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しばらくは、オックスフォード出版から出ている
「Oxford Introductions to Language Study」シリーズの
『Linguistics』の要約を書いてゆきたいと思います。
著者はH. G. Woddowson教授。
ロンドン大学Institute of Educationの、外国語母語話者のための英語学の教授であり
エセックス大学の応用言語学の教授でもあります。



言語学とは、人間言語を研究する学問分野に与えられた名前である。
人間言語とは何か?
研究とは具体的に何を示すのか?
詳しい話をする前に、言語の本質について、一般的な観察をしてみよう。


聖書には「はじめに言葉ありき」とある。
ユダヤ教の律法集タルムードには
「神は言葉を用いて、苦痛も苦悩も無く瞬く間に、世界を創った」とある。
原始の言葉に関する記録である。

私たちは子供のころに、言葉を習得して
個として、また社会的存在としてのアイデンティティーを修得する。
言葉は、認知と情報伝達の手段であり、
それによって私たちは共同体の中で力をあわせることが出来る。

人間以外の動物も、仲間達とコミュニケーションを取ることができるが、
それは人間の言語とは違うものなのだろうか?
確かに言語は、人間に不可欠で、創造性を担っているが、
人間と動物を区別するものが言語であるとは、簡単には言えない。

鳥の求愛のダンスや歌声は実に複雑だが、それは自動的に再生されるだけである。
自由な表現を、主体的に作り出すことが出来る人間言語とは違う。
有名な論理学者であるラッセルは、以下のように述べている。
「どんなに犬が吠え立てても、
彼は、自分の両親は貧しかったが正直だったと、伝えることは出来ない」

柔軟でレパートリーが無限にあることが
人間言語の特性ならば、その性質は何なのか?

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その一つは恣意性(arbitrariness)である。
言葉の形と意味の関係は、慣習の問題であり、言語間では根本的に異なる。
いぬ dog chien
どれも、あの四本足の飼いならされた動物を示す言葉だが、
どの形も音も、これ(↓)にまったく似ていない。
014684e9.jpeg
もし言葉の形と意味に親密な関係性があったら、
日本人にとって、dogもあれ(↑)を示すということを、理解しにくくしてしまう。

韓国語で
「9、九つ」のことを「アホ(ッ)」と言うが、
そんな感覚に似たようなことが起こるのだろうと、私は思う。

しかし形と意味の間に、まったく関係が無いわけではない。
擬音語(オノマトペ)などが良い例である。
「bark」は実際の犬の鳴き声と深い関係がある。
でも、フランス語(aboyer)や日本語(吠える)とは全然似ていない。
自然と言語の間にどんな関係があるのか、
なかなか説明はしにくい。

実際、言葉の形と、意味との関係が希薄であることは、とても便利なのである。
たとえば「らくだ」。英語でも「camel」だが、
これは、そのほかのもの、「馬」や「鹿」など、と区別するのに大変便利な言葉である。
アラビア語では「らくだ」を示すのに、
日本語には無い、たくさんの単語がある。
英語では、「dog」は細かく「hound」「mastiff」「spaniel」「terrier」「poodle」に分かれる。
すべて犬に関する単語だが、それぞれに形の関係性は無く、
どれも「dog」との形の関係も無い。
逆に、「spaniel」と「spanner(工具のスパナ)」に意味上の関係は無く
「poodle」と「nooble(麺)」の意味上の関係もやはり無い。

以上のように、言葉の形と意味との関係は、とても恣意的である。

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そして、恣意性に次ぐ性質が、二重性(duality)である。
人間言語は、2つの要素に分けることが出来る。

話し言葉で言えば、
まったく意味の無い要素(音)と、意味である。
/s/と/z/の違いは、
声帯が揺れているか、揺れていないかの、物質的な違いだけである。
しかし、この2音が/feɪ/という音の後にくっつくと、
「face /feɪs/」、「phase /feɪz/」の意味の違いを生じる。

話し言葉では
音と文字という二つに分かれる。
「sow」という英語は、/sɔʊ/と読めば、(種など)を蒔く、という動詞になり、
/saʊ/と読めば、メスの豚と言う言う意味になる。
逆に/saɪt/と言う発音には、「cite」「sight」「site」の表記がある。

このような恣意性二重性が、
人間言語特有の、柔軟性と創造性を担っているのである。


*国際音声記号に関しては別のコラムで詳しく書きます。

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前回、前々回では、人間の言葉の特徴について述べた。
それでは、
言語は、人間という種の、特異的なものなのだろうか。
犬には犬の言語があるかもしれない。
犬はお互いに、自分の両親がどんな犬だったかを語り合えるかもしれない。

