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複数の例を見て、通時的現象と共時的現象の考察を深める。
まずは、古代高地ドイツ語と先史アングロ=サクソン語の複数形の発音の変化である。
古代高地ドイツ語
 gast(客)/gasti(複数形) hant(手)/hanti(複数形)
      ↓             ↓
      gesti           henti
      ↓             ↓
      geste           hente
      ↓             ↓
     (gäste)←現代ドイツ語  (hände)←現代ドイツ語
 
先史アングロ=サクソン語
 fôt(足)/fôti(複数形) tôd(歯)/tôdi(複数形)
      ↓           ↓
      fêfi          têdi
      ↓           ↓
      fêt          têd
 
それぞれ複数形にはiが付け加えられているが、iはそれぞれ先行する母音に対して置換作用がある。古代高地ドイツ語ではaがeに、先史アングロ=サクソン語ではôがêに対置された。
次は語末のiの弱化が生じ、古代高地ドイツ語ではeに書き換えられ、先史アングロ=サクソン語では欠落している。
 
この時、単数形と複数形の関係は、水平な関係である。一方、語形の変化は、垂直の軸によって表すことが出来る。
このような二重性に関して、以下のような考察が出来る。
1、通時的な現象と、それがある単語の複数形である、ということは関係がない。gasti→gäste(客たち)は、tragit→trägt(運ぶ)の変化と全く変わらない。
2、共時的な状態としてのシステムが、時代の数だけ存在していることは確かである。では、システムが丸ごと入れ替わっているのだろうか。
そうではない。刷新はシステムの要素だけに生じるので、fôt/fôtiもfôt/fêtも単数/複数の関係性(システム)は変わらないし、その関係性を保持する為に、項の対立関係は常に存在していなければならない。
3、状態(仏 êtat)は偶然である。伝統文法ではこの哲学が無かった。概念のあり方をそのまま言語で写し取っているということは無い。言語の状態は常に偶然の生起によるものである。
4、共時的事象にシステムがあるように、通時的事象も同じ秩序にしたがっているのだろうか。システムの中に、変化と関係のある事象があるのだろうか。
上の3つの点から考えても、共時的な事象には共時的な科学、通時的な事象には通時的な科学によって扱われるべきである。この2つの領域の秩序は、関係性が無いと言える。
 
その他の例。
チェコ語の名詞には、属格複数形と呼ばれる語形が存在する。しかしハンガリー語には属格複数形の記号が無い。
概念が全て、聴覚イメージとなって現れる訳ではない。言語の状態は偶然であると言う3つめの考察を復唱する。
 
また別の例。
ラテン語からフランス語への過程におけるアクセントの変化について。点がついている音節にアクセント。
 羅 ángelus(天使) metiérium(役目)
 仏 ánge(天使)  metiér(仕事)
ラテン語のアクセントは語の後ろから2番目が短音であると、後ろから番目に強勢がおかれ、後ろから2番目が長音だと、うしろから番目に強勢がおかれる。
フランス語では、語末に無声のeが無い限り、最後の音節に強勢がおかれるという法則がある。
つまり、上の単語は、アクセント位置に合わせるように、語末が切り取られた形になっているということである。本当にそう言えるのだろうか。なぜこのように形が変化したのだろうか。
これはただ、残った音節の問題である。通時的な変化である。
アクセントをシステムとして捉えるのならばなおさら、その結果は偶然でしかない。状態は、その状態を作ろうとする意図とは無関係である。
 
参考文献
フェルディナン・ド・ソシュール著 影浦峡、田中久美子訳
『ソシュール 一般言語学講義 コンスタンタンのノート』 東京大学出版会 2007

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