より抽象的な制約の発見が、どのような規則との関係を築いたかを紹介する。
まずは、規則適用の出力条件としての制約の関係である。
つまり、制約が満たされなければ、規則の適用を阻止される。
制約は慣例的に「~ではならない」という形式で記述される。
言語学ではこれをアステリスク(*)で表示する。
口頭で読み上げるときは"star"と言ったりもする。
*D...D制約(スター・ディー・ディー・せいやく)とは、
つまり、「ひとつの形態素の中に濁音が複数生じてはいけない」と言うことになる。
これは連濁の有名なライマンの法則であり、
正確には「後部要素に濁音を含むものは、連濁してはいけない」と言うことになる。
連濁規則の適用が、この制約によって阻害されるのである。
naga「長」+sode「袖」=nagasode, *nagazode
ao「青」+tokage「とかげ」=aotokage, *aodokage
もちろん例外もある。これは有名な例外である。
nawa「縄」+hasigo「はしご」=nawabasigo, *hawahasigo
もう一つは、制約違反と、規則による修復の関係である。
つまり、制約を違反したために、それを補う形で規則が適用されてゆく例である。
*C#制約や*CC制約は有名で、それぞれ、
「単語が子音で終わってはいけない」、「子音が連続してはいけない」という制約である。
これに違反したために、応急措置として、母音挿入の規則が適用される。
外国語の借用の際が代表である。
web→webu「ウェブ」
hoop→hoopu「ホープ」
bet「別」+gata「型」→betugata「べつがた」
tok「特」+nou「納」→tokunou「とくのう」
*C#にも例外があり、音節を形成することが出来る「ん」の存在である。
/m/と/ŋ/には制約が作用するが、/n/は例外として、それで終わることが出来る。
pen→peN「ペン」
room→ruumu「ルーム」
king→kiŋgu「キング」
参考文献
田中伸一 『日常言語に潜む音法則の世界』 開拓社 2009
無声音に声帯振動を伴うことを有声化(vocalization)と言う。
無声化は、有声音の字母の下に[ 。]で表される。
無声音字母の無いもの、鼻音やはじき音、母音などに付属する。
無声鼻音は、ビルマ語などに見られ、鼻息に似た音になる。
日本語でも見られる母音の無声化は、いわゆる「ささやき声」と同じ発声になる。
一般的な会話でも、良く見られる一般的な現象である。
有声化は、無声音の字母の下にひっくり返った[ ^ ](楔)で表示される。
無声音の直後に有声音きて、
つられて声帯が振動するなど、二次的なものがほとんどで、
純粋な有声音より、声帯振動は弱いとされている。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
発音時間の長短の調節が可能である。
このとき母音とおなじように、字母の直後に[ː](長音符)を付ける。
日本語の「っ」もこれで表示できる。
[ ita ](いた)
[itːa](いった)
[asari](あさり)
[asːari](あっさり)
破裂音の長子音は、閉鎖音と破裂音の二つと考えることも出来ので、
このように書き表すことも出来る。
また、摩擦音は単純に摩擦時間が長くなるので、[assari]とも書き表すことが出来る。
このような長短の区別は珍しく無いが、
エストニア語では、「na」「nːa」「nːːa」の三段階の区別がある。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
母音は、3つの舌の位置に区別して紹介する。
まずは、前舌母音(front vowel)。
舌の最後部が前舌で、硬口蓋に向かい合うところに位置するものである。
口が閉じ、前舌と硬口蓋が接近している[ i ]から、
だんだん口を開けていき、[ a ]までを大きく4つに区切っている。
しかし、実際は、下の図でも分かるように、単純に舌が下がってゆくのではなく、
口を開けるに従って、舌の最高点が後退している。
[ i ] 非円唇前舌狭母音(close front unrounded vowel)
[ y ] 円唇前舌狭母音(close front rounded vowel)
硬口蓋摩擦音[ ʝ ]になら無い範囲で、前舌がもっとも硬口蓋に近づいた発音。
非円唇は、日本語の「イ」よりも口角を広げたような発音になる。
円唇は、ドイツ語フランス語や、中国語で見られる。
