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ある単音が、音素として存在していることの証拠として、
最小対(minimal pair)という概念がある。
ある部分が最小限に対立し、その他の部分は同形式を持つものである。
英語で言うと"rock"と"lock"や、"right"と"light"があげられる。
このれの最小対から、/ r /と/ l /が異なる音素として存在していることが分かる。
日本語では「閑古」「頑固」や、「解答」「外灯」などがあり、
/ k /と/ g /が異なる音素であることが分かる。

音声の表記についての慣習として、以下の式があげられる。
 /音素/→規則→[音声]
音素とは抽象的な知識であり、
それが、ある規則を通ることによって、実際の音声として生じるのである。

音素の規則には以下の四つのパターンがある。
a) 完全対立
b) 中和
c) 異音変異
d) 無対立

a) 完全対立
前述の"rock"と"lock"のように、完全に別の音素として存在しているとき。
 r → r
 l  → l

b) 中和(neutralozation)
ある言語文化には存在する音素の対立が、一定の条件で、対立無くなってしまう時。
例えば、青森の方言では
「柿」/kagi/と「鍵」/kaŋi/、「茎」/kugi/と「釘」/kuŋi/の最小対の存在から
、/ g /と/ ŋ /の完全な音素対立が確認できるが、
語頭では、それが確認できなくなってしまう。
「下駄」は*/ŋeda/ではなく/geda/であり、「ごみ」は*/ŋomi/ではなく/gomi/である。
(言語学では、*印を、非文法的であったり、存在しない語や文章の前に付ける。)
これらの関係を式で表すと以下のようになる。
 ŋ→g/#_
この式は、スラッシュ(/)の左が音韻規則、右側が規則の発生位置となっている。
音韻規則は、/ ŋ /が/ g /に変化することである。
シャープ(#)が語と語の間を示し、アンダーバー(_)が発生位置を示す。
従って、「語頭において、/ ŋ /は[ g ]に変わる」という式である。

c) 異音変異(allophonic variation)
これは、もともと一つの音素が、ある条件下で二つの音に変化する現象である。
東京方言での、語中の/ g /の鼻音化が良い例である。
東京方言では「鍵」を[kaŋi]と言い、「釘」を[kuŋi]と言うが、*[kagi]*[kugi]
「下駄」は[geta]であり、「ごみ」も[gomi]である。*[ŋeta]*[ŋomi]
このような[ g ]と[ ŋ ]のように、一方が現れるときは、他方は現れないような関係を、
相補分布(complementary distributin)と言う。
したがって、最小対は存在しないので、この二つは対立する音素ではない。
この関係を式で表すと以下のようになる。
 g→ŋ/V_V
Vは母音(vowel)の頭文字であるので、この式は、
「母音にはさまれた/ g /は[ ŋ ]に変わる。」の意味である。

d) 無対立
大阪の方言には/ ŋ /と言う音素も、[ ŋ ]という音声も存在しない。
従って、青森や東京に見られるような/ g /と/ ŋ /の対立関係が無い。

東京方言の語中の鼻音化は、
もうほとんどの世代で無くなり、[ g ]でも[ ŋ ]でもどちらで発音しても問題ない。
このような異音を自由変異(free variation)と言う。
異音については「音声と音素(05/07)」参照。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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無標性(unmarkedness)とは、言語にとって基本的かつ一般的な性質であり、
有標性(markedness)とは、複雑で特殊なものを含む性質である。
これは言語の普遍性多様性にとって重要な概念である。

言語未修得の幼児の言葉(喃語)は、どの言語文化でも変わらない。
習得過程において、無標なものから習得し、
より有標なものへと多様性を身につけていくとされる。
幼児の言語獲得などからも、この無標・有標の対立の研究がなされている。
有標なものを含む体系は、通常、無標なものも含む。

虹の例(05/16)を考えると、
「赤」と「青」が無標となる。
つまり、より有標な色「緑」を含む文化では、必ず、「赤」と「青」を含む。
また、「紫」は「黄」よりも有標であるため、
虹の色に「紫」を含む体系は、必ず「黄」を含む、と言える。
同様なことが、母音の体系に関しても言える。
母音の最も無標なものは「a,u,i」とされるため、
より有標な「e」を含む体系には、必ず無標の三つの母音が含まれる、とされる。