このような疑問を確かめるのに、
人間言語を、他の動物に教えるという試みが数多く存在する。
最も盛んだったのが、チンパンジーの調教であった。
しかしこの実験は、
チンパンジーは人間言語を話すことが出来る発声器官を持っていない
と言うことを明らかにしただけであった。

学者は他のものを使って、どうにか人間言語らしいものを教えようとした。
ワショーという名のチンパンジーは、アメリカ式手話を習得し、
4年後には80種類ほどの手話を使い分けることが出来たという。
サラは、色と形の異なる複数のプラスチックのチップ使い、
ラナは、コンピューターのボタンを使い、かなりの種類の記号を覚えることが出来たという。
もちろん、
記号となるチップやボタンと、それが示す意味はまったく恣意的なものであった。
例えば、赤の四角がバナナを意味する、などのように。

しかしこの結果を見ても、腑に落ちない点がいくつかある。
人間により強制され、厳しい教育を受けた割りに、まずまずの結果であることだ。
人間の子供は、強制されずに流暢に言葉をしゃべることが出来る。
また、自然とは懸け離れた環境におかれた動物達の結果を、
どう解釈すればよいのかも、議論の余地がある。

チンパンジー達は、新しく得た言語を、仲間同士で使おうとは思わなかった。
言語を学ぶ能力があるなら、
なぜ、それを利用しようとしなかったのだろうか。

彼女達の「不自然」な習得は、不自然な言語でしかない。
チンパンジーは既に、私たち人間が言語とは思わないような、
目と口を使った、とても複雑で適切な信号伝達のシステムを持っているのだ。

結局この試みで分かった事と言えば、
私たちは、人間の言葉以外の言語を思いつくことが出来ない、
ということである。

ワショーについての詳しい記述は、
ロジャー・ファウツ著 『限りなく人類に近い隣人が教えてくれたこと』 2000 角川書店
にある。私は未読だが、参考までに。

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さて、言語は人間特有のものであるのか、という問いについて話をしてきたが
答えはこうである。
「言語を人間言語と定義し、特定の構造の性質に重きを置くならば、
当然ながら、言語は人間に特有のものであるだろう。」


そして新たな疑問が生じるだろう。
言語は、遺伝的、先天的才能として生まれ持ったものであるのか。

「人間」と言う種に生まれたことが、
遺伝子レベルで特異なものであるということも出来るだろうが、
料理をし、服を着ることが、遺伝子による行動だと言えるだろうか。
サルに、自ら人間言語を学ぶように説得することは出来ない。
チンパンジー達は人間のマネをすることは出来るが、それは偽物でしかない。
人間が言語を扱うということは、
他の動物たちには実証できない、種に普遍的な特徴である。
したがって、遺伝子の功績(genetic accomplishment)である。

それでは、遺伝的な才能 (genetic endowment)であるのか。
これには議論の余地がある。
この問題は、言語学者のノーム・チョムスキーが研究している課題である。

言語が人間特有なものであるということは、
説明しがたい事実によって証明されている。
その一つが、あまりにも簡単に、子供達が言葉を覚えることである。
オウム返しのモノマネではなく、
聞いた事の無いような発話をすることが出来る。
聞いた事の無い発話…
「黄色いカラスが、机の上で跳び箱を壊す」のような。

習得とは、物事の蓄積だけではなく、調整をすることが必要である。
この調整をする能力として、
チョムスキーは言語習得装置(LAD:Language Acquisition Device)を提案した。
実際に出会った言語データから、規則を抽出する能力である。
そしてこの装置は普遍文法(UG:Universal Grammar)を備えている。
UGは排他的な文法構造の共通する規則のセットであり、
言語の要素によって、異なる設定が与えられる。

子供は、言語の文法規則を、すべて頭に刻み込む必要は無い。
テレビの設定画面で、明るさ、コントラスト、音量を調節するように、
あらゆる言語に共通する項目(要素)について、
日本語なら日本語の、
決まった値に設定することが出来る装置が、LADである。

要素は、先天的で、既に用意されており、人間の遺伝的な部分である。
設定は、環境、周囲で使われている言語によって変わる。
つまり、要素に関して言えば、すべての言語は似ており、
設定に関して言えば、すべての言語は異なっている。

チョムスキーによると、
人間には、種に特有の、言語に関するプログラムが装備されており、
それは人間の他の能力とは、本質的に異なっている。

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言語学が大好きな一般人のブログです。 過去の記事は、軌跡として残しておきます。
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