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 第4章 文字表記による言語の表現
 
書き言葉話し言葉文字の関係はしばしば混同され、両者が言語を構成しているように考えられる。ドイツの印欧比較言語学者、ボップの文法書にも、音と文字の明確な区別は見られない。
しかし、言語と文字表記は異なるシステムであり、文字表記は言語を表現する為のイメージでしかない。
実際には、話された言語よりも、書かれた言語の影響の方が強い。それには以下のような理由が考えられる。
1)文字表記によるイメージが、半永久のもののように固定されしまう。
2)大多数の人にとって、視覚のイメージの方が、聴覚イメージよりも強力である。
3)書き言葉、教育言語、文語によって、音声の言語から独立したシステムが成立する。正書法(仏orthographe)や辞書によって、本による言語が確立する。
4)言語と表記方法に差が生じたとき、言語学者は、表記の形を優先して考える。
 
表記システムには2つの種類が存在する。
1)表意文字システム
言語の音と関係なく、概念を表す文字である。しかし、実際に使用される表意文字のほとんどが、音を表す部分を含んでいる。
漢字の普及を見れば、特に、表意文字は、人間の認識に対しての影響が強いと言える。
2)表音文字システム
一連の音を文字で再現しようとするもので、合理的で言語を書き表すのに適している。。
単位はさまざまで、音節によるものや、音素によるものもある。
例えば、古いギリシャ語は、一つの音に一つの書記記号が割り当てられ、"sh"や"ph"のような無駄な表記システムはなかった。もちろん、一つの音に対して、"k"もしくは"q"のような重複も存在しなかった。
 
では、なぜ、この厳密な音韻表記が保たれずに歪んでしまうにか。
1)借用したアルファベット体系に含まれていない音がある。
ゲルマン民族はラテン・アルファベットを借用したが、その中に含まれない音を、二重字'th'として表記した。フランス語の'ch'、英語の'ee'と'ea'もそうである。
2)間違った語源学に基づく指摘がある。
フランス語の'poids(重さ)'はラテン語'pondus(重さ)'が語源だと考えられた為、'd'が付加されたが、実際はラテン語'pensum(義務)'から来ている。
3)特に原則のない個別的なずれ。
ドイツ語'thum'の'h'は有気音であるとされているが、その他の有気音を含む子音の後にも付かなければならないが、実際はそうではない。
4)最も重要で普遍的な原因は、時間に伴う言語の変化に、文字表記が着いていけなかったことである。
止めどなく変化する言語と、固定され不変性をもった文字とが独立した存在である事を如実に表していると言える。
フランス語の例  発音   文字表記
  11世紀 /rei/  /lei/   'rei'  'lei'
  13世紀 /roï/  /leï/   'roi'  'loi'
       /roè/  /loè/   'roi'  'loi'
       /roa/  /loa/   'roi'  'loi'
  19世紀 /rwa/  /lwa/  'roi'  'loi'
 
以上のような原因で生じる言語と文字表記の、膨大な非論理性の種類の代表を紹介する。
フランス語の/s/は、's, c, ç,t, ss, x, ce'、/k/は'c, u, k, ch, cc, cqu'などで書き表せる。
逆に、一つの書記記号が複数の音に対応することもある。'c'の綴りは/s/と/k/両方の音を表す事が出来る。
そして、間接記法。
英語の語末の'e'は、その前の母音が長母音化する事を示している。
 
このようなずれは、文字が、言語の性質を隠してしまう事がある。
現在、フランス語の二重子音は単純未来にしか出てこないのに、綴り字では二重子音が頻繁に現れるので、分かりにくい。
加えて/h/の気音は音素にないのに、'h'綴りで始まる単語が多い。
 
文字表記が言語とずれて居る程、文字の力は強くなる。
「発音」「発音が変化する」という表現がそもそも、文字イメージを基本に据え、書記記号が基本であるかのような言葉である。
「フランス語では'oi'は/wɑ/と発音する」とは言ってはいけない。/wɑ/は'oi'と書かれる。
まるで書記記号が全てに先立つようないい方はしてはいけない。
 
参考文献
フェルディナン・ド・ソシュール著 影浦峡、田中久美子訳
『ソシュール 一般言語学講義 コンスタンタンのノート』 東京大学出版会 2007

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