言語学は自然科学ではないので、
ひとつふたつの矛盾があったって、その理論が完全に間違いだとは言えない。
内在的順序、外在的順序、利益供与、利益奪取、語彙規則、後語彙規則など
規則同士の様々な序列関係を紹介したが、
今回は、序列ではなく、
もっと抽象的な、カテゴリーを紹介する。
順序付けの関係を、規則の縦の関係と言うならば、
これは、規則の深層にある、目標を同じとする抽象的な関係性であり、横の関係と言える。
共謀関係(conspiracy)は、
抽象的概念的枠組みも、音韻体系に関わっていることを示した。
例えば、わたり音挿入と母音融合の2つの規則である。
母音融合とは、
umai「うまい」→umee
katai「堅い」→katee
atui「熱い」→atii
のように、連続する母音が融合し、同じ母音の連続となることである。
この2つの規則に共通する目標は、
「異音節の母音連続の禁止」である。
そのために、他の子音を挿入したり、母音自体を変化させる。
この2つのが規則が適応されたり、適応順序に関係性があるのではなく、
規則の目標が共通しているという視点が新しい。
このように規則が適応するようにする共通目標を持つものを、積極的(positive)、
規則が適応しないようにするものを否定的共謀関係(negative conspiracy)という。
例えば、CVCCCのような音節を避けるために、
子音挿入や母音削除の規則が適応されない例である。
「見えない糸」の発見と研究は、
言語学史上、とても画期的で重要な意味を持つものであるといえる。
参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
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今回は、欄外、もしくは補助記号の欄にある、
二重調音の子音を紹介する。
2つの調音位置で同時に発声する方法であり、
破裂と破裂(鼻音と鼻音)、摩擦と摩擦、接近と接近など、
普通、同じ調音方法の二つを組み合わせる。
2つの間に強弱の差は無い。
異なる調音方法を組み合わせるのは、生理的に不可能だと考えられる。
破裂と破裂(鼻音と鼻音)
口内に2つの完全な閉鎖をつくり、それを開放する。
記号は、2つの記号を並べたり、紛らわしい時は図の様に曲線でつなぐ。
普通のパソコンでは対応して無い書式なのです。

[ kp ] 無声両唇軟口蓋破裂音(voiceless labio-velar plosive)
[ gb ] 有声両唇軟口蓋破裂音(voiced labio-velar plosive)
[ ŋm ] 有声両唇軟口蓋鼻音(voiced labio-velar nasal)
アフリカの言語で見られる。あまり一般的ではない。
摩擦と摩擦
[ ʍ ] 無声両唇軟口蓋摩擦音(voiceless labio-velar fricative)
無声両唇摩擦音[ ɸ ]と無声軟口蓋摩擦音[ x ]の同時調音。
英語の"wh"の発音に見られることがある。
スコットランド方言では"w"と"wh"の発音が異なる。
[ ɧ ] 無声後部歯茎軟口蓋摩擦音(voiceless palatal-velar fricative)
無声後部歯茎摩擦音[ ʃ ]と無声軟口蓋摩擦音[ x ]の同時調音。
スウェーデン語などで見られる。
接近と接近
[ ɥ ] 有声両唇硬口蓋接近音(voiced labial-paltal approximant)
両唇接近音は存在しないが、
硬口蓋接近音[ j ]を、唇を丸めて前に突き出すように発音する。
中国語やフランス語にみられる。
[ w ] 有声両唇軟口蓋接近音(voiced labio-velar approximant)
両唇接近音は存在しないが、
軟口蓋接近音[ ɰ ]を、唇を丸めて前に突き出すように発音する。
英語、フランス語など多くの言語に見られる発音である。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
二重調音の子音を紹介する。
2つの調音位置で同時に発声する方法であり、
