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3章では1つの単語について、形式と意味の変化を追った。しかし会話の中の単語は、文法的にさまざまな語とつながっている。屈折や会話の中の単語の関係性は、コミュニケーション上の重要な情報をつくりだす。このような文法的な要素も、さまざまな方法で変化してゆく。
 
Morphorogical change
3章で述べた単語の変化とは、異なる変化の方法がある。文の中のその他の単語との文法的な関係を築く物だ。例えば英語の'tesches'は自由形態素の'teach'と、三人称単数現在を表す文法的な拘束形態素'-es'に分かれる。以下ではそのような屈折を扱う。
 
言語は異なる形態論的な構造を持ち、それらは、類型論上の分類に基づいている。類型論(typology)には孤立語(isolating)膠着語(agglutinaing)屈折語(inflecting)の分類が広く受け入れられている。
孤立語は中国語のように、単語が1つの形態素を成す。膠着語はトルコ語のように、ひとつの単語が1つ以上の形態素を含む。それでも形態素はひとつずつきちんと区別する事が出来る。ラテン語やギリシャ語のような屈折語は形態素間の境界が曖昧である。多くの意味が1つの形に含まれる。英語を含め多くの言語がこの分類にきっちり当てはまる訳ではない。しかしこの分類は歴史言語学の枠組みとして使用され続けている。
 
議論を呼んでいるが、言語は形態論的な分類をぐるぐると回って変化するという主張がある。孤立語は膠着語になり、だんだん屈折的になり最終的に孤立語に戻ってくる、というものである。孤立語から膠着語という流れは、ピジンがクレオール語になる時に観察する事が出来る。強勢の無い語彙と文法的な語彙が、音韻論的な変化の結果、接辞となる。
英語の形態素の構造も、屈折するゲルマン祖語の時代からかなり変化している。再建されたゲルマン祖語では与格の単数*'dag.u.miz(to the days)'は3つの形態素からなる。語根の*'dag-'と主題と呼ばれる'-u-'と格を示す'-miz'である。しかし、古英語では主題と格が合体して'dag.um'という形になった。古英語は現代ドイツ語と同く、ラテン語とあまり変わらない、主格、対格、属格、与格の4つの屈折する格を持っていた。しかしこの仕組みは初期の中期英語でほとんど崩れてしまう。強勢の無い母音がだんだん弱くなり、最終的に語末の音節が失われた。
中期英語での格を表示する語末が消えたように、古英語の様々な屈折の機能が、だんだん、屈折しない名詞を含む前置詞句に入れ替わって来た。現代英語では、名詞だけでなく動詞、形容詞、代名詞の屈折も失われてしまった。英語は、屈折を多用する総合的(synthetic)言語から、形式的な屈折よりも文法的単語や語順を多用する分析的(analytic)言語に変わった。同じような変化は、かなり屈折的な言語であるラテン語やロマンス語の姉妹言語、フランス語やイタリア語などにも見られる。
 
このような変化は語末の音節の発音の変化によるものだが、形態素の変化をもっと一般化してみると類推(analogy)と呼ばれる音韻変化の相互作用が見られる。類推は、ひとつの語の形が、形や意味の類似関係からその他の語に影響を与える事である。
例えば、屈折的は形態素は、特定の関係や語形変化のグループなど、形態素同士の関係がある。そして、不規則さを無くそうとする傾向がある。詳しくは、比例的類推(proportional analogy)類推的水平化(analogical levelling)にわけて説明する。
比例的類推は均等化の応用の結果である。これは、中期英語の複数形の類推による'-(e)s'への変化の基盤であると考えられる。'bull'の複数形が'bulls'。では'cow'の複数形はなんであろうか、という類推により、'kine, eyen, word'が'cows, eyes, words'になった。
類推的水平化は、動詞の不規則変化にある。古英語には形式的にも意味的にも関係が深い4種類の形がある。freosan-freas-fruron-frorenは、現代英語で言えばfreeze-froze-frozenである。古英語'freosan'の語幹末の's'が、最後の2つの'fruron'と'froren'の影響で'r'に変わった。2種類の語幹の1つが、類推により他方の形式と同化し、語幹が統一された。古高地ドイツ語の同源語でも同様の変化が見られる。しかし、ほとんどの動詞のセットは語幹が同じ形を持つので、このような語幹の子音の変化はあまり多くない。規則的な音韻変化は形態論上の不規則を生じるが、類推により形態上の規則性がもたらされる。
類推の一般的な法則を見つけようと言う試みがあるが、多くの反例が見るかるような傾向が見出せるだけだ。派生した形が基本的な形に影響を及ぼすよりかは、基本的な形が派生した形に影響を与える傾向がある。また、2重の標識がひとつにまとまるよりかは、ひとつ形態素的標識に代わって2重の標識がつけられる傾向があると言える。二重の標識の例は、ドイツ語の'Baum(木)'の複数形'Bäume'である。もともと'Baume'と、'-e'の接辞がつく規則変化であったが、Gast-Gäste「客」からの類推により、接辞と母音変化を含む2重の標識がついた。
 
