Comparting and reconstructing languages
歴史言語学の基本的な仮説は、現代では異なる言語であっても、それらは1つの共通の祖語(proto-language)に起源している、というものだ。つまり、遺伝的な関係をもっている。
現代ロマンス語(フランス語、イタリア語、スペイン語、カタルーニャ語、ポルトガル語、ルーマニア語など)の遺伝的関係に関しては、はっきりとした言語学的、非言語学的な証拠がある。これらはラテン語の直系の子孫であり、姉妹言語である。正確には、俗ラテン語(Vulgar Latin)の種類である。何世紀もの、地理的な隔離と孤立、社会的要因と政府の発展、他の言語との接触を経て、これらは進化して来た。
一般的に、遺伝的関係のある言語は、語族(language family)を成し、システマチックで繰り返し起こる形式的な一致を呈する。偶然や借用などの結果とは考えられない程、類似点と相違点が規則的なのである。言語の歴史を遡れば、このような対応はもっと規則的で確固たるものなる。現代フランス語と現代スペイン語よりも、古フランス語と古スペイン語の関係は強い。
最も有名で、最も研究されいる語族はインド・ヨーロッパ(IE)語族である。資料の歴史も長く、地理的に広範囲にわたる姉妹言語が散らばっている。インド・ヨーロッパ語族の言語は、インドから西ヨーロッパ大陸まで広く話されていて、今は世界中に輸出されている言語である。
それらは、ゲルマン語派、イタリック語派、バルト・スラブ語派、ケルト語派、インド・イラン語派など多くの語派(subfamily)に分けられる。そしてこれらに共通する先祖であるインド・ヨーロッパ祖語を再建が、19世紀の比較言語学の重要な業績であった。そして、このような遺伝的関係を表すために、樹形図(family tree)が多く使われる。
ゲルマン祖語ーーー東ゲルマン語派ーーゴート語
北ゲルマン語派ーーデンマーク語、アイスランド語...
西ゲルマン語派ーーオランダ語、英語...
樹形図の価値の解釈は、学者ごとに異なる。樹形図は、ある種の関係性を一目で分かるようにするために便利なもので、「北ゲルマン語派」などのようなラベルは、その語派の中の言語それぞれの親近性よりも、その語派の言語の全ての言語との親近性を指し示しているように感じる、という学者もいる。樹形図はインド・ヨーロッパ祖語が姉妹言語に分岐した方法を直接的に示すモデルである、という学者もいる。このような立場では、「北ゲルマン語派」は本当にあった言語で、デンマーク語とアイスランド語とノルウェー語とスウェーデン語の共通の祖語であるという考えである。
Correspondences between languages
このような語族を形成するの比較再建は、関連する言語同士の一致に基づいている。このような一致は、発音や屈折など、音韻論や形態論の領域ではっきりと現れる。そして同系や同源語(cognate)と呼ばれるのものシステマティックな比較によって、分類される。同源語は、形式と意味が似通っていて共通の語源を持っている。生活に密着した語彙や、人間の経験の語彙は借用語によって置き換えられる事が少ないので、同源語は姉妹言語の基礎語彙に特に多い。
比較再建の簡単な例をあげよう。
フランス語の'champ'、イタリア語の'campo'、スペイン語とポルトガル語の'campo'はラテン語の'campus(野原)'に由来する。ラテン語の文書にこの単語が残っていなかったとしても、これらの姉妹言語の比較によって再建が可能である。下の表は'carus(高価な)'、'campus(野原)'、'casa(家)'の同源語の対応表である。
羅 仏 伊 西 葡
carus[k] cher[ʃɛr] caro[k] caro[k] caro[k]
campus[k] champ[ʃã] campo[k] campo[k] campo[k]
casa[k] chez[ʃe] casa[k] casa[k] casa[k]
羅 仏 伊 西 葡
carus[k] cher[ʃɛr] caro[k] caro[k] caro[k]
campus[k] champ[ʃã] campo[k] campo[k] campo[k]
casa[k] chez[ʃe] casa[k] casa[k] casa[k]
この形式と意味の親近性が認められる4つの言語のから、祖形(proto-form)を再建してみる。
まず、これらの同源語から、体系的な発音の対応を確立する必要がある。例ではフランス語の語頭の[ʃ]がその他の3つの言語の[k]とが対応している。この場合、祖形には3つの可能性がある。まずはイタリア語とスペイン語とポルトガル語に残っている[k]の音である可能性。2つ目はフランス語の[ʃ]の音が祖形で、残りの言語で変化が生じた可能性。3つ目は、全ての言語で変化が生じ、祖形は[ʃ]でも[k]でもない可能性。これらの仮定証明するには、姉妹言語それぞれの発音の変化を知らなければならない。
祖形を決定する事に関して、一般的な方法論的な原則がある。
(i)全ての音声変化を含む再建は、音声学的にふさわしくなければならない。音声的な信頼性とは、どのように音声が形成されているかという一般的な音声学的考察と、その他の言語での音声変化の広範囲の資料によっている。例えば、[k]から[ʃ]への音声変化は、[ʃ]から[k]への変化よりも、頻繁で信頼性があり「自然である」と考えられる。フランス語の歴史上に登場する[tʃ]の段階を経ていれば、もっと自然と言える。この段階の発音は、古い時代に英語に入って来た'Charls'や'chief'などの古フランス語からの借用語にも見られる。この自然さを考慮すると、ロマンス祖語として、例に挙げた単語の語頭の子音を、*[k]と再建しよう。(アステリスクは表記の残っていない再建された祖形である事を示す。)
(ii)2つ目は、信頼性は多少かけるが「多数の原理」である。どんな再建でも、祖語とその姉妹言語の間の変化は最小でなければならない。姉妹言語の広範囲に現れる形式は、祖語に近い。上の例では[k]が3言語、[ʃ]が1言語なので、*[k]が祖形である可能性が高い。一方もしも*[ʃ]が祖形であるならば、3つの言語で同じ変化が起こったと考えなければならない。
これらの根拠から、ロマンス祖語は'*caro'、'*campo'、'*casa'であると結論を出す事が出来るが、すべての比較再建が*[k]のよに簡単で単純な訳ではない。また再建されたロマンス祖語は、ラテン語ととても似ている。
