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挿入規則の代表的な例は、
外来語を導入するときの、高母音挿入規則である。
日本語では子音の連続や語尾の子音を発音することが出来ないので、
母音を挿入し、日本語の音韻体系を維持している。
ink: inku「インク」/inki「インキ」
text: tekusuto「テクスト」/tekisuto「テキスト」
strike: sutoraiku「ストライク」/sutoraiki「ストライキ」
 Φ→i,u/C_C
 または C_#

参考文献には上記のように公式が書いてあるが、
日本語では[t]や[d]の後には、[o]が入ることが多いので、
発生の直前を「C」と一括してしまうのは問題があると思います。

そして、日本語の表記には採用されていない、わたり音挿入規則がある。
普通、日本語の二重母音は、開→閉の順になっている。
「あい」や「おう」など。
しかしこの逆、「いあ」や「うお」の順になるときは、
わたり音(glide)と言う、最も母音に近い子音を挿入し、発音をスムーズにしている。
sio「塩」: siyo
ie「家」: iye
guai「具合」: guwai
huon「不穏」: huwon
 Φ→y,w/i,u_V
しかし、[u]の直後には[w]、[i]の直後には[y]が来ることが分かるので、
 Φ→y/i_V
 Φ→w/u_V
と書き分けることも出来る。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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音韻規則は、
発話をスムーズにしようという、ある種の自然さが求められるので
似たもの同士の干渉となることが多い。
聞こえ音階層(sonority scale)と呼ばれる、
音の似ているものの序列において、近いものが干渉する。

良く響く
↑ 低母音(a)
  中母音(e,o)
  高母音(i,u)
  わたり音(y,w)
  流音(r)
  鼻音(n,m,ŋ)
  有声破裂音(b,d,z)
↓ 無声破裂音(p,t,s)
あまり響かない

この序列において、高母音(i,u)とわたり音(y、w)は隣り合った場所、
もしくは同じグループに分類されることがある。
従ってわたり音の挿入規則は、とても音韻的に近いところで起こっているのである。

音韻規則は、しばしば非言語要因に左右される。
それが適用の随意性(optinality)として表出する場合、3つの重要な要因がある。
①世代
②発話スタイル
③発話速度

特に、東京方便の鼻濁音は、老年層の話者のみに見られると言われているように、
時代の流れによって失われつつある音韻規則である。
発話スタイルが、くだけた発話になればなるほど、
発話速度が早くなればなるほど、
さまざまな音韻規則が生じ、語が変化してゆく。
頑張れば、「ありがとうございました」が
「あーしたー」になるのも、式で表せるのではないでしょうか。

一般の音韻規則が適応せず、例外と為りやすいものがある。
借用語と呼ばれるような、準文法(subgrammer)の存在である。
日本語には、和語・漢語・外来語・擬態語と擬声語の、四つの準文法が存在していると言われている。
一つの言語の中に複数の文法が混在していることで、
一つの準文法が、ほかの準文法では成り立たないと言うことが生じる。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
「Glossary of liguistics terms "What is the sonotary scale?"

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さまざまな音韻変化は、
ひとつの音韻規則だけで表せられる音韻変化ばかりではない。
複数の音韻規則が順番に作用することで、
入力と出力を関係付けていることも多い。
その作用の順番が重要である。
日本語のハ行の音韻変化を例にとって見る。

hai「敗」-nihai「二敗」-sippai「失敗」
harai「払い」-sakibarai「先払い」-yopparai「酔っ払い」
çin「品」-kiçin「気品」-zeppin「絶品」
çiki「引き」-waribiki「割り引き」-okappiki「岡っ引き」
ɸun「分」-niɸun「二分」-sampun「三分」
ɸuro「風呂」-asaburo「朝風呂」-hitoppuro「ひとっ風呂」
heki「壁」-iheki「胃壁」-gampeki「岸壁」
hera「へら」-kutubera「靴べら」-usuppera「薄っぺら」
hou「法」-sihou「司法」-kempou「憲法」

さて、はじめにこれらから導き出せる音韻規則を書いてしまうと、
1)異音規則 h→ç/_i  h→ɸ/_u
2)連濁規則 p→b/#+#_(和語)
3)摩擦音化規則 p→h/#_
            または V_

1)はサ行やタ行の「し」や「ち」と同じように、ハ行の「ひ」と「ふ」も異音であることを示している。
[ ç ]は無声硬口蓋摩擦音、[ ɸ ]は無声両唇摩擦音と言い、
声門で調音する[ h ]無声声門摩擦音とはまったく異なった音声である。

2)はいわゆる連濁と呼ばれる現象で、和語での複合語であり、
後ろの形態素が/ k /、/ t /、/ s /ではじまるときも、その子音が/ g /、/ d /、/ z /になる。
oo「大」+kama「釜」=oogama「大釜」
ko「小」+taiko「太鼓」=kodaiko「小太鼓」
yo「夜」+sakura「桜」=yozakura「夜桜」

