様々な問題を抱えている。
制約はそもそも、派生の複雑な構造(05/30)に対しての疑問から、
無駄を省くように提唱されたものである。
個々の言語ごとに存在する違反不可能な制約と、
その制約ごとに、違反を修復する規則の適応優先順位を設ける。
この十分に複雑な関係を、一般的とはとても呼べない。
違反不可能な制約の存在は、一見単純な例外に対し、
複雑な規則による説明が必要になった。
そして、重要な仮説が1990年代に登場する。
階層化(Ranking)、「規則には優先順位がある」というのと同時に、
違反可能性(Violability)、「制約に違反しても構わない。ただし違反は最小限で無ければならない(constraints are violable, but violation is minimal)」という仮説である。
いくつかの制約があるときに、
一番重要視するべき制約があり、それを守るためにその他の制約を違反しても良い。
この考えは、制約違反は即、不適格であるという無駄をなくし、
臨機応変な思考を可能にした。
つまりは、妥協点を探る作業では在るが、実際の人間の思考と近い。
食堂で定食を選ぶときに、絶対に大切な制約「量が多い」がある。
次に大事なのは、「肉料理であること」。
その次は「辛くないこと」…このような数々の制約にずばり適合するものがあれば良いが、
そこまで品揃えのよい食堂もあまりない。
例えば、医者の指導により「塩分は少なめであること」という制約がある場合、
その日、食べたいものを食べるために、この忠告を無視することも出来る。
このように、違反してもいい制約がある。
そうして、考えた結果、可能な選択肢の範囲で、より違反が少ないものを注文するのである。
もちろん個人によって制約の順位が異なる。
この様な考え方が、また新たな音韻理論を生み出してゆく。
参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
窪薗晴夫 「派生か制約か 最適性理論入門」 月刊『言語』 大修館 1996.04.-06.月号
最もふさわしい解を導き出し、音韻変化を説明しようと言う考えが、
最適性理論(Optimality Theory; OT)である。
音韻論学者アラン・プリンス(Alan Prince)と
物理学者ポール・スモレンスキー(paul Smolensky)によって1993年に発表された。
言語学は科学であると言う視点から、
普遍性や一般化は最も重要な課題であった。
ある種の緩さによって、それが部分的に可能になったと言える。
まずはOTの書体から説明する。
このような表をタブロー(tableau)と言う。
まず右端には概念としての入力形が書かれる。
横の枠には、働く制約が優先順位で左から記入される。
制約3と制約4の間が破線になっているのは、二つの間に序列が無いことを表している。
最適性理論には中間段階は無いので、下に書かれるのは、可能な全ての出力形である。
アステリスク(*)は、制約違反を示している。複数あれば、より重大な違反であることを表す。
エクスクラメーション(!)は、その違反が、致命的で、
それがあると最適解に選らばれなくなってしまうような重大な違反につける。
出力形の左の矢印(⇒)は、それ最適解であることを示す。
網掛けで灰色のセルは、
その制約が守られていようと、破られていようと、最適解の選択には影響を及ぼさないことを示す。
最適性理論の重要なポイントは、制約は全ての言語に普遍的であるということだ。
諸言語間の相違は、制約の優先順位のみであるとする。
参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
窪薗晴夫 「派生か制約か 最適性理論入門」 月刊『言語』 大修館 1996.04.-06.月号
日本語での発話の具体的な平均値は日本語のテンポ(06/18)でのべた。
母音の長いものは子音と同じ調音符[ː]を使用する。
日本語では通常の二倍(2モーラ)になる。
おばさん[obasan]
おばあさん[obaːsan]
長母音ほどではないが、普通の母音より少し長くなる場合は半調音符[ˑ]を使用する。
英語やロシア語などでは、
強勢のつく母音が若干長く発音されることが知られているが、
母音の長短が意味の違いとなることは無い。
日本語、韓国語、モンゴル語、エストニア語などが、
母音の長短で意味が区別される代表的な言語である。
一方短く発音されるものを超短音といい短音符(breve)[ ˘ ]をつける。
球の下半分で、二重母音の副音とは逆である。
以下に一度子音の補助記号として紹介したものを、また述べておく。
無声音の白丸[ ゜][ 。]は上にも下にも付けれるが、通常は下につける。
母音の字母は有声音を前提としているため有声音の記号は母音には使われない。
母音の鼻音化の[ ~ ]はフランス語やポルトガル語で有名だが、
母音に挟まれた鼻音などで、多くの言語で現れる現象である。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
それが結びついたときに生じるイントネーションの制御が必要である。
日本語は基本的には語末に向かって
基本周波数が小さく、声が低くなる。
常に直後の語を修飾する文章であれば良いが、
日本語は、離れた語を修飾する事も出来る。
この時、発話における基本周波数の上昇(F0 boosting)が生じる。
もちろん例外もある。
日本語の構造は樹形図に例えられる。
修飾、被修飾の関係が隣り合う場合は、左枝分かれ境界(left-branching boundary)
F0上昇が起こりやすい、修飾被修飾が複数の語をまたぐ場合は
右枝分かれ境界(right-branching boundary)という。
F0の上昇は折れやすいところで生じるというのがある。
つまり、右枝分かれ境界と左枝分かれ境界の間である。
右枝分かれの連続ではF0の降下がみられ、並列関係でのF0上昇も見られる。
また、副詞と形容詞の左枝分かれ境界において、
「非常に良い」、「相当きれい」といった
程度の大きい副詞とポジティブ形容詞の間にF0上昇が生じ、
「そこそこ良い」、「ふつうにきれい」など程度の低い副詞ではF0上昇が弱まり、
「あまりきれいではない」ではF0下降が生じることが分かっている。
参考文献
匂坂芳典「局所的句構造に基づくF0制御」(2000)
匂坂芳典、グリンバーク陽子、津崎実、加藤宏明
「Prosody generation for communicative speech synthesis」(2005)
最適性理論は3つの部門に分かれている。
まずは、生成部門(Generator)で、
入力をもとに、ありうる出力の可能性全てを生成する。
もう一つの、制約部門(Constraint)は全ての言語に普遍的な制約群である。
これらの制約に照らし合わせて、
どの出力の可能性が、どれほど制約違反を犯しているかをチェックし、
より最適な出力を絞り込む部門が、評価部門(Evaluatoe)である。
例えば入力/ pot /に対して、Gen.で作られる出力の可能性は、
[ pot ],[ po ],[ poto],[ ot ],[oto],[ potto ]...などがある。
そして、今まで出てきたような、
語尾の子音の禁止、有声阻害音の連続の禁止などの制約と照らし合わせ、
もっとも最適解である/ potto /が導き出される。
更に付け加えるべきは、
今まで見てきたような*DD制約、*AA制約、*C#制約などは、
有標性制約(markedness constraint)と言い、
話しにくいもの、あまり一般的ではない発音を禁止する制約群に分類される。
制約にはもう一種類あり、それを忠実性制約(faithfulness constraint)と言う。
これは、入力と出力との差が、最小限になるように設定されている制約群である。
忠実性制約群には以下の5つがある。
・Max; use the input maximally 入力にある素性は全部使う。
・Dep; dependancy to the input 入力に無い素性は使わない。
・Ident; realize identically 入力の素性を他の素性に置き換えてはいけない。
・Linearity 入力の素性の順序を入れ変えてはいけない。
・Uniformity 素性を融合させたり、分離してはいけない。
参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
窪薗晴夫 「派生か制約か 最適性理論入門」 月刊『言語』 大修館 1996.04.-06.月号
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