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語彙規則は、語彙が成立する以前の音韻規則であると述べたが、
その語彙規則にも、ある序列が存在することが分かってきた。
例えば、接辞が結合するときの変化である。
鼻音同化規則では、in+possibleがimpossibleに成ると述べた。
ならばなぜ、un+believableはumbelievableではなく、unbelievableなのか。
divineの二重母音/ ai /はdivinetyでは単母音/ i /になっているのに、
なぜ、divinelyでは二重母音/ ai /のままなのか。
activeの語頭のアクセントは、activetyでは/ i /に移動するのに、
activelyは語頭のままなのか。
このような疑問を解消するために、
接辞結合の語彙規則には、ふたつのレベルが存在していると提唱された。
最も一般的なボロウスキーのモデルを紹介する。

 基底レベル
   ↓
 クラス1接辞付加⇔循環規則  レベル1
                ↓
            クラス2接辞付加→非循環規則  レベル2
                           ↓
                         統語論→後語彙規則
                                  ↓
                                表層レベル

循環規則(cyclic rule)とは、
クラス1接辞が付加される度に繰り返し適応される規則である。
例えば、「アクセントが、後ろから2番目の母音に付加される」という規則であれば、
クラス1接辞が付加される度に、アクセントの位置が変わる。
一方、非循環規則(non-cyclic rule)は、
クラス2接辞が全て付加されてから、適応される規則である。
クラス2接辞がいくつ付加されても、アクセントの位置は変わらない。

具体的には、
クラス1接辞はラテン系(in-, -ic, -al,-ity, -ify, -ish, -ate, -tion, etc.)、
クラス2接辞はゲルマン系(un-, -ness, -less, -ful, -hood, -er, etc.)とされる。
クラス1接辞とクラス2接辞の性質の違いは、主に以下の四つがあげられている。

まずは、生産性の高低である。
クラス1接辞は、ラテン系語基などの、特定の形態素のみと接続するが、
クラス2接辞は、ラテン系でもゲルマン系でも付加することが出来る。
その点で、クラス1接辞は生産性が低く、クラス2接辞は生産性が高い。
生産性が高いということは、語基を選り好みしなく、
それゆえ形態素間の癒着力が低いとされる。
また、先のimpossibleの例で"in"は、鼻音同化規則が適応され、
その干渉をみても、接辞と語幹の癒着力が強い証拠となっている。
三つ目は、意味の透明性である。
"in"は「否定」の意であると言う説明は間違っていて、
infamousは、「否定」では説明が付かない。
このような状態を、意味の透明性が低いと言い、クラス2接辞は比較的透明性が高い。
最後は語基の種類である。
inaneとinertという単語は存在し接辞"in"が付加した語彙であるが、
*aneや*ertという単語は存在しない。
クラス1接辞はこのような、単独では存在できない形態素と結合することが出来る。
このような形態素を拘束形態素(bound morpheme)と言う。
一方でクラス2接辞は、単独で語彙として存在している形態素のみと結合する。
このような形態素を自由形態素(free morpheme)という。

もちろん例外も多々あるが、
語彙規則の中の2つのレベルの発見は、より詳細な音韻規則の説明を可能にした。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
「Glossary of liguistics terms "What is lexical phonology?"

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今まで紹介してきた子音は、肺臓気流を用いた発声である。
つまり、肺からの呼気を何らかの形で阻害し、
空気の波を変容させてつくる音である。
今回から、非肺臓気流音機構の発声を紹介する。
IPAの「肺臓気流以外」の表にあるのは、吸着音、入破音、放出音の3つである。

今回紹介する放出音(ejective)は、
口の中の気圧を高めて、空気の放出と共に発声する。
破裂音のように口内に閉鎖をつくり、更に声門を閉じて、
喉頭全体を持ち上げて、閉鎖から声門までの気圧を高める。
閉鎖を一気に開放して、強い呼気とともに破裂と摩擦の発声がなされる。
口蓋帆はあがったままなので、鼻腔には空気は流れない。
声帯をとじているためこの調音に有声音は無い。

格IPAに[ ' ]を加えて放出音を表す。
[ p' ] 両唇放出破裂音(bilabial ejective plosive)
[ t' ] 歯茎放出破裂音(alveolar ejective plosive)
[ k' ] 軟口蓋放出破裂音(velar ejective plosive)
[ s' ] 歯茎放出摩擦音(alveolar ejective fricative)


ネイティブ・アメリカンや、アフリカの民族の言葉に多く用いられている。
世界的には珍しくない発音だが、
インド・ヨーロッパ系言語などで用いられないためか、
日本人にはあまり馴染みの無い発音である。
ちなみに、韓国語の濃音(日本語で「ッター」「ッパー」などに例えられる強い子音)も同じ記号を用いて表すが、これは代用であって、濃音の発音は放出音とは異なる。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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非肺臓気流機構の二つ目は、入破音(implosive)である。
放出音とは逆に、
口の中の気圧を低めて、空気が流れ込むと同時に発声する。
破裂音のように口内に閉鎖をつくり、更に声門を閉じて、
喉頭全体を下げて、閉鎖から声門までの気圧を低める。
閉鎖を一気に開放して、空気が流れ込むのとともに破裂の発声がなされる。
口蓋帆はあがったままなので、鼻腔には空気は流れない。
声帯を少しだけ空け、有声化した調音が多い。

