この本で読んで、発話が、人間活動の生きた、活動的で、多面的な様相であることが明らかになっただろう。
しかし、あり得る発話の形態の全てを理解出来たと思ってはいけない。
音声学はとても研究が盛んな学問である。論理的なものも、応用的なものも、音声学の論文は常に刊行されていて、新しい本も常に発売されている。
コンピューターによる音声研究を補助する技術は急速に発展し、容易に入手出来る。特に、ここ数十年のインターネットの発達は、音声学の指導や情報伝達において多くのことを可能にしてくれた。
音声学の分野や音声分析、発音練習などのほとんど全ての大量なものが、インターネットによって利用出来る。
今は、19世紀末から20世紀初頭にかけての音声学の爆発的な流行以来の、もっとも音声学が熱い時代である。
ReadingsとReferencesとGlossaryは割愛。
Peter Roach, Phonetics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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What is grammar for?
「文法;grammar」という単語が想起するものは、人によって異なるだろう。そのなかには間違っているものもある。
ー最近の若者が学校で正しく学ばないものであり、その為に、言葉が乱れてきている。
ー「助動詞」や「過去分詞」や「関係詞節」や「補語」などの、意味の分からない専門用語の集まりである。
ー「こう言ってはいけない」とか「こうしてはいけない」などの、正しい言葉を話したい人々が作った、禁止令である。
ーフランス語の性や、ドイツ語の語順、ロシア語の格や、日本語の敬語など、外国語を不必要に困難に成らしめ、自然な会話をさせなくする、抽象的なルールの集まりである。
ー何かしらがぎっしり書かれた、埃まみれの分厚い本のことである。
もちろん全ての人がこのような単純な考えを持っている訳ではないだろう。しかし、十分に知っていると思っていても、文法が何であるかを定義するのは難しい。
ほとんどの辞書は「語を結合して文にするための法則」としか書いていなくて、役に立たない。文法は文を作ることだけする訳ではない。この説明は不十分なだけでなく、文法の機能に関して何も表現をしていない。
「バス」の項目に、公的な輸送に使用されることに述べずに、「一階か二階建ての大きな車」と説明するようなものである。
文法を理解するためには、それが何にために存在するのかを理解しなければならない。
なぜ、「語を結合して文にするための法則」が必要なのか?
単語だけ話していては、いけないのか?
これはとても慎重に扱われるべき問題であり、研究の出発点としてとてもふさわしい。文法が何であり、何をして、なぜ必要なのかを理解するための一番良い方法は、文法が無い言語を想像してみることだ。
Language without grammar
自分が天才で、高度な情報伝達システムを発明しようと思ったと、想像してみよう。
情報を指し示す方法はさまざま存在する。
例えば音声による記号に多様性を見出したとしよう。それは、視界に依らないし、闇の中でも伝達することが出来る。
泣いたり、怒ったりの、表情や身振り手振りは、限られた文脈の中での最も有効なオプションとして使用する。
始めにすることは、世界のそれぞれの物に対して、弁別的な音声の記号(単語)を考案することである。このとき、音韻論的なシステムを創出しなければならないが、今は無視しても問題ない。
そしてあなたは、あなたの母親、その他の一族の母親、洞窟の入り口、一族の長、川辺の大きな木、川、今降っている雨、1番お気に入りの石の斧、2番目に気に入っている石の斧などに対して単語を考案する。
しかしそれらがうまく働かないことがすぐに分かる。
第1に、コミュニケーションシステムの構築のために学ぶべき単語が多すぎるからだ。
第2に、既に知り、関心を持ったものに関してしか、話すことが出来ない。例えば、その他の木、新しく発見した川、新しく作ろうと考えているもっと強い斧に関して、話すことが出来ない。
見込みのある方法としては、単語が、個別のものではなくて、グループを指し示すことにすれば良い。
