[1]
[2]
会話と言うものは、人間の営みの中で、最も興味深いもののひとつである。
人間は皆心を持っていて、頭の中は思考と感情と思い出で充満されている。
これらを他他者に伝えるために様々な手段がある。
文字は便利だ。良い文章は、とても明快に筆者の意見が伝わってくる。
手話やポインター、パソコンのスクリーンは、話すことができない人にとってとても便利な手段である。
芸術作品は、たとえ故人の作品であっても、作者の内面世界を強烈に伝えてくれる。
ジェスチャーと表情は、多くの動物たちも用いている、行為の詳細をつたえる手段である。
しかし、私たちが最も頻繁に使っているのは、人間だけが出来る、会話、である。
The speech chain
会話のプロセスは、大きく3つにわかれる。
①肺や喉と頭を使って、音声を作り出し、②その音声が波として空気中を通り、③聞き手の耳によって受け取られる。
しかし実際はそんなに単純ではない。
話者は脳で音声の生成を調節し、聞き手は、聞いた音声を分析して意味ある文章に変換する。
実際に、話を「聞き流す」ことが出来る以上、音声の理解には脳による制御が必要である。
人は一連の波を作り出すだけでなく、同時にそれらを脳に蓄積してゆく。自分が今何を話しているかわからなければ、会話は困難になる。
近年の音声科学では、会話中の脳の動きがわかるようになった。
もっとも重要なのは、安全で正確な脳のスキャン技術の発達である。
Phonetics
会話は複雑な過程を経ており、その研究には、ひとつの科学的分野が必要である。それが音声の科学(the science of phonetics)である。
この本では音声学の主な部分と、なぜそれが重要であるかを述べてゆく。
はじめは以下の2つについて重点的に述べる。
どのように、しばしば分節(segment)と称される、音声(sound)が作られるのか。
それから、学者がそれらをどのように、科学的に区分するのか、である。
これは基礎的な母音(vowel)と子音(consonant)の区分が基盤となっている。
そして、記号(symbol)の使用も重要な側面である。
音声学は、ひとつの音にひとつの記号が対応しているような表記体系を使わなければならない。
例えばフィンランド語やイタリア語の文字は発音どおりに書けばよい。
けれども世の中には、表意文字(ideographic)という、記号が音を表さない文字がある。
代表的なものが1,2,3...の数字である。多くの国で通用する記号だか、発音は地域ごとに様々である。
19世紀の音声学の最も重要な進歩は、国際音声記号(IPA: International Phonetic Alphabet)の制定である。
英語の表記は必ずしも発音と対応していないので、発音表記(phonetic transcription)を用いるのはとても便利である。
この本で用いるのは、BBCアクセント(BBC accent)と呼ばれる発音である。
かつては容認発音(RP: Received Pronounciation)と呼ばれていたが、誰に許容されているのかも分からないこの名称であるために、研究の対照にしにくかった。
BBCのアナウンサーがすべて同じ口調であるとは思わないし、アイルランドやスコットランドやウェールズなどいろいろなアクセントを持ったアナウンサーも居る。
そのためにはまた別の書き方をしなければいけない。
しかし、ラジオかテレビがあれば、誰もが聞ける発音であることは重要である。
IPAを使うと英語を以下のように書くことが出来る。
綴り she bought some chairs and a table
IPA ʃi bɔ:t səm tʃeəz ən ə teɪbl
このような記号で表す、その言語の示差的な音声を、音素(phoneme)といい、
その記号体系を音素記号(phonemic symbol)と言う。
あるひとつの言語の発音に関して表記するとき、それを/スラッシュ/で囲む。
すべての言語に共通した音、または音素の特徴的な発音、異音(allophone)、を表記するときは[かぎ括弧]で囲む。
音声学の関連した他の学問分野では、まず、解剖学(anatomy)と生理学(physiology)がある。
この二つはどのように肉体で音声が作られるかを研究する。
空気中でどのように声が伝わるのかは、物理学の一分野である、音響学(acoustics)の範囲である。
人間がどのように耳で音声を聞いているかは、聴覚科学(audiology)、脳がどのように言語を受け取っているのかは、認知心理学(cognitive psychology)の範囲である。
Phonetics and linguistics
音声学は言語学の一部分であることを忘れてはいけない。
音声学の前に、基本的な言語学の概念を理解するべきである。
まず、音声学ではとてつもない量の人間の音声を扱うが、ひとつの言語で違いが認識されているものは、少ししかない。それが弁別的音声、音素(phoneme)である。