ロマンス語派の再建は、多くの資料で再建を確かめる事ができ、方法と仮定を試す事が出来る。しかし一般的には、1つの姉妹言語の中に痕跡が残っている祖語しか再建出来ない。従って再建された祖形の質は、現存する証拠の質に基づいている。
また、再建されたそれぞれの発音は、もっとも一般的な音声システムに従う体系に沿っていなければならない。言語は均整のとれた音声システムを成し、この傾向を無視するには強制的な根拠があるはずである。
例えば、無声閉鎖音とそれに、対応する有声閉鎖音を持っている言語は、[p, t, k]と[p, g]を持っていながら[d]を持っていない言語が多い。このような差は自然言語にみられる。その他の例では、普通の母音を持たずに鼻母音のみを持つ言語は無く、鼻子音がなく鼻母音を持つ言語はかなり数が少ない。このような類型的な考察は、最終的な段階で全ての再建でチェックされなければならない。
比較再建について追加しなければいけないことがある。
まず、実際の言語は均一でなく様々なバリエーションがあるのに、祖語は、理想化された均質な言語であると間違って言われて来た。また、発音の変化は規則的で、全てに例外は無いと言われて来た。
後で詳しく述べるが、多くの祖語の形式を仮説すると言う比較再建の中心的な成果は長い間支持されているが、上記ような考えは近年になって批判されることになる。
Law of change
言語の関係と発展を再建するにあたって、法則と言える程規則的な変化の過程が見られる。
そのような変化の一例が、インド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派の発展である。ゲルマン語は特有の、一連の子音による発音の変化を呈する。これは発見したドイツ人言語学者の名前を冠し、グリムの法則(Grimm's Law)と呼ばれる。これは閉鎖を伴う子音[p, b, t, d, k, g]が異なる子音に変化する法則である。(「>」のマークは「変化前>変化後」を表す)
無声破裂音[p, t, k] > 無声摩擦音[f, θ, x]
有声破裂音[b, d, g] > 無声破裂音[p, t, k]
有声帯気破裂音[bʰ, dʰ, gʰ] > 有声無気破裂音[b, d, g]
これらはゲルマン語に見られるもので、ギリシャ語やサンスクリット語などその他のインド・ヨーロッパ語族は異なる祖語をもつ。
比較再建は関係している言語に基づいて行われるが、論理的に、ひとつの言語内での証明されていない初期の段階の再建にも用いることができる。それは、内的再建(internal reconstruction)の領域である。それは現在の1つの言語の中に残っている初期段階の痕跡による研究である。
Internal reconstruction
全ての言語は形態素の異なるバリエーションを持っている。例えば英語の複数を表す形態素は、'cats'の/-s/、'dogs'の/-z/、'houses'の/-iz/、この3つの変種がある。内的再建は、このような共時的な変種は発音の変化によるもので、ひとつの形態から派生したものである、という仮定から始まる。
簡単な例は、ドイツ語の語末の無声閉鎖音である。ドイツ語の名詞の屈折の一種において、「忠告」を意味する'Rat[ra:t]'、「ニス」の意味の'Lack[lak]'がある。これは無声閉鎖音が保持されいるが、一方で、「自転車」の意味の'Rad[ra:t]'、「日付」の意味の'Tag[ta:k]'、は有声閉鎖音が無声閉鎖音に置き換えられる。属格単数形の屈折語尾は'-es'で、それぞれ[ra:dəs]、[ta:gəs]と有声音が保持される。
変種の無い古い形の「自転車」と「日付」は、無声閉鎖音か、有声閉鎖音か、あるいはそのどちらでもないものだと考えられる。内的再建に適応される原則は比較再建と同じなので、経済性と自然さを満たしているべきで、かつその他の形式と矛盾しないことが必要である。
ドイツ語のその他の語彙を見てみると、有声閉鎖音で終わる単語が無い事が分かる。したがって、再建された古い形態は有声音、*[ra:d]と*[ta:g]であり、その後に起こった語末の有声閉鎖音の無声化(devoicing)によって、語中の有声閉鎖音は保持されつつ、語末の有声閉鎖音が無声閉鎖音に置き換えられたと考えられる。
これは内的再建の簡単な例であり、とても複雑で、何重にも音声変化が関わっていて結果が曖昧なものもある。このような場合、再建する時に、変化の相対的年代(relative chronology)を確立する必要がある。どれが一番古い変化なのか、というような問題である。
しかし、音声変化の名残が全く残っていなければ、再建ではその段階が抜けた、単純な説明しか出来ない。加えて、全ての形態素の変種が、ひとつの形態に還元出来る訳ではない。
内的再建は、孤立した言語等、比較再建のための十分な資料の無い場合に有効である。そのような言語では、文書の無い言語と同様に、証拠の無い過去の言語に関して学べる唯一の方法であるといえる。しかし、理想的には、比較再建等のその他の方法と一緒に用いられる事が望ましい。
この章では、歴史言語学において、どのように記録の無い言語と変化の過程を繋ぎ合わせるかを見て来た。このような方法は音韻論と形態論に関して有効で、統語上の再建はかなり議論を呼んでいる。また親類関係や動植物、素材の語彙以前の再建は、インド・ヨーロッパ語族の社会の構造と経済的な組織と起源に関する知識を深めてもくれる。
次は語彙レベルの変化を追う。
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
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分析の便宜性のために、言語学では言語を異なるレベルに分割する。音韻論の範囲である発音、形態論の範囲である単語、統語論の範囲である文と、意味論の範囲である意味である。
言語の変化は全てのレベルで起こり、ひとつのレベルでの変化はその他のレベルに影響し、変化の引き金となる。例えば、発音の変化が屈折を衰退させてしまえば、形態素が変化し、結果的に語順などの統語規則も変化する。これは異なるレベルでの言語の変化を語る際の重要な意識である。
この章では、もっとも分かりやすい語彙の変化を追う。そして、次に、ゆっくりで分かりにくい形態論と統語論的な変化の話しをしよう。
