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What is grammar for?
文法;grammar」という単語が想起するものは、人によって異なるだろう。そのなかには間違っているものもある。
ー最近の若者が学校で正しく学ばないものであり、その為に、言葉が乱れてきている。
ー「助動詞」や「過去分詞」や「関係詞節」や「補語」などの、意味の分からない専門用語の集まりである。
ー「こう言ってはいけない」とか「こうしてはいけない」などの、正しい言葉を話したい人々が作った、禁止令である。
ーフランス語の性や、ドイツ語の語順、ロシア語の格や、日本語の敬語など、外国語を不必要に困難に成らしめ、自然な会話をさせなくする、抽象的なルールの集まりである。
ー何かしらがぎっしり書かれた、埃まみれの分厚い本のことである。
 
もちろん全ての人がこのような単純な考えを持っている訳ではないだろう。しかし、十分に知っていると思っていても、文法が何であるかを定義するのは難しい。
ほとんどの辞書は「語を結合して文にするための法則」としか書いていなくて、役に立たない。文法は文を作ることだけする訳ではない。この説明は不十分なだけでなく、文法の機能に関して何も表現をしていない。
「バス」の項目に、公的な輸送に使用されることに述べずに、「一階か二階建ての大きな車」と説明するようなものである。
 
文法を理解するためには、それが何にために存在するのかを理解しなければならない。
なぜ、「語を結合して文にするための法則」が必要なのか?
単語だけ話していては、いけないのか?
これはとても慎重に扱われるべき問題であり、研究の出発点としてとてもふさわしい。文法が何であり、何をして、なぜ必要なのかを理解するための一番良い方法は、文法が無い言語を想像してみることだ。
 
Language without grammar
自分が天才で、高度な情報伝達システムを発明しようと思ったと、想像してみよう。
情報を指し示す方法はさまざま存在する。
例えば音声による記号に多様性を見出したとしよう。それは、視界に依らないし、闇の中でも伝達することが出来る。
泣いたり、怒ったりの、表情身振り手振りは、限られた文脈の中での最も有効なオプションとして使用する。
 
始めにすることは、世界のそれぞれの物に対して、弁別的な音声の記号(単語)を考案することである。このとき、音韻論的なシステムを創出しなければならないが、今は無視しても問題ない。
そしてあなたは、あなたの母親、その他の一族の母親、洞窟の入り口、一族の長、川辺の大きな木、川、今降っている雨、1番お気に入りの石の斧、2番目に気に入っている石の斧などに対して単語を考案する。
しかしそれらがうまく働かないことがすぐに分かる。
第1に、コミュニケーションシステムの構築のために学ぶべき単語が多すぎるからだ。
第2に、既に知り、関心を持ったものに関してしか、話すことが出来ない。例えば、その他の木、新しく発見した川、新しく作ろうと考えているもっと強い斧に関して、話すことが出来ない。
 
見込みのある方法としては、単語が、個別のものではなくて、グループを指し示すことにすれば良い。
「木」はあの木でもこの木でもなく、全ての木を示す。これはただ、既に存在したシステムを拡大しただけである。既に「食べ物」や「怒り」のようにも何回も起こることに関して、このような呼び名があるだろう。
そして重要な精神的飛躍として、単語は、人や物だけを指し示すのではないと気づくだろう。「大きい」や「赤い」、「美味しい」のような共有される特徴がある。そして、世界で良く起こる、「食べる」や「走る」のような出来事や変化がある。
 
以上の新しい情報伝達システムで3つのことができる。
1つめは、身の回りにあるものや、あなたが欲しいものなど、何かに対して相手の注意を向けることが出来る。「ビール!」「斧!」
2つめは、異なるグループの単語をくっつけることで、今話題にしていることをより細かく伝えることが出来る。グループとグループの単語を連ねることで、個別のものを指し示すことが出来るのである。これはかなり強力な仕組みである。「青、斧」「大きい、虫」
3つめは、変化と物の単語をくっつけることで出来事を指し示すことが出来る。「大きい、斧、壊れる」「雨、冷たい」
これで、言語が出来上がった。
 
Problems
しかし、以上の言語には、人間言語とは異なる点がある。
ひとつは語順である。「落とす、子供」と「子供、落とす」はどちらも同じ意味を示している。
もう1つは、単語と言う1つの括りしかないことである。名詞や動詞といった区別が無い。
 
それがどんな問題があるだろうか。
この単純で限られたこのシステムでも、かなり多くのことを伝えることが出来るが、限界がある。
1、ひとつ以上のことが起こった時に、その発話が、正確に何を指し占めているのかを特定するのが困難である。
たとえば、「大きい、熊、洞窟」では、大きな熊が洞窟に居るのか、大きな洞窟に熊が居るのかが分からない。背景知識があっても、その曖昧さが解決されないこともある。
2、個別の事象について話すことが出来るが、因果関係空間的な関係をはっきりと説明することが出来ない。
たとえば、AがBに何かをしたという状況では、どちらが行為者(dore, agent)であり、どちらが受動者(doee, patient)であるかはっきりさせなければならない。
「食べる、子供、どんぐり」など、背景知識や常識で補えるものもあるが、「殺す、兄、熊」などは簡単に混乱を招くものである。
3、最後に、このシステムでは、要求確信的な発言をすることが出来ない。
「熊、洞窟」では、熊が洞窟に居ると言う事実を伝えることが出来るが、熊は洞窟に居るのか?と尋ねたり、熊が洞窟に居るかもしれない、もしくは、熊は洞窟に居ないと伝えることが出来ない。
 