フランス語では/tu/の母音が入れ替わって/ty/になると、違う意味を示す。
しかし英語で/tu/が/ty/になっても、意味の違いを生じない。
これは、フランス語と英語で音素が異なるからである。
言語学は人間言語のすべてを包括する学問である。
統語論(syntax)のように、複雑で抽象的な概念を扱う分野や、音声だけしかデータのない、方言の研究をする分野もある。
19世紀後半の有名なイギリスの学者ヘンリー・スイートによると、
音声学は言語学に絶対不可欠な基盤である。
この主張は100年経っても変わっていない。
参考文献
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
人間は皆心を持っていて、頭の中は思考と感情と思い出で充満されている。
これらを他他者に伝えるために様々な手段がある。
文字は便利だ。良い文章は、とても明快に筆者の意見が伝わってくる。
手話やポインター、パソコンのスクリーンは、話すことができない人にとってとても便利な手段である。
芸術作品は、たとえ故人の作品であっても、作者の内面世界を強烈に伝えてくれる。
ジェスチャーと表情は、多くの動物たちも用いている、行為の詳細をつたえる手段である。
しかし、私たちが最も頻繁に使っているのは、人間だけが出来る、会話、である。
The speech chain
会話のプロセスは、大きく3つにわかれる。
①肺や喉と頭を使って、音声を作り出し、②その音声が波として空気中を通り、③聞き手の耳によって受け取られる。
しかし実際はそんなに単純ではない。
話者は脳で音声の生成を調節し、聞き手は、聞いた音声を分析して意味ある文章に変換する。
実際に、話を「聞き流す」ことが出来る以上、音声の理解には脳による制御が必要である。
人は一連の波を作り出すだけでなく、同時にそれらを脳に蓄積してゆく。自分が今何を話しているかわからなければ、会話は困難になる。
近年の音声科学では、会話中の脳の動きがわかるようになった。
もっとも重要なのは、安全で正確な脳のスキャン技術の発達である。
Phonetics
会話は複雑な過程を経ており、その研究には、ひとつの科学的分野が必要である。それが音声の科学(the science of phonetics)である。
この本では音声学の主な部分と、なぜそれが重要であるかを述べてゆく。
はじめは以下の2つについて重点的に述べる。
どのように、しばしば分節(segment)と称される、音声(sound)が作られるのか。
それから、学者がそれらをどのように、科学的に区分するのか、である。
これは基礎的な母音(vowel)と子音(consonant)の区分が基盤となっている。
そして、記号(symbol)の使用も重要な側面である。
音声学は、ひとつの音にひとつの記号が対応しているような表記体系を使わなければならない。
例えばフィンランド語やイタリア語の文字は発音どおりに書けばよい。
けれども世の中には、表意文字(ideographic)という、記号が音を表さない文字がある。
代表的なものが1,2,3...の数字である。多くの国で通用する記号だか、発音は地域ごとに様々である。
19世紀の音声学の最も重要な進歩は、国際音声記号(IPA: International Phonetic Alphabet)の制定である。
英語の表記は必ずしも発音と対応していないので、発音表記(phonetic transcription)を用いるのはとても便利である。
この本で用いるのは、BBCアクセント(BBC accent)と呼ばれる発音である。
かつては容認発音(RP: Received Pronounciation)と呼ばれていたが、誰に許容されているのかも分からないこの名称であるために、研究の対照にしにくかった。
BBCのアナウンサーがすべて同じ口調であるとは思わないし、アイルランドやスコットランドやウェールズなどいろいろなアクセントを持ったアナウンサーも居る。
そのためにはまた別の書き方をしなければいけない。
しかし、ラジオかテレビがあれば、誰もが聞ける発音であることは重要である。
IPAを使うと英語を以下のように書くことが出来る。
綴り she bought some chairs and a table
IPA ʃi bɔ:t səm tʃeəz ən ə teɪbl
このような記号で表す、その言語の示差的な音声を、音素(phoneme)といい、
その記号体系を音素記号(phonemic symbol)と言う。
あるひとつの言語の発音に関して表記するとき、それを/スラッシュ/で囲む。
すべての言語に共通した音、または音素の特徴的な発音、異音(allophone)、を表記するときは[かぎ括弧]で囲む。
音声学の関連した他の学問分野では、まず、解剖学(anatomy)と生理学(physiology)がある。
