歴史言語学のデータはかなり制限されている。明らかに、ほとんどの過去は、内省や質問などでは手に入らない。昔の文書の、限られたデータベース観察を通してのみ、手に入れる事が出来る。
幸いな事に、多くの言語が、言語の発展の証拠となる過去の記録が残っている。そしてそれは、言語の変化の一般的な性質の証拠にもなる。しかし、どうしてもデータの質と量は制限される。時代を遡ればさかのぼる程、データは少なくなり信頼性も減り、同時に、言語も遠く隔たったものとなる。
加えて、多くの場合、そのテキストの著者や目的、読者など、言語外の情報が欠如している。テキストの種類も限られている。20世紀以前の音声記録は全くない。過去の書き言葉の再構築は難しいが、過去の話し言葉の再構築はもっと難しい。
 
言語の再構築は決してまっすぐな事ではない。
手に入るデータの解釈、あるいは選択は、常に言語に関する一般的な仮定や、歴史言語学者が立てた特定の理論に基づいている。つまり、歴史を扱うものに良くある事だが、過去の説明は競い合っている。
 
言語の誕生に関して、現在ある推測は5万年前から10万年前までさまざまで、100万年以上前だという仮説もある。言語の始まりがいつであっても、文書で証明出来る言語の発展は明らかに、言語全体の歴史の中でほんの少しである。そして、5千〜6千あると言われている現在の人間言語のなかでも、少ない。
しかし、史前の言語記録の欠如は、一番古い言語データの比較によって補完する事が出来る。これは恐竜の卵や絶滅した生物の化石と同じぐらい夢をかき立てるもので、過去の証人として、史前の記録に無い言語の進化の知識を深めてくれる。言語の歴史の再構築は、比較再建の問題である。
 
The written evidence
文書は、歴史言語学において重要な資料である。そして、言語システムや話し言葉の証拠として、これらの資料をどう解釈するかはきわめて重大な問題である。
未知の言語のシステムの言語の場合、この解釈が克服しがたい困難となる。このような言語の解読は、二言語あるいは複数の言語で書かれ、どれかひとつでもすでに知られている言語で書かれているような、文書の存在に依存している。有名な例は、ナポレオンのエジプト侵攻の際に発見されたロゼッタ・ストーンであり、今は大英博物館ある。ロゼッタ・ストーンは、古代ギリシャ語と2種類の古代エジプト語の3つの言語が刻まれており、エジプトのヒエログリフの読解の鍵となった。
 
言語システムや音声言語の証拠としての文書の解釈は、例えその言語システムが高度なものであっても、問題が無い訳ではない。
アルファベットの英語とその他のヨーロッパの言語での使用を考えるとわかる。そのほかの書記システムでは記号が音節や語を示すのに対して、ラテン文字でもギリシャ文字でもキリル文字でも、アルファベットは母音と子音等の直接的に音声を示す。これらのアルファベットは長い伝統があり、表記の慣習は何世紀も引き継がれてきた。しかし、この「文字」と「音声」の関係を見定めるのは決して簡単ではない。
話し言葉と書き言葉は明らかに関係の深いシステムだが、この2つは別のもので、関係性は何回も変化している。アルファベットの記述は、最初は、言語の示差的な音声を表示するためにあり、示差的でない音声は無視する傾向にあった。例えば、ラテン語と古英語、古代フランス語における'r'の文字は、'l'や'm'とは異なる音声がある事を示す。しかし、実際その'r'の文字の表す音声が、どのようなものだという事はわからない。英語とスコットランド語、フランス語、ドイツ語で'r'の文字が異なる音声を示すのと同じである。
さらに、ラテン語を書くために整えられたラテン文字を、初めてその他の言語に使用した人は、ラテン語の綴りの伝統を引き継いだと、考えると良い。このような伝統は西ヨーロッパの俗ラテン語として知られている。
しかし、ラテン語の初期システムを、たくさんの新たな言語のシステムに合わせて改めなければならなかった。例えば、ラテン語は英語の'th'に相当する音を持っていなかったので、古英語では古代ルーン文字の'þ'用いるか、あるいはラテン文字の'd'を変形させた'ð'を用いてこの音を表した。
始めは、文字と音の直接の関係であっても、言語の音声の変化と、変化についてこない、あるいは、時間差で変化する保守的な綴りのおかげで、その関係は薄れてしまった。
 
さらに複雑にする要因は、文化接触によって、異なる地方や国の綴りの仕方を混同させた事である。
1066年のイギリスでのノルマン人の侵攻以降、英語の文書に多く、アングロ・ノルマン語の伝統が現れる。英語の簡単な歴史の例を挙げると、古英語の'house(家)'は'hus'と綴り、発音は長母音で/hu:s/と読んだ。これはラテン語の音と文字の1対1の対応に基づいている。中期英語では、アングロ・ノルマン語の'ou'を/u:/と読む伝統の影響を受けて、'hous(e)'と綴り、/hu:s/と読む。綴りは現代英語と同じ形式になったが、現代英語の初期に/u:/の二重母音化が起こり、今と同じ/haʊs/の発音なった。
英語の書記は始め、音声の次に発生して、音声に依存するものであったが、だんだん自律的になり、そして実際の発音と関係なくなってしまった。
 
Sources of evidence
歴史言語学の仮説は、データの解釈に左右される。
それは、データの量の問題だけでなく、質の問題もある。資料の質を評価するために、その資料の著者や、写本した人、目的、資料の場所など非言語的な情報と、原本と写本と引用などの文書の伝承に関する情報を出来るだけ見つけなければならない。これは文献学の領域である。歴史学や古代文字の研究をする古文書学の補助領域である。
著者本人によって書かれた資料は少なく、それらもさまざまな間違いを含んでいる。多くの間違いは、時代や地域の異なる筆記者により何回も写本されたことによる。ホメロスの「イリアス」と「オデッセイア」、サンスクリット語の最も古い聖典の「リグヴェーダ」のように、ある特定の他者によって口承のテキストなどから書き起こされ編集された文書もある。このような文書の歴史で、文書はさまざまな言語が混ざっており、写本した人が不注意や原本の言語に不慣れである事による間違いが多く含まれる。
言語学の分野の仮説を形成する資料として文書を用いる前に、方言や通時的なものでも、このような異なる言語の層のもつれをほどかなければいけないし、筆記者の間違いを特定しなければならない。加えて、多くの古文書はラテン語からやギリシャ語からの翻訳が多く、原本の言語の影響も計算に入れなければならない。
文書が、歴史言語学の主要な資料であるが、その他の資料も重要な証拠となる。例えば、陶器のかけらやお墓の埋蔵品や、アングロ・サクソン人の生活の歴史の知識に関するものなどである。これらは方言の分布の再建にも役立つ。
 
データとして特に面白いものは、当時の話し手による、言語の直接の記述や明白な批評である。
しかしこのようなメタ言語学的な証拠は、ほとんどの言語の初期の段階では数が少なく、サンスクリット語やギリシャ語やラテン語など優れた文法があるのに、それらはあまり信頼出来ない。ヨーロッパ言語でのこのような情報は近代に至るまで無い。
英語の発音や音素に関する詳細な記述のある文献は16世紀まで遡る。現在でも使われている専門用語のリストとラテン語などからの翻訳によって、中世ヨーロッパの単語の意味を探る事が出来る。
最後に重要な事だが、現代の方言と同族の言語は、歴史言語学の仮説を立て、証明するのにとても役に立つ。
 
次はどのように資料を用いて言語の歴史を再建するかの説明である。
 
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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