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一般的に、なぜ言語が変化するのかという疑問の分かり易い答えは、人間に関する全てのものが変化する、ということだ。言語が変化しなかったら、驚きだ。
興味深い疑問は、なぜ、特定の変化が起こるのかという疑問だ。なぜ母音は特定の変化をするのか。なぜ、言語の文法的、語彙的特徴が、特定の時期に変化したり消滅したりするのか。
 
このような疑問は長い間言語学者を悩ませて来た。そして、専門家以外の人々にも、かなりの説が提唱されて来た。
地理や気候の影響により変化が起こるために、山岳地帯、ツンドラ、熱帯雨林には必ずそこで話されている言語に必然的な特徴があると言われている。また、外的な地理によるものでなく、内的な解剖学が変化を決定するとも言われている。ある特定の民族の人体の発声器官が、他の民族より動きにくく、その為に発音の特徴が出るのである。その他にも、ただ、人間がきちんと話す事を怠ける為に言語が変化するので、気をつければ言語は変化しない、という説もある。
 
自然科学的なものではないが、歴史言語学はもっと、受け入れやすく根拠のある説明を提供する。言語学者の説明は、確率的なものであるが、以下は、予測可能で、厳格な因果関係をもち普遍的に妥当性のある法則である。
言語の変化に関して、3つの説明は考慮に値する。抽象的なシステムに注目し、システムの内的な力が変化を生じるとする機能的説明(functional explanations)。話者の頭の中にある、認知と心理言語学的過程に着目する、心理言語学的説明(psycholinguistic explanations)。それから、社会的存在としての話者の役割に変化の原因をもとめる社会言語学的説明(sociolinguistic explanations)である。
 
Fanctional explanations
機能的な考えでは、言語学的システムはそれ自体を調整する傾向が自然に備わっており、基本的な治療としての言語学的変化が、システムをよりバランスのとれたシンプルなものにする。
 
英語の歴史から、治療上の変化を上げよう。
18世紀以前、英語は8つ摩擦音があった。6個は有声、無声の対立のある組み合わせであった。残り2つの/ʃ/と/h/は無声音であるが、有声音の相手は存在しない。つまり、このシステムは非対称である。
18世紀から英語は、フランス語から借用して、/ʃ/の相手に/ʒ/を発展させた。この変化は、フランス語からの構造借用によるものだが、システムの対称性を築く基本的な効果において、これは、治癒的なものとして解釈できる。一方、/h/に関しては、イギリス英語におけるh音の欠落(h-dropping)として、消えてしまった。仲間外れを除去して対称性を保つのである。
このような均衡を保つための努力は、同時に、言語システムの節約を助ける。
5章でのべた、チェーン・シフトのような音声の変化はさまざまな治癒的な機能を持っているといえる。音素合流を防ぎ、音素システムの均衡を保ち、音素同士の音声的弁別性を高める。また、同音異義語(homonym)を防ぐ効果があるだろう。しかし、対立する意味を持つ同音異義語が出来てしまった場合、同音異義衝突を防ぐ為に、治癒的変化によって、一方の単語が消えるだろう。
 
機能的説明の基本的な問題は、どのように話者がシステムや行動の非対称を知る事が出来るのか、ということである。治癒的変化に関して、ある一部分の治癒が、他の部分の均衡を崩す事があるという問題もある。結局、これがもしも変化の主な動力であれば、今、言語システムは全てにおいて均衡がとれているはずである、しかし、そうではない。
 
変化を説明する為の機能の概念には、機能負担量(functional load)がある。それは、特定の言語項目が持っている機能の量である。例えば、tip-dip、sat-sadなど、数多くの最小対を持っている音素、/t/と/d/の機能負担量は大きい。機能負担量の大きい項目は、/n/と/ŋ/のような機能負担量の小さい項目より、変化にしくいといわれている。
特定の音声学的特徴の機能負担量は、音素変化よりも、音声学的変化に関係している。たとえば、「有声」という弁別特性は英語子音システムで重要な位置を占めている。特に、有声子音/p, t, k, f, ʃ/と無声子音/b, d, g, v, ʒ/は最小対を多く持ち、機能負担量も大きく、情報伝達において大きな役割を担っている。もちろん、機能負担量は小さいが、/θ/と/ð/、/s/と/z/に関しても同様の事が言える。この、機能負担量の大きい「有声」という音声学的特徴は、周辺の音韻論的組み合わせにも、着実な説明する事が出来る。
しかしながら、機能負担量のような言語学的要因は言語学的変化に貢献するかもしれないが、特定の場合に作用するようなの経験的な証拠はない。
 
Psycholinguistic explanations; language aquistion
変化に関する心理言語学的解説は、話者の脳の中にある認知的過程に着目し、とりわけノーム・チョムスキーによる言語生成論に関係するものである。
高度な文法モデルを提示したこの学説は、人間を、言語を獲得する天賦の才をもつ生き物であると見なしている。その才能は、言語獲得装置(LAD)や普遍文法(UG)や生物学的プログラムやさまざまなパラメーターなどと考えられてきた。
言語獲得において、子供は、聞こえる大人の会話入力に基づく仮説を立てる事によって、心理的な文法を構築するこの才能を活性化する。この仮説の建設はつねに完璧ではないので、大人の話者の文法の違いが生じる。子供による言語の獲得は、心理言語学の学説によって、最も基本的な言語変化の要因とされている。そして、ほとんどのタイプの言語変化は、言語習得に限られると言われている。
つまり、ほとんどの話者による文法の違いは、世代の違いによっている。この説の初期段階では、言語学的、特に音声学的変化は、規則の追加や削除、優先順位の変更など、文法の創造的な規則の形式化による変化に起因している。
 
近年、生成論は統語論上の変化に焦点を当て、その変化の起きるメカニズムの計画を詳しく述べている。
これは、文法的システム全体の再分析である、文法の「再建築」という概念と強く結びついている。上で述べたように、子供達が文法を構築する方法に関する仮説は、彼らが聞く会話による入力に基づいている。子供達が、内的な才能によって、最適な文法を構築できるが、その仮定は大人達の文法から逸脱し、偏向するだろう。しかし時間をかけて、このような歪みは、子供が容易に学ぶことができないほど複雑な文法となって表われてしまう。
この時、突然、かつ基礎的な再構築が生じるだろう。それは、異なる分析と下層の文法の変化によるものである。この観点における重要なものは、統語論的変化は自動的に起きるという事である。つまり、そのほかの言語の、かつ言語外の変化とは独立して起きる。
心理言語学的説明の魅力にも関わらず、それの多くの普遍的な公理が、理論的な場で批判を受けている。そして、英語の発展などの特定の変化に関する説明に、原文による裏付けが無い。さらには、一般的な言語の変化と特定の統語論的変化が、言語獲得に限られているのでなく、成人にも起こる事であると、私たちは経験的に知っている。
 
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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