この二つはどのように肉体で音声が作られるかを研究する。
空気中でどのように声が伝わるのかは、物理学の一分野である、音響学(acoustics)の範囲である。
人間がどのように耳で音声を聞いているかは、聴覚科学(audiology)、脳がどのように言語を受け取っているのかは、認知心理学(cognitive psychology)の範囲である。
Phonetics and linguistics
音声学は言語学の一部分であることを忘れてはいけない。
音声学の前に、基本的な言語学の概念を理解するべきである。
まず、音声学ではとてつもない量の人間の音声を扱うが、ひとつの言語で違いが認識されているものは、少ししかない。それが弁別的音声、音素(phoneme)である。
フランス語では/tu/の母音が入れ替わって/ty/になると、違う意味を示す。
しかし英語で/tu/が/ty/になっても、意味の違いを生じない。
これは、フランス語と英語で音素が異なるからである。
言語学は人間言語のすべてを包括する学問である。
統語論(syntax)のように、複雑で抽象的な概念を扱う分野や、音声だけしかデータのない、方言の研究をする分野もある。
19世紀後半の有名なイギリスの学者ヘンリー・スイートによると、
音声学は言語学に絶対不可欠な基盤である。
この主張は100年経っても変わっていない。
参考文献
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
PR
Speech and breathing
---Oxford Introduction to Language Study Series
世界中の言語には、様々な種類の音声があり、それらがどのように発音されているのかを知らなければならない。
基本的な真実として、全ての音声は空気の振動、「加工された息(modified breath)」である。
ほとんどの音声は、空気が発話者の肺から、喉と口を通って、体外へ出てゆく。
その空気を妨げる事がなければ、ただの一息(breathing out)であり、十分に勢いがあれば、ため息(sigh)になる。
私たちは、調音器官(articulator)を用いて空気の流れを調節して、子音と母音の組み合わせである音節(syllable)を作り出している。
肺からの呼気以外の空気を用いる音声も存在する。
南アフリカのズールー語(Zulu)やホサ語(Xhosa)で子音として用いられている吸着音(click)。
エチオピアのアムハラ語(Amharic)で音素として用いられる、声門閉鎖(ejective)。
インドのシンド語(Sindhi)で用いられる内破音(implosive)などがある。
発話の面白い所は、既に、生物学的な根拠のある身体の一部を用いている事である。発話の為だけに発達した臓器は存在しない。
肺から唇を通り外に出る空気の通り道を声道(vocal tract)という。
肺と首とをつなぐ気管(trachea)は意識的に動かす事が出来ない。
The larynx
喉頭(larynx)は、声帯(vocal folds)と呼ばれる重要な筋肉の組織を抱えている。
私たちは声帯を、広く開けたりきつく閉じたり少し開けたり、自由に調節出来る。
声帯を広く開けていれば、空気は勢いよく口外へと出る。
少しだけ、数ミリメートルに狭めると、「はーっ」と息を吐き出す時の音が出る。
両声帯が触れる程狭めると、隙間を通る空気で声帯が震え、音声を発する(voicing, phonation)と呼ばれることが起こる。
どのように声帯を調節するかによって、声の高低(pitch)を変える事が出来る。
多くの音声が有声で(voiced)で、その他は無声(voiceless)である。
母音は鼻音(nasal)と同様に、ほとんどが有声である。
声帯と声帯をきつく閉じて空気の流れを遮断する事を声門閉鎖(glottal stop)と言う。
The vocal tract above the larynx
喉頭のすぐ上を咽頭(pharynx)と言い、食べ物もここを通る。
食事や発話の際に咽頭を狭める事があるし、それを利用する言語もあるが、一般的にはあまり使われない。
咽頭の上で声道が2つに分かれており、鼻腔(nasal cavity)に続く道は、軟口蓋(soft palate, velum)を下げる事によって開かれる。
軟口蓋の先には口蓋垂(uvula)があり、いくつかの言語の発音に携わる。
口の中には重要な組織がいくつもあり、最も重要なものが、上下左右自由自在に動かす事が出来る、舌(tongue)である。
従って'tongue'は'language'と同じ意味を持つ。
舌は口蓋(palate)と共同に働く事で様々な子音を生じる。
下あご(lower jaw)も上下に動ことができる。
歯(tooth)は動かす事は出来ないが、重要な器官である。