3)の法則は、「ハ行はかつて、パ行音であった」という仮説に基づいている。
[ h ]でも[ ç ]でも[ ɸ ]でも、直前に子音や鼻音がある場合は、全て[ p ]で出現している。
以下に述べる理由から、「かつてはパ行」仮説を採用し、
逆に、語頭や直前に母音がある[ p ]は[ h ]に変化する、とした。
その理由を簡単に述べる。
・古い文献を読むと、かつて母[haha]を[papa]と発音していた証拠となるなぞなぞがある。
・アイヌ語には元々無く、途中で借用された和語が複数残っているが、日本語の/ h /にあたる音が/ p /になっている。ちなみに、アイヌ語にも/ h /の音素は存在する。
・五十音表の子音の並びは、
「k,s,t,n,(p),m」と「y,r,w」で調音位置が喉の置くから唇へと移動するように並んでいる。
ここに/ h /が入ると、声門での調音になるので、/ k /よりも前に来るはずである。
・擬声語、擬態語には/p,b,h/のセット「ぺらぺら、べらべら、へらへら」と、
/p,b/のセット「ぴかぴか、びかびか、*ひかひか」がある。

そしてこの三つの音韻規則は、2→3→1の順番で作用する。
それから、鼻音の同化規則も入るので、全部で5段階あることになる。

入力
  ki+pin        wari+piki       san+pun
   ↓ 同化規則     ↓             ↓
  ki+pin        wari+piki        sam+pun
   ↓ 濁音規則     ↓             ↓
  ki+pin        wari+biki        sam+pun
   ↓ 摩擦音化規則  ↓             ↓
  ki+hin        wari+biki       sam+pun
   ↓ 異音規則     ↓             ↓
  kiçin「気品」    waribiki「割り引き」  sampun「三分」
出力

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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派生(derivation)とは、入力と出力の間に、
一つ以上の中間段階があるような過程の総称である。

 基本形
   ↓ 規則1
 中間段階1
   ↓ 規則2
 中間段階2
   :
   ↓
 表層形

日本語のハ行の音韻規則で見たように、作用する規則には順序がある。
文法とは、裏づけされた順序での規則適用と、段階的派生からなる。
その順序を決める要因は、大きく二つに分けられる。
ひとつは、どの言語でも適応される、文法自体が内包している原理であり、
内在的順序(intrinsic order)と言う。
例えば、非該当条件と呼ばれるような、
適用範囲の狭い規則の方が、適用範囲の広い規則より優先される、と言う原理である。
大雑把に言うと、「その他は…」と言う規則より前に、
必ず、「Aは…」や「Bは…」といった個別の規則が適応される。
当然のことのように思えるが、重要な原則である。

もうひとつは、外在的順序(extinsic order)という。
これは、文法原理によらない、
個別言語の歴史や文化的背景による、偶発的な原理である。
外在的な原理による複数の規則に接点があるとき、その関係性はさらに二つに分かれる。
利益供与の順序(feeding order)は、先行する規則によって環境が整備され、
それに続く音韻規則が作用する場合である。
ハ行音の摩擦音化規則と異音化規則の関係である。
[ p ]が[ h ]にならないと、次の異音変化が出来ない。
 摩擦音化規則 p→h/#_
             または V_
 異音規則 h→ç/_i  h→ɸ/_u
利益奪取の順序(bleeding order)は、先行する規則によって環境が変化させられ、
それに続く音韻規則の適応範囲が狭くなる関係である。
ハ行音の連濁と摩擦音化の関係である。
[ p ]が[ b ]になってしまうと、[ h ]にはなれない。
 連濁規則 p→b/#+#_(和語)
 摩擦音化規則 p→h/#_
             または V_

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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前回のべた規則の順次適用にも、例外が存在する。
例外にも二つの種類がある。
偶発的で、説明不可能な例外と、
規則の順序の入れ替わりで説明が出来る例外である。
後者の説明できる例外には、さらに2つの種類がある。

適応不全(underapplication)は、
規則が適応するはずなのに適応しない例である。
利益供与の関係にある規則Aと規則Bが逆転する(counter-feeding order)と、
規則Bが適応せず、その後規則Aが作用するので、
規則Bが存在しなかったような状態、適応不全の状態となる。

適応過剰(overapplication)は、
規則が適応しないはずのところまで、広く作用する例である。
利益奪取の関係にある規則Cと規則Dが逆転する(counter-bleeding order)と、
規則Cによって制限されるはずの規則Dの適応範囲が
制限されずに作用し、適応過剰の状態となる。

これはら日本語の古語と現代語の
音便規則の適応順序の入れ代わりなどで実際に起こっている現象である。
現代語において、
「書く」「漕ぐ」などのイ音便の/ i /の挿入、/ k /の削除規則は利益供与の関係にある。
     挿入規則  削除規則
 kak-te → kak-i-te → kaite「書いて」
 kog-de → kog-i-de → koide「漕いで」
この挿入と削除の順序が逆転すると、適応不全が起きる。
     削除規則  挿入規則
 kak-te → 不適応 → kakite「書きて」
 kog-te → 不適応 → kogite「漕ぎて」

一方、古文の/ i /の挿入規則と/ g /の同化規則は利益奪取の関係にある。
     挿入規則  同化規則
 kak-te → kak-i-te → 不適応「書きて」
 kog-te → kog-i-te → 不適応「漕ぎて」
この挿入と同化の順序が入れ替わると、適応過剰が起こる。
     同化規則  挿入規則
 kak-te → kak-te → kak-i-te ...「書いて」
 kog-te → kog-te → kog-i-te ...「漕いで」

このように、現代文法と古典文法の関係は、派生順序の逆転として説明できる。
言語学者キパルスキーは、音韻の歴史変化とは、
「利益供与の最大化」と、「利益奪取の最小化」であると述べている。
つまり、利益供与の関係が築かれ、利益奪取の関係が解消されるように変化する。
上記の例は、その模範的な存在である。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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