話し手は、環境によって変化するコミュニケーション上の必要に応じて、言葉を選ばなければならない。新しい言葉が作られ、古い言葉は意味が拡張し、一方で、古い言葉と意味は結果的に使われなくなる。古英語から現代英語にかけての、文書により裏付けられる、未曾有の言葉と意味の増加は、語彙変化の例に適している。
新しい言葉を作り出すには2つの方法がある。外国語からの借用(borrowing)と、造語(word-formation)などで新語を作る事である。言語ごとに傾向は異なるが、たいてい両方の方法を使用している。古英語では、3%程の借用語や外来語(loan word)が見られたが、現代英語では70%が外来語であると言われ、原語は80言語以上にもなる。最も古い借用語はラテン語とフランス語からである。
この借用語の増加は歴史的な事実に基づいている。1066年のノルマン・コンクェスト、18世紀のラテン語の国際語としての権威の高まりなどがある。しかし結局は、話し手の、外国語の影響に対する態度であり、借用の容認と度合いを決定する言語に対する態度である。借用は言語接触によるものであり、詳しい話しは6章で述べる。
Coining new words
最も小さな意味の単位である形態素(morpheme)は単語の基礎である。造語の主な方法は、既に存在する単語や形態素を合わせて複雑な単語にする事である。英語の'teach'は1つの形態素であるが、'teach-er'は2つの形態素である。「動作主」や「装置」を意味する接辞'-er'は拘束形態素と呼ばれ、単独で現れる事は無い。
歴史的な造語について話しをするとき、新語の外見とその中の抽象的なルールを区別しなければならない。造語の規則は言語ごとに異なり、共時的な変化の題材でもあり、新語に関する創造性の問題を考慮して語られるべき問題である。
造語の重要な過程は、合成(compounding)と接辞添加(affixation)の2つである。合成は、gest+house=gesthouseのような、自由形態素同士の組み合わせである。接辞添加は、'un-like'や'like-ness'のような、自由形態素と拘束形態素の組み合わせである。
合成は英語の歴史の中で創造力を発揮し、何世紀もの間、数えきれない程新語を作り出して来た。
「親族の男性」の意味である'cynnesman(kinsman)'は古英語から残っている。しかし、「商人」の意味の'ceapman(chapman)'は名字と古風な表現として一部残っているだけで、普通はフランス語からの借用語'merchant'に地位を奪われてしまった。
意味論的な違いに基づき、合成語を分類する事が出来る。例えば、'gesthous'は'house for gest'であるが、'girlfriend'は'friend who is girl'では無い。これらの分類全てが英語の歴史の中で等しく作られて来た訳ではなく、また、英語に無い合成の関係を考えるのは難しい。しかし、英語やドイツ語は、フランス語等の他の言語に比べて、合成語を作る際の制約が緩い。
発音の変化によって合成語が透明性を失い、分析不可能な簡単な語形に変化する事もある。古英語の'godspell(神の福音)'は現代英語では'gospel'になった。'load'と'lady'は古英語の'hlaf-weard'と'hlæfdiʒe'の短縮形であり、文字通りの意味は'loaf-keeper(パン屋)'と'loaf-kneader(パンをこねる人)'だ。語源学はこのような伝統的な社会的役割を区別する証拠として、社会学的な興味をかき立てる。
接辞添加は英語の歴史にもそれ以前にも現れる。
接頭辞の'un-'、接尾辞の'-ful'と'-ness'などは古英語の時代から現在に至るまで生産性の有効な接辞である。'be-'や'-th'などは今はもう有効ではないが、既に確立した語の一部として残っている。古英語の「〜のような」を表す'-cund'という接辞はもう消えてしまい、'-wise'という他の接辞が使用されている事が多い。近年になってその生産性を発揮し始めた'-wise'は、どんどん新しい語を作り出し、「汚い英語」と言われる時代もあったが、今では公式の場でも受け入れられている。
一方、ラテン語とフランス語起源の'dis-', 're-', 'en/em-', '-able', 'age'などは、13世紀と14世紀以降、大量の借用語の中で引き継がれている。このような接辞が、英語の単語と組み合わされるのには、少し時間が置かれる。例えば、'dislike'が現れるには、1555年まで待たなければならない。
また、中期英語では、おそらくスカンディナビア語とフランス語の影響で、'get out 'や'give up'などの句動詞(phrasal verb)が着実に増えている。一方で、古英語の'outfare'や'outgo'など動詞の合成語の造語が無くなり、2種類の共存の時代を過ごし、新しいタイプの単語と入れ替わった。
中期英語と現代英語初期の時代の生産性の高まりの中で、転位(conversion)が現れる。「ゼロ派生」とも呼ばれるこの現象は、接辞の添加も無く、単語の品詞が変化するである。'cheat'は動詞から名詞へ、'lower'と'up'は形容詞または副詞から動詞へ変化した。これは語彙と文法の関係である。
16世紀から17世紀にかけて、もともとの英語の語彙にも外来語にも適用されている、同義語の造語が見られる。ロマンス語の接辞'-ize'がついた動詞が、もとの単語の転位した形と並んで使用されている。動詞に転位した'equal'と動詞'equalize'、動詞'civil'と動詞'civilize'である。否定にも対立する形が現れる。'disthrone'と'dethrone'と'unthrone'は動詞'enthrone'の否定語である。
現代英語では、固有名詞からの派生が増えている。例えば、'jersey(ジャージ)'はイギリス海峡にあるジャージー島であるし、'coach(馬車)'はハンガリーの街Kocsである。また'to boycotte(ボイコットする)', 'to lynch(私刑に処す)', 'sandwhich'など、人の名前が新しい概念やものの名前になった。加えて商品の広告のために、'Kleenex', 'Walkman'など商品名に造語が使われる事もある。