なので、以下のことが必要になる。
(i)何が何と一緒に生じているのかを表す方法。ーこの世界の特定の現象を指し示す為に必要な、一般的な概念である。
(ii)受動者やその他の関係性を指し示す方法。
(iii)発言に関して、伝達上の作用を指し示す方法。ー陳述、疑問、主張、否定などなど。
つまり、文法が必要なのである。
 
Sloving the problems
文法の導入にはさまざまな方法がある。
 
まず、単語の並び方に手を加えることで、必要な付加的な意味を指し示すことができる。
例えば、何と何が生じているのかを明らかにする方法として、「関係のある単語は常に並んで登場する」というルールを決めるとする。「熊、大きいー小さい、洞窟」のように、句と句の間にスペースを置くのである。
さらに、「質を表す単語は物を表す単語の、直後、もしくは直前に置く」と決めることで、句が無くても良く、文がすっきりする。「熊、大きい、洞窟、小さい」。
語順に関して、その他には、「行為者を、受動者よりも前に持ってくる」というルールも有効である。これで、「殺す、兄、熊」と「熊、殺す、兄」の意味を区別することが出来る。
そして、陳述と疑問文の語順を異なるように決めてしまえば良い。「兄、ころす、熊」と「殺す、兄、熊?」など。
 
2つ目の可能性は、機能を示すのに、別の語を用いることが出来る。
ラテン語やロシア語のように、屈折(inflection)と呼ばれる方法である。行為者としての「熊が(ursus)」「兄が(frater)」と、受動者としての「熊を(ursum)」「兄を(fratrem)」と異なるのである。
何が何とどうなっているのかという関係を、単語が示唆している。関係のある単語をわざわざ近くに置かなくても、単語そのものが、それと関係のある他の単語を指し示してくれる。
発音も同様に、単語の機能を指し示すことが出来る。「行為者をゆっくり、もしくは、高いピッチで発音する」というルールを決めれば、どれが行為者であるかを迷うことは無い。
抑揚(intonation)は、英語でも、陳述文と疑問文の区別に良く使用される。
 
他には、非指示的単語を別に用いることが出来る。何かの物事は指し示さずに、単語の機能を表す機能語(function word)である。
日本語のように、単語のあとに接辞(particle)をつけることによって、その単語の「主題」「行為者」「受動者」「所有者」などの機能を指し示す。
 
以上の3つ、語順、屈折、機能語は、基本的な選択肢である。
どれか1つを選んだら、それが文法である。単語の羅列が、人間言語となる。
 
さて、なぜ文法が必要なのかという問いに答えることが出来る。
文法とは本質的に、指示語彙単独では表すことが出来ないある種の必要な意味を表現するための、有限の装置一式である。
 
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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第1章でみてきたように、文法は、原理的に、語順派生機能語という装置から成る。
それらは、参与者の役割を区別したり、どのように要素と要素が関わっているのか説明したり、発話の機能を目出させたりするような問題を解決するのに必要な装置である。
では実際に、どうして文法が難解に見えるのか。
それにはいくつかの理由がある。
ひとつは、基本的な文法の装置は、その他の要素と一緒に機能するからである。単語は自然に機能別に分類される。そして、それらが合わさって、より高レベルな構造へと結合する。
 
Word classes
私たち、人間や物が関わる出来事や場面として世界を知覚している。
言語はこの観点を非常に良く表している。英語には出来事や場面を表す単語があるし、その参与者を表す単語もある。そして、それらに共通する質を表す単語も見出すことが出来る。
それから、要素同士の関係を知覚しているし、それを示す単語がある。
以上の分類は、弁別的な単語の文法的な分類や品詞(parts of speech)の存在を示唆するものではない。
'hit(打つ)'と'boulder(丸石)'は文法的な違いが無いが、行動と物という区別によって、動詞や名詞などと区別される。この2つは、ただ単に意味が異なるだけなのだ。
この2つの単語を別々の語と分類する理由は、コミュニケーションにおいてそれらが別々の機能をもって居ることを表すために、文法的な表示が必要だからである。
語順や派生など、この区別を付けるためのメカニズムを一度決めれば、自ずと単語は、参与者と出来事・場面の2つに分類される。
ここからは文法の領域である。
'food'や'car'は名詞(noun)として、特定の文法的な役割を担い、'fall'や'see'は動詞(verb)として、名詞とは違う文法上の役割を担っている。
 
このように、全ての言語で名詞と動詞、その他の品詞を区別している。
単語の区分には、この世の物を指し示す内容語(content word)や、言語内の関係性を指し示す機能語(function word)や、その他のさまざまな自然に別れる区分がある。
1つの言語の中にも、明確な区分がある訳ではない。英語の品詞は、冠詞(article)、名詞(noun)、動詞(verb)、形容詞(adjective)、副詞(adverb)、代名詞(pronoun)、前置詞(preposition)、連結(junction)、感嘆詞(interjection)などがある。
しかし、この区分にはあいまいな部分がある。'my'は形容詞に分類されてきたが、'green'や'difficult'よりも形容詞らしくない。近年は限定詞(determiner)と呼んでいる。
いわゆる代名詞というものはあまりにも多くのものを含んでいるし、'tomorrow'は名詞か副詞かはっきりしない。そもそも副詞というのが雑多な分類で、いろんな修飾語(modifier)や他のカテゴリーに入れられないものが一緒になっている。
結局のところ、英語の品詞というものは、我々がその区分を決めるのにどれだけこだわるか、に依るのである。
 