調音器官の最後の口唇(lip)も舌と同じように柔軟である。緩急の開閉はもちろん、丸めたり、狭く横に広げる事も出来る。
Describing speech production
ここでは'sand/saend/'の発音方法について詳しく解説する。
簡単な発音も、基礎から見てゆけば決して単純ではないのである。
まず/s/の発音は声帯が離れ、振動しない音声である。
肺からの呼気が喉頭と咽頭を通り、口内へ流れ込み、そこで妨害を受ける。舌の前部分が持ち上がり、口蓋の、上前歯の裏の部分に触れる。全ての空気を通さない程きつく触れている訳ではないので、狭い隙間と歯によって、スーっという音を発する。
/ae/の音は、声帯振動を伴う音である。
したがって/s/から/ae/に移るときに、声帯を近づけなければならない。同時に下あごと舌を下げて、口内の妨害をなくす。このとき軟口蓋はあがったままである。
しかし、鼻音/n/に入る前、には軟口蓋を下げなければならない。
下あごと舌を、/s/の発音と同じ高さに移動させ、舌と口蓋の間はきつく閉じ、声帯は振動したままで、軟口蓋を下げたおかげで空気は鼻腔へ通じ、鼻孔へと抜ける。
/n/から/d/への移動は簡単である。
軟口蓋をあげ鼻腔への通り道を塞ぐと、空気の流れがなくなり、声帯振動も止まる。以上である。
声帯を開け、舌と軟口蓋を下げれば通常の呼吸の体制へと戻る。
子音と母音の区別は難しく、妨害が著しいものが子音、よりスムーズに空気が流れるものが母音である。
子音と母音の繰り返しでは、声道が開閉を繰り返していると言える。
/t/や/p/などの子音は、母音とは大きい違いがあるが、そうは言えない子音も多く存在する。
参考文献
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)参考文献
---Oxford Introduction to Language Study Series
私たちの持つ調音器官は無限の音声を生成する事が出来るが、科学的な研究の為には分類が必要だ。
数千年前から用いられている最も基礎的な区分は、母音と子音である。
この基本的な枠組みを元に、この世に存在するあらゆる音声を分類し階層化し、時には新しいカテゴリーを作成してゆくのである。
さまざまな音声を扱っているうちに、音素(phoneme)を確認することがきる。
それは、ある特定の言語での示差的な特徴として機能するものである。示差とは、つまり、その言語で意味の違いを生じるという事である。
音素は抽象的なものであり、それが実現された物理的形式が、私たちが耳で聞く音声であると定義される。
音素はしばしば、複数の異なる物理的形式を持っている。これが異音(allophone)である。
音声のカテゴリーを決めるときに、私たちは決まった記号で記述する。概要は1章で述べたので、詳しく紹介する。
まず、重要なのが、ある一つの言語の音素に関する記述なのか、一般的な音声としてのIPAなのかを区別する為に、書式に関して決まり事がある。
一つの言語の音素を書き表す場合は/スラッシュ/を用いてあらわし、音声記号を用いる場合は[鉤括弧]でくくる。
'ostrich(ダチョウ)'という英単語を発音記号で書き表すと/ɒstrɪtʃ/であるが、もっと詳細な発音が知りたい場合はIPAを用いる。
/r/はこの環境では一般的に無声音として発音されるので、字母に無声化の補助記号[。]をつける。IPAにおいて[r]は巻き舌音を示すので、英語の/r/は[ɹ]と表記する。
一般的な英語話者は/tʃ/の音を円唇を伴って発音するので、字母の右に補助記号[ʷ]をつける。
加えて/tʃ/の前に声門閉鎖が加わるので、[ʔ]を書き加える。
従って、'ostrich'のIPA表記は[ɒstɹɪʔtʃʷ]となる(無声化の補助記号は入力できませんでした)。
Vowels
もっとも重要な母音は'key'の母音[i]と、'half'の母音[ɑ]であると言われている。
これと似た母音が、ほとんどの言語で用いられているし、幼児が一番始めに覚える母音である。
[i]は舌が口蓋に近づいて口が閉じているが、[ɑ]は舌が低く下がり、大きく口を開けて発音する。
これから、[i]は狭母音(close vowel)、[ɑ]は広母音(open vowel)と分類する。
もう一つの基本的な母音は[u]である。
[u]は[i]と同じように口を閉じているが、この2つの違いは以下の二点である。
まず、鏡を見れば直ぐに、[u]は唇が丸まって居る事がわかる。[i]は円唇化せずに、笑うように左右に広がっている。
そして、[u]は[i]よりも、舌の後ろの方が盛り上がっている事が分かる。[i]を前舌母音(front vowel)と言い、[u]を後舌母音(back vowel)と言う。
「狭ー広」、「前舌ー後舌」の4項が最も重要な区分である。
その他にも、狭いと広いの間には、半狭(mid-close)と、半広(mid-open)が存在する。