短縮も生産的な手段として用いられている。少なからず、経済的に情報を伝える事が出来る。従って、行政やメディア、それから日常的な会話などで用いられる事は当然である。音節の「切り取り(clipping)」は'pub(public house)'や'bike(bicycle)'など。「混成語」は'brunch(breakfast+lunch)'や'bit(binary+digit)'など。「アクロニム/頭字語」は'radar(radio detection and ranging)'や'laser(light amplification by stimulated emission of radiation)'など。また、IBMやBBCなどの「頭文字」もある。アクロニムと頭文字語の違いは、頭文字語はアルファベットの文字が別々に読まれる事である。
新たな言語は再分析(reanalysis)の対象となる。'editor'と'peddler/pedlar'は、存在しない'edit'と'peddle'からの派生語であると誤って分析され、新たに出来た語彙はそのまま定着した。このような逆成(back-formation)は'teach/teacher'のような組み合わせの類推の結果である。
単語の最後の's'が複数形と誤って分析され、新たな単数形が作られる事もある。'cherry'は古フランス語の'cherise'からの逆成であり、'pea'も'pease'あるいは古英語の'pise'、ラテン語の'pisa'の逆成である。
有名な形態素の分析は'-berger'である。オリジナルはハンブルグの街に関係している'hamburger'であるが、'ham(肉)+burger'と再分析された。その結果、'-burger'は接辞として、'cheeseburger'や'vegeburger'など同系の食べ物を表す形態素となった。今では'burger'単独で語として使用される。
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
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Change of meaning
今のところ、新たに作られた単語の形式を見て来たが、語と形態素の意味も、社会的な文脈の中で、さまざまに変化する。「全ての単語に歴史がある」と言われ、英語の『Oxford English dictionary』やフランス語の『Trésor de la langue française』はひとつひとつの単語の歴史も載っている。
しかしそれでも、変化の一般的な法則を知る事は出来ない。そのためには、多くの言語の、何十万もの単語とそれ以上の意味を調べなければならない。それに、科学としての言語学の研究から、長い間意味論が無視されて来た事も関係している。現存する意味論上の分類は、記述的なもので、重なり合う部分がある。
基本的な分類は、意味の拡大(extension)と縮小(narrowing)である。
拡大は、単語の意味が一般化する事である。例えば英語の'bird'は「若い鳥」だけを示す単語であったが、一般的な「鳥」を示すようになった。これはよく意味素性[+ young]が失われたと説明される。しかし、拡大には新しい言語としての発展が含まれる。
最新の拡大のメカニズムの説明は隠喩/メタファー(mataphor)である。メタファーはイメージの親近性による意味の拡大の事だ。例えば身体の一部である'neck'は、'bottle neck'など、似ているものを表すのに用いられる。身体の一部を表す単語は多くのメタファーが見られる。
換喩/メトニミー(metonymy)は異なる拡大のシステムで、物理的な隣接性により表現する。多く、全体を表すのに一部分の名前で表現する。例えば'White House'は建物だけでなく、アメリカの政府を指す。'crown'が王や女王を指す。あるいはコニャック地方のブランデーである'cognac'など、場所が物を指す。
縮小の例は英語の'fowl'である。今「家禽」を示すこの単語はもともと、古英語の'fougol'とドイツ語の'Vogel'と同じく、一般的な「鳥」を示す物であった。また'meat'は、'mincemeat'に残っているように、「肉」だけでなく「食べ物」一般をさす単語だった。多義語(poluseme)が、特定の意味を失うこともある。
意味の変化には、意味の漂白とも言われる、文法化(grammaticalization)がある。英語の'will'は動詞「意図する」の意味であったが、助動詞に変化し、いまは文法的意味に用いられている。
意味の変化は、話し手の肯定否定などの価値観により分類され、このような評価が変化を強制する事もある。典型的には、単語が異なる使用法や文脈で用いられ、連想(association)や内包(connotation)が時間をかけて、統語的な意味や言外の意味(denotation)を示すようになる事による。
英語では人の立場や職業を示す単語に見られる。意味の改良(amelioration)と見なされる例は、もともと「男子、若者、付添人」を意味する'knight'が中期英語の時代を反映して「騎士」に変化していることだ。ちなみにドイツ語では'Kneckt'は「農場労働者」を示す、逆の発展をしている。意味の悪化(pejoration)の例は'knave'である。もともと「少年」を示していたこの単語は、庶民一般の人々であったが、今は「悪党」を示す。
これらは言語外の社会的な変化が関係している。また、'mistress'が「愛人」を示すなど、多くの女性に関する単語の意味が悪化している事も、社会的な女性の地位の低さを示している。
意味の拡大が、元来の意味を曇らせてしまう事もある。英単語の'silly'は「ばかな」を言う意味だが、もともと古英語'(ge)sælig'は「幸せな」を意味する単語であった。ドイツ語の同源語'selig'ではまだその意味が残っている。日本語の「おめでたい」に似ている。
'silly'は15世紀下旬までは良い意味で使われていた。その途中の変化は次のようである。13世紀下旬から18世紀「純真な」→14世紀から19世紀「哀れな」→13世紀から19世紀「弱い、弱々しい」→16世紀から18世紀「知らない」→16世紀から「低能な」→16世紀下旬から「馬鹿な」。古い意味はすぐに新しい意味に置き換わる訳ではなく、共存も多く見られる。その他の言語でも同様の現象は観察出来る。
Why do meaning change?