意味上の伝統的な品詞分けは、単語の分類と言う文法的な機能であり、単語を分類しただけであり、それだけでは意味をなさない。
どのように発話を構築するかによって、さまざまな分類の単語を用いて、とある意味が表現される。
例えば、火山が噴火したとき、伝えたい内容によって'erupt(噴火する)'と'eruption(噴火)'を使い分けなければならない。だが、伝えたい内容は同じなのだ。
 
単語の分類のあいまいな境界線は、世界と言語の不可避な誤差を招いている。
物は名詞で、出来事は動詞で、質は形容詞、というように、言語の分類が、私たちが知覚しているそのままの出来事と等しいものであるなら便利だろう。
しかし、当然違うのだ。世界はと巨大で、とてつもなく複雑である。カテゴリーはお互いに混ざり合っている。
'tree'は物だが、'fire'と'rain'は物だろうか。'up'は質か、関係性か、状態か。
私たちが知覚してい世界をそのまま、限られた品詞に分類することは出来ない。私たちの持っている言語学的で概念的な押し入れには入りきらない程、世界にはたくさんの事象がある。
したがって、単語同士の境界は曖昧で、言語に依ってそれぞれに異なっているのである。
 
Code and message: from word to phrases
即席的で簡単な分析では、言語を、メッセージ(message)を構築するために使用されるコード(code)であると言うことが出来る。人名や地名から、一般名詞、一般動詞に至るまで、言語に属する単語はコードアイテム(code item)である。
実際の言語使用において、言語で特定の机に関して述べることも、机と言う家具の種類についても、ある型の机についても述べることが出来る。
特定なものと一般のものに関する切り替えはどうなっているのだろうか。
 
文脈が大きな役割を果たすだろう。
食事中に「塩とって」と言えば、コードアイテムの「塩」は効果的に働き、メッセージを伝えることが出来る。
しかし、突然「セーターとって」と言ったらどうだろうか。どのセーターを指し示しているのか分からないし、発されたコードアイテムはメッセージを伝えることが出来ない。適切に伝えるためには「私の」「古い」「黄色い」などの複数の語を用いることで、特定のセーターを指し示すことが出来る。
 
'my old yellow sweater'という塊、句(phrase)は、メッセージとしての言語の集合である。これは、'my','old','yellow','sweater'の、コードとしての言語の集合とは異なる。
発話とは、語の羅列ではない。発話は句の結合した連続である。それぞれが伝達するべき発話の要素と関係している。
誰が?という質問には名詞ではなく名詞句'that old man'で答える。
どこで?という質問には前置詞ではな前置詞句'in the town hall'で答える。
'The doctor said she was baffled'の'she'は名詞ではなく名詞句'the doctor'を参照している。
語順の変更も普通、句を単位に成される。
'Mrs Porter came round the corner'を'Round the corner came Mrs Porter'ということは出来るが、'*Porter round the corner came Mrs'とは言えない。
しばしば句を分解すると、英語のように疑問文になったりするので、句内の構造と位置は要注意である。
 
句は、構成要素である語が並べられたものとして登場し、息継ぎに区切られ、抑揚の曲線でまとまりを成している。
しかし、形式上のつながりだけではない。古典ラテン語は形容詞と名詞の間に他の句が入り込むことがある。ドイツ語は、不定詞と過去分詞が節(clause)の最後に置かれ、動詞句が分割されることで悪名高い。
 
Clauses
1つの句は1つのメッセージを成すことが出来る。'More coffee?'
もっと場面や過程に関して詳細な情報を伝えたい時は、複数の句を組み合わせて、より高レベルな節(clause)を成すことが出来る。
典型的な節は、少なくとも、ひとつの動詞句(VP; verb phrase)とひとつのの名詞句(NP; noun phrase)から成っている。(動詞句という用語は、文法学者によって、助動詞の扱いが異なるので要注意である)
付随的な情報に関しては副詞句や前置詞句など、その他の要素を用いて表す。
 
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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Subject and object
節構造は、行為者や受動者などの、参与者の役割を指し示す。英語は、節の中で異なる語順をもち、主体/主語(subject)客体/目的語(object)の文法的カテゴリーを区別する典型例である。
 NP(S)  VP  NP(O) 
参与者が2人、または2つ以上の場合、英語では直接(girect)間接(indirect)の2つの目的語の区別を設定した。間接目的語は前置詞(I gave £500 to the hospital.)か語順(I gave the hospital £500.)の機能に依って区別する。
主語と目的語は、Iとamなど、その形態によって区別することが出来るし、主語と動詞の文法的な一致(agreement)によってもわかる。目的語と動詞の一致はない。
 
主語や目的語という、わかりにくい文法的カテゴリーが無い言語も存在するだろう。
普通、行為者は主語として文法的に現れるが、英語では、必ずしも主語が行為者ではない
'I don't enjoy the opera.'は一人の参与者が他の人に何かをするような、行為者-受動者の関係ではない。
英語やいくつかの言語は、行為者-受動者の関係のために作られた、文法的構造、主語-動詞-目的語を採用した。そして、その主語-動詞-目的語で、経験者-被経験者、知覚者-被知覚者などその他の参与者の関係性も表し、紋切り型に、参与者を、1つは主語、もう一方は目的語として記号化した。
どんな関係性でも、生物、特に人間は主語として選ばれることが多く、世界の人間中心的な捉え方と一致している。このような偏向は選択基準(selection criteria)に反映されており、'enjoy'や'see'などは生物でなければ主語になれない。
この偏向は特定の談話(discourse)の意図により無効となることがあるが、詳しくは5章で。
 
