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派生(derivation)とは、入力と出力の間に、
一つ以上の中間段階があるような過程の総称である。

 基本形
   ↓ 規則1
 中間段階1
   ↓ 規則2
 中間段階2
   :
   ↓
 表層形

日本語のハ行の音韻規則で見たように、作用する規則には順序がある。
文法とは、裏づけされた順序での規則適用と、段階的派生からなる。
その順序を決める要因は、大きく二つに分けられる。
ひとつは、どの言語でも適応される、文法自体が内包している原理であり、
内在的順序(intrinsic order)と言う。
例えば、非該当条件と呼ばれるような、
適用範囲の狭い規則の方が、適用範囲の広い規則より優先される、と言う原理である。
大雑把に言うと、「その他は…」と言う規則より前に、
必ず、「Aは…」や「Bは…」といった個別の規則が適応される。
当然のことのように思えるが、重要な原則である。

もうひとつは、外在的順序(extinsic order)という。
これは、文法原理によらない、
個別言語の歴史や文化的背景による、偶発的な原理である。
外在的な原理による複数の規則に接点があるとき、その関係性はさらに二つに分かれる。
利益供与の順序(feeding order)は、先行する規則によって環境が整備され、
それに続く音韻規則が作用する場合である。
ハ行音の摩擦音化規則と異音化規則の関係である。
[ p ]が[ h ]にならないと、次の異音変化が出来ない。
 摩擦音化規則 p→h/#_
             または V_
 異音規則 h→ç/_i  h→ɸ/_u
利益奪取の順序(bleeding order)は、先行する規則によって環境が変化させられ、
それに続く音韻規則の適応範囲が狭くなる関係である。
ハ行音の連濁と摩擦音化の関係である。
[ p ]が[ b ]になってしまうと、[ h ]にはなれない。
 連濁規則 p→b/#+#_(和語)
 摩擦音化規則 p→h/#_
             または V_

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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摩擦音(fricative)は空気の通る隙間をかなり小さく残し、
雑音のような、隙間風のような強い乱気流を生じさせ、発声する。
この音を出す際に、
空気の流れを口の真ん中に作る、中線的摩擦音と、
口の真ん中に閉鎖があり、両脇を空気が通る、側面的摩擦音がある。
一般的には、前者を狭義の摩擦音、後者を側面摩擦音と称する。
今回は中線的摩擦音のみ紹介する。

[ ɸ ] 無声両唇摩擦音(voiceless bilaial fricative)
[ β ] 有声両唇摩擦音(voiced bilaial fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
両唇で狭い隙間を作り、発声する。
この調音位置での側面的調音は不可能。
声帯振動が無ければ、[ ɸ ]、伴えば[ β ]である。
日本語の「ふ」の調音が無声両唇摩擦音である。
スペイン語では/ b /や/ v /の異音として有声両唇摩擦音が生じる。

[ f ] 無声唇歯摩擦音(voiceless labiodental fricative)
[ v ] 有声唇歯摩擦音(voiced labiodental fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
上歯と下唇で狭い隙間を作り、発声する。
この調音位置での側面的調音は不可能。
声帯振動が無ければ、[ f ]、伴えば[ v ]である。
多くの言語でみられる、一般的な発音である。

[ θ ] 無声歯摩擦音(voiceless dental fricative)
[ ð ] 有声歯摩擦音(voiced dental fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
上歯と舌尖で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ θ ]、伴えば[ ð ]である。
この音を音素に持つ言語は少ないが、英語の"th"で馴染み深い。
舌を歯ではさむ歯間摩擦音(interdental)も同じ記号を用いる。
 
[ s ] 無声歯茎摩擦音(voiceless alveolar fricative)
[ z ] 有声歯茎摩擦音(voiced alveolar fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌端と歯茎で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ s ]、伴えば[ z ]である。
日本の「さ」、「ざ」をはじめ、多くの言語に見られる発音である。

[ ʃ ] 無声後部歯茎摩擦音(voiceless postalveolar fricative)
[ ʒ ] 有声後部歯茎摩擦音(voiced postalveolar fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌端と後部歯茎で狭い隙間を作り、発声する。そり舌にはならない。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ ʃ ]、伴えば[ ʒ ]である。
英語、フランス語などで見られる。
日本語の「し」の表記に[ ʃ ]を用いることも在るが、厳密には間違いである。