上で述べた事は、メタファーやメトニミーなどの記述的なもので、改良や悪化などの社会的な変化の次元についても少し述べた。もう少し、意味の変化について言語学と非言語学の両面から見てゆく。
言語が変化する1つの要因は、新たなコミュニケーション上の需要に合わせた必要性である。外来語と造語から離れても、話者は良く、メタファー的な拡大とメトニミー的な拡大した意味を持つ単語を使用している。
例えば、'torpedo(魚雷)'はもともと電流を放つ魚の一種であった。結果的に軍事的な意味の方が重要になってしまった。基本的な機能が残っていても、存在する物の形が変化した時、古い単語が修正されるだろう。英語の'torch(たいまつ)'はまだ古い意味も残っているが、今は「懐中電灯」の意味もある。ドイツ語では「たいまつ」は'Fackel'であるし、「懐中電灯」は'Taschenlampe'と言う。
もう1つの言語が変化する要因は、誇張によるものだ。ずっと同じ言葉を使っていると特定の意味が弱くなってくる。それで、新しいもっと良い表現が求められる。
英語の例は「とても」を意味する副詞の強化である。古英語の'swiþe'から古英語の'full'、現代英語では、古フランス語起源の'very'、'really', 'extremely', 'awfully'などがある。
心理的な作用で重要な物が、禁句、タブーである。人は、死や老い、病気、性など社会的に嫌悪される概念を、直接表現することを防ごうとする。禁忌とされる事に関して触れるとき、婉曲表現を用いる。
例えば、「去る」や「寝る」などの中性的な単語を用いる。長い事同じ単語が用いられると、婉曲表現の意味がはっきりとしてくるので、新たな婉曲表現が用いられる。禁忌とされる事柄も変化する。近代の西洋文化では老いが禁忌とされ、一方で性に関しては直接的な表現を避けなくなった。ある社会では、故人の名前やその名前に似た単語を二度と使わないという社会もある。このような社会では、常に素早く基礎語彙さえもが入れ替わってしまう。
このような非言語学的な要因から離れると、意味の変化の背後にある言語の力が現れるが、証明するのは難しい物である。
上に述べた例から言える事がある。言語の語彙は単なる関係のある単語のリストでは無く、意味的に関係のある語彙のグループとして構成されている。いわゆる、意味論領域というグループである。単語間での意味の関係は意味変化に置いて重要な役割を果たしているようである。
'bird'と'fowl'の例がそうだ。この2つの意味変化は、'bird'が一般化し、'fowl'が個別化することによって、上位語と下位語の関係を表している。動きを表す動詞や、発言に関する動詞など、少なくとも一部の語彙はこのように構造的に構築されている。意味領域に属するある単語の意味が変化すれば、その他のメンバーの意味も変わる。新たな語が入って来たり、語が衰退しても、同じように変化が生じる。
同意の固有語のある借用語が流入して来た時、このような変化が見られる。どちらかの単語が消えるか、意味が変化するかである。古英語の'cynnesman'が古フランス語の'merchant'に取って代わられたようなことだ。古英語の'heofon'は「天国」と「空」両方を示す単語であったが、スカンディナビア語の「雲」を表す'sky'を借用して来た結果、今は'heaven'として片方だけを示す。これは、経済性のために同義語を避ける言語の性質によるものだと考えられる。関連して、多義語の意味の範囲を縮小する傾向もある。
そして、似た意味を持つ単語や反対の意味を持つ単語が同音異義語になったとき、「同音異義語の衝突」と呼ばれるようなコミュニケーション上の問題が生じる。例えば古英語の'læten(〜させる)'と'lettan(妨げる)'はまったく逆の意味を持つが、'let'という単語として同音異義語となった。この衝突によって、'without let or hindrance(何ら障害もなく)'という表現を除けば、だんだん「妨げる」という意味が無くなってきた。しかし一般的に言えば、同音異義語は、文脈の中で十分に区別出来るので、存在し続ける事がある。
意味変化を起こすいくつかの要因について述べて来たが、一般的な法則を述べるにはまだ遠い。最近の提案は6章に述べる。
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
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3章では1つの単語について、形式と意味の変化を追った。しかし会話の中の単語は、文法的にさまざまな語とつながっている。屈折や会話の中の単語の関係性は、コミュニケーション上の重要な情報をつくりだす。このような文法的な要素も、さまざまな方法で変化してゆく。
Morphorogical change
3章で述べた単語の変化とは、異なる変化の方法がある。文の中のその他の単語との文法的な関係を築く物だ。例えば英語の'tesches'は自由形態素の'teach'と、三人称単数現在を表す文法的な拘束形態素'-es'に分かれる。以下ではそのような屈折を扱う。
言語は異なる形態論的な構造を持ち、それらは、類型論上の分類に基づいている。類型論(typology)には孤立語(isolating)と膠着語(agglutinaing)と屈折語(inflecting)の分類が広く受け入れられている。
孤立語は中国語のように、単語が1つの形態素を成す。膠着語はトルコ語のように、ひとつの単語が1つ以上の形態素を含む。それでも形態素はひとつずつきちんと区別する事が出来る。ラテン語やギリシャ語のような屈折語は形態素間の境界が曖昧である。多くの意味が1つの形に含まれる。英語を含め多くの言語がこの分類にきっちり当てはまる訳ではない。しかしこの分類は歴史言語学の枠組みとして使用され続けている。
議論を呼んでいるが、言語は形態論的な分類をぐるぐると回って変化するという主張がある。孤立語は膠着語になり、だんだん屈折的になり最終的に孤立語に戻ってくる、というものである。孤立語から膠着語という流れは、ピジンがクレオール語になる時に観察する事が出来る。強勢の無い語彙と文法的な語彙が、音韻論的な変化の結果、接辞となる。
