Phonemic change
前の音声の変化は確かに面白いが、それは特定の単語の歴史であって、体系的な変化については何も分からない。ある特定の言語の抽象的な変化はわからない。
言語は音素の数も違うし、また、体系の中への組み込まれ方も異なる。どちらの次元も変化しなければならないだろう。
古典ラテン語の体系では5つの長母音と5つの短母音からなっているが、その子孫とされる現代イタリア語は、7個の母音でなっており、長短の区別は無い。しかし、古典ラテン語も現代イタリア語も、鼻母音などの無い、純粋な母音だけで構成されている。
フランス語は、鼻母音と言う新たなタイプを発展させ、純粋と鼻音化の対立を取り入れた事によって、多いに母音体系が変化してしまった。
子音に関して言えば、英語は閉鎖音よりも、摩擦音を多く持っている。しかし、インド・ヨーロッパ祖語は摩擦音が少なく、帯気音を含み多くの閉鎖音をもっている。
それでは、重要な2つの音素体系の変化について述べよう。音素合流(phonemic merger)と音素分裂(phonemic split)である。
2つの音素が完全に合流することは、中期英語のeの長母音にみられる。meatの半広母音の/ɛ:/と、meetの半狭母音の/e:/は、聴覚的にも調音的に似て来て、区別が無くなって来た。結果的に現代英語では/i:/に合流した。bootの/o:/とboatの/ɔ:/は合流せずにそれぞれ、/u:/と/o:/に分かれた。この事で、音素の幅が広がった。boatの母音は[o:]>[oʊ]>[əʊ]と変化してゆく。
一方、音素分裂は、異なる環境で起こる異音と結びついている。
例えば、英語の不規則な複数形があげられる。古英語以前の英語の主格複数形は、単数形に*/-iz/の接辞が着くと考えられている。foot-feetは*/fo:t-/-/fo:tiz/と再建される。硬口蓋音/i/に先行する語幹の母音が、硬口蓋音化によって、円唇前舌音*/fø:tiz/となり、その母音が変わらずに残っている。[ø:]の再建の意味するところは、かつてそれは/o:/の異音であったということだ。例え、実際の発音が*/fø:tiz/であっても、音素の表記は*/fo:tiz/であっただろう。長い時間をかけて強勢の無い接辞*/-iz/が消え去ってったら、[o:]と[ø:]の違いは予測不可能となる。さらに、古英語でのfōt-fētの対立は、今は、異なる母音の対立として残っている。音素/o:/は、/o:/と/ø:/に分裂したが、最後に、音声の変化が生じたのである。
以上の例では、音声変化は音素変化に帰着するだろう。もちろんこれは絶対ではない。一方、音素変化は直接の音韻変化を伴わずに起こるだろう。新しく出来た音素が、既にある音素と合流するなどのように、音素合流と音素分裂は様々な方法で影響し合っている。
音素は構造組織を成しているため、ひとつひとつの音素の変化が全体に影響する。チェーン・シフト(chane shift)と呼ばれるような一続きの変化を生じるものもある。例えば、グリムの法則と呼ばれる一連のインド・ヨーロッパ語で起こった変化である。これは2章で詳しく述べている。
その他のチェーン・シフトの例は、英語の大母音推移(Great Vowel Shift)である。中期英語の長母音のすべてが狭母音化したのとともに、狭母音は二重母音化した。/a:/>/ɛ:/>/e:/>/i:/>/ai/と/ɔ:/>/o:/>/u:/>/au/である。
今のところ、音素変化を音素の区分の変化としてみて来た。しかし、例えば、「有声」「閉鎖音」「両唇音」「後舌音」のように、音素を音韻論的な特徴の束としてもみて来た。特別な特徴や規則の変化としての記述は、効率的なだけでなく、全ての音素に関係するような一般的な変化の法則を見つけやすくなる。
例えば、グリムの法則は、具体的な音素の変化を効率よく記述すれば、[- continuant(継続音)]>[+ continuant(継続音)]と書ける。例えば、閉鎖音が摩擦音になっている事である。
以上のような記述は、音韻路上の変化は、個々の単語や形態に影響を与えるだけでなく、特定の形態素の共時的な交替をも引き起こす。例えば、異形態である。
共時的な観点では、このような形態音素交替(morphophonemic alternation)は現代英語の形態論の一部である。しかし歴史的な観点では、このような交替は音韻論的な変化の結果である。実際、これは音韻論と形態論の相互関係を示している。
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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