「木」はあの木でもこの木でもなく、全ての木を示す。これはただ、既に存在したシステムを拡大しただけである。既に「食べ物」や「怒り」のようにも何回も起こることに関して、このような呼び名があるだろう。
そして重要な精神的飛躍として、単語は、人や物だけを指し示すのではないと気づくだろう。「大きい」や「赤い」、「美味しい」のような共有される特徴がある。そして、世界で良く起こる、「食べる」や「走る」のような出来事や変化がある。
以上の新しい情報伝達システムで3つのことができる。
1つめは、身の回りにあるものや、あなたが欲しいものなど、何かに対して相手の注意を向けることが出来る。「ビール!」「斧!」
2つめは、異なるグループの単語をくっつけることで、今話題にしていることをより細かく伝えることが出来る。グループとグループの単語を連ねることで、個別のものを指し示すことが出来るのである。これはかなり強力な仕組みである。「青、斧」「大きい、虫」
3つめは、変化と物の単語をくっつけることで出来事を指し示すことが出来る。「大きい、斧、壊れる」「雨、冷たい」
これで、言語が出来上がった。
Problems
しかし、以上の言語には、人間言語とは異なる点がある。
ひとつは語順である。「落とす、子供」と「子供、落とす」はどちらも同じ意味を示している。
もう1つは、単語と言う1つの括りしかないことである。名詞や動詞といった区別が無い。
それがどんな問題があるだろうか。
この単純で限られたこのシステムでも、かなり多くのことを伝えることが出来るが、限界がある。
1、ひとつ以上のことが起こった時に、その発話が、正確に何を指し占めているのかを特定するのが困難である。
たとえば、「大きい、熊、洞窟」では、大きな熊が洞窟に居るのか、大きな洞窟に熊が居るのかが分からない。背景知識があっても、その曖昧さが解決されないこともある。
2、個別の事象について話すことが出来るが、因果関係や空間的な関係をはっきりと説明することが出来ない。
たとえば、AがBに何かをしたという状況では、どちらが行為者(dore, agent)であり、どちらが受動者(doee, patient)であるかはっきりさせなければならない。
「食べる、子供、どんぐり」など、背景知識や常識で補えるものもあるが、「殺す、兄、熊」などは簡単に混乱を招くものである。
3、最後に、このシステムでは、要求や確信的な発言をすることが出来ない。
「熊、洞窟」では、熊が洞窟に居ると言う事実を伝えることが出来るが、熊は洞窟に居るのか?と尋ねたり、熊が洞窟に居るかもしれない、もしくは、熊は洞窟に居ないと伝えることが出来ない。
なので、以下のことが必要になる。
(i)何が何と一緒に生じているのかを表す方法。ーこの世界の特定の現象を指し示す為に必要な、一般的な概念である。
(ii)受動者やその他の関係性を指し示す方法。
(iii)発言に関して、伝達上の作用を指し示す方法。ー陳述、疑問、主張、否定などなど。
つまり、文法が必要なのである。
Sloving the problems
文法の導入にはさまざまな方法がある。
まず、単語の並び方に手を加えることで、必要な付加的な意味を指し示すことができる。
例えば、何と何が生じているのかを明らかにする方法として、「関係のある単語は常に並んで登場する」というルールを決めるとする。「熊、大きいー小さい、洞窟」のように、句と句の間にスペースを置くのである。
さらに、「質を表す単語は物を表す単語の、直後、もしくは直前に置く」と決めることで、句が無くても良く、文がすっきりする。「熊、大きい、洞窟、小さい」。
語順に関して、その他には、「行為者を、受動者よりも前に持ってくる」というルールも有効である。これで、「殺す、兄、熊」と「熊、殺す、兄」の意味を区別することが出来る。
そして、陳述と疑問文の語順を異なるように決めてしまえば良い。「兄、ころす、熊」と「殺す、兄、熊?」など。
2つ目の可能性は、機能を示すのに、別の語を用いることが出来る。
ラテン語やロシア語のように、屈折(inflection)と呼ばれる方法である。行為者としての「熊が(ursus)」「兄が(frater)」と、受動者としての「熊を(ursum)」「兄を(fratrem)」と異なるのである。