破裂と破裂(鼻音と鼻音)、摩擦と摩擦、接近と接近など、
普通、同じ調音方法の二つを組み合わせる。
2つの間に強弱の差は無い。
異なる調音方法を組み合わせるのは、生理的に不可能だと考えられる。
破裂と破裂(鼻音と鼻音)
口内に2つの完全な閉鎖をつくり、それを開放する。
記号は、2つの記号を並べたり、紛らわしい時は図の様に曲線でつなぐ。
普通のパソコンでは対応して無い書式なのです。
[ kp ] 無声両唇軟口蓋破裂音(voiceless labio-velar plosive)
[ gb ] 有声両唇軟口蓋破裂音(voiced labio-velar plosive)
[ ŋm ] 有声両唇軟口蓋鼻音(voiced labio-velar nasal)
アフリカの言語で見られる。あまり一般的ではない。
摩擦と摩擦
[ ʍ ] 無声両唇軟口蓋摩擦音(voiceless labio-velar fricative)
無声両唇摩擦音[ ɸ ]と無声軟口蓋摩擦音[ x ]の同時調音。
英語の"wh"の発音に見られることがある。
スコットランド方言では"w"と"wh"の発音が異なる。
[ ɧ ] 無声後部歯茎軟口蓋摩擦音(voiceless palatal-velar fricative)
無声後部歯茎摩擦音[ ʃ ]と無声軟口蓋摩擦音[ x ]の同時調音。
スウェーデン語などで見られる。
接近と接近
[ ɥ ] 有声両唇硬口蓋接近音(voiced labial-paltal approximant)
両唇接近音は存在しないが、
硬口蓋接近音[ j ]を、唇を丸めて前に突き出すように発音する。
中国語やフランス語にみられる。
[ w ] 有声両唇軟口蓋接近音(voiced labio-velar approximant)
両唇接近音は存在しないが、
軟口蓋接近音[ ɰ ]を、唇を丸めて前に突き出すように発音する。
英語、フランス語など多くの言語に見られる発音である。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
概して、チョムスキーの普遍文法と対立する言語相対論を、
支持する学問領域として認知言語学(cognitive linguistics)がある。
認知言語学は、サピア=ウォーフの弱い仮説を支持している。
認知言語学とは、言語活動を身体的「経験」に帰着するのもとして捉える。
認知言語学の言う「認知(cognition)」とは、
人間の五感で感覚し、記憶し、学習し、判断する、
身体から精神の働きを総称した言葉である。
類義語としての「認識」は、おもに哲学の分野の用語である。
人が何かを知る時に、見たり、聞いたり触ったりと言うような、
五感による身体的経験を重要視する考えを経験基盤主義(experientialism)と言う。
認知の仕組みは、一般に、以下のように説明される。
物質の存在を、五感で感じ、概念化(conceptualization)し、
記号化(encode)し、概念操作によって意味付け(sense-making)する。
物質がそこに存在していることと、認知されることは遠い。
例えばダイヤモンドが存在している場合、
人がそれを見たり、持って重さを量ったり、床に落とした音を聞く。
そして心の中に、ダイヤモンドに似たような姿を映し出す。
心の中に虚像があることで、また別の機会に、同じような物質を感覚したときに、これもダイヤモンドだと、理解する事ができる。
これを概念化と言う。
そして記号を当てはめる。
ソシュールの考えでは、その時の記号は「いぬ」でも「ねこ」でも何でも良い。
今回は日本の社会で通用する「ダイヤ」を用いる。
これで、「ダイヤ」という記号を目の当たりにした時、
私とあなたは、知らない第三者も、同じ概念を思い浮かべる事ができる。
そして、色が濁ったダイヤモンド「うさぎ」、傷がついたダイヤモンド「りす」など、
隣接する記号が存在するほど、「ダイヤ」によって狭い範囲の概念を伝えやすくなる。
さらにとある文脈で「ダイヤ」が使われ、環境を主体的に解釈する事によって、
「ダイヤ」がセレブリティーの証だとか、結婚の約束だとかという
