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ひとつひとつの子音母音の変化を、
個別事例ごとに捉えてゆくような考えが下火になった頃、
1976年に、自律分節音韻論(autosegmental phonology)が提唱された。
具体的には、韻律に関わる方法論である。

一つの分節に発音の高低があったとする。
それに接辞がつき、発音のアクセント位置が変化したとする。
そして、また接辞によってアクセントが移動したとする。
このとき、従来の考えでは、アクセントを持つ母音を検証したり、
アクセントを持つ母音間での序列を見出したりしてきた。
自律分節音韻論は、一個一個の母音がアクセントを保持しているのではなく、
アクセントを決めるものは別のところに存在し、
規則や制約(constraint)によって、音素上を移動しているのだとする考えである。

非線状音韻論(non-linear phonology)と分類されることも多い。
線状(linear)とは、時間軸に沿って一列に並んでいる、言語の性質を表す。
つまり、違う単語を同時に発音できないし、同時に書くことは出来ない。
「ゲンゴ」と言う言葉は、「ゲ」→「ン」→「ゴ」という順番で発音されるのが正しい姿で、
3つの音を一気に発音したり、順番を入れ替えて「ゴ」→「ン」→「ゲ」と言うことはできない。
言葉として認識されないか、違う意味の言葉になってしまう。

自律分節音韻論のもつ非線状性とは、
韻律を、抽象的概念として、音声そのものから離して、立体的構造として考えることである。
自律分節音韻論には、韻律と音声の2つの要素があり、行為として同時に起こる現象である。
autosgtn.jpg


図のように、第1層としての音声群(unit)と、第2層としての韻律(tone)が、
連結線(association line)によって結びついている。
この結びつきの方法を規則と制約によって説明したものが、自律分節音韻論である。
具体的な規則に関してはまた後日。

ちなみに、一般的な科学の世界では"linear"とは「直線」を意味し、
"nonlinear"とは「曲線」を意味する。
言語学領域とは異なった概念なので、要注意である。

参考文献
「Glossary of liguistics terms "What is autosegmental phonology?"

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ゴールドスミスの提唱した自律分節音韻論のには、
連結線によって、音声と韻律を結びつける条件が提示されている。
これを適格性条件(well-formedness condition)と言い、4つの項目がある。
autosgtn.jpg
①全ての音調支持単位は音調を持つ。
②全ての音調は音調支持単位に連結する。
③連結は左から右の方向へ、一つずつ連結される。
④連結線は交差してはならない。

音調支持単位(tone-bearing unit)
とは、音節や、アクセント核をもつ音の一塊を指す。
音調(tone)とは、音とは切り離された、韻律の変化である。
図ではHとLで表されている。
時間経過は、左から右へと流れて行くので、
この4つの項目は当然と考えられるし、前提ともいえる。
しかし、人間の認識はあまり信用できない。
④の、連結線の交差が起こると言うことは、音のユニットが、時間的に入れ替わることである。
人間は、目立つ音があると、周囲のより弱い音の認識能力が著しく低下すると言われている。
つまり、どの順番で音が発話されたかという知覚は、あまり正確ではない。
「ふいんき」「わずわらしい」「あがらう」「まぎわらしい」などなど、
慣習やいろんな要因によって知覚が惑わされることが多くある。

そして、OCP(obligate contour principle)とよばれる
「隣接するトーン要素は起伏を名なさなければならない(同一音調隣接の禁止)」の制約により、
HHやLLを禁止し、一つのHまたはLから、連結線が1本ないし複数本出る。
これにより、トーンの推移という考えを、
より分かりやすく説明することが出来るようになった。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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さて、自律分節音韻論で見たように、
より抽象的な制約の発見が、どのような規則との関係を築いたかを紹介する。

まずは、規則適用の出力条件としての制約の関係である。
つまり、制約が満たされなければ、規則の適用を阻止される。
制約は慣例的に「~ではならない」という形式で記述される。
言語学ではこれをアステリスク(*)で表示する。
口頭で読み上げるときは"star"と言ったりもする。
*D...D制約(スター・ディー・ディー・せいやく)とは、
つまり、「ひとつの形態素の中に濁音が複数生じてはいけない」と言うことになる。
これは連濁の有名なライマンの法則であり、
正確には「後部要素に濁音を含むものは、連濁してはいけない」と言うことになる。
連濁規則の適用が、この制約によって阻害されるのである。
 naga「長」+sode「袖」=nagasode, *nagazode
 ao「青」+tokage「とかげ」=aotokage, *aodokage
もちろん例外もある。これは有名な例外である。
 nawa「縄」+hasigo「はしご」=nawabasigo, *hawahasigo

