実際は決して統一されているなどとは言えない。
具体的に、日本語のテンポが変化する要因がある。
以下は単音、音韻、語、句、文の分節ごとに調査した結果である。
調査は、文字化された文の音読記録の分析である。
表記には中途半端な音韻記号を用いた。自覚はある。
単音(phoneme)
一般的に高母音は短く、低母音は長く発音される。
[ a ],[ e ],[ o ]が約100〜120ms(ミリセカンド、1000分の1秒)なのに対し
[ i ],[ u ]は約80msと、特に短い。
低母音は口を大きく開ける為、とも言われるが定かではない。
子音では一般的に、無声音が長く、有声音が短い。
また、摩擦音が長く、たたき音が短い。
[ sh ]が100msに近いのに対し、[ dz ]は約50msである。
また、[ r ]は20ms程しかない。
音韻(phonemes)
子音によって後続する母音の長さが変わるかと言う調査では、
母音の長さと子音の長さは反比例する事がわかった。
平均的には、C+Vのセットがほぼ同じ長さで発音される。
しかし、先行する母音と子音の関係でも、微かながら反比例の形式となる為、
C+Vの関係だけでは十分に説明出来ない。
息継ぎや間(pause)の様式は、1モーラもしくは3モーラがずば抜けて多い。
これは実験のサンプル、がアナウンサーなどプロの話し手から取っており、
アナウンサーの教養として、そのような教育がなされている事に起因するとされる。
語(word)
日本語には、英語のように機能語を短く発音する習慣がなく、
単語レベルのテンポの調節はないとされてきた。
しかし、実際にはかってみると、自立語にはあまり差異が見られなかったものの、
やはり、付属語は短く発音される傾向がある事がわかった。
と言っても、5ms程の差である。
しかし、強調の語尾や感嘆詞、並列助詞(と、や)、係助詞(は)は長く発音される。
強調の意を込めて長く発音されていると考えられる。
句(phrase)
息継ぎをせず、何モーラも話し続ければ、それだけ速くなると思われるが、
実際は、モーラ数が少ない程遅く、多いと1モーラ当たり約110msで一定となる。
一度に話す語が少なければ少ない程、いろんな速さで発話出来るが、
5モーラ以下では、平均的には約200ms、
5〜10モーラでは100〜150msでの発話が多い。
15モーラ以上になると、110msの速度で一定となる。
また、「○○がー、□□してー、それでー」などの話し方からも特徴的なように、
句末の拍は15〜20msほど長く発音される。
文(sentence)
句末とは逆に、文末は最後の一拍が短い。
「です」「だった」「である」がの最後が、50msも短く発音された。
若者言葉のネイティブとしては、
この結果にはバイアスがかかっているのでは?と思わざるを得ない。
さらに、文末の最後の3拍程で、特に、
声が小さくなると言う、ラウドネスの変化が顕著に見られた。
参考文献
匂坂芳典「Modeling and perception of temporal characteristics in speech」(2003)
母音にも利用可能な記号も多いので、
あえて子音母音の区別はなくして書く。
二次的調音とは、二重調音とは異なり、
2つの調音位置で同時に発声する方法ではあるが、
その二つに程度の差が現れる発声を言う。
重要な調音位置と、付随的な調音位置の2種類がある時である。
一般的には、主要な調音方法の字母の左側に、
補助記号として、二次的調音位置を記す。
[dʷ]
[kʲ]
[ ʷ ] 唇音化(labialisation)
第一次調音に加えて、唇を丸めすぼめる。
日本古語の「くゎ」「ぐゎ」の発音。
母音に関しては、円唇、非円唇の区別は字母に含まれている。
[ ʲ ] 硬口蓋化(palatalization)
第一次調音に加えて、前舌が硬口蓋に接近する。
硬口蓋音はそれ自体が主要な調音なので、硬口蓋化とは言わない。
日本語ではほとんどのイ段の音に見られる。
「シ」の発音は硬口蓋化しなければ「スィ」である。
他の言語でも、[ i ]の前の子音に多く見られる。
[ ˠ ] 軟口蓋化(velarization)
第一次調音に加えて、口舌が軟口蓋に接近する。
軟口蓋音はそれ自体が主要な調音なので、軟口蓋化とは言わない。
アラビア語や、"dark l"と呼ばれるような母音直後の[ l ]音に見られる。
[ ˤ ] 咽頭化(pharyngealization)
第一次調音に加えて、舌根が咽頭壁に接近する。
咽頭音はそれ自体が主要な調音なので、咽頭化とは言わない。
アラビア語で見られる。
