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規則と規則の関係性の研究は、さらに深い考察へと進む。
ポール・キパルスキーとK. P. モハナンらによって、
音韻規則を分類する、語彙音韻論(lexical phonology)が発展した。
これは、規則の順序の可能性を制限する理論である。
つまり、同化、削除、異音、挿入など、n個の規則が関係した音韻変化では、
その規則の適応順序は、nの階乗だけ種類がある。
そこで、語彙形成レベルで規則を二つに分類し、
基本的に、語彙形成以前の規則は、語彙形成以後の規則より先行する、という仮説を立てた。
これで、順序の可能性が大幅に減るのである。

語彙音韻論では以下のような出力モデルがある。

  基底レベル
     ↓
 語彙規則(lexical rule)
     ↓
  語彙レベル
     ↓
 後語彙規則(post-lexical rule)
     ↓
  表層レベル
     ↓
 音声実行規則(phonetic implementation rule)
     ↓
  調音・発声・知覚

音韻論が扱うのは、基底レベルから表層レベルまでである。
それ以降は音声学の分野となる。
音声実行規則とは、歯痛や鼻づまりなど、様々な障害があっても
最大限に音韻体系を守ろうと修正するものである。

具体的な説明の前に、まず音節(syllable)の説明をする。
音節とは、母音を核(nucleus)として成る、音素の単位である。
音節の境界は言語によって違い、話者の直感に頼る部分も多い。
日本語のひらがな・カタカナは基本的に、一文字一音節である。
0dcbf84a.jpeg
図のように、
核は、音節の最後の要素である末音(coda)と結びついて脚韻(rhyme)を成す。
頭音(onset)は核の前の子音群である。
日本語「か」のように、頭音と核でなり、
脚韻を構成しない音節を軽音節(right syllable)といい、
母音で終わり、末音のない音節を開音節(open syllable)と言う。
一方、英語の"strong"のような、
核と末音で脚韻を構成する音節を重音節(heavy syllable)といい、
子音で終わり、末音のある音節を閉音節(closed syllable)と言う。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
「Glossary of liguistics terms "What is a syllable?"

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語彙規則と後語彙規則の違いは以下の六つである。

規則適応後に生じる音が、音素内に収まっているかと言う問題は、
特に、語彙規則と後語彙規則を区別する大きな原理である。
これを構造保持(structual preservation)と言う。
音素対立の中和や、子音の無声化など、
特定の言語が持つ音素体系の中での変化は、構造保持があり、語彙規則である。
一方、異音変化や英語で見られる曖昧母音などは、
その言語の音素ではない音に変化するため、構造保持が無く、後語彙規則である。

その次は、適応語種である。
語種とは、固有語、借用語などの区別である。
日本語には、和語、漢語、外来語と、それらが混ざった混種語があるとされる。
連濁などは和語にしか適応されない。
連濁のように適応語種を選ぶものが、語彙規則である。
異音規則のように、語種に依らず自動的に適応されるものが、後語彙規則である。

05/27で述べた、随意性も大きな目安になる。
世代や性格など、話者による個体差が無く、
会話のスタイルに左右されないものが、語彙規則である。
「すごい」→「すげー」の母音融合など、
個体差があり、発話のスピードなどに影響されやすいものが、後語彙規則である。
これと同時に、単語を越えた変化も生じる。
通常語彙規則として、単語内で生じる鼻音同化は、
単語を越え、超分節的に、後語彙規則として生じることがある。
英語の単語では、"impossible"のように、"p"の前の鼻音は"m"である。
しかし、話者によっては、"in Paris"も、"im Paris"と発音することがある。
これが単語を越えた、鼻音同化である。

最後の違いは、例外の有無である。
語彙目録としての深い部分に関わる語彙規則には、個別的な例外が多い。
和語の連濁も、「味噌汁」(cf.「だし汁」)や「夏草」(cf.「野草」)などの例外がある。
一方、より広範囲に、随意的に生じる後語彙規則は、
まんべんなく適応され例外が少ない。

これら六つの性質は、全てが綺麗に二されるわけではないが、
音韻規則にも性質の分類が可能であると言う考えは、
さらなる細かい区分を生み出した。
また、先に述べたように、後語彙規則は音声学と隣接しているが、
音韻論はあくまで、抽象的体系の文法の範囲で、
音韻規則を扱っているということが、明確な音声学との境界線であるといえる。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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語彙規則は、語彙が成立する以前の音韻規則であると述べたが、
その語彙規則にも、ある序列が存在することが分かってきた。
例えば、接辞が結合するときの変化である。
鼻音同化規則では、in+possibleがimpossibleに成ると述べた。
ならばなぜ、un+believableはumbelievableではなく、unbelievableなのか。
divineの二重母音/ ai /はdivinetyでは単母音/ i /になっているのに、
なぜ、divinelyでは二重母音/ ai /のままなのか。
activeの語頭のアクセントは、activetyでは/ i /に移動するのに、
activelyは語頭のままなのか。
このような疑問を解消するために、
接辞結合の語彙規則には、ふたつのレベルが存在していると提唱された。
最も一般的なボロウスキーのモデルを紹介する。

 基底レベル
   ↓
 クラス1接辞付加⇔循環規則  レベル1
                ↓
            クラス2接辞付加→非循環規則  レベル2
                           ↓
                         統語論→後語彙規則
                                  ↓
                                表層レベル

