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音韻規則は、
発話をスムーズにしようという、ある種の自然さが求められるので
似たもの同士の干渉となることが多い。
聞こえ音階層(sonority scale)と呼ばれる、
音の似ているものの序列において、近いものが干渉する。

良く響く
↑ 低母音(a)
  中母音(e,o)
  高母音(i,u)
  わたり音(y,w)
  流音(r)
  鼻音(n,m,ŋ)
  有声破裂音(b,d,z)
↓ 無声破裂音(p,t,s)
あまり響かない

この序列において、高母音(i,u)とわたり音(y、w)は隣り合った場所、
もしくは同じグループに分類されることがある。
従ってわたり音の挿入規則は、とても音韻的に近いところで起こっているのである。

音韻規則は、しばしば非言語要因に左右される。
それが適用の随意性(optinality)として表出する場合、3つの重要な要因がある。
①世代
②発話スタイル
③発話速度

特に、東京方便の鼻濁音は、老年層の話者のみに見られると言われているように、
時代の流れによって失われつつある音韻規則である。
発話スタイルが、くだけた発話になればなるほど、
発話速度が早くなればなるほど、
さまざまな音韻規則が生じ、語が変化してゆく。
頑張れば、「ありがとうございました」が
「あーしたー」になるのも、式で表せるのではないでしょうか。

一般の音韻規則が適応せず、例外と為りやすいものがある。
借用語と呼ばれるような、準文法(subgrammer)の存在である。
日本語には、和語・漢語・外来語・擬態語と擬声語の、四つの準文法が存在していると言われている。
一つの言語の中に複数の文法が混在していることで、
一つの準文法が、ほかの準文法では成り立たないと言うことが生じる。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
「Glossary of liguistics terms "What is the sonotary scale?"

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まず、言語について考えてみる。
言語習得とは、人間という種に備わっている能力であるということが出来る。
子供は勝手に、教えもしない言葉を覚えてくるし、
すべての日本語サンプルを知らなくても、日本語を話すことが出来るようになるし、
一般的な状態で育った健常な人であれば、みな一様に母語を話せるようになる。
そのことから以下のようにまとめることが出来る。
Ⅰ 種に特有で一様である。
Ⅱ 訓練が不要である。
Ⅲ 一定の時期までにほぼ完成する。
Ⅳ 質・量の限られた資料に基づいて実現される。
Ⅴ 個体差がない。

失語症とは、脳機能の退行であるという考え方がある。
ヤコブソンの退行の仮説は、
子供のときに習得した音韻の弁別素性の階層関係が崩れ、
音韻対立が中和されることで、失語症を説明している。
実際に、/ l /と/ r /の区別ができなくなった英語話者を例としてあげている。
グロジンスキーの退行の仮説は、
蓄積された文法構造の知識が崩れ、
言語習得初期段階の文法へと萎縮することで、失語症を説明している。

両者は音韻と文法で、扱っている分野は異なるが、
失語症とは、正常に持っていた言葉を失った状態であるという認識が一致している。
両者の問題はそこにある。
もし、言語知識が未習得、習得初期まで遡ってしまうならば、
「言葉がうまくしゃべれない」
「子供のような話し方しか出来ない」
というような自分の言語運用の不都合の認識(病識)がないはずであるが、
これらの発言は、軽度の失語症患者たちが頻繁に主張することである。

言語障害とは、自転車が壊れた為に運転できない、という状態ではない。
自転車は正常でなんら問題もないが、
運転者の技術不足によって、うまく走れない状態である。
失語症も調音障害も、頭の中の言語に問題があるのではなく、運用面の不都合によるものである。

機能語が欠如した言葉を話す患者に、
本人が話したものをそのまま筆写したものを見せると、
どこがどう間違っているのか、すべて正しく補充することが出来る。
脳を損傷する前に持っていた知識を、正常に保持していると考えなければ、
この現象は説明できない。

「失語症とは、大脳皮質の気質的病変によって生ずる認知能力の低下(統合力の低下)をかばいながら言語活動を営む一種のストラテジーである。」

参考文献
久保田正人 『ことばは壊れない 失語症の言語学』 開拓社 2007


狭い範囲の症例(比較的軽度で、頑張って意思疎通出来るぐらいの患者さん)を根拠に、あまりにも断定的なことが書いてあったので過信はできない…という感じの本でした。
ヤコブソンの話はまだ何も勉強していないです。
なるべく早く音声学のところで書きます。

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さまざまな音韻変化は、
ひとつの音韻規則だけで表せられる音韻変化ばかりではない。
複数の音韻規則が順番に作用することで、
入力と出力を関係付けていることも多い。
その作用の順番が重要である。
日本語のハ行の音韻変化を例にとって見る。

hai「敗」-nihai「二敗」-sippai「失敗」
harai「払い」-sakibarai「先払い」-yopparai「酔っ払い」
çin「品」-kiçin「気品」-zeppin「絶品」
çiki「引き」-waribiki「割り引き」-okappiki「岡っ引き」
ɸun「分」-niɸun「二分」-sampun「三分」
ɸuro「風呂」-asaburo「朝風呂」-hitoppuro「ひとっ風呂」
heki「壁」-iheki「胃壁」-gampeki「岸壁」
hera「へら」-kutubera「靴べら」-usuppera「薄っぺら」
hou「法」-sihou「司法」-kempou「憲法」