何が何とどうなっているのかという関係を、単語が示唆している。関係のある単語をわざわざ近くに置かなくても、単語そのものが、それと関係のある他の単語を指し示してくれる。
発音も同様に、単語の機能を指し示すことが出来る。「行為者をゆっくり、もしくは、高いピッチで発音する」というルールを決めれば、どれが行為者であるかを迷うことは無い。
抑揚(intonation)は、英語でも、陳述文と疑問文の区別に良く使用される。
他には、非指示的単語を別に用いることが出来る。何かの物事は指し示さずに、単語の機能を表す機能語(function word)である。
日本語のように、単語のあとに接辞(particle)をつけることによって、その単語の「主題」「行為者」「受動者」「所有者」などの機能を指し示す。
以上の3つ、語順、屈折、機能語は、基本的な選択肢である。
どれか1つを選んだら、それが文法である。単語の羅列が、人間言語となる。
さて、なぜ文法が必要なのかという問いに答えることが出来る。
文法とは本質的に、指示語彙単独では表すことが出来ないある種の必要な意味を表現するための、有限の装置一式である。
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series
第1章でみてきたように、文法は、原理的に、語順と派生と機能語という装置から成る。
それらは、参与者の役割を区別したり、どのように要素と要素が関わっているのか説明したり、発話の機能を目出させたりするような問題を解決するのに必要な装置である。
では実際に、どうして文法が難解に見えるのか。
それにはいくつかの理由がある。
ひとつは、基本的な文法の装置は、その他の要素と一緒に機能するからである。単語は自然に機能別に分類される。そして、それらが合わさって、より高レベルな構造へと結合する。
Word classes
私たち、人間や物が関わる出来事や場面として世界を知覚している。
言語はこの観点を非常に良く表している。英語には出来事や場面を表す単語があるし、その参与者を表す単語もある。そして、それらに共通する質を表す単語も見出すことが出来る。
それから、要素同士の関係を知覚しているし、それを示す単語がある。
以上の分類は、弁別的な単語の文法的な分類や品詞(parts of speech)の存在を示唆するものではない。
'hit(打つ)'と'boulder(丸石)'は文法的な違いが無いが、行動と物という区別によって、動詞や名詞などと区別される。この2つは、ただ単に意味が異なるだけなのだ。
この2つの単語を別々の語と分類する理由は、コミュニケーションにおいてそれらが別々の機能をもって居ることを表すために、文法的な表示が必要だからである。
語順や派生など、この区別を付けるためのメカニズムを一度決めれば、自ずと単語は、参与者と出来事・場面の2つに分類される。
ここからは文法の領域である。
'food'や'car'は名詞(noun)として、特定の文法的な役割を担い、'fall'や'see'は動詞(verb)として、名詞とは違う文法上の役割を担っている。
このように、全ての言語で名詞と動詞、その他の品詞を区別している。
単語の区分には、この世の物を指し示す内容語(content word)や、言語内の関係性を指し示す機能語(function word)や、その他のさまざまな自然に別れる区分がある。
1つの言語の中にも、明確な区分がある訳ではない。英語の品詞は、冠詞(article)、名詞(noun)、動詞(verb)、形容詞(adjective)、副詞(adverb)、代名詞(pronoun)、前置詞(preposition)、連結(junction)、感嘆詞(interjection)などがある。
しかし、この区分にはあいまいな部分がある。'my'は形容詞に分類されてきたが、'green'や'difficult'よりも形容詞らしくない。近年は限定詞(determiner)と呼んでいる。