英語の形態素の構造も、屈折するゲルマン祖語の時代からかなり変化している。再建されたゲルマン祖語では与格の単数*'dag.u.miz(to the days)'は3つの形態素からなる。語根の*'dag-'と主題と呼ばれる'-u-'と格を示す'-miz'である。しかし、古英語では主題と格が合体して'dag.um'という形になった。古英語は現代ドイツ語と同く、ラテン語とあまり変わらない、主格、対格、属格、与格の4つの屈折する格を持っていた。しかしこの仕組みは初期の中期英語でほとんど崩れてしまう。強勢の無い母音がだんだん弱くなり、最終的に語末の音節が失われた。
中期英語での格を表示する語末が消えたように、古英語の様々な屈折の機能が、だんだん、屈折しない名詞を含む前置詞句に入れ替わって来た。現代英語では、名詞だけでなく動詞、形容詞、代名詞の屈折も失われてしまった。英語は、屈折を多用する総合的(synthetic)言語から、形式的な屈折よりも文法的単語や語順を多用する分析的(analytic)言語に変わった。同じような変化は、かなり屈折的な言語であるラテン語やロマンス語の姉妹言語、フランス語やイタリア語などにも見られる。
このような変化は語末の音節の発音の変化によるものだが、形態素の変化をもっと一般化してみると類推(analogy)と呼ばれる音韻変化の相互作用が見られる。類推は、ひとつの語の形が、形や意味の類似関係からその他の語に影響を与える事である。
例えば、屈折的は形態素は、特定の関係や語形変化のグループなど、形態素同士の関係がある。そして、不規則さを無くそうとする傾向がある。詳しくは、比例的類推(proportional analogy)と類推的水平化(analogical levelling)にわけて説明する。
比例的類推は均等化の応用の結果である。これは、中期英語の複数形の類推による'-(e)s'への変化の基盤であると考えられる。'bull'の複数形が'bulls'。では'cow'の複数形はなんであろうか、という類推により、'kine, eyen, word'が'cows, eyes, words'になった。
類推的水平化は、動詞の不規則変化にある。古英語には形式的にも意味的にも関係が深い4種類の形がある。freosan-freas-fruron-frorenは、現代英語で言えばfreeze-froze-frozenである。古英語'freosan'の語幹末の's'が、最後の2つの'fruron'と'froren'の影響で'r'に変わった。2種類の語幹の1つが、類推により他方の形式と同化し、語幹が統一された。古高地ドイツ語の同源語でも同様の変化が見られる。しかし、ほとんどの動詞のセットは語幹が同じ形を持つので、このような語幹の子音の変化はあまり多くない。規則的な音韻変化は形態論上の不規則を生じるが、類推により形態上の規則性がもたらされる。
類推の一般的な法則を見つけようと言う試みがあるが、多くの反例が見るかるような傾向が見出せるだけだ。派生した形が基本的な形に影響を及ぼすよりかは、基本的な形が派生した形に影響を与える傾向がある。また、2重の標識がひとつにまとまるよりかは、ひとつ形態素的標識に代わって2重の標識がつけられる傾向があると言える。二重の標識の例は、ドイツ語の'Baum(木)'の複数形'Bäume'である。もともと'Baume'と、'-e'の接辞がつく規則変化であったが、Gast-Gäste「客」からの類推により、接辞と母音変化を含む2重の標識がついた。
このような類推の変化を記述したり、変化の規則や傾向をみつけても、なぜ、それが起こるのかを説明する事は出来ない。変化のメカニズムの背後にある一般的な法則がもっと必要である。考えられる理由は、「自然さ」によるものである。形態素の変化は、自然さ、無標性になることであるようだ。無標性とは、単に一般的であるだけでなく、子供の言語獲得に有利であったり、変化しにくく、ピジンやクレオール語の典型にみられるようなことである。
さらに、自然さは構造的類像性(constructual iconicity)のような一般的な原則の結果として生じる。それは、例えば意味的に複雑な語彙は形態素的にも複雑であると言うことだ。複数形は単数形よりも、形態素の要素が多いと考えられる。実際、この法則は経験的に導かれ、複数は典型的に有標であり、単数形の標識のある言語は稀である。言語は自然になるように変化してゆくと言われている。現代英語の複数形'woeds'は、古英語の複数形'word'より自然である。古英語は、複数形は単数形の形態素に何か追加されるという構造的類像性に則っていないからだ。'sheep'や'fish'など、まだ違反している複数形もあるが、ほとんどの仲間は英語の歴史の中で'-(e)s'を持つ形式に変化してしまった。
これらの変化は明らかに類推により説明出来るが、自然形態論の主張はもっと一貫していて普遍的な形態素の変化の枠組みを与えてくれる。
Syntactic change
言語学上で無視されて来たが、ここ30年程、統語上の変化が注目を集めている。しかし、まだ、一般的に受け入れられる研究の理論的な枠組みの構築には至っていない。
例えば英語の歴史を見てみれば、多くの統語上の変化を見つける事が出来る。古英語の時制は現在と過去だけで、シェイクスピアの時代まで、進行形と言う時制は無かった。また、疑問文や否定文の'do'の使用もなかった。シェイクスピアの作品で、'I know not.'や主語と動詞の倒置'Whom trust you more'が見られる。
統語上の変化も形態素上の変化は個々の正しさに則っているのだが、言語学者はより一般的な統語上の変化を学ぼうと考えて来た。
統語上の変化の重要なメカニズムがある。表層構造の再分析(reanalysis)と文法化(grammaticalization)の過程である。ただし、全ての変化が文法化によって説明出来る訳ではない。また、統語上の変化の類型論の議論では、もっとも一般的な類型的な性質への変化に対す疑問に連結していると言える。
再分析。統語論上の構造は特殊な文脈では曖昧になり、話者は古いものより新しいものを好む。2つが共存する時もあるが、結果的には古いものが新しいものに置き換わり、続いて同様の構造にも新しいものが取り入れられてゆくだろう。語彙変化を含む表層構造の再分析は、統語上の変化の主要なメカニズムである。
英語には特に興味深い事例がある。英語では、ドイツ語では残っている屈折がだんだんと消滅し、その過程は再分析のよい資料である。以下はドイツ語と直訳した古英語の例文である。