厳密に言えば、参与者の役割はいつも文法的に特定される必要は無い。文脈や共通の知識のなかで示唆されることがある。
'Trew the TV John's father through the window.'は見慣れない語順で理解に時間がかかるが、この出来事に関して全く疑うところは無い。テレビは決して人を投げないからだ。
しかし、予測しやすい決まった語順に従い、意味の含みを明白にして重複(redundancy)を避ければ、理解するのがもっと簡単になる。
結果、英語話者は、必要性に関係なく、文章が、文法的な主語を必要とするあいまいな行為者-受動者関係を持つかのように、文章を構成することを強制される。
これは参与者が一人の場合も当てはまる。
'London Bridge is falling down.'では'London Bridge'が主語であるがその役割を特定する必要は無い。もちろん行為者ではない。
(バスクに代表されるような言語では、'Lodon bridge'が他動詞(transitive verb)の目的語と同じ格表示がなされる。)
もし参与者と呼ばれるものが無く、主語候補が無かった場合、英語では'it'を使う。
全ての言語がこのような主語-動詞(-目的語)構造に当てはめなければいけない訳ではない。ダコタ語(Dakota)やリス語(Lisu)では、主語と目的語の文法的な区別を、曖昧さを回避する必要性がある時にしか行わない。
以上のような一般化は言語の働きの特徴である。
 
Mood
節構造のその他の機能は、心的態度/法(mood)を表すことである。
尋ねているのか、教えているのか。この世で起こったことについて話をしているのか、起こっていないことなのか、起こりそうなことなのか、起こって欲しいことなのか。
このような内容を表現するには、他の文法的な語を付け加えるのが一番簡単だ。英語では'perhaps'や'possibly'をつければ確定的ではないことを表現出来る。フランス語では疑問の接辞'est-ce que'を最初につける。
少し複雑にすると、動詞や動詞句を入れ替えることで関連することを表現出来る。「わかり-ます」を「わかり-ません」に替えれば否定の表現となる。
もっと複雑なものは節構造そのものを変えてしまう。英語では語尾の抑揚を上げると疑問を表すことが出来るし、語順を動詞-主語にかえればよい。もっとも一般的には主語-動詞関係を複雑に組み替えてしまう(She went.→Did she go?)。
その他には、英語では'can'や'must'などの助動詞も頻繁に使われる。
 
Analysing phrases andclauses
'my old yellow sweater'などの句構造は単なる語の塊ではない。1つの'sweater'という単語が、他とは異なる身分にある。この句は特定の'sweater'であって、特定の'yellow'ではない。つまり、この名詞句に置ける主要部(head)が'sweater'で、残りの3つは修飾語である。
'old'と'yellow'は典型的な形容詞で'sweater'の質を示す。
'my'は、冠詞や数量詞(quantifier)などと同じ限定詞(determiner)のひとつで所有代名詞(possessive)と言う。限定詞は、形容詞とは異なり、名詞の意味をかなり大きく制限するものである。
このような名詞句の分析の方法として、形容詞が名詞を修飾し、限定詞が、形容詞と名詞全体を修飾すると言う構造がある。
 NP[ my [[ old yellow ] sweater]]
節も句、と同じく、構成要素へと分解することが出来る。このような分析は形式と機能の理解にとても便利である。
'my younger brother'は形式的には名詞句だが、節の構造では主語の機能をもつ。簡単に、以下のような節の分析が出来る。
 my younger brother has bought a new house in the country
 NP[my younger brother ] VP[has bought ] NP[a new house ] PP[ in the country]
 Clause[ Subject Verb Object Adverbial ]
 
Clauses inside clauses
出来事や状況の参与者が人間や物である必要は無い。状況が他の状況を引き起こすことがある。
このような筋書きは、単純なNP-VP-NP構造、もしくは主語動詞目的語関係よりもかなり複雑な構造となる。
この場合英語では、2つの節を統合し、節がそれぞれ主語、目的語、補語などの役割を果たす。また、大きな節の構成要素としての小さい節は、接続詞'that'などの印が付けられる。
 [The fact that she had lost her keys] caused a problem.
 The problem was [that she had lost her keys].
節が、時間や場所、原因など、副詞的な役割を果たすこともある。この時は特定の接続詞に依って節の結びつきが表される。
 [After she had lost her keys] she went to the police.
 She went to the police [because she had lost her keys].
また節は、名詞句に埋め込むことが出来る。
形容詞を用いた質の表現以外で名詞を限定したいとき、場面や出来事を参照することが出来る。
 the sweater [that Lucy gave me]
このような方法で名詞を修飾するものを関係詞節(relative clause)と呼び、英語では'that'の他、'whitch'や'who'などによって表される。
 
英語では完全な節は定動詞(finite verb)と呼ばれるものを中心に構築される。例えば、'goes'や'travelled'、'will play'など時制を含んだ動詞である。
'gone'や'to travel'、'playing'などの非定形(non-finite form)は大きな節に埋め込まれる、節のような構造の核となることが出来る。
 To travel hopefully is better than to arrive.
 I will never forget playing in that match.
埋め込まれた節は自らも他の節を埋め込むことが出来る。埋め込み文は永遠に続ける事が出来る。この再帰(recurson)はいくつかの書記形態において共通である。
 
The units of language
この章では、単語はコードであり、句がメッセージであるような言語の単位で話をしてきたが、これは簡易化されたものである。
多くの英単語は、意味を持つ小さい要素、形態素(morphome)で構成されている。例えば'walk-ed'、'un-happi- ness'がそうである。
かなり複雑な形態素の構造をもつ言語もあり、その点で単語と句の区別が曖昧になってくる。詳しくは4章で。
 
