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この章の最後に、3つの考察を付け加えておく。
1、共時的事象と通時的事象の相違点と類似点から考えられる、排他と同一視の誤りについて。
この2つはの複雑な関係については、まで述べてきた通りである。互いに互いを否定し合うと考えることも、この2種類の事実を混同することも、間違いである。
一見、共時的な法則は、通時的な法則から見ると不合理なものに思われることがある。両者の関係はとても複雑で、今までの歴史言語学者は、その区別を避けて、通時的なものにだけ目を向けるようになった。
例えば、フランス語の分詞は、形容詞のように、修飾する名詞との性と数の一致が起こる。しかし、特定の語と連続すると変わらないのである。それは起源となるラテン語の態の相違に関係する。(これに関する記述に対しては、他の著作でも議論があるようなので非常に曖昧な書き方にしておく。)
一方、共時的な事実と通時的な事実はとてもよく似通っているため、両者を区別する必要がないということもある。
例えば、ラテン語の「作る」'facio'と「調製する」'conficio'について。主音でない短母音のaは、iに変化すると言える。重要なのは、'facio'の'a'が'i'に変化するのではない、ということだ。従って、以下の4項が必要になる。
 facio ⇔ confacio
  ↓     ↓
 facio ⇔ conficio
結局、同じことを言っているのだと言えるだろう。これが共時的事実と通時的事実の対応である。
 
2、通時的事象と共時的事象の関係。
共時的事象の、通時的事象に対する依存と独立を考えるとき、実物の物体としての通時的事象の、平面に投影されるものとしての共時的事象という考え方が便利である。
ものと影が別々のものでなければ、数学や光学の部門は存在しないだろうし、実際に両者は独立している。
投影としての共時的事象は、通時的事象とは別のものであるし、通時的事象の横にそれ自体として存在している。
物体を調べても、投影の概念が持てないのと同様に、通時的事象を研究しても、共時的事象について知ることは出来ない。
あるいは、植物の茎に似ている。
植物の茎を水平に切った断面図は、垂直に切ったときに見える垂直の繊維の束の、別の見方でしかない。互いに直交した関係図が描ける。
水平な断面の様相は、垂直な断面の繊維により決定されるが、互いに独立している。隣り合うものとの、束と言う関係を築いているのは、水平な断面図だけである。
人は常に、共時的な事象の中で話をする。主観は共時的なものしか認識出来ない。通時的事象を考えるのは言語学者だけである。
 
3、通時的な言語学と共時的な言語学について。
光学的な考えをするのならば、物体としての通時的事象についての研究は正当である。それはより細かい視点を区分することが出来る。
静的な共時的事象は、主体にも学者にも興味深いものである。
静的な視点は、語る集団に関するものと文法に関するものの2つに分かれる。語る集団に関する視点は現実であり、影でも幻でもない。
言語学者が言語の状態(現実)を扱うのならば、この語る集団のとらなければならない。通時的な視点は、学者だけが気にする(語る集団にとって現実ではない)視点なので、それは排除するべきである。
 
以上が、静的な言語学と動的な言語学の分岐点であった。
以降は静的な言語学、静態言語学へと研究を進める。
 
フェルディナン・ド・ソシュール著 影浦峡、田中久美子訳
『ソシュール 一般言語学講義 コンスタンタンのノート』 東京大学出版会 2007

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