Dem König gefielen die Birnen
Dæm cyninge licindin peran
O(与格、単数)-V(過去、複数)-S(主格、複数)
現代英語に逐語訳すると'The king pleased (the) pears.'となる。'Dem König'と'Dæm cyninge'は与格の間接目的語単数、「その王を」の意味である。'Birnen'と'peran'は主格複数形で文の主語「梨」である。しかし、中期英語の屈折の衰退により、'the king'が目的語なのか主語なのか分からない。動詞の複数形語尾'-on'も消えたので、'pleased'は人称も単復も分からない。現代英語では、「王は梨が好きだった」のか、「梨が王を喜ばせた」のかがわからない。中期英語の語順規則SVOによれば、'The king'は主語だろう。代名詞であれば主語'he'と目的語'him'の区別は現代英語でも出来るし、動詞の単復の違いは16世紀までは残っていた。
文法化。これは再分析よりももっと複雑な統語上の変化のメカニズムである。文法化は、語彙が、文法機能と合体する。その過程は、意味上の変化である音韻の衰退と原型の再分析を合わせたものである。極端な例は、自由形態から、接辞のような拘束形態素への変化である。文法化は、形態素にも統語にも関係が深いもので、形態上や意味上の変化をも巻き込むものである。この現象は長い間知られていたが、最近になって注目されている。
英語に置ける文法化の例は、'will'の主動詞から助動詞への発展と、'be doing'の場所の助詞と不定動詞の組み合わせから進行形への発展、'not'の否定強調語から否定助詞への発展である。
特に様々な言語で、未来形の発展は文法化のよい事例である。英語の本動詞'will'は未来を表す助動詞となり意味が衰退し、加えて音韻的な減少により'llとなった。同じように'go'の進行形として働いていた'going to'は19世紀初期から未来を表す構造として急速に広まり、音声的な減少を経て'gonna'となった。未来を表す新たな文法的機能カテゴリーの出現は、既に存在するカテゴリーの影響を受ける。なぜなら、未来とは、もうすぐ起きる出来事であるからだ。フランス語やその他の言語でも'going to'の同様な文法化が観察出来る。
類型論(typology)と関係(implicational)の変化。再分析と文法化に置いて、多くの要素と言語学的なレベルが相関して、ある変化をもたらす。4章の最後にさまざまな変化と関係する統語的な変化を扱う。これは、統語的な特徴によって言語を分類した分類学的な変化が見やすい。
文章の最も一般的な構成要素はS(主語)とV(動詞)とO(目的語)である。この3つの要素の語順は、6つある。多くのヨーロッパの言語のSVO型それからバスク語とトルコ語と日本語のSOV型が一般的な語順である。次はウェールズ語や古典アラビア語のVSO型である。ジョーゼフ・グリーンバーグ(Joseph Greenberg)が1960年代に示差的統語普遍性(implictional syntactic universe)と呼ばれるものを築いた。それは、VとOの語順がその他の統語的な関係も指定するということだ、VOとOVの統語的な諸事は対立関係にある。この理論は統語的な変化を記述し、説明するのによく使われていた。もちろん、議論が無かった訳ではない。例えばVOの語順を持つものは、助動詞は本動詞に先行し、比較形容詞も名詞に先行する。そして前置詞を用いる。一方OVの語順の言語では動詞は文の後部に配置され、助動詞は本動詞の後で、比較形容詞も名詞の後で、後置詞を用いる。
通時態の研究によれば、VO型言語はOV型に、OV型言語はVO型に変化してゆく事が観察されている。動詞と目的語の語順だけでなく、その他の特徴もだんだんと変化してゆく。従って、比較再建ではインド・ヨーロッパ祖語はOV型となっている。古ゲルマン語や古英語には所々で、特に詩などで、現在の前置詞が名詞の後に置かれたり、OV型が見られる。詩も後期になるに従ってVO型へと置き換えられてゆく。
このような大きな統語的な変化の根拠はさまざまに唱えられている。他の言語との分離し、強調などの語順変化による談話機能が、頻繁に行われることにより一般化したともされる。このような指標の変化は、語順の緩やかな屈折言語で起きやすい。
以上の変化は、特定の形式に特定の意味がつくような、形態素や単語の変化とはかけ離れたものである。しかし、基本的には、全ての言語学的要素は直接、音によって構成されており、統語も形態素も同じように変化させられる。次の章は音声の変化について統語的に観察してゆく。
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
---Oxford Introduction to Language Study Series
音声の変化は、歴史言語学の中でも最も良く研究され伝統のある分野である。比較的量が少なく、組織的な構造をもつ音声は、通時的にも共時的にも分析が行いやすい。
私たちが聞いている音声は、抽象的な音声単位である音素(phoneme)の実現である。音声的な変化あるいは、音素上の変化は、発音上の具体的な音声学的レベルと、抽象的な音韻論的レベルの両方で起こる。従って、これらの変化には多少なりとも、関連性が存在する。
How sounds are produced
どのように音声が作り出されるかの原則を知っていれば、音声変化を知る事が出来る。母音や子音の発音では、肺からの息を、発声器官の位置や動きによって調整する。発声器官は、声帯や喉頭、口腔と鼻腔がある。聴覚的な基準のように、調音器官の使用によって音声の基本的な分類をする。
全ての母音は有声音で、肺からの息が声帯によって変容している。母音の性質は、口腔の形で決まる。口腔の形は主に舌で決まるが、唇や顎も関係している。
もっとも舌を低く、口を大きく開ける母音は[a]である。舌が最も高く、口の狭く閉まった母音は[i]である。舌の前の部分が高くなると、前舌母音、硬口蓋母音と呼ばれる。舌の奥が高くなると、後舌母音、軟口蓋母音と呼ばれる。舌の中央が高くなると中舌母音である。口腔の中での舌の位置によって母音が分類される。