前舌と後舌にも、間に中舌(central)が存在する。
そしてそれぞれに円唇(rounded)と非円唇(unrounded)が存在し、母音の配置図の右側に円唇母音、左側に非円唇母音の記号が書かれる。
狭、半狭、半広、広の4つと、前舌、後舌の2つ、そして円唇、非円唇の2つのカテゴリーを合わせた、合計16個の母音を基本母音(cardinal vowel)と言う。
全てを含む言語は存在しないし、加えて、円唇前舌広母音[ɶ]に関しては、いかなる言語の音素としても存在していないのではないか、という疑問がある。(この音声の最も近いのは欠伸の時の声である。)
もちろん、他にも有名な特徴はあり、フランス語やスペイン語で見られる鼻母音(nasalized vowel)がそうである。
加えて、長母音(long vowel)と短母音(short vowel)の違いもある。エストニア語には短、中、長の三段階の区別がある。
Consonants
2章で見たように純粋な子音は声道を通る空気の流れの妨害から生じる。
私たちは子音を以下のように区分する。
1、音声が、有声(voiced)であるか、無声(voiceless)であるか。
2、妨害がなされる調音位置(place of articulation)。
3、妨害の仕方もしくは、調音方法(manner of articulation)。
4、子音に用いている気流(airstream)。
1、Voicing
声帯の振動に関しては、はい・いいえの二択だと思われているが、実際は複雑である。
破裂音である/d/や/b/、摩擦音の/v/や/z/は有声音に分類されるが、英語では、実際に声帯が振動するのは、最後の瞬間のみである。
/m/や/l/に比べれば遥かに少ない振動であるし、他の言語では、もっと長く声帯振動を伴う[d][b][g]が存在している。
2、Place of articulation
どのように子音を発音するかについてはすでに簡単に説明したが、もっと詳しく調音器官を見る必要がある。
---調音器官(04/09)に図があります。
声道の一番外側は、両唇音(bilabial)である。上と下の唇を使う。
上歯と下唇のふれる調音位置を唇歯音(labiodental)と言い、舌で上歯に触れる位置を歯音(dental)と言う。
上歯の後ろを歯茎(alveolar ridge)といい、舌で触れると歯茎音(alveolar)となる。
歯茎より少し奥の位置に舌で触れると後部歯茎音(post-alveolar)になる。あまり後ろに下がりすぎると硬口蓋音(palatal)になる。
舌の奥の方で軟口蓋(velum)に触れると、軟口蓋音(velar)となる。
硬口蓋の一番奥の部分に舌で触れるものを口蓋垂音(uvular)という。
喉頭の方へと奥に進んでゆくと、咽頭での調音を咽頭音(pharyngeal)と言う。
そして、声帯と声帯の間の部分を声門(glottis)と言い、そこで行われる音声を声門音(glottal)と言う。
これらの調音位置に加えて、伝統的にそり舌音(retroflex)というものがある。これはある特定の舌の形を指す名前で、調音位置ではない。
舌を後ろにそり返す調音方法で、英語では/r/を伴う母音等で見られる、インド亜大陸の言語の子音に用いられる。
3、Manner of articulation
ここでは、どのように空気の流れが妨害されるかを見てゆく。
妨害の方法には、完全に空気の流れを遮断してしてしまうものから、母音のように流れ放しのものまである。
破裂音(plosive)は完全に空気の流れを止めるもので、一瞬完全に静止する。そして圧縮された空気を放つのである。
開放の際のに、短い破裂の音(plosion)がする。これには「はーっ」と息を出すときの帯気音(aspiration)が続く。
鼻音(nasal)は口腔への空気の流れを完全に遮断し、鼻腔へと抜ける方法で、音量は小さい。
摩擦音(fricative)は空気の流れを阻害するもので、かすれた音を作り出す。
破裂音で、開放の際に同じ調音位置で摩擦音おを生じさせるものを破擦音(affricate)と言う。
たたき音(tap)とはじき音(flap)は共に発音時間の短い音で、舌で一瞬、口腔の壁に触れ、短い間だけ空気を遮断する。
はじき音は、それにそり舌が加わるものである。
特殊なものにふるえ音(trill)がある。舌先や口蓋垂を使うのが一般的で、継続して何回も調音器官を振動させる調音である。
最後の調音方法が接近音(approximant)で、特に、口腔の中央で閉鎖を作り、口の横から空気を出すものを側面音(lateral)といって区別する。
英語の/r/の音は、歯茎接近音という。舌は歯茎に接触しない。
4、Airstream mechanism
調音に使う気流を細かく分けるのならば、まず肺の(pulmonic)ものがある。
そして喉頭の上下運動による声門の(glottalic)気流。
