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前回述べたような仕事は、フェルディナン・ド・ソシュールによって成されている。
近代言語学の基礎を築いたとして有名な有名な、
スイスの学者である。
彼は、言語を二つに分けて考えていた。
共有された社会的記号、抽象的システムであるラング(langue)と、
残された、個人の会話の個別な現実であるパロール(palor)である。
19世紀初頭の有名な講義で、彼は、
言語学はラングを研究対象とすべきであると提唱した。
彼曰く、ラングは知識の集合体であり、
その言語コミュニティーの皆が持っている公共の参考書である。

抽象システム(ラング)と実際の発話(パロール)の区別は、
種類が多く雑多な個別の現実の会話を、パロール言語学という分野に収めることで
研究対象として捉えやすくした。
そして、ラングの概念で言語の中枢を捉え、言語の一面として定義することが出来た。
パロールは、偶然の産物である。
表面上の振る舞いであり、知識の反映である。
ラングは、言語学の便利な規則であり、それ自体が、言語の基本的な規則である。

ソシュールの提唱の問題点がいくつかある。
一つは、言語固有の不安定さにより、ラングの概念が消えることだ。
言語は使用者の必要に応じて、常に変化している。
言語は状態ではなく、過程である。
彼もその点には気づいていた。

ソシュールは、
通時的(diachronic)様相である言語の変化を説明するため、
伝統的な歴史言語学を学んでいた。
そこで彼は、共時的(synchronic)状態での、
特定の時点の断面図としてのラングを思いついた。

注意すべき点は、共時性・同時性と、安定性の取り違えである。
共時的な断面図は、いつだって流動である。
言語は、時がたてば変化するのではなく、いつでも変化しているのだ。
同じ時代でも、異なる世代は異なる記述をする。
どれだけ短い時間でも、
言語の多様性が限られていても、
言語の使用者のコミュニティーによって調節されたバリエーションが存在する。

時を経た、通時的変化はシンプルで必然であり、
いつも、共時的バリエーションの結果なのだ。
通時的様相と、共時的状態の関係を、ソシュールはチェスに例えている。
共時的断面図はチェスの局面である。
ゲームの通時的関係(前の手、次の一手の動き)を無視して、
ボードの上の駒の配置について研究することが出来る。
逆に、ゲームの局面を考えずに、一つの駒の動きの傾向を見ることも出来る。

ゲームは一手一手、止まるけれども、言語は継続して区切りが無い。
それを停止させるのが言語学である。

通時的、共時的側面は、現実に明瞭な特徴ではないという主張も在り得る。
しかし、それは、決してその視点を無効化することはない。
それは、すべての言語モデルについても当てはまる。
もし、バリエーションと変化を両方捉えようとしたら、
違うやり方で理想化の線を引かなければならないが、理想化は無くならない。
そして結果として、出来上がったモデルは、
バリエーションを捉える上で必要な枠組みを支える、言語の安定性を明らかに出来ないだろう。

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