子音の場合、有声音もあるが無声音もある。子音は肺からの息の妨害の種類が異なる。これを調音方法と言う。短時間息を止める閉鎖音、かなりの阻害を行う摩擦音、閉鎖から摩擦に移行する破擦音、などである。もう1つの分類の項目は聴音の位置である。唇、唇歯、歯、歯茎、硬口蓋、軟口蓋を用いるものがある。
Phonetic change
音声の変化は、調音器官の位置が変化する事によっておき、隣接する音の影響を受ける事が多い。世界中の音声変化の調査により、調音の方法の変化には傾向がある事が分かった。
例えば、母音の硬口蓋化(palatalization)がある。調音する舌の最も高い位置が前舌になる事である。ドイツ語やフランス語で[u]が[y]になったり、古英語以前には[o]が[e]になる変化が多くあった。これは現在のmouse-mise、foot-feetにも残っている。古英語以前では[mu:si-]-[my:s]、[fo:ti-]-[fe:t]の発音であった。
反対に、軟口蓋化(velarization)は舌の最も高い位置が後舌による事である。ゲルマン祖語の[e]が古英語で[o]になっている。また、母音の舌の位置が高くなる事もる。'goose'や'boot'など中期英語で綴り通り[o:]であったものが、現代英語では狭母音の[u:]である。逆に[r]の前では広母音化が起こりやすい。
また、円唇化、非円唇化も母音に関する変化である。古英語の円唇母音[y]は現代英語では非円唇母音[i]になった。また、フランス語では、鼻音の前に来る母音の鼻音化もある。
二重母音化(diphthongization)は短母音が二重母音になる現象である。中期英語の[u:][i:]などでよくみられる。一方、イギリス英語ではしばしば短母音化(monophthongization)がみられる。特に[ə]の前に見られ'fire'が[fa:]と発音されることさえもある。
子音は、調音位置と調音方法での変化が見られる。
もっとも広く見られる変化は摩擦音化(spirantization)である。グリムの法則による、閉鎖音[p, t, k]の摩擦音化[f, θ, x]が有名である。その中でも[p]から[f]への変化は、両唇音から唇歯音へと調音位置の変化を伴っている。古英語では、閉鎖音から歯擦音への変化もある。'child'などの、前舌母音の前にある[k]が[tʃ]へ変化したものは、口蓋音化も同時に起こっている。
音声の変化は絶対的で、どんな場所でも起きるが、一般的に、条件付きである。例えば、英語の[r]は子音の前や語尾で省略されるが、その他の場所では残っている。
頻繁に生じる音声の変化について述べたが、大事なことは、個別の変化を記述するのではなく、もっと一般的な変化を見つける事である。音声の変化の性質を知る上で分かりやすい過程が必要である。
軟音化(lenition)は様々な音声の弱音化を含む概念である。はっきりとした発音で無くなる事である。(i)母音に挟まれる無声子音の有声音化と(ii)摩擦音化、(iii)ロンドン方言で[l]が[ʊ]になるなどの、子音の母音化や(iv)削除(deletion)がある。
削除や挿入には様々なタイプと専門用語がある。
語尾音消失(apocope)は語尾の母音が削除される事で、英語の発音されない語末の'e'などである。語中音消失(syncope)は語中の母音が削除される事で、'every'を[evri]、'history'を[hɪstri]と発音している。挿入(epenthesis)は母音や子音を挿入する事で、カタカナにおける母音挿入や、英語の鼻音の後の[s]が[ts]と発音される事である。
変化は、発音する際の分節の相互の影響や対立によって生じる。音声が子音や母音に分かれて聞こえるのは、言語の知識によるもので、音響学的な事実ではない。音と他の音に映るときもはっきり調音器官が切り替わっている訳ではない。連続した発声のおかげで、1つの音が先取りされたり、後続の音まで引きずられたり、発音が簡略化される。これは、同化(assimilation)と呼ばれる、最も広く見られる変化である。1つの音がその他の音と完全にくっついてしまう事である。
'assimilation'という単語はラテン語'assimilare'からの派生で、'ad+similis'の同化から生まれた単語である。英語でも、否定の意味をもつ接辞'in-'は後続の子音によって'im-'や'il-'などに変化している。フランス語における、鼻音に隣接する母音の鼻音化なども同化である。このような変化はその言語の全ての音で行われる。しかし、単語と単語など、早口の話しでしか起きない同化もある。しかしそれらもいつか言語学的な規則になるだろう。言語使用と結びついた変化が一般化し、そして抽象的な言語の規則になる。また、同化には順行と逆行の両方がある。
また、珍しい例として、異化(dissimilation)がある。同じ音や似通った音が、異なる音声に変化する事である。例えば、英語の'pilgrim'はラテン語の'peregrinus'がもとである。2つの'r'がなぜか'l'と'r'に分化してしまった。
以上の例は、質の変化であるが量の変化もある。例えば、母音の長さの変化である。母音の短縮は、3音節以上の単語で、強勢の無い母音で、子音の連続の前に位置する時に頻繁に見られる。keep/keptの対立が代表的である。そして、英語の'us'の母音は古英語では長母音であったが、短母音化したものである。
長母音化は'nose'や'tale'などの開音節の単語で多く見られる。これらは中期英語で[nɔ:sə][ta:lə]と発音されていた。また、'find'のような単語は古英語では短母音であった。代償延長(compensatory lengthening)は、短母音の後の子音が削除される事により、短母音が長母音化し、音節の長さを維持する現象である。代表的な例は、ゲルマン祖語では'*gans-'とされる英語の'goose'であり、子音[n]が削除された代わりに母音が長母音化したとされる。ドイツ語'Gans'では子音が保持され、母音も短母音である。
Herbert Schendl, Historical Linguistics(UK; Oxford University Press, 2001)
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