後舌を軟口蓋に当てて閉鎖を作り、舌を前後させて起こす軟口蓋気流(velaric airstream)。
そして、体内から体外への空気の流れを呼気音(egressive)、体外から体内への空気の流れを吸気音(ingressive)という。
これらの分類は子音によるものである。肺の呼気を使った音声を肺臓気流機構とも言う。
参考文献
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
第2章で、音声の高低(pitch)が調節出来ることを述べたが、この章ではもっと細かく高低の操作について述べてゆく。
簡単な例は、シエラレオネのコノ族の言葉にある。
声を高く[˜kɔɔ]と言うと、それは「成熟する」という意味になり、声を低く、[_kɔɔ]と言うと「米」の意味になる。
IPAに先行する横棒は声の高さを図的に示している。
この2つの単語の違いは声の高さだけであり、それ以外は全く同じ音節を持っている。
声の高さの段階(level)によって語が区別される場合もあれば、声の高さの変動(movement)によって区別する場合もある。
このように意味を区別する声の高さ(pitch)を、声調またはトーン(tone)と言う。
トーンを用いる言語と、用いない言語がある。ヨーロッパのほとんどの言語にトーンが無い。
トーンを用いる言語を声調言語(tonal language)と言い、東南アジアや、南・西アフリカ、ネイティブアメリカンの言語に多く見られる。
実は、世界のほとんどの人はこの声調言語を話しているのである。
Lexical and grammatical use of tone
トーンは様々な方法で働く。
まずは語彙的声調(lexical tone)である。これは辞書に載るような単語の区別に用いられるトーンである。
ベトナム語には6つのトーンがあり、アルファベットの母音にその区別を記して表記する。6つのうち2つはcreakyまたはbroken toneと呼ばれる、音節の真ん中に声門閉鎖を伴う声門音である。
a(平ら)
à(低く下がる)
á(高く上がる)
ả(低く下がって上がる)
ã(高く上がる途中で声門閉鎖)
ạ(低く下がって声門閉鎖)
トーンが文法的な役割を果たす事もある。以下はコノ語の例である。
[_a _a ¯do _ma _ko] "Wash his shirt"
[_a ¯a _do ¯ma _ko] "He has washed a shirt"
Tone level and contours
音声学では、トーンの意味だけではなくその物理的性質も研究対象である。
声調言語で一番重要なのは、トーンのレベルの違いである。高い・低いの二段階による区別もあれば、4段階に分かれる言語もある。
どの言語話者も高い低いの具合は個別のものであって、重要なのは厳密な高さではなく、トーンの差である。
あるいは、トーンの高さよりも、トーンの変動の型(上がったり、下がったり、下がって上がったり、上がって下がったりする)である。
長い間、声調言語には音域的声調(register tone)と曲線的声調(contour tone)の二種類あると言われてきた。
音域的声調、あるいは段階的声調(level tone)は、高い低いなどの一様な声調であり、曲線的声調は途中で上下する型がある。
しかし、両方の声調をもつ言語もあり、この性質で言語を区別することが難しく、あまり分類には役に立っていない。
Tone and context
声調言語を話した事が無い人も、トーンのある1つの性質が無ければ、学ぶのは簡単だろう。
トーンの学習を難しくしているものは声調変化(tonal sandhi)と言われる、2000年前のインドの文法家が発見したものである。
単語が辞書的に孤立しているときと、文章の中で現れるときとでは、トーンが異なるのである。前後の単語が異なれば、トーンも変わる。
例として、中国の公用語(Mandarin Chinese)には4つの声調がある。
1、ā(高く平ら)
2、á(高く上がる)
3、ǎ(低く下がって急上昇する)
4、à(低く下がる)
3番の声調を持つ音節が続くと、先行する音節が2番の声調に変わる。1番または2番の声調をもつ音節の後に、2番の音節が続くと、後ろの音節が1番の声調に変わる。
加えてもっと複雑にしているものに、ダウンドリフト(downdrift)と呼ばれる現象がある。
これにより、個別のトーンに加えて、全体的な声の高さが、文の終わりや息継ぎに至るまで、常に下がってゆく。
つまり、文の頭に現れる低い声調と、文の最後に現れる高い声調が、だいたい同じ高さになるのである。
その他にもダウンステップ(downstep)と呼ばれる現象がある。
高いトーンをもつ音節が、その他のトーンをもつ音節の中に出現すると、一単語で現れる時よりも、低く発音されるという声調変化である。
Tones and pitch-accents