[ e ] 非円唇前舌半狭母音(close-mid front unrounded vowel)
[ ø ] 円唇前舌半狭母音(clise-mid front round vowel)
前舌で行う、二番目に狭い開き方の発音。
非円唇は日本語の「え」の発音とされ、多くの言語で見られる。通称「狭いエ」。
円唇はドイツ語、フランス語で現れる。
[ ɛ ] 非円唇前舌半広母音(open-mid front unrounded vowel)
[ œ ] 円唇前舌半広母音(open-mid front rounded vowel)
前舌で行う、二番目に広い開き方の発音。
[ e ]と[ ɛ ]を二つの音素を持つ言語も少なくない。こちらは通称「狭いエ」。
円唇は、oとeの合わさった記号で、ドイツ語フランス語などで見られる。
[ a ] 非円唇前舌広母音(open front unrounded vowel)
[ ɶ ] 円唇前舌広母音(open front rounded vowel)
前舌で行う、一番口を開いた時の発音。
非円唇は、日本語の「あ」よりも、舌の最高点が前にある。
円唇はoとEの合わさった記号で、デンマーク語などに見られる。
舌の最高点の区分ではこの8つになるが、
以下の3つも前舌母音、または中舌よりの前舌母音と分類される。
[ æ ] 非円唇前舌狭めの広母音(near-open front unrounded vowel)
舌の高さが[ ɛ ]と[ a ]の中間である。
英語の"cat"の発音で、北欧語などでも多く見られる。
[ ɪ ] 非円唇前舌め広めの狭母音(near-close near-front unrounded vowel)
[ ʏ ] 円唇前舌め広めの狭母音(near-close near-front rounded vowel)
舌の高さは[ i ]、[ y ]と[ e ]、[ ø ]の間で、少し軟口蓋よりの発音。
ドイツ語やオランダ語で見られる。
[ i ]や[ y ]よりも、緊張の緩い発音とされることもある。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
後舌母音(back vowel)は、
舌の位置が最も後ろで、最高点が最も低い音を[ ɑ ]とし、
だんだん口を閉じていって、摩擦音になる直前の音を[ u ]として、
その間を4段階に分けたものである。
[ ɯ ] 非円唇後舌狭母音(close back unrounded vowel)
[ u ] 円唇後舌狭母音(close back rounded vowel)
軟口蓋摩擦音[ ɣ ]にならない範囲で、後舌と軟口蓋が接近した音。
非円唇は朝鮮語やベトナム語で見られる。
円唇は日本語で「ふ」と言ったときの母音。多くの言語で見られる。
[ ɤ ] 非円唇後舌半狭母音(close-mid back unrounded vowel)
[ o ] 円唇後舌半狭母音(close -mid back rounded vowel)
後舌で行う、二番目に狭い口の開き方。
非円唇派中国語やベトナム語で見られる。
円唇は通称「狭いオ」。日本語の「お」よりも唇を丸める発音。
[ ʌ ] 非円唇後舌半広母音(open-mid back unrounded vowel)
[ ɔ ] 円唇後舌半広母音(poen-mid back rounded vowel)
後舌で行う、二番目に広い、口の開き方。
非円唇はベトナム語で見られる。
円唇は通称「広いオ」。朝鮮語やフランス語など、多くの言語で見られる。
[ ɑ ] 非円唇後舌広母音(open back unrounded vowel)
[ ɒ ] 円唇後舌広母音(open back rounded vowel)
有声咽頭摩擦音[ ʕ ]になる直前まで舌を後退させた音。
非円唇は、かなり大きな口をあける。[ a ]と対比させ「後舌のア」とも言う。
円唇は、"water"の"a"。日本人的には完全に「お」と聞こえる。
後舌母音には中間とされる母音は一つである。
[ ʊ ] 円唇後舌め広めの狭母音(near-close near-back rounded vowel)
[ u ]と[ o ]の間で、少し硬口蓋よりの発音。
英語の"put"やドイツ語の"Hunt"(犬)など、少し舌の所在無さの残る発音。
[ u ]よりも緊張の緩い発音とされることもある。
参考文献
斉藤純男 『日本語音声学入門 改訂版』 三省堂 2008
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