以下のタブローは『日常言語に潜む音法則の世界』p.146のタブローを、
そのまま再現したものである。
まず、入力は漢語の/bet-kaku/である。
これがGen.によってさまざまな出現可能性となって出てくる。
[betkaku], [bekkaku], [betukaku], [bekaku]
この可能性を、制約に照らし合わせて、違反であるかを評価する。
その前に、制約のランキングだが、
これは言語ごとに変わるので、ひとつの語種での制約のランキングはひとつである。
日本語では、和語、漢語、外来語で異なる。
もちろん、このタブローに書かれていない制約のランキングも固定である。
まず、[betkaku]は、"tk"の部分が*CC制約に違反している。
*CC制約のランキングは一番なので、これは致命的違反を犯している。
二つ目は[bekkaku]であるが、入力の/t/が/k/に変わってしまっている。
これはIdenticalの忠実性制約に違反する。
三つ目の[betukaku]は/tk/の間に、入力にない”u”が挿入されている。
これはDependenceの忠実性制約に違反している。
四つ目は[bekaku]であるが、これは入力の/t/が削除されている。
これはMaximalの忠実性制約に違反している。
これは*CC制約と同じく、一番重要な制約なので、致命的違反と言える。
漢語ではIdentよりDepの制約の方がより優先されるので、
この時、最適解として選ばれるのは、二つ目の[bekkaku(別格)]である。
参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
窪薗晴夫 「派生か制約か 最適性理論入門」 月刊『言語』 大修館 1996.04.-06.月号
フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure)は、
1857年にスイスのジュネーブ生まれた。
学者の多い名家の生まれで、
ソシュールは言語学を志し、ドイツに留学する。
ドイツにて、『インド・ヨーロッパ諸語における母音の原初体系に関する覚え書き』を出版する。
ライプチヒ大学で博士号をとり、
しばらくは、パリ大学やジュネーブ大学で比較言語学の講義を担当する。
しかし、パリに居たころには既に、比較言語学の方法に関して疑問を抱いており、
ジュネーブに戻ってきてからは論文を発表していない。
ソシュールの言語観や言語学の姿勢に関しての公言は、
1906-07年、1908-09年、1910-11年に3回の「一般言語学」の講義を行っただけである。
のちに体調を崩し、1913年に没した。
現在知られているようなソシュールの(支持していた)学説に関しては、
講義用のメモ程度しかなく、
論文や本として、まとまった記述が残っていない。
そこで、ソシュールの弟子であるのシャルル・バイイとアベール・セシエが、
1910-11年の第3回講義に出席していた学生達のノートを編纂し、
『一般言語学講義』と言う名で、1916年に出版した。
両者は、直接ソシュールの講義を聴いておらず、
この本は、二人の解釈がかなり含まれてしまっていると批判も多い。
のちにソシュールの講義を聴いていた他の学生達のノートが多く出版されている。
その中でも、ミエール・コンスタンタンは第2回、第3回講義に出席し、
稀に見る詳細さで17冊の講義ノートを残している。
その第3回講義分の10冊の中から6冊分ほどを、和訳した本が出版されている。
学生用に、ということなので、これから
『ソシュール 一般言語学講義 コンスタンタンのノート』を読んでゆく。
参考文献
町田健 『コトバの謎解き ソシュール入門』 光文社(光文社新書) 2003
フェルディナン・ド・ソシュール著 影浦峡、田中久美子訳
『ソシュール 一般言語学講義 コンスタンタンのノート』 東京大学出版会 2007
言語学とは、「諸言語の科学的研究」とある。
言語学以前の研究と、言語学を区別する上で「科学的」という言葉は重要である。
では、言語学以前とは何なのか。
それは3つの段階に分かれる。
1つ目は、文法である。
古代にギリシャ人が発明してから、そのまま受け継がれた考えで、
哲学的要素もなく、理論への関心である。
全ての言語活動は、正しい言語活動と、正しくない言語活動に分類された。
言語を俯瞰的に捉える視点が欠如している。
2つ目の段階は古典文献学である。
批判的な精神でテクストに向かうという、新たな原理をもたらした。
文献学において言語は、文献学に含まれる様々な対象の一部に過ぎなかったが、