いわゆる代名詞というものはあまりにも多くのものを含んでいるし、'tomorrow'は名詞か副詞かはっきりしない。そもそも副詞というのが雑多な分類で、いろんな修飾語(modifier)や他のカテゴリーに入れられないものが一緒になっている。
結局のところ、英語の品詞というものは、我々がその区分を決めるのにどれだけこだわるか、に依るのである。
意味上の伝統的な品詞分けは、単語の分類と言う文法的な機能であり、単語を分類しただけであり、それだけでは意味をなさない。
どのように発話を構築するかによって、さまざまな分類の単語を用いて、とある意味が表現される。
例えば、火山が噴火したとき、伝えたい内容によって'erupt(噴火する)'と'eruption(噴火)'を使い分けなければならない。だが、伝えたい内容は同じなのだ。
単語の分類のあいまいな境界線は、世界と言語の不可避な誤差を招いている。
物は名詞で、出来事は動詞で、質は形容詞、というように、言語の分類が、私たちが知覚しているそのままの出来事と等しいものであるなら便利だろう。
しかし、当然違うのだ。世界はと巨大で、とてつもなく複雑である。カテゴリーはお互いに混ざり合っている。
'tree'は物だが、'fire'と'rain'は物だろうか。'up'は質か、関係性か、状態か。
私たちが知覚してい世界をそのまま、限られた品詞に分類することは出来ない。私たちの持っている言語学的で概念的な押し入れには入りきらない程、世界にはたくさんの事象がある。
したがって、単語同士の境界は曖昧で、言語に依ってそれぞれに異なっているのである。
Code and message: from word to phrases
即席的で簡単な分析では、言語を、メッセージ(message)を構築するために使用されるコード(code)であると言うことが出来る。人名や地名から、一般名詞、一般動詞に至るまで、言語に属する単語はコードアイテム(code item)である。
実際の言語使用において、言語で特定の机に関して述べることも、机と言う家具の種類についても、ある型の机についても述べることが出来る。
特定なものと一般のものに関する切り替えはどうなっているのだろうか。
文脈が大きな役割を果たすだろう。
食事中に「塩とって」と言えば、コードアイテムの「塩」は効果的に働き、メッセージを伝えることが出来る。
しかし、突然「セーターとって」と言ったらどうだろうか。どのセーターを指し示しているのか分からないし、発されたコードアイテムはメッセージを伝えることが出来ない。適切に伝えるためには「私の」「古い」「黄色い」などの複数の語を用いることで、特定のセーターを指し示すことが出来る。
'my old yellow sweater'という塊、句(phrase)は、メッセージとしての言語の集合である。これは、'my','old','yellow','sweater'の、コードとしての言語の集合とは異なる。
発話とは、語の羅列ではない。発話は句の結合した連続である。それぞれが伝達するべき発話の要素と関係している。
誰が?という質問には名詞ではなく名詞句'that old man'で答える。
どこで?という質問には前置詞ではな前置詞句'in the town hall'で答える。
'The doctor said she was baffled'の'she'は名詞ではなく名詞句'the doctor'を参照している。
語順の変更も普通、句を単位に成される。
'Mrs Porter came round the corner'を'Round the corner came Mrs Porter'ということは出来るが、'*Porter round the corner came Mrs'とは言えない。
しばしば句を分解すると、英語のように疑問文になったりするので、句内の構造と位置は要注意である。
句は、構成要素である語が並べられたものとして登場し、息継ぎに区切られ、抑揚の曲線でまとまりを成している。
しかし、形式上のつながりだけではない。古典ラテン語は形容詞と名詞の間に他の句が入り込むことがある。ドイツ語は、不定詞と過去分詞が節(clause)の最後に置かれ、動詞句が分割されることで悪名高い。
Clauses
1つの句は1つのメッセージを成すことが出来る。'More coffee?'
