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今まで紹介してきた子音は、肺臓気流を用いた発声である。
つまり、肺からの呼気を何らかの形で阻害し、
空気の波を変容させてつくる音である。
今回から、非肺臓気流音機構の発声を紹介する。
IPAの「肺臓気流以外」の表にあるのは、吸着音、入破音、放出音の3つである。

今回紹介する放出音(ejective)は、
口の中の気圧を高めて、空気の放出と共に発声する。
破裂音のように口内に閉鎖をつくり、更に声門を閉じて、
喉頭全体を持ち上げて、閉鎖から声門までの気圧を高める。
閉鎖を一気に開放して、強い呼気とともに破裂と摩擦の発声がなされる。
口蓋帆はあがったままなので、鼻腔には空気は流れない。
声帯をとじているためこの調音に有声音は無い。

格IPAに[ ' ]を加えて放出音を表す。
[ p' ] 両唇放出破裂音(bilabial ejective plosive)
[ t' ] 歯茎放出破裂音(alveolar ejective plosive)
[ k' ] 軟口蓋放出破裂音(velar ejective plosive)
[ s' ] 歯茎放出摩擦音(alveolar ejective fricative)


ネイティブ・アメリカンや、アフリカの民族の言葉に多く用いられている。
世界的には珍しくない発音だが、
インド・ヨーロッパ系言語などで用いられないためか、
日本人にはあまり馴染みの無い発音である。
ちなみに、韓国語の濃音(日本語で「ッター」「ッパー」などに例えられる強い子音)も同じ記号を用いて表すが、これは代用であって、濃音の発音は放出音とは異なる。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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非肺臓気流機構の二つ目は、入破音(implosive)である。
放出音とは逆に、
口の中の気圧を低めて、空気が流れ込むと同時に発声する。
破裂音のように口内に閉鎖をつくり、更に声門を閉じて、
喉頭全体を下げて、閉鎖から声門までの気圧を低める。
閉鎖を一気に開放して、空気が流れ込むのとともに破裂の発声がなされる。
口蓋帆はあがったままなので、鼻腔には空気は流れない。
声帯を少しだけ空け、有声化した調音が多い。

IPAは肺気流音の記号の右上にカギがついたものを使う。
[ ɓ ] 有声両唇入破音(voiced bilabial implosive)
[ ɗ ] 有声歯茎入破音(voiced alveolar implosive)
ʄ ] 有声硬口蓋入破音(voiced palatal implosive)
[ ɠ ] 有声軟口蓋入破音(voiced velar implosive)
[ ʛ ] 有声口蓋垂入破音(voiced uvular imploisive)
有声硬口蓋入破音記号に関しては、あやふやなところもあり、
テキスト形式では鉤付きエフ" ƒ "の横棒が2本になっているが、
IPA表では鉤付きエフになっている。
中国語やベトナム語の方言などに見られることもあるが、異音としての存在である。
ナイジェリアの言葉にも見られる。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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最後の非肺臓気流機構は、吸着音(click)である。
吸着音は、放出音や入破音のように喉頭を用いた気圧の調整ではなく、
舌によって口内に作った閉鎖の気圧を低めて、
舌打ちのような発声をする。

両唇や、舌端と歯茎などでひとつめの閉鎖をつくり、
軟口蓋と後舌でふたつめの閉鎖を作る。
後舌を咽頭の方へずらし、閉鎖の中の気圧を低める。
閉鎖を一気に開放し、空気が流れ込むのと同時に、発声する。
舌を鳴らすような「タン」「トン」という音にもなる。

ʘ ] 両唇吸着音(bilabial click)
[ | ] 歯吸着音(dental click)
[ ! ] (後部)歯茎吸着音(alveolar/postalveolar click)
ǂ ] 硬口蓋(歯茎)吸着音(palatal/palato-alveolar click)
[ ǁ ] 歯茎側面吸着音(lateral click)

だんだんネタ切れ感の否めない記号になってきたが、
これら吸着音は言語音としては、
主に、アフリカやオーストラリアの現地の言語のみで見られる。
後ろの閉鎖を作る軟口蓋と後舌でも音声の調節が可能なので、
[ k ][ g ][ ŋ ]などの記号を、吸着音の記号の前に書くこともある。
特に特徴が無い場合は[ k ]を書く。