循環規則(cyclic rule)とは、
クラス1接辞が付加される度に繰り返し適応される規則である。
例えば、「アクセントが、後ろから2番目の母音に付加される」という規則であれば、
クラス1接辞が付加される度に、アクセントの位置が変わる。
一方、非循環規則(non-cyclic rule)は、
クラス2接辞が全て付加されてから、適応される規則である。
クラス2接辞がいくつ付加されても、アクセントの位置は変わらない。

具体的には、
クラス1接辞はラテン系(in-, -ic, -al,-ity, -ify, -ish, -ate, -tion, etc.)、
クラス2接辞はゲルマン系(un-, -ness, -less, -ful, -hood, -er, etc.)とされる。
クラス1接辞とクラス2接辞の性質の違いは、主に以下の四つがあげられている。

まずは、生産性の高低である。
クラス1接辞は、ラテン系語基などの、特定の形態素のみと接続するが、
クラス2接辞は、ラテン系でもゲルマン系でも付加することが出来る。
その点で、クラス1接辞は生産性が低く、クラス2接辞は生産性が高い。
生産性が高いということは、語基を選り好みしなく、
それゆえ形態素間の癒着力が低いとされる。
また、先のimpossibleの例で"in"は、鼻音同化規則が適応され、
その干渉をみても、接辞と語幹の癒着力が強い証拠となっている。
三つ目は、意味の透明性である。
"in"は「否定」の意であると言う説明は間違っていて、
infamousは、「否定」では説明が付かない。
このような状態を、意味の透明性が低いと言い、クラス2接辞は比較的透明性が高い。
最後は語基の種類である。
inaneとinertという単語は存在し接辞"in"が付加した語彙であるが、
*aneや*ertという単語は存在しない。
クラス1接辞はこのような、単独では存在できない形態素と結合することが出来る。
このような形態素を拘束形態素(bound morpheme)と言う。
一方でクラス2接辞は、単独で語彙として存在している形態素のみと結合する。
このような形態素を自由形態素(free morpheme)という。

もちろん例外も多々あるが、
語彙規則の中の2つのレベルの発見は、より詳細な音韻規則の説明を可能にした。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
「Glossary of liguistics terms "What is lexical phonology?"

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語彙規則の大きな例外として、
順序付けパラドックス(ordering paradox)と呼ばれるものがある。
クラス1、クラス2の接辞付与の順序が、
実際の接辞結合の順序と矛盾している場合である。

"grammar"から"ungrammaticality"が出来るまでの順序は、
語彙規則によれば、
"un-"がクラス2、"-ical"と"-ity"がクラス1なので、
 grammer→grammat-ical→grammatical-ityun-grammaticality
になる。

しかし、"un-"という接辞は形容詞にしか付加しない規則がある。
これを難しい言葉で下位範疇化(subcategorization)という。
動詞が名詞(目的語)とくっついて、より大きな動詞句を作るように、
大きなカテゴリーが、支配する単語の品詞を指定することを言う。
"un-..."が支配できる単語は形容詞だけである。
("ungrammatical"は"ungrammaticality"に支配される。)
従って、"un-"は、形容詞"grammatical"に直接付与しなければならない。
 grammar→grammat-icalun-grammatical→ungrammatical-ity
品詞を考えるとこれが正しい。
しかしこの順序は、語彙音韻論的には、
基底レベル→クラス1接辞付加→クラス2接辞付加→クラス1接辞付加
となり、規則に反する。

このような矛盾の説明が出来ず、
語彙音韻論の流行は下火になり、音韻論は新たな学説を模索してゆく。
今まで説明してきたように、
基底レベルと表層レベルの音韻違いを、細かな規則に分解し、説明する手法は、
コンピューターの開発が盛んな1970年代に流行した。
コンピューターも同様に、複雑な数式の計算を、
より簡単な数式の組み合わせに置き換えることで、高性能化していった。
8×3は、8+8+8に分解される。
音韻変化を、いくつもの音韻規則で説明する手法は特に、母語習得の面で批判されることが多かった。
私たちは、こんなに複雑な規則を全て知り、適用させて発話しているわけではないのだ。

かくして、80年代に流行する、
新たな音韻論のキーワードが発明される訳だが、それは又後日。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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言語学は自然科学ではないので、
ひとつふたつの矛盾があったって、その理論が完全に間違いだとは言えない。
内在的順序、外在的順序、利益供与、利益奪取、語彙規則、後語彙規則など
規則同士の様々な序列関係を紹介したが、
今回は、序列ではなく、
もっと抽象的な、カテゴリーを紹介する。

順序付けの関係を、規則の縦の関係と言うならば、
これは、規則の深層にある、目標を同じとする抽象的な関係性であり、横の関係と言える。
共謀関係(conspiracy)は、
抽象的概念的枠組みも、音韻体系に関わっていることを示した。

例えば、わたり音挿入と母音融合の2つの規則である。
母音融合とは、
umai「うまい」→umee
katai「堅い」→katee
atui「熱い」→atii
のように、連続する母音が融合し、同じ母音の連続となることである。
この2つの規則に共通する目標は、
「異音節の母音連続の禁止」である。
そのために、他の子音を挿入したり、母音自体を変化させる。

この2つのが規則が適応されたり、適応順序に関係性があるのではなく、
規則の目標が共通しているという視点が新しい。
このように規則が適応するようにする共通目標を持つものを、積極的(positive)、
規則が適応しないようにするものを否定的共謀関係(negative conspiracy)という。
例えば、CVCCCのような音節を避けるために、
子音挿入や母音削除の規則が適応されない例である。

「見えない糸」の発見と研究は、
言語学史上、とても画期的で重要な意味を持つものであるといえる。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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