このような類推の変化を記述したり、変化の規則や傾向をみつけても、なぜ、それが起こるのかを説明する事は出来ない。変化のメカニズムの背後にある一般的な法則がもっと必要である。考えられる理由は、「自然さ」によるものである。形態素の変化は、自然さ、無標性になることであるようだ。無標性とは、単に一般的であるだけでなく、子供の言語獲得に有利であったり、変化しにくく、ピジンやクレオール語の典型にみられるようなことである。
さらに、自然さは構造的類像性(constructual iconicity)のような一般的な原則の結果として生じる。それは、例えば意味的に複雑な語彙は形態素的にも複雑であると言うことだ。複数形は単数形よりも、形態素の要素が多いと考えられる。実際、この法則は経験的に導かれ、複数は典型的に有標であり、単数形の標識のある言語は稀である。言語は自然になるように変化してゆくと言われている。現代英語の複数形'woeds'は、古英語の複数形'word'より自然である。古英語は、複数形は単数形の形態素に何か追加されるという構造的類像性に則っていないからだ。'sheep'や'fish'など、まだ違反している複数形もあるが、ほとんどの仲間は英語の歴史の中で'-(e)s'を持つ形式に変化してしまった。
これらの変化は明らかに類推により説明出来るが、自然形態論の主張はもっと一貫していて普遍的な形態素の変化の枠組みを与えてくれる。
 
Syntactic change
言語学上で無視されて来たが、ここ30年程、統語上の変化が注目を集めている。しかし、まだ、一般的に受け入れられる研究の理論的な枠組みの構築には至っていない。
例えば英語の歴史を見てみれば、多くの統語上の変化を見つける事が出来る。古英語の時制は現在と過去だけで、シェイクスピアの時代まで、進行形と言う時制は無かった。また、疑問文や否定文の'do'の使用もなかった。シェイクスピアの作品で、'I know not.'や主語と動詞の倒置'Whom trust you more'が見られる。
統語上の変化も形態素上の変化は個々の正しさに則っているのだが、言語学者はより一般的な統語上の変化を学ぼうと考えて来た。
 
統語上の変化の重要なメカニズムがある。表層構造の再分析(reanalysis)文法化(grammaticalization)の過程である。ただし、全ての変化が文法化によって説明出来る訳ではない。また、統語上の変化の類型論の議論では、もっとも一般的な類型的な性質への変化に対す疑問に連結していると言える。
 
再分析。統語論上の構造は特殊な文脈では曖昧になり、話者は古いものより新しいものを好む。2つが共存する時もあるが、結果的には古いものが新しいものに置き換わり、続いて同様の構造にも新しいものが取り入れられてゆくだろう。語彙変化を含む表層構造の再分析は、統語上の変化の主要なメカニズムである。
英語には特に興味深い事例がある。英語では、ドイツ語では残っている屈折がだんだんと消滅し、その過程は再分析のよい資料である。以下はドイツ語と直訳した古英語の例文である。
 
 Dem König gefielen die Birnen
 Dæm cyninge licindin peran
 O(与格、単数)-V(過去、複数)-S(主格、複数)
 
