Change of meaning
今のところ、新たに作られた単語の形式を見て来たが、語と形態素の意味も、社会的な文脈の中で、さまざまに変化する。「全ての単語に歴史がある」と言われ、英語の『Oxford English dictionary』やフランス語の『Trésor de la langue française』はひとつひとつの単語の歴史も載っている。
しかしそれでも、変化の一般的な法則を知る事は出来ない。そのためには、多くの言語の、何十万もの単語とそれ以上の意味を調べなければならない。それに、科学としての言語学の研究から、長い間意味論が無視されて来た事も関係している。現存する意味論上の分類は、記述的なもので、重なり合う部分がある。
基本的な分類は、意味の拡大(extension)と縮小(narrowing)である。
拡大は、単語の意味が一般化する事である。例えば英語の'bird'は「若い鳥」だけを示す単語であったが、一般的な「鳥」を示すようになった。これはよく意味素性[+ young]が失われたと説明される。しかし、拡大には新しい言語としての発展が含まれる。
最新の拡大のメカニズムの説明は隠喩/メタファー(mataphor)である。メタファーはイメージの親近性による意味の拡大の事だ。例えば身体の一部である'neck'は、'bottle neck'など、似ているものを表すのに用いられる。身体の一部を表す単語は多くのメタファーが見られる。
換喩/メトニミー(metonymy)は異なる拡大のシステムで、物理的な隣接性により表現する。多く、全体を表すのに一部分の名前で表現する。例えば'White House'は建物だけでなく、アメリカの政府を指す。'crown'が王や女王を指す。あるいはコニャック地方のブランデーである'cognac'など、場所が物を指す。
縮小の例は英語の'fowl'である。今「家禽」を示すこの単語はもともと、古英語の'fougol'とドイツ語の'Vogel'と同じく、一般的な「鳥」を示す物であった。また'meat'は、'mincemeat'に残っているように、「肉」だけでなく「食べ物」一般をさす単語だった。多義語(poluseme)が、特定の意味を失うこともある。
意味の変化には、意味の漂白とも言われる、文法化(grammaticalization)がある。英語の'will'は動詞「意図する」の意味であったが、助動詞に変化し、いまは文法的意味に用いられている。
意味の変化は、話し手の肯定否定などの価値観により分類され、このような評価が変化を強制する事もある。典型的には、単語が異なる使用法や文脈で用いられ、連想(association)や内包(connotation)が時間をかけて、統語的な意味や言外の意味(denotation)を示すようになる事による。
英語では人の立場や職業を示す単語に見られる。意味の改良(amelioration)と見なされる例は、もともと「男子、若者、付添人」を意味する'knight'が中期英語の時代を反映して「騎士」に変化していることだ。ちなみにドイツ語では'Kneckt'は「農場労働者」を示す、逆の発展をしている。意味の悪化(pejoration)の例は'knave'である。もともと「少年」を示していたこの単語は、庶民一般の人々であったが、今は「悪党」を示す。
これらは言語外の社会的な変化が関係している。また、'mistress'が「愛人」を示すなど、多くの女性に関する単語の意味が悪化している事も、社会的な女性の地位の低さを示している。
意味の拡大が、元来の意味を曇らせてしまう事もある。英単語の'silly'は「ばかな」を言う意味だが、もともと古英語'(ge)sælig'は「幸せな」を意味する単語であった。ドイツ語の同源語'selig'ではまだその意味が残っている。日本語の「おめでたい」に似ている。
'silly'は15世紀下旬までは良い意味で使われていた。その途中の変化は次のようである。13世紀下旬から18世紀「純真な」→14世紀から19世紀「哀れな」→13世紀から19世紀「弱い、弱々しい」→16世紀から18世紀「知らない」→16世紀から「低能な」→16世紀下旬から「馬鹿な」。古い意味はすぐに新しい意味に置き換わる訳ではなく、共存も多く見られる。その他の言語でも同様の現象は観察出来る。
Why do meaning change?