高レベルな構造は、文法的目的からでも個人の主観からでも、さまざまな方法で、より小さな単位に分割される。
'She went to the police because she had lost her keys.'は2つの分析方法がある。
階層的な分析により、後の節は前の節の副詞的な構成要素と見なすか。それとも、水平な分析により、2つの節が接続詞によって結びつけられていると見なすか。
さまざまな世界の言語の構造を研究してきた文法学者たちは、構造の原則や基礎単位に関してそれぞれ異なる見解をもっているし、かなり異なる文法を提唱している。
少なくとも、著者の本棚の言語学事典に依れば、認知文法(cognitive grammar)、関係文法(relational grammar)、語文法(word grammar)、テキスト文法(text grammar)、主辞駆動句構造文法(head driven phrase structure grammar)、一般句構造文法(generalized phrase structure grammar)、モンタギュー文法(Montague gramar)、変形文法(trasformational grammar)、依存関係文法(depentency grammar)、成層文法(stratificational grammar)、体系文法(systemic grammer)とあと20個程の項目がある。
 
このような多種の文法も、基本的には、NPのような形式的単位か、主語のような機能的単位かによって大きく二分される。
生成文法(generative grammar)に代表されるような、形式的(formal)な観点では、多少なりとも統語論(syntax)を自律したものと考える。
統語は、意味や機能を分析しても見つけることが出来なく、人間の認知能力の構造を反映したもので組織されている。あるいは、認知能力の一部を成す言語のシステムとして仮定される。
一方、機能的(functional)な観点では、言語が果たす機能の面から言語の構造を捉える。
これは、コードを用いて世界を表現したり、メッセージのやり取りを出来る為の心的システムが、人間言語に観察される構造的な特色を持っていなければならないと、考える。
もちろん、この2つの折衷的な立場も可能である。
文法は意味のやり取りの為に存在するが、一度存在してしまうと、文法は自律的になり、表現すべきことだけでなく人間の認知組織と一致するような、機能的でかつ自動的な特徴をもつのである。
 
正解が何であれ、このような文法学者同士の意見の不一致は、原則的に単純な統語論のメカニズムを、現実の言語の特色を表すように、かなり複雑な構造にしてしまった。
人間のコミュニケーションの特色である表現の創造性と広がりを可能にするのがこの複雑さである。
そしてそれは、世界中の言語で異なる方法で実現されているのである。
 
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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文法の仕組みは、規則は簡単でも、とても複雑にする事が出来る。
言語と言語は、どれだけ異なるのか。
言語を構成する、単語クラスにも違いがあり、さらに基本的な文法の効果を、語順、屈折、機能語から選択し、それらによって表現する付加的な意味も異なる。これらの違いの実例を述べていこう。
 
Word classes
英語話者は、全ての言語が、有名な9つぐらいの「品詞」を持っていることが当たり前だと思うだろう。しかし決してそうでは無い。英語の文法の分類は全く普遍的でない。
名詞、動詞、形容詞、副詞は多かれ少なかれ、普遍的なカテゴリーであるが、その構成員は言語ごとに異なっている。特に、形容詞と副詞は、英語のような大きいカテゴリーあるとも限らない。スワヒリ語(Swahili)の形容詞は50語で、閉鎖的なグループを成し、アマゾンのジャラワラ語(Jarawara)では14語、ニジェール・コンゴ語族(Niger-Congo)のイボ語(igbo)では8語である。
オーストラリアの言語は一般的に、英語で前置詞と呼ばれるものが無いし、カリブ(Carib)の言語は接続詞や関係代名詞がない。
これらの言語が、それらに適当な概念を論ずる事が出来ないという事ではない。形容詞で表されるような性質は、それらの言語では名詞や動詞として、問題なく記号化されている。ハウサ語(Hausa)の「硬い木」の表現は「硬さのある木」、「それは硬いです」は「それは硬さを持っている」という表現になる。
 
多くの言語は、英語話者にはエキゾティックに感じられるような語の分類を持っている。
英語では、抽象概念を表す前置詞を、動詞を用いても表現出来る。たとえば、'facing'を'opposit'の意味で用いる。フィンランド語(Finnish)は多くの時空の関係を、名詞の終止で表現する。
ケチュア語(Quechua)は、英語で人称代名詞を用いるところに接辞を用いる。'you hit me'が'Maqa-(hit)'に接辞がついた単語となる。
タガログ語(Tagalog)では丁寧の表現である'po'と'ho'が、希望や推測や質問の表現である法(mood)と同じように付け加える。
日本語には名詞の後に付く助詞(て、に、を、は、が、か?)があり、それによって文法的な関係性を指し示す。
樺太周辺で話されているニヴヒ(Nivkh)語では様々なものを数えるために26の基数のサブシステムがある。このようなシステムは多く、数字と数える単位である分類詞(classifier)を含むものである。
この分類詞の選択は、続く名詞の分類に依る。標準中国語(Mandarin Chinese)では2つの本を数える時は'liang-ben'、机や地図や紙は'liang-zhang'、行事や服は'liang-jian'、麦や砂や米などの粒状のものは'liang-li'、二ユースや蛇などは'liang-tiao'である。英語でも、'three blade of grass(3枚の芝の葉)'のような表現を用いる。
分類詞はとても多くなることがあり、タイ語(Thai)では60種類以上ある。
 