英語やその他の言語も、単語を発音する際の声の高さが重要である。
例えば'im-por-tant'というときの音節の低-高-低の声の変動がある。
これらの高低の変動を一般的にはアクセント(accent)と呼ぶ。アクセントとトーンの区別は簡単ではない。
声調言語とは別に、高低アクセント言語(pitch-accent language)という分類がある。
この言語に分類される日本語、スウェーデン語、セルビア・クロアチア語は、声調言語には分類されない言語だが、高低により単語を区別する事がある。
日本語の[¯ha _si(箸)]と[_ha ¯si(橋)]の違いなどがある。
声調言語では、全ての音節や単語に対して声の高低が弁別素性として作用しているのに対し、高低アクセント言語では、一部の単語しか作用していない。
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
『ベトナム語』---Wikipedia
『ベトナム語』---Wikipedia
声調言語では、異なる声調の機能を見極めるのは、比較的簡単だ。
しかし、声調のない言葉に関して、声の高低や大小やその他の超分節的特徴(suprasegmental features)によって、何が変化するのかを説明するのはとても困難である。
超分節的特徴と呼ばれるものは、さまざまな種類があり、声の高低(pitch)、声の大小(laudness)、テンポ(tempo)、声の質(voice quality)などである。しかしそれらが単独で作用する事は決して無い。
それらの共通点としては、少なくとも1音節、または複数の語にわたる発話の特性であると、考えられている。
超分節的特徴の研究を韻律(prosody)の研究と言い、特に、強勢(stress)と抑揚(intonation)に重点が置かれる。
Stress and accent
どの言語にも、目立って発音される音節と、そうでない音節とが存在する。
英語では'tomato'という単語は真ん中の音節が最も強く発音される。これを強勢のある(stressed)音節と呼ぶ。
スペイン語では強勢の場所によって、動詞の時勢や人称が変化する。英語でも、'import'は強勢の場所によって名詞になったり、動詞になったりする。
このような文法的な役割を果たす強勢も存在する。
'import'の例は、名詞でも動詞でも、意味的に似通っているが、'subject'は名詞と動詞の意味に関係性が見出せない。'recall'も両方とも名詞であるが、強勢によって意味の異なる単語に変化する。
その他の言語では、強勢が決まった場所に置かれることがある。
フランス語では強勢は、普通、単語の最後の音節にあり、ポーランド語では通常最後から2番目の音節にある。
このような例では、強勢が意味の違いを生じているとは言えない。強勢は、発話を分節する際の目安になると考える事が出来る。フランス語では、強調されたところが語の句切れである。
人間の発話の知覚に関してまだ、未解決の重要な問題がある。
それは、英語のような特に規則のない強勢を用いる言語で、私たちはどのように一連の発話を単語に区切っているのか、という問題である。
強勢が置かれていると聞き取れるように、さまざまな要因がその音節に働く。
英語では強勢の置かれる音節は、長く、大きく、そして高く発音される。
複数の音節の連続では、さまざまなレベルの強勢が存在する。例えば4音節の'un-der-stand-ing'では、3番目の音節が一番強く発音され、1番目の音節は、2番目と3番目の音節よりも強く発音される。
それでもこのとき、目立って高く発音されるは、3番目の音節だけである。このような、示差的な声の高さを英語では、アクセント(accent)と呼び、研究の重要項目である。
さて、'understanding English'と発音する時はどうだろうか。
このなかで一番目立つ高さで発音される音節は、'Eng-lish'の最初の音節である。この時、確かに-stand-もその他に比べれば目立っているが、もうそこにアクセントがある(accented)とは言わない。
un-や-stand-など、長さや大きさなどの特徴がある音節に対して、強勢が置かれる(stressed)と言うことは出来る。
強勢とアクセントが働くその他の言語でも、この区別が用いられている。
Intonation
抑揚は、いつも定義するのが難しいものである。伝統的には、「発声のメロディー」であり、声の高さの一種として語られる。
声調のところで、声の高さが意味の区別に関わる事例を見たが、抑揚ではそこまで明確な意味の変化は生じない。
典型例として、"You're from London."と"You're from London?"の声の高さの違いである。抑揚が陳述文と疑問文の違いを生む。
その他の、良く引用される例がある。
"She won't go out with anyone."
