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言語は思考の鋳型であり、言語なき思考は存在しないと言う、
ヨーロッパに伝統的な考えがある。
この考えを前面に出し主張したとして、
ネイティブ・アメリカンの言語学者エドワード・サピアと、
その教え子、ベンジャミン・リー・ウォーフの名前から取り、
サピア=ウォーフの仮説、または言語相対論などという。

この考えには強弱ふたつの主張がある。
ひとつは、「言語は一部、思考に影響を与える」と言う考えで、
弱い仮説と呼ばれ、狭義の言語相対論である。
もう一つは、「言語なき思考は存在しない」と言う考えで、
強い仮説、または言語決定論と呼ばれる。
サピアは、1921年の論文では弱い仮説を、
1929年の論文では強い仮説を支持する内容を書いている。

この考えは、特にドイツ哲学に昔からある考えで、
(哲学とは、言語による思考である。)
フンボルトや、サピアの師であるフランツ・ボアズによって提唱されてきた。

サピアの言及は言語と思考だけでなく、
無意識、心理、美学、文化などの観点から話を展開している。
サピアは、自身の論文中に、
形態(configuration)、構造型(pattern)、型(type)の単語を多様し、
言語とゲシュタルト心理学との関連性を説いた。
彼の言うconfigurationとは、まさに、ドイツ語Gestaltの訳語である。
ゲシュタルトとは、何でも細分化し分類してゆく学問に反発し、
19世紀末にオーストリアやドイツで生じた心理学の一派が唱えたものである。
音楽のメロディーや絵画など、
部分の集合体以上の特性を示す体系、全体的構造である。

彼は、特定の言語が有する美学の観点から、
文学作品の翻訳不可能性を支持している。

参考文献
平林幹郎 『サピアの言語論』 勁草書房 1993

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概して、チョムスキーの普遍文法と対立する言語相対論を、
支持する学問領域として認知言語学(cognitive linguistics)がある。
認知言語学は、サピア=ウォーフの弱い仮説を支持している。

認知言語学とは、言語活動を身体的「経験」に帰着するのもとして捉える。
認知言語学の言う「認知(cognition)」とは、
人間の五感で感覚し、記憶し、学習し、判断する、
身体から精神の働きを総称した言葉である。
類義語としての「認識」は、おもに哲学の分野の用語である。
人が何かを知る時に、見たり、聞いたり触ったりと言うような、
五感による身体的経験を重要視する考えを経験基盤主義(experientialism)と言う。

認知の仕組みは、一般に、以下のように説明される。
物質の存在を、五感で感じ、概念化(conceptualization)し、
記号化(encode)し、概念操作によって意味付け(sense-making)する。

物質がそこに存在していることと、認知されることは遠い。
例えばダイヤモンドが存在している場合、
人がそれを見たり、持って重さを量ったり、床に落とした音を聞く。
そして心の中に、ダイヤモンドに似たような姿を映し出す。
心の中に虚像があることで、また別の機会に、同じような物質を感覚したときに、これもダイヤモンドだと、理解する事ができる。
これを概念化と言う。

そして記号を当てはめる。
ソシュールの考えでは、その時の記号は「いぬ」でも「ねこ」でも何でも良い。
今回は日本の社会で通用する「ダイヤ」を用いる。
これで、「ダイヤ」という記号を目の当たりにした時、
私とあなたは、知らない第三者も、同じ概念を思い浮かべる事ができる。
そして、色が濁ったダイヤモンド「うさぎ」、傷がついたダイヤモンド「りす」など、
隣接する記号が存在するほど、「ダイヤ」によって狭い範囲の概念を伝えやすくなる。

さらにとある文脈で「ダイヤ」が使われ、環境を主体的に解釈する事によって、
「ダイヤ」がセレブリティーの証だとか、結婚の約束だとかという
意味付けを行うのである。

意味付けにおいて、認知対象が認知主体に対して価値のある情報を提供する事を
「対象が行為をアフォード(afford)する」と言う。
人間と環境の相互作用の中で、環境から人間への働きかけに注目した視点である。
このような考え方をアフォーダンス理論(affordance theory)といい、
人間から環境への働きかけを再重要視する言語決定論とは、
真逆の視点をもった理論であるとも言えるだろう。

参考文献
吉村公宏 『はじめての認知言語学』 研究社 2004

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認知言語学では、あらゆる語彙を認知のレベルで分類する。
この各項目をカテゴリー(category)と呼び、
同じカテゴリーを構成する項目は、ある共通点により括られており、
隣り合うカテゴリーとの差異化をはかっている。
カテゴリーは入れ子のようにいくつもの層に分かれているが、
認知言語学で重要な層は3つある。

上部レベルカテゴリー(superordinate level category)は、
高度に抽象的で、総称としての概念である。
こどもの言語習得においては、最も遅く覚えられる語彙であるとされる。
「家具」や「動物」、「花」などがそうである。
基本レベルカテゴリー(basic level category)は最も日常的で、
すぐ頭に浮かび、生活の中での使用頻度の多い語彙である。
こどもの言語習得では一番に覚える言葉であるとされる。
「椅子」や「机」、「本棚」、「箪笥」、「ベッド」などである。
下位レベルカテゴリー(subordinate level category)は、
やや専門的で、隣り合うカテゴリーとの違いが小さく部分的である。
「座椅子」や「肘掛け椅子」、「パイプ椅子」、「車椅子」などがそうである。
このカテゴリー境界は時代地域によって異なるものである。

一般的には、基本レベルカテゴリーの内容だけが飛びぬけて多い、
フォークカテゴリー(fork category)と呼ばれる形態を持つ人が多い。
言語の語彙的には、
下位になるほど内容が大きくなる、エキスパートカテゴリー(expart category)
と呼ばれる形態になるはずであるが、そうはならない。
また、アドホックカテゴリー(ad hoc category)と呼ばれるような、
臨時的で個別的な事態に対応する形態も提唱されている。
具体的には、「写真立て」「ピアス」「カップ」「時計」「ケーキ」を包括する上位カテゴリー「誕生日プレゼント」などである。
ある特別な事態、もしくは特別な個人のなかで形成されるカテゴリーを指す。

このようなカテゴリーのなかで、典型例というものが注目される。
カテゴリーの構成員としてまず始めに思い浮かぶもの、
それをプロトタイプ(prototype)と言い、個人によって差のあるものだが、
社会や世代で大きな傾向が生じる。
例えば、「鳥」。
日本で最も「鳥らしい鳥」と言えば「すずめ」や「鳩」が挙がりそうである。
アメリカの大学生を調査した結果では、「コマドリ」が一位にあげられた。
カテゴリーは、もっとも「らしい」プロトタイプを中心に、
「らしくない」例、「ペンギン」や「ダチョウ」など、を周辺部に置く、円を描くように説明される。
人は言語習得において、プロトタイプを中心にカテゴリーを形成してゆくという
プロトタイプ理論(prototype theory)が提唱されている。

参考文献
吉村公宏 『はじめての認知言語学』 研究社 2004

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