名詞の分類や性(gender)は様々な多くの言語で見られる。
アフリカの言語は20もの性の分類を持つ事が出来、多くのインド・ヨーロッパ語族では男性(masculine)、女性(feminine)、中性(neuter)と呼ばれるような、3つか2つの性を持っている。
性はそれぞれ、異なる冠詞、形容詞、動詞などの形式を必要とする。以下はフランス語の例である。'the report/letter that I have written'に対応する。
 le long rapport que j'ai écrit (repportは男性名詞)
 la longue lettre que j'ai écrite (lettreは女性名詞)
しばしば性は意味論上の偏向によって分類されるが、標準中国語ではまったく恣意的で予想出来ない。
インド・ヨーロッパ語でもそうで、スペイン語では「手」と「耳」が女性名詞で、「足」と「目」が男性名詞である。フランス語では「太陽」が女性名詞で「月」が男性名詞だが、ドイツ語では逆である。また、ドイツ語では「ナイフ」、「フォーク」、「スプーン」がそれぞれ中性、女性、男性である。
男性に関する事が男性名詞で、女性に関する事が女性名詞になる傾向があるが、以下のものはでたらめである。フランス語で'sentinelle(見張り番、歩哨')は普通、男性の仕事だが、女性名詞である。ドイツ語の'Mädchen(少女)'は中性名詞である。
 
Structual types
言語は、それら利用している文法のタイプで区別し分類する事が出来る。
伝統的なものは、言語の構造を基礎とする形態論(morphology)である。
ベトナム語や中国語のような、孤立語(isolating language)あるいは分析言語(analytic language)と呼ばれる言語は、単語はまったく形を変えない。文法関係は語順と機能語によって示される。
ロシア語やギリシャ語のような、屈折語(inflecting language)や総合言語(synthetic language)と呼ばれる言語は、文法的な地位を示すのに、単語がことなる形式をとる。
トルコ語やナバホ語のような、膠着語(agglutinating language)は、極端に言うと、一連の形態素をすべて単語に包合(incorporating)してしまう。
 
この分類では、英語は孤立語の端の方に位置するだろう。
英語の祖であるアングロサクソン語は、名詞、代名詞、形容詞と動詞が様々な形式をとり得る、形態論的に複雑な言語であった。現代英語では、ほとのどの屈折の役割を、語順と機能語に移している。
英語には、屈折は、所有を示す'-s'と、代名詞の主語と目的語の違い、動詞の三人称単数現在の接辞と時制の語末、それから形容詞の比較の語末が残っている。また多くの派生形態素(derivational morphology)を持っているが、'un-'、'-ize'などの接辞は文法関係よりも、新たな意味の付け加えや、単語の分類を変えるのもである。
 
この分類は一般化するのに便利だが、言語が1つのカテゴリーにきっちり収まるとは限らない。
日本語は、ある部分では孤立語だが、ある部分では膠着語である。名詞は屈折せず、助詞に依って主語、目的語などの機能が示される。しかし動詞は屈折し、形態論上、幅広いの意味を表現する事が出来る。
また、このような分類はそんなに役に立たない。これらの3つの分類はそれぞれの関係性を示しておらず、役に立つ一般化に導くこともない。
現在の類型論(typology)では言語の、もっと特定の性質を比べ記述している。例えば、単語の分類の形式と数、句の構造、発音、節の構造、一致や語順の選択である。
 
Morphological complex
例えば、英語話者がロシア語で'in my garden'を書きたいと思うと、庭どころか、以下のような文法の樹海に迷い込んでしまう。
-ロシア語の名詞は6つの格をもつ。主格(nominative)、対格(accusative)、生格(genetive)、与格(dative)、前置核(propositional)、造格(instrumental)である。これらは名詞の文法的機能に対応しており、語尾に変化が見られる、屈折である。
-ロシア語の'in (v)'の後ろには、前置格が続く。その他の前置詞は、対格や生格や与格や造格が続くことがある。
-ロシア語の'garden (sad)'は男性名詞に属しているので、それらの単数の前置格は、語尾に強勢のある'-e'が付く。
-しかし、'sad'は例外的に、'v'の後では、'sade'ではなく'sadu'が使われる。
-ロシア語の'my'は9つの単数形があり、'sadu'との性と格の一致をするのは、男性で前置格形の'moyem'である。
従って、'v moyem sadu'となる。これに形容詞を付加するとまた新たな複雑な解説が必要である。
屈折語は、ロシア語のように複雑なものだけでなく、英語の機能語である'the'や'a/an'などの無害そうなものもある。しかしこれらの語も共通する言語は無く、分析や学習するには、意味や区別がとても難しいので、英語母語話者ではない人にとってはとても複雑である。
しかし、屈折語の形態論は、機能的な域を超えた、その存在が言語としてのあり方そのものであるように思える。
 
ロシア語のパターンは、多くのインド・ヨーロッパ語の現在と過去の様相の典型を表している。
ヨーロッパの子供達は、膨大な分類と例外のある、ラテン語の曲用(declension)活用(conjugation)の語尾一覧表を暗記させられただろう。
現在のラテン語の子孫たちは、ほとんどの名詞語尾を失ったが、動詞の複雑さは保ったままである。例えばスペイン語の動詞は、助動詞との結合もあわせて、最高110の形態をとる。
屈折はさまざまな機能を担っている。ラテン語の動詞の活用は、人称(person)、単復(number)、時制(tense)、法(mood)、態(voice)を表す。名詞は単復と格で屈折し、それから主語(subject)、直接目的語(direct object)、間接目的語(indirect object)と受動関係を区別する。そして異なる前置詞は、後続する語に異なる格を求める。
 