もっと場面や過程に関して詳細な情報を伝えたい時は、複数の句を組み合わせて、より高レベルな節(clause)を成すことが出来る。
典型的な節は、少なくとも、ひとつの動詞句(VP; verb phrase)とひとつのの名詞句(NP; noun phrase)から成っている。(動詞句という用語は、文法学者によって、助動詞の扱いが異なるので要注意である)
付随的な情報に関しては副詞句や前置詞句など、その他の要素を用いて表す。
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series
Subject and object
節構造は、行為者や受動者などの、参与者の役割を指し示す。英語は、節の中で異なる語順をもち、主体/主語(subject)と客体/目的語(object)の文法的カテゴリーを区別する典型例である。
NP(S) VP NP(O)
参与者が2人、または2つ以上の場合、英語では直接(girect)と間接(indirect)の2つの目的語の区別を設定した。間接目的語は前置詞(I gave £500 to the hospital.)か語順(I gave the hospital £500.)の機能に依って区別する。
主語と目的語は、Iとamなど、その形態によって区別することが出来るし、主語と動詞の文法的な一致(agreement)によってもわかる。目的語と動詞の一致はない。
主語や目的語という、わかりにくい文法的カテゴリーが無い言語も存在するだろう。
普通、行為者は主語として文法的に現れるが、英語では、必ずしも主語が行為者ではない。
'I don't enjoy the opera.'は一人の参与者が他の人に何かをするような、行為者-受動者の関係ではない。
英語やいくつかの言語は、行為者-受動者の関係のために作られた、文法的構造、主語-動詞-目的語を採用した。そして、その主語-動詞-目的語で、経験者-被経験者、知覚者-被知覚者などその他の参与者の関係性も表し、紋切り型に、参与者を、1つは主語、もう一方は目的語として記号化した。
どんな関係性でも、生物、特に人間は主語として選ばれることが多く、世界の人間中心的な捉え方と一致している。このような偏向は選択基準(selection criteria)に反映されており、'enjoy'や'see'などは生物でなければ主語になれない。
この偏向は特定の談話(discourse)の意図により無効となることがあるが、詳しくは5章で。
厳密に言えば、参与者の役割はいつも文法的に特定される必要は無い。文脈や共通の知識のなかで示唆されることがある。
'Trew the TV John's father through the window.'は見慣れない語順で理解に時間がかかるが、この出来事に関して全く疑うところは無い。テレビは決して人を投げないからだ。
しかし、予測しやすい決まった語順に従い、意味の含みを明白にして重複(redundancy)を避ければ、理解するのがもっと簡単になる。
結果、英語話者は、必要性に関係なく、文章が、文法的な主語を必要とするあいまいな行為者-受動者関係を持つかのように、文章を構成することを強制される。
これは参与者が一人の場合も当てはまる。
'London Bridge is falling down.'では'London Bridge'が主語であるがその役割を特定する必要は無い。もちろん行為者ではない。
(バスクに代表されるような言語では、'Lodon bridge'が他動詞(transitive verb)の目的語と同じ格表示がなされる。)
もし参与者と呼ばれるものが無く、主語候補が無かった場合、英語では'it'を使う。
全ての言語がこのような主語-動詞(-目的語)構造に当てはめなければいけない訳ではない。ダコタ語(Dakota)やリス語(Lisu)では、主語と目的語の文法的な区別を、曖昧さを回避する必要性がある時にしか行わない。
以上のような一般化は言語の働きの特徴である。
Mood
節構造のその他の機能は、心的態度/法(mood)を表すことである。
尋ねているのか、教えているのか。この世で起こったことについて話をしているのか、起こっていないことなのか、起こりそうなことなのか、起こって欲しいことなのか。
このような内容を表現するには、他の文法的な語を付け加えるのが一番簡単だ。英語では'perhaps'や'possibly'をつければ確定的ではないことを表現出来る。フランス語では疑問の接辞'est-ce que'を最初につける。
少し複雑にすると、動詞や動詞句を入れ替えることで関連することを表現出来る。「わかり-ます」を「わかり-ません」に替えれば否定の表現となる。
もっと複雑なものは節構造そのものを変えてしまう。英語では語尾の抑揚を上げると疑問を表すことが出来るし、語順を動詞-主語にかえればよい。もっとも一般的には主語-動詞関係を複雑に組み替えてしまう(She went.→Did she go?)。
その他には、英語では'can'や'must'などの助動詞も頻繁に使われる。
Analysing phrases andclauses