さて、はじめにこれらから導き出せる音韻規則を書いてしまうと、
1)異音規則 h→ç/_i  h→ɸ/_u
2)連濁規則 p→b/#+#_(和語)
3)摩擦音化規則 p→h/#_
            または V_

1)はサ行やタ行の「し」や「ち」と同じように、ハ行の「ひ」と「ふ」も異音であることを示している。
[ ç ]は無声硬口蓋摩擦音、[ ɸ ]は無声両唇摩擦音と言い、
声門で調音する[ h ]無声声門摩擦音とはまったく異なった音声である。

2)はいわゆる連濁と呼ばれる現象で、和語での複合語であり、
後ろの形態素が/ k /、/ t /、/ s /ではじまるときも、その子音が/ g /、/ d /、/ z /になる。
oo「大」+kama「釜」=oogama「大釜」
ko「小」+taiko「太鼓」=kodaiko「小太鼓」
yo「夜」+sakura「桜」=yozakura「夜桜」

3)の法則は、「ハ行はかつて、パ行音であった」という仮説に基づいている。
[ h ]でも[ ç ]でも[ ɸ ]でも、直前に子音や鼻音がある場合は、全て[ p ]で出現している。
以下に述べる理由から、「かつてはパ行」仮説を採用し、
逆に、語頭や直前に母音がある[ p ]は[ h ]に変化する、とした。
その理由を簡単に述べる。
・古い文献を読むと、かつて母[haha]を[papa]と発音していた証拠となるなぞなぞがある。
・アイヌ語には元々無く、途中で借用された和語が複数残っているが、日本語の/ h /にあたる音が/ p /になっている。ちなみに、アイヌ語にも/ h /の音素は存在する。
・五十音表の子音の並びは、
「k,s,t,n,(p),m」と「y,r,w」で調音位置が喉の置くから唇へと移動するように並んでいる。
ここに/ h /が入ると、声門での調音になるので、/ k /よりも前に来るはずである。
・擬声語、擬態語には/p,b,h/のセット「ぺらぺら、べらべら、へらへら」と、
/p,b/のセット「ぴかぴか、びかびか、*ひかひか」がある。

そしてこの三つの音韻規則は、2→3→1の順番で作用する。
それから、鼻音の同化規則も入るので、全部で5段階あることになる。

入力
  ki+pin        wari+piki       san+pun
   ↓ 同化規則     ↓             ↓
  ki+pin        wari+piki        sam+pun
   ↓ 濁音規則     ↓             ↓
  ki+pin        wari+biki        sam+pun
   ↓ 摩擦音化規則  ↓             ↓
  ki+hin        wari+biki       sam+pun
   ↓ 異音規則     ↓             ↓
  kiçin「気品」    waribiki「割り引き」  sampun「三分」
出力

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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ふるえ音(trill)は、調音器官が同じ動きを繰り返すことによって、
瞬間的な閉鎖が複数回生じる現象の音声である。
力を入れすぎると発音できない。

[ ʙ ] 有声両唇ふるえ音(voiced bilabial trill)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
両唇をぶぶぶぶぶぶと震えさせて発声する。
パプアニューギニアの部族の言葉や、
ヨーロッパ語の歯茎ふるえ音の異音(方言)として表れる。

[ r ] 有声歯茎ふるえ音(voiced aveolar trill)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
上歯茎に軽くあてた舌端をるるるるるると震わせて発声する。
いわゆる巻き舌であり、日本語のラ行に用いられることもある。
ヨーロッパでは一般的な音素であり、ロシア語やスペイン語、イタリア語などで使われる。

[ ʀ ] 有声口蓋垂ふるえ音(voiced uvular trill)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
後舌にあてた口蓋垂を、んががががががと震わせて発声する。
古代ラテン語や、フランス語やドイツ語などでは主要な音素である。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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はじき音(flap)は、ふるえ音のような瞬間的な閉鎖を一回だけする。
「らりるれろ」と発音したときの、
一瞬舌が上あごに触れるような調音である。

[ ɾ ] 有声歯茎はじき音(voiced aveolar flap)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌尖を上歯茎に一回当てることで発声する。
狭義には、たたき音(tap)と言う。
日本語の、母音に挟まれたラ行の発音である。
英語では"matter"や"little"の"-tt-"が、発話ではたたき音化する。

[ ɽ ] 有声そり舌はじき音(voiced retroflex flap)
口蓋帆があがり、鼻腔への空気の流れを遮断すると共に、
舌先を丸めるように、舌尖を後部歯茎に一回あてて発音する。
狭義にはこれを、はじき音という。
発音する際、舌先の裏が歯茎にべたっとつくのが、たたき音との違いである。
インド系の言語や、スウェーデン語、ノルウェー語に見られる。

参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008

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