格の屈折は言語ごとに異なっている。
北アメリカのカワイイス語(Kawaiisu)では、否定文の主語は対格である。そして多くの言語で、自動詞文の主語と他動詞文の目的語が同じ格をもつ。
また、1つの屈折の中に様々な機能が合体している。
ドイツ語の'Mein Vater hat einen grossen Hund. (My father has a big dog.)'の中の'einen'の'-en'は、後続の名詞が単数の直接目的語で男性名詞である事を示している。このような音声の変化によって、現代ドイツ語は示差的な屈折が比較的少なく、ある形態がいろんな場面に出現する。異なる文脈では、'-en'は、複数、単数の属格、単数の与格、(動詞の)一人称二人称三人称複数、不定、過去冠詞などを示す。
以上のように、形態論上の変化が、接辞によってのみ行われる訳ではない。
語の一部や全体が変わる事もある。例えば英語の'foot/feet'や'bring/brought'や'be/am/is/was'である。ウェールズ語(Welsh)では語頭の音が変わる。例えば「歯」が文脈と文法的な機能によって、'dant/ddant/nhant'と変化する。
多くのアフリカの言語と同じように、バンバラ語(Bambara)ではトーンを用いる。限定的な(definiteness)名詞は、語末のトーンが下がる。
 
膠着語でも同じように、形態論上の多くの機能が、数百や数千もの複雑な構造を持った形態によって表される。
多くのネイティブ・アメリカンの言語では、動詞がさまざまな分類の接辞を包括した構造を持っており、その接辞はそれぞれ異なる文法的、意味論的な要素を表現する。
ナバホ語(Navajo)では、接頭辞が以下の順番で付く。(1)間接目的語/再帰、(2)反復のマーク、(3)複数のマーク、(4)直接目的語、(5)指示詞、(6)副詞形態素、(7)法/相、(8)主語のマーク、(9)分類。ジャラワラ語(Jarawara)には3つの接頭辞と25個の接尾辞の位置がある。
このような構造は、語と句と節の境界を霞ませるものである。
また、オーストラリアのムリンパタ語(Murrinh-patha)は目的語が動詞に包括されてしまう。'He will cut his hand'が'putmartalnu(he-hand-cut-will)'となる。
シベリアで話されているケット語(Ket)は目的語、自動詞の主語、造格、方向の副詞が動詞に包括される。カナダのヌートカ語(Nootka)では、'He invites poeple to a feat'が一単語で表される。
 
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series

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Agreement
文法関係の形態論的な印は、個々の単語を越えた一致(agreement)をなすことがよくある。単語の形態が、他の単語の文法上の分類や形態によって決まる事である。
名詞句の構成要素はよく、この方法で結びついている。一致のマーカーは比較的分かりにくいものがある。
ロシア語の'moyem'と'sadu'は、両方とも男性で単数の前置格であるが、その語尾に共通点は無い。イタリア語は冠詞だけが、名詞の分類を示している。もっとも分かりやすい例はバンツー語派(Bantu)の言語である。この語派は、名詞の分類を示す接頭辞が、名詞句を通して繰り返される。以下はスワヒリ語(Swahili)の例である。
 ki-kapu ki-kubwa ki-moja
 basket   large       one (one large basket)
主語、目的語の関係性は、名詞と動詞の一致によって示される。
インド・ヨーロッパ語族では共通して、動詞は、主語の数と人称を反映している。また多くの言語で主語が、主語の形式や位置ではなく、動詞の形式によって示されている事がある。その動詞は、その主語がある意味的で、形式的な分類に属している事を意味するような屈折である。以下はモーホーク語(Mahowk)の例である。
 Ieksá:a raksá:'a wahonwá:'ienhte'
   girl        boy      hit+'girl' class marker (The girl hit the boy)
 Ieská:a raksá:'a wahshakó:ienhte'
   girl        boy      hit+'boy' class marker (The boy hit the girl)
その他の言語では、目的語と動詞の一致が行われるものもある。また、他の言語では、主語や直接目的語と間接目的語やさまざまな情報を示唆する接辞が、動詞にたくさん付いている事もある。
一致は名詞句や動詞句だけでなく、副詞などでも行われる。英語の多くの方言や、ロマンス諸語の否定の動詞は、副詞や代名詞の否定形に対応する。
 
Meanings
ある1つの目的の為に開発された道具は、よく、後からその他の使い道がある事が分かる。計算の為に開発されたコンピューターもそうだ。今はあらゆる事にコンピューターが使われる。同じような機能上の拡散が見られるのが文法である。
第1章で述べたように、文法は、語単独では扱えない、限られた目的にとってのみ必須の装置である。その目的とは、参与者の役割を区別したり、構造的な関係を築いたり、発話の形式的な地位を築いたりすることである。
しかし、実際には、その他のさまざまな概念や関係性を指し示すのに、とても便利で経済的であることがわかった。
英語ひとつとっても、文法的な特徴が、時制、完了(perfective)進行(progressive)などの相、数、定性、人称や性、有生性(animacy)などを表す。車のような不連続なものと、空気や香りや埃などの連続したものの区別も出来る。そして、英語話者やその祖先が選んで取り入れた文法の中核によって、さまざまな意味を伝える事が出来る。
これらの概念は、細かい部分はさまざまだが、世界中の言語で頻繁に見られる。例えば、数に、英語のような単復ではなく、双数(dual)三数(trial)、不特定少数を示す少数(paucal)などの形がある言語もある。
しかし、これらの文法化は、明らかに、普遍的ではない。
英語話者は、多くの言語の文法に、時制や数がないことに驚く。それらはその他の単語を付加してその概念を表す。
そして、多くの言語は、英語には無い文法項目を表現する。ネイティブ・アメリカンやオーストラリアの言語には、可視性(visibility)という文法項目がある。話題に上がっている物が、見えるか見えないかを示す、名詞と代名詞の形式である。
また、証拠表示(evidentiality)の項目をもつ多くの言語で、話題に上がっている物事を、話者がどのように知ったかということを、動詞が示す。例えば、目撃、噂、常識や推測の違いである。
あるいは、ネイティブ・アメリカンの言語には、2つの三人称の代名詞をもつ言語がある。ひとつは話題の中心で、もうひとつはその他の人たちに用いる。
多くの言語が2種類の一人称複数を持っている。聞き手を含む私たちと、聞き手を含まない私たちである。
また、譲渡可能な所有(alienable possession)譲渡不可能な所有(inalinable possession)の区別も共通してみられる。例えば、兄弟と車の違いである。
韓国語や日本語では、尊敬や社会的地位を示すたくさんの文法的装置がある。
 