[ ʂ ] 無声そり舌摩擦音(voiceless retroflex fricative)
[ ʐ ] 有声そり舌摩擦音(voiced retroflex fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌尖と後部歯茎で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ ʂ ]、伴えば[ ʐ ]である。
中国語やベトナム語に見られる。

[ ç ] 無声硬口蓋摩擦音(voiceless palatal fricative)
[ ʝ ] 有声硬口蓋摩擦音(voiced palatal fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
前舌と硬口蓋で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ ç ]、伴えば[ ʝ ]である。
[ ç ]は、日本語の「ひ」の発音であり、ドイツ語の"ch"でも有名。

[ x ] 無声軟口蓋摩擦音(voiceless velar fricative)
[ ɣ ] 有声軟口蓋摩擦音(voiced velar fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
後舌と軟口蓋で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ x ]、伴えば[ ɣ ]である。
スペイン語やロシア語で見られる。

[ χ ] 無声口蓋垂摩擦音(voiceless uvular fricative)
[ ʁ ] 有声口蓋垂摩擦音(voiced uvular fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
後舌と口蓋垂で狭い隙間を作り、発声する。
真ん中に隙間を作る、中線的調音である。
声帯振動が無ければ、[ χ ]、伴えば[ ʁ ]である。
[ χ ]の形は[ x ]とは少し違って、ギリシャ文字のχに近い。
オランダ語やモンゴル語で見られる。

[ ħ ] 無声咽頭摩擦音(voiceless pharyngeal fricative)
[ ʕ ] 有声咽頭摩擦音(voiced pharyngeal fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌根と咽頭壁で狭い隙間を作り、発声する。
この調音位置での側面的調音は不可能。
声帯振動が無ければ、[ ħ ]、伴えば[ ʕ ]である。
アラビア語で用いられる。
無理すると涙が出る。

[ h ] 無声声門摩擦音(voiceless glottal fricative)
[ ɦ ] 有声声門摩擦音(voiced glottal fricative)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
声門で狭い隙間を作り、発声する。
この調音位置での側面的調音は不可能。
声帯振動が無ければ、[ h ]、伴えば[ ɦ ]である。
語頭の、日本語の「は」「へ」「ほ」や、英語、ドイツ語の"h"の発音である。
母音に挟まれると有声音化する。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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接近音(approximant)は、調音方法が摩擦音と似ているが、
気流の摩擦が生じるほど隙間は狭くなく、空気の流れの阻害も少ない。
空気の流れを口の真ん中に作る、中線的接近音と、
口の真ん中に閉鎖があり、両脇を空気が通る、側面的接近音がある。
一般的には、前者を狭義の接近音、後者を側面接近音と称する。
今回は中線的接近音のみ紹介する。
基本的には有声音のみである。

[ ʋ ] 有声唇歯接近音(voiced labiodental approximant)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
下唇と上歯が接近した状態で、発声する。
記号はギリシャ文字のvに似ている。
オランダ語やドイツ語などで見られる。

[ ɹ ] 有声歯茎接近音(voiced alveolar approximant)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌尖と歯茎が接近した状態で、発声する。
記号は小文字のrが、上下逆さになったものである。
英語での語頭の/ r /音に見られる。

[ ɻ ] 有声そり舌接近音(voiced retroflex approximant)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌尖と後部歯茎が接近した状態で、発声する。
英語での語頭の/ r /音や中国語で見られる。

[ j ] 有声硬口蓋接近音(voiced palatal approximant)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
前舌と硬口蓋が接近した状態で、発声する。
日本語のヤ行の発音であり、多くの言語で見られる。

[ ɰ ] 有声軟口蓋接近音(voiced velar approximant)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
後舌と軟口蓋が接近した状態で、発声する。
スペイン語などで見られる。
唇を丸めずに、「わ」をこの子音で発音することもある。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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前回のべた規則の順次適用にも、例外が存在する。
例外にも二つの種類がある。
偶発的で、説明不可能な例外と、
規則の順序の入れ替わりで説明が出来る例外である。
後者の説明できる例外には、さらに2つの種類がある。

適応不全(underapplication)は、
規則が適応するはずなのに適応しない例である。
利益供与の関係にある規則Aと規則Bが逆転する(counter-feeding order)と、
規則Bが適応せず、その後規則Aが作用するので、
規則Bが存在しなかったような状態、適応不全の状態となる。