現代英語に逐語訳すると'The king pleased (the) pears.'となる。'Dem König'と'Dæm cyninge'は与格の間接目的語単数、「その王を」の意味である。'Birnen'と'peran'は主格複数形で文の主語「梨」である。しかし、中期英語の屈折の衰退により、'the king'が目的語なのか主語なのか分からない。動詞の複数形語尾'-on'も消えたので、'pleased'は人称も単復も分からない。現代英語では、「王は梨が好きだった」のか、「梨が王を喜ばせた」のかがわからない。中期英語の語順規則SVOによれば、'The king'は主語だろう。代名詞であれば主語'he'と目的語'him'の区別は現代英語でも出来るし、動詞の単復の違いは16世紀までは残っていた。
 
文法化。これは再分析よりももっと複雑な統語上の変化のメカニズムである。文法化は、語彙が、文法機能と合体する。その過程は、意味上の変化である音韻の衰退と原型の再分析を合わせたものである。極端な例は、自由形態から、接辞のような拘束形態素への変化である。文法化は、形態素にも統語にも関係が深いもので、形態上や意味上の変化をも巻き込むものである。この現象は長い間知られていたが、最近になって注目されている。
英語に置ける文法化の例は、'will'の主動詞から助動詞への発展と、'be doing'の場所の助詞と不定動詞の組み合わせから進行形への発展、'not'の否定強調語から否定助詞への発展である。
特に様々な言語で、未来形の発展は文法化のよい事例である。英語の本動詞'will'は未来を表す助動詞となり意味が衰退し、加えて音韻的な減少により'llとなった。同じように'go'の進行形として働いていた'going to'は19世紀初期から未来を表す構造として急速に広まり、音声的な減少を経て'gonna'となった。未来を表す新たな文法的機能カテゴリーの出現は、既に存在するカテゴリーの影響を受ける。なぜなら、未来とは、もうすぐ起きる出来事であるからだ。フランス語やその他の言語でも'going to'の同様な文法化が観察出来る。
 
類型論(typology)と関係(implicational)の変化。再分析と文法化に置いて、多くの要素と言語学的なレベルが相関して、ある変化をもたらす。4章の最後にさまざまな変化と関係する統語的な変化を扱う。これは、統語的な特徴によって言語を分類した分類学的な変化が見やすい。
文章の最も一般的な構成要素はS(主語)とV(動詞)とO(目的語)である。この3つの要素の語順は、6つある。多くのヨーロッパの言語のSVO型それからバスク語とトルコ語と日本語のSOV型が一般的な語順である。次はウェールズ語や古典アラビア語のVSO型である。ジョーゼフ・グリーンバーグ(Joseph Greenberg)が1960年代に示差的統語普遍性(implictional syntactic universe)と呼ばれるものを築いた。それは、VとOの語順がその他の統語的な関係も指定するということだ、VOとOVの統語的な諸事は対立関係にある。この理論は統語的な変化を記述し、説明するのによく使われていた。もちろん、議論が無かった訳ではない。例えばVOの語順を持つものは、助動詞は本動詞に先行し、比較形容詞も名詞に先行する。そして前置詞を用いる。一方OVの語順の言語では動詞は文の後部に配置され、助動詞は本動詞の後で、比較形容詞も名詞の後で、後置詞を用いる。
通時態の研究によれば、VO型言語はOV型に、OV型言語はVO型に変化してゆく事が観察されている。動詞と目的語の語順だけでなく、その他の特徴もだんだんと変化してゆく。従って、比較再建ではインド・ヨーロッパ祖語はOV型となっている。古ゲルマン語や古英語には所々で、特に詩などで、現在の前置詞が名詞の後に置かれたり、OV型が見られる。詩も後期になるに従ってVO型へと置き換えられてゆく。
このような大きな統語的な変化の根拠はさまざまに唱えられている。他の言語との分離し、強調などの語順変化による談話機能が、頻繁に行われることにより一般化したともされる。このような指標の変化は、語順の緩やかな屈折言語で起きやすい。
 
以上の変化は、特定の形式に特定の意味がつくような、形態素や単語の変化とはかけ離れたものである。しかし、基本的には、全ての言語学的要素は直接、音によって構成されており、統語も形態素も同じように変化させられる。次の章は音声の変化について統語的に観察してゆく。
 
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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