IPAは肺気流音の記号の右上にカギがついたものを使う。
[ ɓ ] 有声両唇入破音(voiced bilabial implosive)
[ ɗ ] 有声歯茎入破音(voiced alveolar implosive)
ʄ ] 有声硬口蓋入破音(voiced palatal implosive)
[ ɠ ] 有声軟口蓋入破音(voiced velar implosive)
[ ʛ ] 有声口蓋垂入破音(voiced uvular imploisive)
有声硬口蓋入破音記号に関しては、あやふやなところもあり、
テキスト形式では鉤付きエフ" ƒ "の横棒が2本になっているが、
IPA表では鉤付きエフになっている。
中国語やベトナム語の方言などに見られることもあるが、異音としての存在である。
ナイジェリアの言葉にも見られる。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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最後の非肺臓気流機構は、吸着音(click)である。
吸着音は、放出音や入破音のように喉頭を用いた気圧の調整ではなく、
舌によって口内に作った閉鎖の気圧を低めて、
舌打ちのような発声をする。

両唇や、舌端と歯茎などでひとつめの閉鎖をつくり、
軟口蓋と後舌でふたつめの閉鎖を作る。
後舌を咽頭の方へずらし、閉鎖の中の気圧を低める。
閉鎖を一気に開放し、空気が流れ込むのと同時に、発声する。
舌を鳴らすような「タン」「トン」という音にもなる。

ʘ ] 両唇吸着音(bilabial click)
[ | ] 歯吸着音(dental click)
[ ! ] (後部)歯茎吸着音(alveolar/postalveolar click)
ǂ ] 硬口蓋(歯茎)吸着音(palatal/palato-alveolar click)
[ ǁ ] 歯茎側面吸着音(lateral click)

だんだんネタ切れ感の否めない記号になってきたが、
これら吸着音は言語音としては、
主に、アフリカやオーストラリアの現地の言語のみで見られる。
後ろの閉鎖を作る軟口蓋と後舌でも音声の調節が可能なので、
[ k ][ g ][ ŋ ]などの記号を、吸着音の記号の前に書くこともある。
特に特徴が無い場合は[ k ]を書く。

よく、両唇吸着音をキスの音、歯茎吸着音を舌打ちの「チェッ」などと例えらているが、
伝わらないと思うので、youtubeで"clicks language"と検索してみると良いと思う。
大学の講義で見たビデオでは、
お皿か何かを叩いている様な、乾いた音がしているように聞こえた。
Xhosa clicks(youtube)
文字も出ます。後半は歌です。
関連動画はたくさんあるみたいです。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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語彙規則の大きな例外として、
順序付けパラドックス(ordering paradox)と呼ばれるものがある。
クラス1、クラス2の接辞付与の順序が、
実際の接辞結合の順序と矛盾している場合である。

"grammar"から"ungrammaticality"が出来るまでの順序は、
語彙規則によれば、
"un-"がクラス2、"-ical"と"-ity"がクラス1なので、
 grammer→grammat-ical→grammatical-ityun-grammaticality
になる。

しかし、"un-"という接辞は形容詞にしか付加しない規則がある。
これを難しい言葉で下位範疇化(subcategorization)という。
動詞が名詞(目的語)とくっついて、より大きな動詞句を作るように、
大きなカテゴリーが、支配する単語の品詞を指定することを言う。
"un-..."が支配できる単語は形容詞だけである。
("ungrammatical"は"ungrammaticality"に支配される。)
従って、"un-"は、形容詞"grammatical"に直接付与しなければならない。
 grammar→grammat-icalun-grammatical→ungrammatical-ity
品詞を考えるとこれが正しい。
しかしこの順序は、語彙音韻論的には、
基底レベル→クラス1接辞付加→クラス2接辞付加→クラス1接辞付加
となり、規則に反する。

このような矛盾の説明が出来ず、
語彙音韻論の流行は下火になり、音韻論は新たな学説を模索してゆく。
今まで説明してきたように、
基底レベルと表層レベルの音韻違いを、細かな規則に分解し、説明する手法は、
コンピューターの開発が盛んな1970年代に流行した。
コンピューターも同様に、複雑な数式の計算を、
より簡単な数式の組み合わせに置き換えることで、高性能化していった。
8×3は、8+8+8に分解される。
音韻変化を、いくつもの音韻規則で説明する手法は特に、母語習得の面で批判されることが多かった。
私たちは、こんなに複雑な規則を全て知り、適用させて発話しているわけではないのだ。

かくして、80年代に流行する、
新たな音韻論のキーワードが発明される訳だが、それは又後日。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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