軟口蓋化と咽頭化は知覚的に良く似ているため、両方を特に区別せずに、
字母に[ ~ ](軟口蓋化あるいは咽頭化)を付け、[ ɫ ]などと表すこともある。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
破裂音には、様々な形態があり、それを細かく記述するために、
複数の補助記号が存在している。
まず閉鎖音(stop)がある。
破裂音の3段階、閉鎖、閉鎖の持続、開放の、
最後の開放を行わない発声である。
特に、語末の破裂音子音で見られる。
そのため日本には無い発音であるが、
隣の韓国では一般的に用いられる重要な発音である。
表記には、字母に小さい鉤(¬)をつけて表す。
日本語のアクセント記号と似ているため要注意である。
[ ⁿ ] 鼻腔開放(nasal release)
開放の際に、口蓋穂を下げ、鼻腔へ空気が少量流れるように発音する。
英語の"button"など、鼻音が続く場合に起こりやすい。
記号は上付きの小文字のN。
[ ˡ ] 側面開放(laateral release)
開放の際に、舌を調音点に付けたまま、側面だけ開放して発音する。
英語の"riddle"など、側面音が続く場合に起こりやすい。
記号は上付きの小文字のL。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
ひとつひとつの子音母音の変化を、
個別事例ごとに捉えてゆくような考えが下火になった頃、
1976年に、自律分節音韻論(autosegmental phonology)が提唱された。
具体的には、韻律に関わる方法論である。
一つの分節に発音の高低があったとする。
それに接辞がつき、発音のアクセント位置が変化したとする。
そして、また接辞によってアクセントが移動したとする。
このとき、従来の考えでは、アクセントを持つ母音を検証したり、
アクセントを持つ母音間での序列を見出したりしてきた。
自律分節音韻論は、一個一個の母音がアクセントを保持しているのではなく、
アクセントを決めるものは別のところに存在し、
規則や制約(constraint)によって、音素上を移動しているのだとする考えである。
非線状音韻論(non-linear phonology)と分類されることも多い。
線状(linear)とは、時間軸に沿って一列に並んでいる、言語の性質を表す。
つまり、違う単語を同時に発音できないし、同時に書くことは出来ない。
「ゲンゴ」と言う言葉は、「ゲ」→「ン」→「ゴ」という順番で発音されるのが正しい姿で、
3つの音を一気に発音したり、順番を入れ替えて「ゴ」→「ン」→「ゲ」と言うことはできない。
言葉として認識されないか、違う意味の言葉になってしまう。
自律分節音韻論のもつ非線状性とは、
韻律を、抽象的概念として、音声そのものから離して、立体的構造として考えることである。
自律分節音韻論には、韻律と音声の2つの要素があり、行為として同時に起こる現象である。
図のように、第1層としての音声群(unit)と、第2層としての韻律(tone)が、
連結線(association line)によって結びついている。
この結びつきの方法を規則と制約によって説明したものが、自律分節音韻論である。
具体的な規則に関してはまた後日。
ちなみに、一般的な科学の世界では"linear"とは「直線」を意味し、
"nonlinear"とは「曲線」を意味する。
言語学領域とは異なった概念なので、要注意である。
参考文献
「Glossary of liguistics terms "What is autosegmental phonology?"」
破裂音の開放に関する補助記号である。
破裂音の開放に長い時間をかけることで、
調音点で接近した摩擦音が瞬間的に生じる。
このように、破裂音と摩擦音の中間、破擦音(affricate)が発声される。
両唇破裂音と唇歯摩擦音、歯茎破裂音と歯摩擦音などの多少のズレはあるが、
同じ調音位置での破裂音と摩擦音の調音である。
これを同器官的(homoorganic)という。
記号は二重調音と同様に、
2つの記号を曲線で繋いだものである。
二重調音とは違い、調音位置が同じ記号が並ぶので十分に見分けが付く。
類似点は、有声音は有声音と、無声音は無声音とセットになることである。
日本語の「ツ」「ザ」「チャ」「ジャ」をはじめ、
ヨーロッパの言語でも多く見られる音声である。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
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