上で述べた事は、メタファーやメトニミーなどの記述的なもので、改良や悪化などの社会的な変化の次元についても少し述べた。もう少し、意味の変化について言語学と非言語学の両面から見てゆく。
言語が変化する1つの要因は、新たなコミュニケーション上の需要に合わせた必要性である。外来語と造語から離れても、話者は良く、メタファー的な拡大とメトニミー的な拡大した意味を持つ単語を使用している。
例えば、'torpedo(魚雷)'はもともと電流を放つ魚の一種であった。結果的に軍事的な意味の方が重要になってしまった。基本的な機能が残っていても、存在する物の形が変化した時、古い単語が修正されるだろう。英語の'torch(たいまつ)'はまだ古い意味も残っているが、今は「懐中電灯」の意味もある。ドイツ語では「たいまつ」は'Fackel'であるし、「懐中電灯」は'Taschenlampe'と言う。
もう1つの言語が変化する要因は、誇張によるものだ。ずっと同じ言葉を使っていると特定の意味が弱くなってくる。それで、新しいもっと良い表現が求められる。
英語の例は「とても」を意味する副詞の強化である。古英語の'swiþe'から古英語の'full'、現代英語では、古フランス語起源の'very'、'really', 'extremely', 'awfully'などがある。
心理的な作用で重要な物が、禁句、タブーである。人は、死や老い、病気、性など社会的に嫌悪される概念を、直接表現することを防ごうとする。禁忌とされる事に関して触れるとき、婉曲表現を用いる。
例えば、「去る」や「寝る」などの中性的な単語を用いる。長い事同じ単語が用いられると、婉曲表現の意味がはっきりとしてくるので、新たな婉曲表現が用いられる。禁忌とされる事柄も変化する。近代の西洋文化では老いが禁忌とされ、一方で性に関しては直接的な表現を避けなくなった。ある社会では、故人の名前やその名前に似た単語を二度と使わないという社会もある。このような社会では、常に素早く基礎語彙さえもが入れ替わってしまう。
このような非言語学的な要因から離れると、意味の変化の背後にある言語の力が現れるが、証明するのは難しい物である。
上に述べた例から言える事がある。言語の語彙は単なる関係のある単語のリストでは無く、意味的に関係のある語彙のグループとして構成されている。いわゆる、意味論領域というグループである。単語間での意味の関係は意味変化に置いて重要な役割を果たしているようである。
'bird'と'fowl'の例がそうだ。この2つの意味変化は、'bird'が一般化し、'fowl'が個別化することによって、上位語と下位語の関係を表している。動きを表す動詞や、発言に関する動詞など、少なくとも一部の語彙はこのように構造的に構築されている。意味領域に属するある単語の意味が変化すれば、その他のメンバーの意味も変わる。新たな語が入って来たり、語が衰退しても、同じように変化が生じる。
同意の固有語のある借用語が流入して来た時、このような変化が見られる。どちらかの単語が消えるか、意味が変化するかである。古英語の'cynnesman'が古フランス語の'merchant'に取って代わられたようなことだ。古英語の'heofon'は「天国」と「空」両方を示す単語であったが、スカンディナビア語の「雲」を表す'sky'を借用して来た結果、今は'heaven'として片方だけを示す。これは、経済性のために同義語を避ける言語の性質によるものだと考えられる。関連して、多義語の意味の範囲を縮小する傾向もある。
そして、似た意味を持つ単語や反対の意味を持つ単語が同音異義語になったとき、「同音異義語の衝突」と呼ばれるようなコミュニケーション上の問題が生じる。例えば古英語の'læten(〜させる)'と'lettan(妨げる)'はまったく逆の意味を持つが、'let'という単語として同音異義語となった。この衝突によって、'without let or hindrance(何ら障害もなく)'という表現を除けば、だんだん「妨げる」という意味が無くなってきた。しかし一般的に言えば、同音異義語は、文脈の中で十分に区別出来るので、存在し続ける事がある。
意味変化を起こすいくつかの要因について述べて来たが、一般的な法則を述べるにはまだ遠い。最近の提案は6章に述べる。
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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