「正しさ」から解放され、ある程度の歴史観を得る事が出来た。
しかし、文献学の専らの関心は、言語に含まれる膨大な情報であり、
言語そのものへの関心とは異なっていた。
3つ目は、比較言語学。特に印欧語研究である。
これは、地理的に離れた諸言語の関係性を暴き、センセーショナルな研究であった。
諸言語を包括する言語族の存在を明らかにし、
特に印欧語族の学者は、その諸言語の比較にどんな意味があるのかも知らずに、
ゲームのように多くの論文を書いていった。
文献学に対抗し、言語に対しての関心であった事は評価出来るが、
純粋にさまざまな言語を比較するだけであった。
しかし、後のロマンス語派の研究が、言語学の本当の対象を知らしめた。
印欧語と違い、ロマンス語には、ラテン語と言う原型(プロトタイプ)が存在した。
そして、文献によって、その変容の歴史を数世紀にわたり追う事が出来た。
全ての諸言語を平面的に観察していた印欧語研究には、歴史的視点が欠けていた。
歴史的な視点は、言語と言語のつながりを明らかにした。
文献学にも、比較言語学にも存在する大きな過ちは、
話し言葉と、書き言葉の区別をしていない事である。
言語学の素材は、人間の言語のあらゆる変異である。
時代や地域の優劣は存在しない。
そしてあらゆる時代の言語を知る為に、言語学は必然的に、書き言葉を扱う。
しかし、真の対象は話し言葉であり、
書き言葉は、話し言葉の入れ物、外装である。
言語学の目的は、諸言語全ての歴史を追う事である。
そして、歴史から、最も一般的な法則を引き出す必要がある。
一般法法則と、個別的な法則は、区別しなければならない。
言語学は、一般文化に関わる研究に分類される。
テクストを扱う全ての学問に、言語学は貢献する。
特徴的な人間性の一部としての言語への関心は、専門家だけのものではない。
言語に関する叙述は多くの過ちと幻想、妄想を生み出してきた。
言語学が、この過ちを修正するのである。
参考文献
フェルディナン・ド・ソシュール著 影浦峡、田中久美子訳
『ソシュール 一般言語学講義 コンスタンタンのノート』 東京大学出版会 2007
強勢(stress)は、韻律のなかでも特に、強弱の差である。
日本語は、イントネーション(高低)による区別をするので、
ストレスが意味の違いを生むことは無い。
ストレスを利用する言語の代表はやはり、英語である。
今更であるが、英語の発音記号とIPAは違う。
各国語の発音は各国で定めるので、IPAに準じている必要は無い。
特に、英語の発音記号での第一アクセント(´)、第二アクセント(`)記号は、
IPAでは異なる意味を指す。
IPAでの第一強勢は、[ ˈ ]上付き縦棒である。
第二強勢は[ ˌ ]下付き縦棒である。
記号はそれぞれ、強勢のある音節の前におかれる。
"phonetician"を例に取ると、
第一強勢は"ti"、第二強勢は"pho"にある。
英語の発音記号ではアクセント記号は母音の上に付けるので、/fo`unɜti´ʃn/である。
IPAではこれを[ ˌfoʊnəˈtɪʃən ]となる。
円唇後舌広めの狭母音の副次母音記号は省略した。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
この点で、日本語のアクセントとは異なる。
トーンの高低には二種類ある。
段階的トーン(level tone)は音節ずつが相対的に高低の差を持つもので、
アフリカやネイティブ・アメリカンの言語で見られる。
ナイジェリアでは、同じ音韻でも、高低の違いで、動詞の時制が決まる。
曲線的トーン(contour tone)は音節内での高低の変化が見られるもので、
有名なものは中国語の四声である。
そのほかの言語では、タイ語やベトナム語で見られる。
IPAの記号にも二種類の表記があり、
左側の記号は主に段階的トーンをもつ言語で使用し、
右側の記号は、主に曲線的トーンをもつ言語で使用すると言う慣習がある。
字母を[e]にして例をあげる。
まずは平板トーンである。
ストレスで述べたように、英語のアクセント表記と混同しないように要注意である。
曲線トーンにも5つしかなく、
特に中国語はこれだけでは表記できない。
中国語学者は独自に、100個近い声調表記記号を作っている。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
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