もう一つは、制約違反と、規則による修復の関係である。
つまり、制約を違反したために、それを補う形で規則が適用されてゆく例である。
*C#制約*CC制約は有名で、それぞれ、
「単語が子音で終わってはいけない」、「子音が連続してはいけない」という制約である。
これに違反したために、応急措置として、母音挿入の規則が適用される。
外国語の借用の際が代表である。
 web→webu「ウェブ」
 hoop→hoopu「ホープ」
 bet「別」+gata「型」→betugata「べつがた」
 tok「特」+nou「納」→tokunou「とくのう」
*C#にも例外があり、音節を形成することが出来る「ん」の存在である。
/m/と/ŋ/には制約が作用するが、/n/は例外として、それで終わることが出来る。
 pen→peN「ペン」
 room→ruumu「ルーム」
 king→kiŋgu「キング」

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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日本語には、形容詞や副詞を強調するときに、促音を付ける。
 大きい→おっきい
 すごい→すっごい
擬態語について特に顕著である。
 ぴたり→ぴったり
 べたり→べったり
 こそり→こっそり
しかし、例外もある。
 しょぼり→*しょっぼり、しょんぼり
 こがり→*こっがり、こんがり
これらの音韻変化に関わっているのが、重子音化規則と*DD制約と鼻音化規則である。
重子音化規則を適用させようとしたところ、
*DD制約によって適用を阻害され、
制約違反として、鼻音化規則によって修復される。
この一連の流れが、例外の背景にある。
 syobori→*syobbori→syombori
 kogari→*koggari→koŋgari

また、制約を守るために随意的に適用される規則がある。
例えば*CC制約(異なる子音の連続を禁止する。同じ子音なら良い)の修復には、
同化規則と母音挿入規則がある。
 ow+kakeru=okkakeru「追っかける」、owikakeru「追いかける」
 yor+kakaru=yokkakaru「寄っかかる」、yorikakaru「寄りかかる」
 tor+parau=ropparau「取っ払う」、toriharau「取り払う」
強調による重促音化規則の、*AA制約(接近音の連続を禁止する)違反の修復には、
鼻音化規則と長母音化規則が適用される。
 fuwari→*huwwari、funwari「ふんわり」、fuwaari「ふわーり」
 hiyari→*hiyyari、hinyari「ひんやり」、hiyaari「ひやーり」

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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 以前述べた共謀関係(06/13)のように、
関係のないように見える複数の規則が、
実は同じ目的、制約を守る為に働いているという事がある。

そして、複数の言語にわたり、
複数の規則が同じの制約の為に働いていると言う事がある。
*NC「隣接する鼻音と無声阻害音の禁止」の制約である。
     °
日本語(阻害音の有声化、母音挿入)
 hum+kiru=huŋgiru「踏ん切る」、humikiru「踏み切る」
 hum+tukeru=hundukeru「踏んづける」、humitukeru「踏みつける」
インドネシア語(鼻音と阻害音の融合)
 məN+pilih=mmilih "to chose"
 məN+tulis=mnulis "to write"
ケチュア語(阻害音の有声化)
 kaN+pa=kamba "yours"
 wakiN+ta=wakinda "the others"
オシクァニャマ語(融合と有声化)
 e:N+pato=e:mati "ribs"
 oN+tana=onana "calf"
 sitampa→sitamba "stmp"
 pelanta→pelanda "print"

以後はこのような、言語に普遍的な制約に対して、注目が集まる事になる。
科学の大発見は、関係のないと思われていた規則を、包括し関係づけることである。
科学としての制約による言語学は、
統一、統合という概念を取り入れ、より大きく発展してゆく。

そしてまず注目されたのが、自律分節音韻論でのべた、OCPである。
この義務的起伏原理(Obligatiry Countor Principle)は、
今まで見てきた制約(*DD制約、*AA制約、*CC制約…)からも見て取れる。
つまり、「同じ要素が一つの層において複数存在してはならない」という原理である。

英語(*l...l制約 ただし、三音節以内)
 *simil-al/simil-ar
 *famili-al/famili-ar 
 logic-al/*logic-ar
ケラ語(*a...a制約 ただし子音ひとつ以内)
 ba+pa=*bapa, bəpa " no more"
 koroŋ+da+fadi=*koroŋdafadi, koroŋdəfadi "come here quickly"
 bal+l+a=balla, *bəlla "you must want"
その他、オロモ語の*VV...VV制約、日本語の*CC...CC制約などなど多数例が挙げられている。
このような制約の統合、「メタ制約」を公式化する動きもある。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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