'my old yellow sweater'などの句構造は単なる語の塊ではない。1つの'sweater'という単語が、他とは異なる身分にある。この句は特定の'sweater'であって、特定の'yellow'ではない。つまり、この名詞句に置ける主要部(head)が'sweater'で、残りの3つは修飾語である。
'old'と'yellow'は典型的な形容詞で'sweater'の質を示す。
'my'は、冠詞や数量詞(quantifier)などと同じ限定詞(determiner)のひとつで所有代名詞(possessive)と言う。限定詞は、形容詞とは異なり、名詞の意味をかなり大きく制限するものである。
このような名詞句の分析の方法として、形容詞が名詞を修飾し、限定詞が、形容詞と名詞全体を修飾すると言う構造がある。
NP[ my [[ old yellow ] sweater]]
節も句、と同じく、構成要素へと分解することが出来る。このような分析は形式と機能の理解にとても便利である。
'my younger brother'は形式的には名詞句だが、節の構造では主語の機能をもつ。簡単に、以下のような節の分析が出来る。
my younger brother has bought a new house in the country
NP[my younger brother ] VP[has bought ] NP[a new house ] PP[ in the country]
Clause[ Subject Verb Object Adverbial ]
Clauses inside clauses
出来事や状況の参与者が人間や物である必要は無い。状況が他の状況を引き起こすことがある。
このような筋書きは、単純なNP-VP-NP構造、もしくは主語動詞目的語関係よりもかなり複雑な構造となる。
この場合英語では、2つの節を統合し、節がそれぞれ主語、目的語、補語などの役割を果たす。また、大きな節の構成要素としての小さい節は、接続詞'that'などの印が付けられる。
[The fact that she had lost her keys] caused a problem.
The problem was [that she had lost her keys].
節が、時間や場所、原因など、副詞的な役割を果たすこともある。この時は特定の接続詞に依って節の結びつきが表される。
[After she had lost her keys] she went to the police.
She went to the police [because she had lost her keys].
また節は、名詞句に埋め込むことが出来る。
形容詞を用いた質の表現以外で名詞を限定したいとき、場面や出来事を参照することが出来る。
the sweater [that Lucy gave me]
このような方法で名詞を修飾するものを関係詞節(relative clause)と呼び、英語では'that'の他、'whitch'や'who'などによって表される。
英語では完全な節は定動詞(finite verb)と呼ばれるものを中心に構築される。例えば、'goes'や'travelled'、'will play'など時制を含んだ動詞である。
'gone'や'to travel'、'playing'などの非定形(non-finite form)は大きな節に埋め込まれる、節のような構造の核となることが出来る。
To travel hopefully is better than to arrive.
I will never forget playing in that match.
埋め込まれた節は自らも他の節を埋め込むことが出来る。埋め込み文は永遠に続ける事が出来る。この再帰(recurson)はいくつかの書記形態において共通である。
The units of language
この章では、単語はコードであり、句がメッセージであるような言語の単位で話をしてきたが、これは簡易化されたものである。
多くの英単語は、意味を持つ小さい要素、形態素(morphome)で構成されている。例えば'walk-ed'、'un-happi- ness'がそうである。
かなり複雑な形態素の構造をもつ言語もあり、その点で単語と句の区別が曖昧になってくる。詳しくは4章で。
高レベルな構造は、文法的目的からでも個人の主観からでも、さまざまな方法で、より小さな単位に分割される。
'She went to the police because she had lost her keys.'は2つの分析方法がある。
階層的な分析により、後の節は前の節の副詞的な構成要素と見なすか。それとも、水平な分析により、2つの節が接続詞によって結びつけられていると見なすか。
さまざまな世界の言語の構造を研究してきた文法学者たちは、構造の原則や基礎単位に関してそれぞれ異なる見解をもっているし、かなり異なる文法を提唱している。