適応過剰(overapplication)は、
規則が適応しないはずのところまで、広く作用する例である。
利益奪取の関係にある規則Cと規則Dが逆転する(counter-bleeding order)と、
規則Cによって制限されるはずの規則Dの適応範囲が
制限されずに作用し、適応過剰の状態となる。

これはら日本語の古語と現代語の
音便規則の適応順序の入れ代わりなどで実際に起こっている現象である。
現代語において、
「書く」「漕ぐ」などのイ音便の/ i /の挿入、/ k /の削除規則は利益供与の関係にある。
     挿入規則  削除規則
 kak-te → kak-i-te → kaite「書いて」
 kog-de → kog-i-de → koide「漕いで」
この挿入と削除の順序が逆転すると、適応不全が起きる。
     削除規則  挿入規則
 kak-te → 不適応 → kakite「書きて」
 kog-te → 不適応 → kogite「漕ぎて」

一方、古文の/ i /の挿入規則と/ g /の同化規則は利益奪取の関係にある。
     挿入規則  同化規則
 kak-te → kak-i-te → 不適応「書きて」
 kog-te → kog-i-te → 不適応「漕ぎて」
この挿入と同化の順序が入れ替わると、適応過剰が起こる。
     同化規則  挿入規則
 kak-te → kak-te → kak-i-te ...「書いて」
 kog-te → kog-te → kog-i-te ...「漕いで」

このように、現代文法と古典文法の関係は、派生順序の逆転として説明できる。
言語学者キパルスキーは、音韻の歴史変化とは、
「利益供与の最大化」と、「利益奪取の最小化」であると述べている。
つまり、利益供与の関係が築かれ、利益奪取の関係が解消されるように変化する。
上記の例は、その模範的な存在である。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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 先の序文で少し話に出たが、
空気の振動の波としての音を、物理的に解明する学問分野に、
音響音声学(acoustic phonetics)がある。

空気中を伝わる波は、
呼気によって作られた空気の圧縮と希薄からなる。
圧縮と希薄の繰り返しが多く生じれば、声は高く、
少なければ低い声が出る。
これを周波数(frequency)といい、
1秒間に、圧縮と希薄のセットが何回繰り返されるかを単位とし、
ヘルツ(Hz)またはc/sと表記する。
一般的に男性の発声は100Hz〜300Hz、女性は200Hz〜400Hzと言われている。

また、どれだけ強く圧縮するかは、振幅(amplitude)といい、
これによって声の多きさが変化する。
圧縮、希薄の度合いが大きいほど声は大きく、小さい声はその度合いが弱い。
これにはエネルギーとして単位、デシベル(dB)を用いる。
普通の会話は60dB付近と言われている。
数値の求め方やその他の音の大きさは、下の参考HPをどうぞ。

音声を発するときには、
肺からの呼気を、調音器官で様々に変容させる。
唇や舌を使って空気の流れを阻害したりする。
特に子音は阻害の度合いが甚だしく、窓のすきま風のような音を生じる。
母音や鼻音は、咽頭や口、鼻の大きな空洞を利用し、共鳴させる。
この仕組みはパイプオルガンやバイオリンに似ており、
さまざまな周波数の音が、さまざまな強さで出る事によって、
音声の区別や、声色の個人差を生じさせている。
この、どの周波数の音が大きく響くかを、フォルマント(formant)という。
個人差はあれども、同じ母音ならば同じような数値になる。
母音の区別はこのフォルマントの位置にあると言える。

フォルマントは、口やのどの形から、モデルを計算することができるが、
現在ではこのような分析のための数値や音声の波は、
コンピュータソフトで簡単にみる事ができる。
音声分析を通してわかる事は、人間の脳みその複雑さである。
なぜこんなに違う音を、同じ「あ」だと認識できるのか。
同じ人間が発音しても、毎回毎回、周波数やフォルマントは異なる。
この雑多な波を処理し意味を認識するために、
今は最前線で、自動翻訳機などにおける音声認識の研究が進んでいる。

参考文献
M. シュービゲル著 小泉保訳 『新版 音声学入門』 大修館書店 1973
音的生活47号『「デシベル」とは』 http://www.soundzone.jp/ototeki/oto47.html

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