よく、両唇吸着音をキスの音、歯茎吸着音を舌打ちの「チェッ」などと例えらているが、
伝わらないと思うので、youtubeで"clicks language"と検索してみると良いと思う。
大学の講義で見たビデオでは、
お皿か何かを叩いている様な、乾いた音がしているように聞こえた。
Xhosa clicks(youtube)
文字も出ます。後半は歌です。
関連動画はたくさんあるみたいです。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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今回は、欄外、もしくは補助記号の欄にある、
二重調音の子音を紹介する。
2つの調音位置で同時に発声する方法であり、
破裂と破裂(鼻音と鼻音)、摩擦と摩擦、接近と接近など、
普通、同じ調音方法の二つを組み合わせる。
2つの間に強弱の差は無い。
異なる調音方法を組み合わせるのは、生理的に不可能だと考えられる。

破裂と破裂(鼻音と鼻音)
口内に2つの完全な閉鎖をつくり、それを開放する。
記号は、2つの記号を並べたり、紛らわしい時は図の様に曲線でつなぐ。
普通のパソコンでは対応して無い書式なのです。
225f7da2.jpeg


[ kp ] 無声両唇軟口蓋破裂音(voiceless labio-velar plosive)
[ gb ] 有声両唇軟口蓋破裂音(voiced labio-velar plosive)
[ ŋm ] 有声両唇軟口蓋鼻音(voiced labio-velar nasal)
アフリカの言語で見られる。あまり一般的ではない。

摩擦と摩擦
[ ʍ ] 無声両唇軟口蓋摩擦音(voiceless labio-velar fricative)
無声両唇摩擦音[ ɸ ]と無声軟口蓋摩擦音[ x ]の同時調音。
英語の"wh"の発音に見られることがある。
スコットランド方言では"w"と"wh"の発音が異なる。
ɧ ] 無声後部歯茎軟口蓋摩擦音(voiceless palatal-velar fricative)
無声後部歯茎摩擦音[ ʃ ]と無声軟口蓋摩擦音[ x ]の同時調音。
スウェーデン語などで見られる。

接近と接近
ɥ ] 有声両唇硬口蓋接近音(voiced labial-paltal approximant)
両唇接近音は存在しないが、
硬口蓋接近音[ j ]を、唇を丸めて前に突き出すように発音する。
中国語やフランス語にみられる。
w ] 有声両唇軟口蓋接近音(voiced labio-velar approximant)
両唇接近音は存在しないが、
軟口蓋接近音[ ɰ ]を、唇を丸めて前に突き出すように発音する。
英語、フランス語など多くの言語に見られる発音である。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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今回からは、補助記号の解説をしてゆく。
母音にも利用可能な記号も多いので、
あえて子音母音の区別はなくして書く。

二次的調音とは、二重調音とは異なり、
2つの調音位置で同時に発声する方法ではあるが、
その二つに程度の差が現れる発声を言う。
重要な調音位置と、付随的な調音位置の2種類がある時である。
一般的には、主要な調音方法の字母の左側に、
補助記号として、二次的調音位置を記す。
[dʷ]
[kʲ]

ʷ ] 唇音化(labialisation)
第一次調音に加えて、唇を丸めすぼめる。
日本古語の「くゎ」「ぐゎ」の発音。
母音に関しては、円唇、非円唇の区別は字母に含まれている。

ʲ ] 硬口蓋化(palatalization)
第一次調音に加えて、前舌が硬口蓋に接近する。
硬口蓋音はそれ自体が主要な調音なので、硬口蓋化とは言わない。
日本語ではほとんどのイ段の音に見られる。
「シ」の発音は硬口蓋化しなければ「スィ」である。
他の言語でも、[ i ]の前の子音に多く見られる。

ˠ ] 軟口蓋化(velarization)
第一次調音に加えて、口舌が軟口蓋に接近する。
軟口蓋音はそれ自体が主要な調音なので、軟口蓋化とは言わない。
アラビア語や、"dark l"と呼ばれるような母音直後の[ l ]音に見られる。

ˤ ] 咽頭化(pharyngealization)
第一次調音に加えて、舌根が咽頭壁に接近する。
咽頭音はそれ自体が主要な調音なので、咽頭化とは言わない。
アラビア語で見られる。
軟口蓋化と咽頭化は知覚的に良く似ているため、両方を特に区別せずに、
字母に[ ~ ](軟口蓋化あるいは咽頭化)を付け、[ ɫ ]などと表すこともある。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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