意味付けを行うのである。
意味付けにおいて、認知対象が認知主体に対して価値のある情報を提供する事を
「対象が行為をアフォード(afford)する」と言う。
人間と環境の相互作用の中で、環境から人間への働きかけに注目した視点である。
このような考え方をアフォーダンス理論(affordance theory)といい、
人間から環境への働きかけを再重要視する言語決定論とは、
真逆の視点をもった理論であるとも言えるだろう。
参考文献
吉村公宏 『はじめての認知言語学』 研究社 2004
支持する学問領域として認知言語学(cognitive linguistics)がある。
認知言語学は、サピア=ウォーフの弱い仮説を支持している。
認知言語学とは、言語活動を身体的「経験」に帰着するのもとして捉える。
認知言語学の言う「認知(cognition)」とは、
人間の五感で感覚し、記憶し、学習し、判断する、
身体から精神の働きを総称した言葉である。
類義語としての「認識」は、おもに哲学の分野の用語である。
人が何かを知る時に、見たり、聞いたり触ったりと言うような、
五感による身体的経験を重要視する考えを経験基盤主義(experientialism)と言う。
認知の仕組みは、一般に、以下のように説明される。
物質の存在を、五感で感じ、概念化(conceptualization)し、
記号化(encode)し、概念操作によって意味付け(sense-making)する。
物質がそこに存在していることと、認知されることは遠い。
例えばダイヤモンドが存在している場合、
人がそれを見たり、持って重さを量ったり、床に落とした音を聞く。
そして心の中に、ダイヤモンドに似たような姿を映し出す。
心の中に虚像があることで、また別の機会に、同じような物質を感覚したときに、これもダイヤモンドだと、理解する事ができる。
これを概念化と言う。
そして記号を当てはめる。
ソシュールの考えでは、その時の記号は「いぬ」でも「ねこ」でも何でも良い。
今回は日本の社会で通用する「ダイヤ」を用いる。
これで、「ダイヤ」という記号を目の当たりにした時、
私とあなたは、知らない第三者も、同じ概念を思い浮かべる事ができる。
そして、色が濁ったダイヤモンド「うさぎ」、傷がついたダイヤモンド「りす」など、
隣接する記号が存在するほど、「ダイヤ」によって狭い範囲の概念を伝えやすくなる。
さらにとある文脈で「ダイヤ」が使われ、環境を主体的に解釈する事によって、
「ダイヤ」がセレブリティーの証だとか、結婚の約束だとかという
意味付けを行うのである。
意味付けにおいて、認知対象が認知主体に対して価値のある情報を提供する事を
「対象が行為をアフォード(afford)する」と言う。
人間と環境の相互作用の中で、環境から人間への働きかけに注目した視点である。
このような考え方をアフォーダンス理論(affordance theory)といい、
人間から環境への働きかけを再重要視する言語決定論とは、
真逆の視点をもった理論であるとも言えるだろう。
参考文献
吉村公宏 『はじめての認知言語学』 研究社 2004
なんだか音声学のカテゴリーは
話題が統一されていないような気がするのですが、
まあ気にせず続けます。
今回は文節間のアクセント推移の簡単な話。
文節間のアクセントは、簡単に言うと譲り合い。
アクセントのない平板型または0型を、無核とも言うが、
前部要素と後部要素が両方無核であれば、結果も無核となる。
ムズカシイ+モンダイ=ムズカシイモンダイ
前部要素と後部要素のどちらかが無核で、もう一方が有核である場合は、
有核のアクセントが優先される。
ワタシガ+ワ^ルカッタ=ワタシガワ^ルカッタ
ユック^リ+ススメル=ユック^リススメル
両方がアクセント核を持った分節である場合は、前部要素を優先させる。
タカ^イ+ヤマ^ガ=タカ^イヤマガ
この法則は、前回紹介したような、
分節内のアクセント推移が全て適用された後に、適用される。
しかし現実の現象はモデルとは異なり、
副次アクセントと呼ばれるものも存在する。
「タカ^イヤマガ」は弱いアクセントを「マ」に残して発音される。