少なくとも、著者の本棚の言語学事典に依れば、認知文法(cognitive grammar)、関係文法(relational grammar)、語文法(word grammar)、テキスト文法(text grammar)、主辞駆動句構造文法(head driven phrase structure grammar)、一般句構造文法(generalized phrase structure grammar)、モンタギュー文法(Montague gramar)、変形文法(trasformational grammar)、依存関係文法(depentency grammar)、成層文法(stratificational grammar)、体系文法(systemic grammer)とあと20個程の項目がある。
このような多種の文法も、基本的には、NPのような形式的単位か、主語のような機能的単位かによって大きく二分される。
生成文法(generative grammar)に代表されるような、形式的(formal)な観点では、多少なりとも統語論(syntax)を自律したものと考える。
統語は、意味や機能を分析しても見つけることが出来なく、人間の認知能力の構造を反映したもので組織されている。あるいは、認知能力の一部を成す言語のシステムとして仮定される。
一方、機能的(functional)な観点では、言語が果たす機能の面から言語の構造を捉える。
これは、コードを用いて世界を表現したり、メッセージのやり取りを出来る為の心的システムが、人間言語に観察される構造的な特色を持っていなければならないと、考える。
もちろん、この2つの折衷的な立場も可能である。
文法は意味のやり取りの為に存在するが、一度存在してしまうと、文法は自律的になり、表現すべきことだけでなく人間の認知組織と一致するような、機能的でかつ自動的な特徴をもつのである。
正解が何であれ、このような文法学者同士の意見の不一致は、原則的に単純な統語論のメカニズムを、現実の言語の特色を表すように、かなり複雑な構造にしてしまった。
人間のコミュニケーションの特色である表現の創造性と広がりを可能にするのがこの複雑さである。
そしてそれは、世界中の言語で異なる方法で実現されているのである。
Michael Swan, Grammar(UK; Oxford University Press, 2005)
---Oxford Introduction to Language Study Series
通訳になるには何が必要なのか。
良い辞書があれば、誰でも翻訳が出来るのか。
通訳は、聞くのと話すのを同時に行い、辞書も引けない。
彼らの仕事は、機械のように単語を吐き出すことではなく、「意味」を伝えることである。
多くの意味は、声色や語と文のニュアンスで伝えられるので、彼らの仕事は逐語訳とはまったくことなる。
そして、責任が重い。
裁判での、裁判官と陪審員の言語を話せない被告人を想像してみると、通訳の仕事の重みがわかる。
誰もが2つの言語を簡単に訳せる訳ではないので、誰かがしなければならない、その誰かが、通訳なのである。
通訳は話された言語を扱うが、翻訳家は書かれた言語を扱う。
有名なホワイトハウスとクレムリンを繋ぐ「ホットライン」は電話ではなく、暗号化された高速のデータ通信で、ほとんどが文字情報である。そのため翻訳家が必要である。
プロの翻訳と通訳になるには何が必要か。
ただ単に2つの言語を知っているだけではない。それはスタート地点である。
通訳は、第二言語を話せる事だけではなく、2つの文化と、俗語や方言の使用、それから話題に関連する知識が必要である。
かれらは並外れた記憶と、通訳の訓練がなければならない。
翻訳は、通訳と同様の、2つの言語の膨大な知識を持っている事が出発点である。
多くのプロの翻訳と通訳は、特定の学術的分野の学位を持っている。たとえば、機械、建築、内科、弁護士などである。
翻訳や通訳は「職務執行令状(writ of mandamu)」や「肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy)」などの専門用語を使用する。このような単語の意味を知っていなければならない。
翻訳家はまず、1つの言語で書かれた内容を理解し、それから、他の言語に書き直すのである。
簡単にいうと、翻訳は言語に関するものではなく、言語が述べている事に関する仕事である。
ではどのようにしてプロフェッショナルになるのか。
まず、機械や薬学や経済など、1つの分野に特出している事が望ましい。
多言語社会に埋めれていると有利だが、生まれつきバイリンガルでなくても、その後勉強すればかなりの能力が身に付く。
そして、翻訳や通訳の技術の質は、訓練と練習の問題である。少なくとも修士課程を修了するべきである。そして、翻訳協会のような機関の認定を受ける。
それなりの時間がかかることだが、翻訳と通訳は儲かる仕事である。
言語サービスの業界はアメリカだけでも110億円の市場である。そしてEUの誕生により、人や製品、思想の行き来が盛んになった今、ヨーロッパでは認定された通訳の需要が膨大にある。
全ての分野で、質の高い翻訳と通訳が不足しているのである。
Kevin Hendzel, "44 Why do we need translators if we have dictionaries?"
E. M. Rickerson, Barry Hitton, ed., The 5 Minute Linguist (USA; Equinox Publishing Ltd., 2006)
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