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言語が変化する主な理由のひとつは、他言語との接触である。
この接触はバイリンガルな人々を伴う。ある程度において、2つ以上の言語を扱う人々である。彼らの言語は、様々な形でお互いに影響を受けている。発音の選択や、単語の借用や、文法の変容である。
単純に言語学的な視点では、言語接触の現象は善くも悪くもない。しかし、1章で述べたように、話者の態度は、決して中立なものではない。接触した言語や話者は、政治的、経済的、社会的に対等である事は稀である為、権力と権威の無い方は不利である。これは、よく、言語共同体同士の争いを引き起こす。
 
Borrowing from other language
最も頻繁で明らかな借用の例は、外来語である。外来語は、政治的、文化的な要因によって入ってくる。
3章で述べたように、英語は、主にドイツ語の語彙から始まった。しかし、紆余曲折の英語の歴史によって、膨大な量の外来語によって統合されている。同様に、俗ラテン語から派生したルーマニア語は、ロマンス文法を基底に残したまま、スラブ語の影響を強く受けている。このような広範囲に渡る固有語の置き換えは、世界中の多くの言語で起きている。
語彙の借用は、特に、情報源や提供者である言語にある文化的な現象についての、受け手の言語の差異によるものである。英語における、有名な文化的借用の例は、 ヒンディー語からthug(暴徒)、スペイン語からsherry(シェリー酒)、ドイツ語からwaltz(ワルツ)、ノルウェー語からski(スキー)、フィンランド語からsauna(サウナ)、新しいものでは、ロシア語からglasnost(情報公開)、日本語からsushi(寿司)がある。
これらの借用語は他の言語にも大量にあり、情報通信の増加により、現代において膨大に増加しているようである。
 
しかし話者は、借用語は、その物や概念を表す言葉がないから必要とされているのではないとわかっている。それは、提供言語の語彙の方がより良いと考えているからである。土着の言語は、フランス語や英語など、より評判の高い言語からの借用をしている。フィンランド語は、、対応するフィンランド語が存在しても、ゲルマン語やバルト語から親族や身体を示す中核的な語彙を借用している。
借用語は、ある特定の期間の特定の領域での、ある言語の優位性を示す。法律や戦争、政治や統治やファッションと食品に関して、英語においてはフランス語の語彙の方が普及している。ファッション雑誌やレストランのメニューを見ても、フランス語は英語話者に多くの語彙を提供し続けている。
借用の広がりに与える影響には、提供言語の権威がある。そのほかの要因は、言語接触の長さと、二言語使用者の数と社会的地位である。
もちろん、借用は単語の分類によっても異なる。名詞は、最も借用の頻度が高く、続いて形容詞、動詞である。自分の言語に欠けていると感じる物は、性質や方法よりも、物の名前が主である。一方で、複数の単語で組み合わされる代名詞や接続詞は、借用はほとんどない。中期英語の時代に、スカンディナビア語がthey、theirを借用したように、代名詞の借用もゼロではない。
 
借用語は特に、2つの言語の音韻上と形態上の差異が大きい時に、目標言語らしく変容することが多い。例えばフィンランド語は語頭の子音連続のない言語であるから、ゲルマン語のstranð(海岸)を借用した時、rantaとなった。日本語は開音節しか持っていないので、英語の子音連続は、日本語の音韻体系に沿うように置き換えられる。
 
語彙借用は、外国語のモデルの形式的な執着の度合いによって、異なるクラスに分類される。借用語は、形式的にも意味的にも提供言語から借用されるが、その他の借用翻訳も存在する。すなわち、提供言語の単語を文字通りに、目標言語に翻訳する事である。フランス語のgratte-cielもドイツ語のWolkenkratzerも、英語のskycraper(摩天楼)の借用翻訳である。
 
大量の借用は目標言語の語彙構造も変えてしまうだろう。例えば、考える事に関する英語の動詞のうち、thinkはゲルマン語であり、古英語の時代にまで遡る事が出来る。しかし、reflect、meditate、ponder、consiger、cognateはフランス語あるいはラテン語から来て、スタイルによって使い分けられる、同義語のような語彙を提供している。
 
語彙借用よりももっと曖昧なものは、構造借用である。それには音韻レベル、形態レベル、統語レベルの借用がある。
/v, z, ʒ/などの英語の音素目録への追加は、明らかに、大量のフランス語語彙の取り入れによるものである。
英語には、構造借用によると言われているものが多くある。例えば、現在進行形はラテン語から、疑問文と否定文のdoはケルト語から。しかしこれらの主張にも議論の余地がある。4章で述べた、基本的な語順SVOへの変化も、隣接言語や近しい語族からの構造借用であるだろう。
異なる言語レベルでの、広範囲の構造借用は言語収束(convergence)と成り得る。遺伝的に関係の無い言語でさえ、共通する構造をもつ言語になることである。
 
Convergence and linguistic areas
長期間の、あるいは恒常的な言語接触では、両言語話者は、情報伝達と複数の言語獲得を容易にするために、自分たちの言語を構造的にもっと似通ったものに変えることが多い。断片的な借用の方法とは違い、このような異なる言語システムの相互の収束は、典型的に社会的地位が同等の言語で起こり、そして、関わっている言語すべての変化をもたらす。
有名な相互収束の例は、多言語が使用されるインドの村、クプワル(Kupwar)で見られる。その村は、2つのインド・アーリア語族、ウルドゥー語(Urdu)とマラーティ語(Marathi)、それから両言語と関係のないドラビダ語族、カナラ語(Kannada)が、異なる民族グループによって話されている。実際、全ての住民が3つの言語を知っているし、何世紀もの間、それぞれの民族グループとの情報伝達の為に、日常的に3言語を使用している。結果として、文法的構造の異なる3つの言語は、クプワル(Kupwar)に収束したのだ。一方それぞれの語彙は、言語コミュニティーに関係なく、異なった形で残っている。
言語収束は、地理的な広がりを持ち、多くの遺伝的関係の無い言語を巻き込む事があるが、その言語的特徴は制限されている。このような言語区域(linguistic area)はインド、アフリカ、北アメリカの西海岸などで見られる。
有名な言語区域は、バルカン半島の言語である。そこにはアルバニア語派、スラヴ語派、ロマンス語派やギリシャ語などの異なる語族や語派の言語が存在している。これらの言語は多くの語彙と文法的な特徴を共有している。例えば、名詞の後に来る定詞の場所、異なる構造での不定詞の置き換え、それから、数字の11から19までの形式(10と1)。これらの特徴の数と組み合わせはそれぞれのバルカン半島の言語で異なるが、重要な点は、このようなバルカン語の特徴が、同じ語族のその他の言語、あるいはバルカン言語区域外で話されている同じ言語にさえも見られない、という事だ。
ある特定の特徴の出所ははっきりしていないが、1つの言語が、目標言語の基本的な発展の傾向と対応する特徴を採用しただけであると言われている。
 
2章では、語族の樹形図がどのように、同じ親言語や祖語からの新しい言語の成り立ちを説明しようとしたかを述べてきた。しかし、樹形図は密な言語接触を通じた言語の基本的な変化を説明する事が出来ない。大量な借用と構造的な収束が親言語や姉妹言語などの遺伝的な関係すら分からない程に、言語を変えてしまう場合もある。次に述べる、2つの言語接触のタイプでは、遺伝的関係は実際には疑わしいものである。
 
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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