例には挙げていないが、
大規模な言語データの調査によると、子音に関しても、
ある音を持っている言語体系は、通常、より無標である音をもっている、と主張することが出来る。

昨日述べた中和(neutrakization)とは、
有標な音が、ある条件化で無標の音となることだ、と言うことが出来る。
したがって青森方言では、語頭では有標音/ N /が、より無標である/ g /へと中和されると言う。

英語では、接辞によって強勢がなくなった母音を、
すべて曖昧母音[ə]で発音するという中和が見られる。

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009

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言語は思考の鋳型であり、言語なき思考は存在しないと言う、
ヨーロッパに伝統的な考えがある。
この考えを前面に出し主張したとして、
ネイティブ・アメリカンの言語学者エドワード・サピアと、
その教え子、ベンジャミン・リー・ウォーフの名前から取り、
サピア=ウォーフの仮説、または言語相対論などという。

この考えには強弱ふたつの主張がある。
ひとつは、「言語は一部、思考に影響を与える」と言う考えで、
弱い仮説と呼ばれ、狭義の言語相対論である。
もう一つは、「言語なき思考は存在しない」と言う考えで、
強い仮説、または言語決定論と呼ばれる。
サピアは、1921年の論文では弱い仮説を、
1929年の論文では強い仮説を支持する内容を書いている。

この考えは、特にドイツ哲学に昔からある考えで、
(哲学とは、言語による思考である。)
フンボルトや、サピアの師であるフランツ・ボアズによって提唱されてきた。

サピアの言及は言語と思考だけでなく、
無意識、心理、美学、文化などの観点から話を展開している。
サピアは、自身の論文中に、
形態(configuration)、構造型(pattern)、型(type)の単語を多様し、
言語とゲシュタルト心理学との関連性を説いた。
彼の言うconfigurationとは、まさに、ドイツ語Gestaltの訳語である。
ゲシュタルトとは、何でも細分化し分類してゆく学問に反発し、
19世紀末にオーストリアやドイツで生じた心理学の一派が唱えたものである。
音楽のメロディーや絵画など、
部分の集合体以上の特性を示す体系、全体的構造である。

彼は、特定の言語が有する美学の観点から、
文学作品の翻訳不可能性を支持している。

参考文献
平林幹郎 『サピアの言語論』 勁草書房 1993

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前回(05/14)述べたように、
日本語のアクセントは、N拍の単語には(N+1)型のアクセントの種類がある。
アクセントがないもの、平板型アクセントを別名、0型ともいう。
アクセントが語尾にずれてゆくにしたがって数字が増え、
尾高型アクセントは、(N+1)型となる。

アクセント結合の規則には二つの種類がある。
付属語結合と、複合単語である。

付属語結合には、付属語によって、大きく4種類の分類がある。
従属型(タ、ホド)
自立語のアクセント方をそのまま引き継ぐ。
0型の「サガス」につけば、平板型の「サガシタ」、
2型の「オヨ^グ」につけば、そのまま2型の「オヨ^イダ」となる。
支配型(マス、マイ)
どのようなアクセント型でも、付属語のアクセント方に引きずられる。
「サガス」は「サガシマ^ス」、「オヨ^グ」は「オヨギマ^ス」
不安全支配型(ラシイ、ノデ)
0型アクセントにつくときは、付属語のアクセントが優先されるが、
それ以外の型(アクセントがある)語につくときは、自立語を優先する。
「サガスラシ^イ」、「オヨ^グラシイ」
融合型(サセル、ラレル)
不完全支配型と逆で、0型につくときは0型になり、
それ以外の型につくときは、付属語のアクセントが優先される。
「サガサセル」「オヨガセ^ル」

複合単語のアクセントには後部要素によって、大きく2種類の分類がある。
①後部要素が0型
後部要素の最初の拍にアクセントがつく。
二ホ^ン+ダイガク=二ホンダ^イガク
オ^ンセイ+ゴウセイ=オンセイゴ^ウセイ
②後部要素が0型以外
前部要素の最後の拍にアクセントがつく。
カナ^ガワ+ケ^ン=カナガワ^ケン