文法は、私たちの世界の知覚の基礎である意味を表現しているので、とても比喩的な能力を秘めている。
英語は、時間的な差を、その他の切り離しや疎遠を表すのに利用している。質問や依頼は、過去や未来時制を利用する事によって、より遠回しに、丁寧な表現になる。また、空間的な距離が感情的な距離を示す。例えば、'I like this music.'と'Turn off that bloody noise.'である。
多くの言語は代名詞を比喩的に用いて、尊敬を暗示する。例えばフランス語などで、一人の聞き手に対して、複数の二人称を用いる事で、丁寧さを表現する。三人称の代名詞はさらに遠回しな表現で尊敬をしめす。
 
文法には、言語ごとに異なる意味を記号化しているため、話者の知覚やカテゴライズが本当に異なっているのかという疑問はとても自然である。
言語が私たちの思考方法を定めると言う、伝統的な考えを言語相対性(languistic relativity)と言う。20世紀の上旬に、人類学と言語学が世界中の言語のより詳細な知識を蓄えて行くのとともに、この考えは新たに勢いを増した。
北アメリカのホピ語(Hopi)は時間を表現する文法が、明らかに、ヨーロッパの言語とは異なる。この事実により、エドワード・サピアやベンジャミン・リー・ウォーフなどの言語学者が、ホピ族と英語話者の時間の概念が全く異なると主張した。
サピア=ウォーフの仮説は後の調査からも指示されず、普遍文法の信仰が強まるに連れて、衰退していった。
しかし、この観点への興味は現存しており、言語と認知の関係性を調査している研究者は、ある種の言語相対性が存在していると言う証拠を探している。
 
Why is everything so complicated?
世界中の文法システムを見ると、必ず困惑するだろう。なぜこんなに複雑なのか?何のために?
ロシア人は本当に、数と性と格の形態素の難解なルールと一致した、9個の単数形と4個の複数形を持つ'my'の概念を明確に表現出来ているのか?
中国語での数の数え方は、全ての名詞の後に付くふさわしい分類詞を付ける事に依って、明らかに難しくなっている。
なぜ英語では過去の事を話す時に、いつも6個の時制と相を表す形式を使わなければならないのか、それは何かを便利にしているのか?
なぜナバホ族の人々が、話す情報の出所を全ての動詞に付け加えるのに何の価値があるのか。
ドイツ語の'good'にあたる語彙は、6つの形式を持っているが、その中の1つである'guter'は、それだけでは主格男性単数形なのか、属格女性単数形なのか、属格複数形なのかわからない。
エスペラント語のような人工言語開発者言う通り、もっと良いシステムを作れると考えるのは、ごく自然な事であるように感じる。
 
言語の複雑さに寄与している1つの要因は、歴史である。
言語の発展とともに、音声学的な変化が単語を変え、浸食し、そのために、規則的で予測可能な形式を、特異で予測不可能な語末に変わってしまった。
言語の機能が生き残ることもある。例えば、語順が機能として採用されたからと言って、格の語形変化が消える必要は無い。結果、全ての言語はゴミ箱を含んでおり、そこには使い古された機能や、時代遅れの道具が収納されているのである。
しかし、新しいものといっしょに古い言語学的な装置を保存しておく事は、有利になるだろう。このような重複はコミュニケーションを破綻しにくくするだろう。
 
2つめの要因は、規則やシステムを普遍的に用いようとする、人間の性質にある。
新たに作られたクレオール語(creole)では、時間の関係性が、数世代の間で、選択から義務へと移行して行く様子が観察されている。なぜそうなるのかは明らかでは無いが、それぞれの状況に依って適用されるのか、されないのかを判断するより、常に規則を適応させるような少ない計算が求められているのだろう。
それは、他の自動車があっても無くても、信号が赤ならば止まらなければならないのと、同じである。
 
3つめの要因は、実際のその言語の話者にとっては難しくないので、複雑な文法を整理整頓しようと思わないことである。
子供達は途方も無く精巧な言語システムを習得するのに、苦もなく、完璧に、無意識に完了してしまう。
西アフリカのフラニ語(Fula)は、形態論的に、それぞれの単語が特異な屈折の形態を取る。習得に時間はかかるが、フラニ族の成人は全く問題なく使いこなす。むしろ、英語の複数形のほうが難しい。
言語の使用者はその言語の複雑さをうまく乗り越えているどころか、彼らは複雑さを生み出している。エスペラント語を話す子供達は、完全に規則的に変化する言語に、不規則変化を持ち込んだのである。
自らの言語を複雑にするのは、外に対する城壁であり、メンバーを示すバッジとして機能する、と言われる事もある。
 
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
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