この文章の最後の単語'an-y-one'を低く下がったまま発音すると、「彼女は誰とも出かけない」という意味になり、最後の音節'-one'を高く発音すると「彼女は一緒に出かける人を選ぶ。どんな誰とでも出かけるわけではない」という意味になる。
抑揚は他にも様々な情報を伝える。
例えばイギリスでは、人に尋ねるときに、最後の単語を下がって上がるように発音すると、礼儀正しさを示す。
あるいは、単語のリストを述べる際は、目録の途中は下から上がる発音が続き、最後の項目に急降下する発音が行われる。
抑揚は話者の態度や感情を示唆するものであるとも言われている。
同じ文章でも、楽しそうに、悲しそうに、憤慨しながら言う事が出来る。もちろんそれは、声の高さだけの問題ではない。声質や、速さ、表情、身振り手振りなど使っている為に、抑揚の定義はますます難しくなってゆく。
例に挙げた、英語のような言語において、抑揚をどのように定義すれば良いだろうか。文法的な役割を担っている事もあるし、感情を表現する事もある。
抑揚は、言語の談話構造(the discourse structure of speech)の基本的な成分として見るのが一番良い方法であろう。
私たちは、情報伝達の為に会話をするし、それには話し手と聞き手の相互作用が必要である。何を話しているかの指標にすることができる。
メールや文章での誤解の多さを考えれば、抑揚の、情報伝達における大切さがわかる。
満足に抑揚を表記することは難しい。
文章の下に、声の高低を表す波線を書いて抑揚を記す方法がある。これは、事例を説明するのには便利だが、どの部分が重要であるかを示してはくれない。
難しいのは、抑揚は、声調言語の声調と同じような方法で、意味が深く対照的であると言われている点である。
声調言語では、対照的な声調と対応する記号を用いて、声調を表示する事が出来る。しかし、抑揚では、実に多様な変化が見られるので、対照的な単位に区切る事さえ難しい。
抑揚を用いるイギリス英語では、重要な要素を文章中に書き込む記号を用いて、抑揚のシステムを書き表している。
Rhythm
発話と音楽には相似していることが多く、そして、音楽に常に含まれるものがリズム(rhythm)である。
音楽において、リズムは普通、連続の中で、大きさや長さや、高さなどのその他から突出した、ある種の音符を作る事によって生じる。
商業化された音楽の、一定の間隔で繰り返される拍だけがリズムではない。世界各地の伝統的な音楽や形式的な音楽は奇怪で複雑なリズムを形づくる。
発話では、音節が、音符や拍の変わりになっている事が分かる。そして多くの言語では、強調された音節がリズムを定義している。
*This is the *first *time I've *ever *eaten a *chocolate *caterpillar.
もしこの文に合わせて手を叩くとしたら、英語のネイティブスピーカーは、*の記号がついているところで手を叩くだろう。
英語は、強勢のある音節と音節の間を等間隔に保とうとすると言われているので、 *と*の間の時間は常に同じになる。このようなリズムをストレスタイム(stress-timed)と言う。
したがって、強勢の無い音節は、その一拍の中に詰め込まれてとても短く発音される。
このような話し方はある一つのスタイルであって、普通の会話では、この等時感覚の(isochronous)リズムではない。音楽と同じように、言語のリズムも単純だと思い込んではいけない。
聴いて分かるように、その他の言語ではリズムも異なる。英語話者にとって、イタリア語とスウェーデン語はかなり異なるリズムを持っている。
スペイン語とフランス語と中国語は、シラブルタイム(syllable-timed)の様に聞こえる。これは、音節ごとが等間隔に発音されて、強勢を持つ音節の持つ、リズムに関する役割は小さい。
しかし、これらの分類は主観的で、科学的にどのような要素が、私たちにそのような印象を持たせているのかを証明するのは難しい。
明らかなのは、リズムが、私たちのコミュニケーションに便利だという事である。
リズムは、発話を単語やその他の単位に分節し、話題転換の目印となり、重要なことを目立たせる事によって、一連の発話の紛らわしい絶え間ない流れに道を切り開いてくれる。
Other suprasegmental feature
超分節的特徴を詳しく分析し、発話ごとに変わる特徴を発見することが出来る。
既に述べたように、スピードやテンポは、声の大きさと同じように、全員がして、変える事が出来るものである。声の質は、優しいものから、きついものへと変える事が出来る。
これらはコミュニケーションにおいてとても大事な役割を果たしていると考えられるが、言語学や音韻論とは関連性が低く、それらは、何と対比されるべきかも分からない。
それらはしばしば、パラ言語学的特徴(paralinguistic features)と呼ばれ、私たちが他者との会話に置いて、特に感情表現を、どのように振る舞っているのかを研究する。
話者の顔を見なくても、私たちは、声だけでその人が怒っているのか喜んでいるのか、悲しんでいるのかうんざりしてるのかがわかる。この働きを知る為には、声の高さだけを調べていてはいけない。
声の性質を網羅するような、もっと細かい特徴の体制と分類の描写が必要である。
すべての調査が実行されても、特定の感情が伝わるときに何が起こっているのかを、私たちが今、詳細知っているなどということはない。
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
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