文節間でも、副詞を多く含む句のアクセント推移は、
長い複合語や、付属語が多い分節などと同じように、
予測不可能なアクセントが出現する確立が高くなる。
参考文献
匂坂芳典、佐藤大和「テキストからの音声合成を目的とした日本語アクセント結合規則」(1983)
話題が統一されていないような気がするのですが、
まあ気にせず続けます。
今回は文節間のアクセント推移の簡単な話。
文節間のアクセントは、簡単に言うと譲り合い。
アクセントのない平板型または0型を、無核とも言うが、
前部要素と後部要素が両方無核であれば、結果も無核となる。
ムズカシイ+モンダイ=ムズカシイモンダイ
前部要素と後部要素のどちらかが無核で、もう一方が有核である場合は、
有核のアクセントが優先される。
ワタシガ+ワ^ルカッタ=ワタシガワ^ルカッタ
ユック^リ+ススメル=ユック^リススメル
両方がアクセント核を持った分節である場合は、前部要素を優先させる。
タカ^イ+ヤマ^ガ=タカ^イヤマガ
この法則は、前回紹介したような、
分節内のアクセント推移が全て適用された後に、適用される。
しかし現実の現象はモデルとは異なり、
副次アクセントと呼ばれるものも存在する。
「タカ^イヤマガ」は弱いアクセントを「マ」に残して発音される。
文節間でも、副詞を多く含む句のアクセント推移は、
長い複合語や、付属語が多い分節などと同じように、
予測不可能なアクセントが出現する確立が高くなる。
参考文献
匂坂芳典、佐藤大和「テキストからの音声合成を目的とした日本語アクセント結合規則」(1983)
韻律(prosody)とは、
詩の形式だけをさすのではなく、
日常会話の音声の形式を広く指す言葉である。
子音、母音以外の音律には以下のような種類がある。
高さ:アクセント、イントネーション(周波数)
速さ:リズム、タイミング、テンポ(時間)
強さ:ストレス、ラウドネス(振幅、エネルギー)
高さ、速さ、強さは実際の知覚であり、
括弧内は物理的な音声としての韻律の要素、要因である。
日本語はアクセントによる韻律を作り、
英語はストレスによる韻律が作られる事は、以前の述べた通りである。
タイミングに関しては、
日本語はモーラ・タイミングであるのに対し、
英語はストレス・タイミングである事が知られている。
日本語は拍ごとに、一定のテンポでマシンガンのように発話する。
これを等拍性(mora isochrong)と言う。
一方英語は単語を越えた超文節的なストレスとストレスの間、
ISI(Inter Stress Interval)が一定のリズムになるように、
機能語と呼ばれるような"in"や"the"の発音が極端に短くなる言語である。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
詩の形式だけをさすのではなく、
日常会話の音声の形式を広く指す言葉である。
子音、母音以外の音律には以下のような種類がある。
高さ:アクセント、イントネーション(周波数)
速さ:リズム、タイミング、テンポ(時間)
強さ:ストレス、ラウドネス(振幅、エネルギー)
高さ、速さ、強さは実際の知覚であり、
括弧内は物理的な音声としての韻律の要素、要因である。
日本語はアクセントによる韻律を作り、
英語はストレスによる韻律が作られる事は、以前の述べた通りである。
タイミングに関しては、
日本語はモーラ・タイミングであるのに対し、
英語はストレス・タイミングである事が知られている。
日本語は拍ごとに、一定のテンポでマシンガンのように発話する。
これを等拍性(mora isochrong)と言う。
一方英語は単語を越えた超文節的なストレスとストレスの間、
ISI(Inter Stress Interval)が一定のリズムになるように、
機能語と呼ばれるような"in"や"the"の発音が極端に短くなる言語である。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
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