付属語と複合語の連続は、左から順番に法則が適応されてゆく。
これを巡回的適用則と呼ぶ。
「音声合成技術などで」
オ^ンセイ+ゴウセイ=オンセイゴ^ウセイ
オンセイゴ^ウセイ+ギ^ジュツ=オンセイゴウセイギ^ジュツ
オンセイゴウセイギ^ジュツ+ナド(不完全支配型)=オンセイゴウセイギ^ジュツナド
オンセイゴウセイギ^ジュツナド+デ(従属型)=オンセイゴウセイギ^ジュツナドデ

しかし、長母音や「ん」がアクセント位置にあたるとき、
アクセントが、発音しやすい位置に移動することがある。
これを音節内移動規則という。
0型アクセントをもつ「カナシイ」と、不完全支配型付属語「ノニ」が結合するとき、
「カナシイ^ノニ」となるはずだが、この規則の適用で「カナシ^イノニ」となる。
ト^ウキョウ+エ^キ=トウキョ^ウエキ (*トウキョウ^エキ)

ここでは語のアクセント結合を見たが、
あまりにも語の要素が多くなったとき、複数のアクセントが発生するときもある。
「歩くのではなかったんですか」→「アル^クノデハナ^カッタンデスカ」
「部分的核実験停止条約」→「ブブンテキカクジ^ッケンテ^イシジョウヤク」
これは、あまりにも長いため、文節間のアクセントが作用した。または、
アクセントを優先すべき要素が離れているため、
複数のアクセントが生じてしまっている、と考えることができる。
文節間のアクセント推移はまた後日。

参考文献
匂坂芳典、佐藤大和「テキストからの音声合成を目的とした日本語アクセント結合規則」(1983)
   「Some accentual characteristics in Japanere phrase and long compound」(1986)

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中和や異音変化など、
音韻規則の公式は、3つの種類に分類される。
素性変化規則:A→B/C_D  CとDの間で、AがBに変化する。
削除規則:A→Φ/C_D   CとDの間で、Aが無くなる。
挿入規則:Φ→A/C_D   CとDの間で、Aが生じる。
Φとは、空であることを意味する記号である。

この式を応用させ、音韻規則のほとんどを示すことが出来る。
たとえば、日本語の「ん」の発音に見られる、同化規則である。
maku「巻く」、naku「泣く」、*ŋaku
mimpou「民法」、nimpou「忍法」、*ŋimpou
sampou「三法」、santou「三頭」、saŋkou「三校」
sambai「三杯、」sandai「三台」、saŋgai「三階」
以上の最小対と擬似最小対から、以下の式が導き出せる。
  C[+nasal]→C[α place]/_C[α place]
Cとは子音(Consonant)の頭文字であり、
[かぎ括弧]で囲まれたものは、その音声の調音の性質を示す。
プラス(+)はその性質を持っていることであるし、
マイナス(-)は、その性質を持っていないことである。
位置(place)はその子音の調音位置であり、変数(α)により指示出来る。
つまり、この文章を書き下すと、
「αで調音する子音の前では、鼻音子音はαで調音する鼻音に変わる。」

/ p /と/ b /は両唇を閉じて調音する。
従ってこの2つの前に現れる鼻音は、両唇で調音する[ m ]である。
/ t /と/ d /は歯茎に下を当てるので、同じように調音する[ n ]、
/ k /と/ g /は軟口蓋に下を当てるので、[ ŋ ]と発音する。
これはより滑らかな発音をする為にとても自然な現象で、同様のことが英語にも言える。

しかし、母音の前や語末の鼻音に関しては異なる。
日本語では、母音の前や語末では、鼻音は口蓋垂音[N]となる。
軟口蓋よりもっと奥で、少し舌をあげれば口腔が塞がれる。
reNai「恋愛」、kiNiro「金色」、hoN「本」、seN「線」
一方、英語はしっかりと、歯茎での調音をしている。
inappropriate、inequal、in、on

参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009 

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